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11 あまりにも迂闊な
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「えっ……嘘でしょう!?」
誰もマッピングをしていない――そう叫んだシルヴィアに、アンが目を剥いて振り返る。
「てっきり、後衛のシルヴィアかディーネがやってるものとばかり……」
「やってません! わたしは瘴気を払う神聖結界の維持でそんな余裕はないんです! ディーネさんは慣れない罠の解除で手一杯! 罠の探知魔法を使ってるサードリックさんも、マッピングの魔法まで同時には使えないんですよ!」
「な、なんっ……、なんで、そんなことになってんのよ!?」
完全に動転し、アンがシルヴィアの肩を掴んで言ってくる。
「……それは、」
説明しようとしたシルヴィアを、ルシアスが慌てて遮った。
「やめろ! 今はそれどころじゃないだろう! 前か後ろ、どっちかを突破するしかない!」
「前にはまだ罠があります!」
「トロールどもが引っかかってくれるだろ!?」
「トロールは罠にかかりません! ほとんどの魔物と同じように、『罠無効』のスキルを持ってるからです! キリクさんの話を聞いてなかったんですか!?」
「あいつの話を今するな!
それなら後ろを突破して――」
洞穴の前後からは、トロールたちの不気味な雄叫びが響いてくる。
その数は、音だけでは判別できないほどに多かった。
(外に出てきたトロールも、普通のダンジョンではありえないくらいに多かった……)
だからこそ、ネスカの街の教団支部長は、「暁の星」に高い報酬を積んで、ダンジョンの攻略を依頼したのだ。
支部長は、もちろん、Aランク勇者ならそうした消息を自然に飲み込んでくれると思っていたに違いない。
「後ろだって、いくつも四つ辻を越えてきたんです! 四つ辻の左右から溢れてくるトロールたちを突破できるとは――」
「それでもやるしかないだろう! すくなくとも後ろに罠はない!」
こうなった責任の所在はさておき、ルシアスの言うことは正論だった。
「ま、前からもうトロールどもが来るよ!」
エイダが叫ぶのと同時に、前方からトロールの群れが溢れてきた。
灰白色の肉に覆われた小人の群れが、手に手に錆びた武器を握って迫ってくる。
棍棒、メイス、フレイルなど、打撃系の武器に混じって、剣や槍を持ったトロールもいた。
「くっ……エイダ、しんがりを! その後ろからサードリックが魔法攻撃! 俺は退路を切り開く! アンは俺の援護だ! ディーネは様子を見ながら、俺かエイダのどっちかを援護してくれ!」
「ちっ、わかったよ!」
「わかった!」
「わ、わかりました!」
「わかったわ」
それぞれが勇者の指示にうなずき、すぐさま陣形を組み替える。
シルヴィアに指示がなかったのは、シルヴィアが回復に徹するのは自明の前提だからだ。
だが、
「あまりわたしから離れすぎないでください! 神聖結界の範囲が広がると、回復魔法を使う余力がなくなります!」
「なっ……そんなこと、これまでになかったろう!?」
シルヴィアの突然の宣告に、ルシアスが驚いて言い返す。
「そ、それは……」
シルヴィアは答えに詰まった。
瘴気に対する結界の維持を、一部キリクに肩代わりしてもらっていた――そんなことを明かしたら、自分は間違いなく責められる。
気の弱いシルヴィアは、とっさに自分をかばって黙り込む。
「と、とにかく! ただでさえ前後を同時に回復するんです! 広がられたら回復が間に合いません! 強化魔法をかける余裕もあるかどうか……!」
今更ながらに痛感するキリクの不在。
そのことに対して覚える罪悪感。
またしても自分の罪を否定し、キリクの貢献を隠してしまった己の弱さ。
そして、前後から迫ってくるトロールの群れ。
キリクがいた時には決してありえなかった、魔物からの挟み撃ち。
経験したことのない窮地に、自分でも扱いきれない負の感情がからみあって、シルヴィアは半分我を忘れかけていた。
気づくと、前後の前衛は既に接敵している。
交戦前の貴重な時間を無駄にしたことに、遅まきながら気づいて慄然とする。
ここで強化魔法をかけられていれば、殲滅速度を速め、ダメージを減らすことができたのだ。
「くぅっ!? こいつら、妙に強くないかい!?」
棍棒を手に迫るトロールと交戦しながら、エイダがそう悲鳴を上げる。
エイダのぶん回す大剣を、トロールは一歩下がり、あるいはその場でしゃがんでかわしていた。
戦士系上級職であるハイファイターのジョブスキル「豪剣」。
