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【03】王太子の婚約者変更には、避けて通れない道。ならば最短を選ぶ

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「確認したいこと?」
「そうだ。ジェイク、殿下は本当に婚約者の変更を望んでいるのか? ジェイクの独断とか先行とか、勘違いとかではないんだな?」

 モイラと同じ黒髪で灰色の瞳――原作では「乙女ゲームの攻略対象という設定」だが、その割に色味は地味。
 だがその設定によりジェイクの容姿は整っている――モイラは脇役ですらないので、顔に関しては色合いも相俟って地味だ。
 そんなジェイクの原作での役回りは「脳筋」――あまり深く物事を考えず、暴力で解決しがち。
 今回のこともジェイクの独断という可能性を考慮して尋ねた。

「もちろんだ! 殿下からモイラ姉宛の手紙もある」

 受け取った手紙の封蝋の印を確認すると、たしかに王太子ソロモンが私信に使う印で間違いなかった。
 モイラは手紙を取り出して――

「…………本気のようだね」

 王太子ソロモンが、本気で婚約者を変えようとしていることは確認できた。

――ソロモンは本気。婚約破棄は卒業式に行われるから、あと六ヶ月か

 王太子の婚約者の変更には、時間は足りなすぎ、また行動に移すのが遅すぎる……が、そんなことを言ったところで、この問題が解決するわけではない。

――わが一族が、国からもらった給料分は働いてみせるさ

 悪役令嬢オリアーナがどれほど頑張っていようが、モイラたち一族には関係ない。

「王宮のお祖母さまに手紙を書くから、今日中に届けて、今日中に返事を持って帰ってくるように。遅くなるだろうから、今日は実家ここに泊まっていきなさい。伯爵家には連絡を入れておく」

 モイラは立ち上がり、ライティングビューローの天板を開きレターセットを用意する。

「お祖母さま? 殿下に会うのでは?」
「殿下のお気持ちはこの手紙で分かったからいい。殿下には、明日学園で”引き受けた”と口頭で伝えておいて。あと他の人には言っちゃ駄目だからね」
「分かった!」

 モイラは急ぎ手紙をしたため、ジェイクにもう一度「絶対喋っちゃ駄目だからな」と言い聞かせて送り出した。

「相変わらず、乗馬は上手いなあ」

 門に出てジェイクを見送り――姿はすぐに見えなくなった。
 それと共に伯爵家への手紙をしたため、手が空いている庭師に届けてもらった。 

「さて……」

 部屋に戻ったモイラは、記憶を整理する。

――王太子ソロモン男爵令嬢ナオミにほれて、婚約者だった公爵令嬢オリアーナを断罪するところから始まる物語
 公爵令嬢オリアーナ男爵令嬢ナオミには前世の記憶があって、ここが乙女ゲームの世界に酷似していることに気付く……というで、原作となった乙女ゲームは 
 公爵令嬢オリアーナのほうは記憶を取り戻してから、商会を作ったり、美味しい料理を作ったりなどして、婚約破棄されても生きて行けるように準備をしている……はず
 男爵令嬢ナオミはいつか迎えに来てくれる王子さまソロモンに期待して、これといって特に努力はしていない…………

「努力していないなんてこと、あるのかな」

 モイラが記憶にある王太子ソロモンは、それほど馬鹿ではなく、まとわりつくだけの男爵令嬢ナオミに、簡単に騙されるとは思えなかった。

「ころっといくような、単純な男じゃなかったはずなんだけどなあ……この五年で馬鹿になった? でも……」

 だが王太子ソロモンは婚約者である公爵令嬢オリアーナではなく、男爵令嬢ナオミと結婚しようとしている。

「情報が足りなすぎる」

 モイラはそうぼやき――ジェイクは言われたとおり、王宮の祖母からの手紙を持って帰ってきた。
 手紙には「明日、午前中に」と書かれていた。
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