このスキルのおかげで、エイダは、身の丈ほどもある大剣を手足のように振り回し、さらにスキルによる強力な攻撃を繰り出すこともできる。
だが、動きが鈍いはずのトロールたちは、のっそりとした特有の動作のままで、エイダの剣をぬるりとかわしてのけている。
まるで、攻撃される場所が直前にわかっているような動きだった。
「下がれ、エイダ! 『ウォーターブラスト』!」
エイダの脇から、サードリックが太い水流を放つ。
迸った水流が、狭い洞穴を突進し、トロールたちを呑み込んだ。
トロールの数体が、水流にまともに呑み込まれた。
だが、それで倒れたのは一体のみ。
他のトロールはその場に踏みとどまり、高圧・大質量の水流を耐え切っていた。
「なぁっ!?」
サードリックが驚く。
トロールの体液には若干の魔法耐性がある――
そのことは当然、サードリックも把握している。
だからこそ、高圧と質量で敵を押し潰す「ウォーターブラスト」を使ったのだ。
賢者――正確にはソーサリストであるサードリックのジョブスキルは「広範魔法」。
攻撃から防御、支援までをカバーし、強力な範囲攻撃魔法をいくつも扱える、賢者系上級職の中でも最強の部類に入るとされるスキルである。
そのひとつである「ウォーターブラスト」を、ただのトロールが耐え切った。
これまでの戦いではなかったことだ。
「このっ……!」
エイダとサードリックの動揺を見て、ディーネが矢を連射した。
「五月雨矢」。
狙いは甘くなるが、複数のターゲットを連続して狙える、ディーネの得意技の一つだった。
エルフのみがつける特殊な弓師系上級職エルヴァンアーチャー。
そのジョブスキル「絶・弓術」は、高いDEXを生かしたトリッキーなスキルを特徴としている。
狙いが甘い分見切りもつけづらいはずの「五月雨矢」を、トロールたちはあるいは避け、あるいは棍棒で叩き落として凌ぎきる。
「なんですって!」
ディーネまでもが、狼狽をあらわに手を止めた。
「『水耐性』と『物理見切り』……まさか、変異種っ!?」
シルヴィアの叫びに、アンがシルヴィアを振り向いた。
「何か知ってるの!?」
「え、ええ……キリクさんによれば、魔物は個体ごとに所持しているスキルが違うということでした。特定のダンジョンやフィールドを住処とする魔物たちの中には、場所に応じた特殊なスキルを持っているものがいる……と」
「水耐性」は、その名の通り、水属性の魔法に対する高い耐性を持たせるスキル。
この洞穴が全体にじめじめしていることと何か関係があるのだろう。
「物理見切り」も、名前の通り、自分への物理攻撃を読めるようになるスキルだ。
中ボスクラスのDEXの高い魔物が稀に持っているとキリクは言っていた。
なぜトロールがこんなスキルを持っているのか、シルヴィアには想像がつかなかったが……。
「な、何よそれ!? 聞いたこともないわ!
そもそも、魔物がスキルを持ってるだなんて、どうやって知ったわけ!?
っていうか、さっきから言ってるキリクって誰のことよ!?」
掴みかからんばかりの剣幕で聞いてくるアン。
ルシアスが、後方でトロールと斬り結びながらシルヴィアに叫ぶ。
「今はあいつの話をするなと言ってるだろうが!
しゃべってる暇があったら強化魔法のひとつでもかけてくれ!」
ルシアスもまた、エイダ同様、トロールを一太刀で倒せず苦労していた。
だが、いくら「物理見切り」があるとはいえ、トロールたちのレベルは、このパーティよりはかなり低そうだ。
ルシアスは、二合、三合と撃ち合いながらも、なんとかトロールを仕留めている。
しかし、ルシアスがトロールを倒すペースより、後ろからトロールが湧いてくるペースのほうが明らかに早い。
「む、無理です! 前後両方の回復をしながら強化魔法までかけられません!」
「な、なんだとっ!?」
シルヴィアの言葉に動揺したルシアスに、トロールが棍棒を振り下ろす。
ルシアスはとっさに剣で受け止める。
だが、剣の自由がなくなった隙に、側面から別のトロールが殴りかかる。
「ルシアス!」
ディーネの声と同時に、トロールの目に矢が突き立った。
トロールは悲鳴を上げてのたうちまわり、絶命して虚空へと消えていく。
「た、助かった、ディーネ!」
「それより、突破の方法を考えて!」
ディーネはそう言って、ルシアス側のトロールをさらに一体屠ると、その場ですばやく振り返り、エイダと斬り結んでいたトロールを射殺した。
「そ、そんなこと言われても……こんなのどうしたらいいんだ!?」
トロールと戦いながら、ルシアスが焦った声でそう叫ぶ。
シルヴィアは言った。
「トロールが剣や弓の攻撃を防いでるのは、『物理見切り』というスキルを持ってるからです!
でも、このスキルは単一の対象にしか効果がありません!
今ディーネさんがやったみたいに、誰かと戦ってる最中のトロールを攻撃すれば、『物理見切り』は効きません!」
「ちょっと! そんな話聞いたことがないんだけど!? 本当なんでしょうね!?」
アンが叫ぶが、他のメンバーの目には希望が浮かんだ。
ディーネが言う。
「わたしがやるわ! ルシアスとエイダは、トロールを無理に倒そうとせず、敵のターゲットを取ることに専念して!」
「わかった!」
「ちっ、しかたないね!」
ルシアスとエイダから焦りが消えていた。
二人は、トロールたちを複数同時に惹きつけ、トロールたちの意識を自分たちに向けさせる。
そこに、
「はっ!」
ディーネが「見返り撃ち」のスキルで矢を放つ。
前、後ろ、前と振り向きざまに放たれた三本の矢が、それぞれトロールを射抜いていた。
「サードリックさん、アンさん!
トロールが『水耐性』を持ってるのは、このダンジョンの特性のせいだと思います!
ここでは水属性の魔法は効かないと思ってください!」
「そんなこったろうと思ったぜ!」
「今は信じるけど……後で説明してくださいよ!?」
サードリックはエイダの脇から奥のトロールに向かって「ロックバレット」を放ち、アンはルシアスに迫るトロールたちに「サンダーボルト」を放った。
もともと、こちらのほうがレベルは高い。
二枚の賢者の魔法は、それぞれ数体のトロールを、まとめて虚無へと葬り去る。
だが、トロールはさらに湧き出してくる。
誰もマッピングをしていない――そう叫んだシルヴィアに、アンが目を剥いて振り返る。
「てっきり、後衛のシルヴィアかディーネがやってるものとばかり……」
「やってません! わたしは瘴気を払う神聖結界の維持でそんな余裕はないんです! ディーネさんは慣れない罠の解除で手一杯! 罠の探知魔法を使ってるサードリックさんも、マッピングの魔法まで同時には使えないんですよ!」
「な、なんっ……、なんで、そんなことになってんのよ!?」
完全に動転し、アンがシルヴィアの肩を掴んで言ってくる。
「……それは、」
説明しようとしたシルヴィアを、ルシアスが慌てて遮った。
「やめろ! 今はそれどころじゃないだろう! 前か後ろ、どっちかを突破するしかない!」
「前にはまだ罠があります!」
「トロールどもが引っかかってくれるだろ!?」
「トロールは罠にかかりません! ほとんどの魔物と同じように、『罠無効』のスキルを持ってるからです! キリクさんの話を聞いてなかったんですか!?」
「あいつの話を今するな!
それなら後ろを突破して――」
洞穴の前後からは、トロールたちの不気味な雄叫びが響いてくる。
その数は、音だけでは判別できないほどに多かった。
(外に出てきたトロールも、普通のダンジョンではありえないくらいに多かった……)
だからこそ、ネスカの街の教団支部長は、「暁の星」に高い報酬を積んで、ダンジョンの攻略を依頼したのだ。
支部長は、もちろん、Aランク勇者ならそうした消息を自然に飲み込んでくれると思っていたに違いない。
「後ろだって、いくつも四つ辻を越えてきたんです! 四つ辻の左右から溢れてくるトロールたちを突破できるとは――」
「それでもやるしかないだろう! すくなくとも後ろに罠はない!」
こうなった責任の所在はさておき、ルシアスの言うことは正論だった。
「ま、前からもうトロールどもが来るよ!」
エイダが叫ぶのと同時に、前方からトロールの群れが溢れてきた。
灰白色の肉に覆われた小人の群れが、手に手に錆びた武器を握って迫ってくる。
棍棒、メイス、フレイルなど、打撃系の武器に混じって、剣や槍を持ったトロールもいた。
「くっ……エイダ、しんがりを! その後ろからサードリックが魔法攻撃! 俺は退路を切り開く! アンは俺の援護だ! ディーネは様子を見ながら、俺かエイダのどっちかを援護してくれ!」
「ちっ、わかったよ!」
「わかった!」
「わ、わかりました!」
「わかったわ」
それぞれが勇者の指示にうなずき、すぐさま陣形を組み替える。
シルヴィアに指示がなかったのは、シルヴィアが回復に徹するのは自明の前提だからだ。
だが、
「あまりわたしから離れすぎないでください! 神聖結界の範囲が広がると、回復魔法を使う余力がなくなります!」
「なっ……そんなこと、これまでになかったろう!?」
シルヴィアの突然の宣告に、ルシアスが驚いて言い返す。
「そ、それは……」
シルヴィアは答えに詰まった。
瘴気に対する結界の維持を、一部キリクに肩代わりしてもらっていた――そんなことを明かしたら、自分は間違いなく責められる。
気の弱いシルヴィアは、とっさに自分をかばって黙り込む。
「と、とにかく! ただでさえ前後を同時に回復するんです! 広がられたら回復が間に合いません! 強化魔法をかける余裕もあるかどうか……!」
今更ながらに痛感するキリクの不在。
そのことに対して覚える罪悪感。
またしても自分の罪を否定し、キリクの貢献を隠してしまった己の弱さ。
そして、前後から迫ってくるトロールの群れ。
キリクがいた時には決してありえなかった、魔物からの挟み撃ち。
経験したことのない窮地に、自分でも扱いきれない負の感情がからみあって、シルヴィアは半分我を忘れかけていた。
気づくと、前後の前衛は既に接敵している。
交戦前の貴重な時間を無駄にしたことに、遅まきながら気づいて慄然とする。
ここで強化魔法をかけられていれば、殲滅速度を速め、ダメージを減らすことができたのだ。
「くぅっ!? こいつら、妙に強くないかい!?」
棍棒を手に迫るトロールと交戦しながら、エイダがそう悲鳴を上げる。
エイダのぶん回す大剣を、トロールは一歩下がり、あるいはその場でしゃがんでかわしていた。
戦士系上級職であるハイファイターのジョブスキル「豪剣」。
このスキルのおかげで、エイダは、身の丈ほどもある大剣を手足のように振り回し、さらにスキルによる強力な攻撃を繰り出すこともできる。
だが、動きが鈍いはずのトロールたちは、のっそりとした特有の動作のままで、エイダの剣をぬるりとかわしてのけている。
まるで、攻撃される場所が直前にわかっているような動きだった。
「下がれ、エイダ! 『ウォーターブラスト』!」
エイダの脇から、サードリックが太い水流を放つ。
迸った水流が、狭い洞穴を突進し、トロールたちを呑み込んだ。
トロールの数体が、水流にまともに呑み込まれた。
だが、それで倒れたのは一体のみ。
他のトロールはその場に踏みとどまり、高圧・大質量の水流を耐え切っていた。
「なぁっ!?」
サードリックが驚く。
トロールの体液には若干の魔法耐性がある――
そのことは当然、サードリックも把握している。
だからこそ、高圧と質量で敵を押し潰す「ウォーターブラスト」を使ったのだ。
賢者――正確にはソーサリストであるサードリックのジョブスキルは「広範魔法」。
攻撃から防御、支援までをカバーし、強力な範囲攻撃魔法をいくつも扱える、賢者系上級職の中でも最強の部類に入るとされるスキルである。
そのひとつである「ウォーターブラスト」を、ただのトロールが耐え切った。
これまでの戦いではなかったことだ。
「このっ……!」
エイダとサードリックの動揺を見て、ディーネが矢を連射した。
「五月雨矢」。
狙いは甘くなるが、複数のターゲットを連続して狙える、ディーネの得意技の一つだった。
エルフのみがつける特殊な弓師系上級職エルヴァンアーチャー。
そのジョブスキル「絶・弓術」は、高いDEXを生かしたトリッキーなスキルを特徴としている。
狙いが甘い分見切りもつけづらいはずの「五月雨矢」を、トロールたちはあるいは避け、あるいは棍棒で叩き落として凌ぎきる。
「なんですって!」
ディーネまでもが、狼狽をあらわに手を止めた。
「『水耐性』と『物理見切り』……まさか、変異種っ!?」
シルヴィアの叫びに、アンがシルヴィアを振り向いた。
「何か知ってるの!?」
「え、ええ……キリクさんによれば、魔物は個体ごとに所持しているスキルが違うということでした。特定のダンジョンやフィールドを住処とする魔物たちの中には、場所に応じた特殊なスキルを持っているものがいる……と」
「水耐性」は、その名の通り、水属性の魔法に対する高い耐性を持たせるスキル。
この洞穴が全体にじめじめしていることと何か関係があるのだろう。
「物理見切り」も、名前の通り、自分への物理攻撃を読めるようになるスキルだ。
中ボスクラスのDEXの高い魔物が稀に持っているとキリクは言っていた。
なぜトロールがこんなスキルを持っているのか、シルヴィアには想像がつかなかったが……。
「な、何よそれ!? 聞いたこともないわ!
そもそも、魔物がスキルを持ってるだなんて、どうやって知ったわけ!?
っていうか、さっきから言ってるキリクって誰のことよ!?」
掴みかからんばかりの剣幕で聞いてくるアン。
ルシアスが、後方でトロールと斬り結びながらシルヴィアに叫ぶ。
「今はあいつの話をするなと言ってるだろうが!
しゃべってる暇があったら強化魔法のひとつでもかけてくれ!」
ルシアスもまた、エイダ同様、トロールを一太刀で倒せず苦労していた。
だが、いくら「物理見切り」があるとはいえ、トロールたちのレベルは、このパーティよりはかなり低そうだ。
ルシアスは、二合、三合と撃ち合いながらも、なんとかトロールを仕留めている。
しかし、ルシアスがトロールを倒すペースより、後ろからトロールが湧いてくるペースのほうが明らかに早い。
「む、無理です! 前後両方の回復をしながら強化魔法までかけられません!」
「な、なんだとっ!?」
シルヴィアの言葉に動揺したルシアスに、トロールが棍棒を振り下ろす。
ルシアスはとっさに剣で受け止める。
だが、剣の自由がなくなった隙に、側面から別のトロールが殴りかかる。
「ルシアス!」
ディーネの声と同時に、トロールの目に矢が突き立った。
トロールは悲鳴を上げてのたうちまわり、絶命して虚空へと消えていく。
「た、助かった、ディーネ!」
「それより、突破の方法を考えて!」
ディーネはそう言って、ルシアス側のトロールをさらに一体屠ると、その場ですばやく振り返り、エイダと斬り結んでいたトロールを射殺した。
「そ、そんなこと言われても……こんなのどうしたらいいんだ!?」
トロールと戦いながら、ルシアスが焦った声でそう叫ぶ。
シルヴィアは言った。
「トロールが剣や弓の攻撃を防いでるのは、『物理見切り』というスキルを持ってるからです!
でも、このスキルは単一の対象にしか効果がありません!
今ディーネさんがやったみたいに、誰かと戦ってる最中のトロールを攻撃すれば、『物理見切り』は効きません!」
「ちょっと! そんな話聞いたことがないんだけど!? 本当なんでしょうね!?」
アンが叫ぶが、他のメンバーの目には希望が浮かんだ。
ディーネが言う。
「わたしがやるわ! ルシアスとエイダは、トロールを無理に倒そうとせず、敵のターゲットを取ることに専念して!」
「わかった!」
「ちっ、しかたないね!」
ルシアスとエイダから焦りが消えていた。
二人は、トロールたちを複数同時に惹きつけ、トロールたちの意識を自分たちに向けさせる。
そこに、
「はっ!」
ディーネが「見返り撃ち」のスキルで矢を放つ。
前、後ろ、前と振り向きざまに放たれた三本の矢が、それぞれトロールを射抜いていた。
「サードリックさん、アンさん!
トロールが『水耐性』を持ってるのは、このダンジョンの特性のせいだと思います!
ここでは水属性の魔法は効かないと思ってください!」
「そんなこったろうと思ったぜ!」
「今は信じるけど……後で説明してくださいよ!?」
サードリックはエイダの脇から奥のトロールに向かって「ロックバレット」を放ち、アンはルシアスに迫るトロールたちに「サンダーボルト」を放った。
もともと、こちらのほうがレベルは高い。
二枚の賢者の魔法は、それぞれ数体のトロールを、まとめて虚無へと葬り去る。
だが、トロールはさらに湧き出してくる。
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