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【02】王国の王子が婚約者にパーティーで婚約破棄を宣言する六ヶ月前
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五年に及ぶ公費留学を終え帰国したモイラが、王都の自宅でのんびりとしていると、古くから実家に仕えているメイドに、伯爵家の養子になった弟が、いきなり会いに来たと告げられた。
「ジェイク坊ちゃんが、どうしてもお会いしたいと」
「いきなり来たの? 先触れもなしに?」
「はい」
先触れとは言ったものの、言ってみただけ――モイラたちの実家は、そんな格式張った家柄ではない。
部屋に通すように命じ、読みかけの本に栞をはさむ。
小ぶりな邸なので、弟はすぐにモイラの元にやってきた。
「久しぶり。元気にしてたようだな、ジェイク」
「久しぶり、モイラ姉も元気そうでなにより」
モイラが五年ぶりに見た弟のジェイクは随分と背が伸び、騎士としての鍛錬を重ねているのが一目で分かる体格になっていた。
「騎士らしくなってきたな」
「まだ従騎士だけどね」
モイラは立ち上がり、すっかりと逞しくなったジェイクを抱きしめ、二人は久しぶりの再会を喜ぶ。
モイラたちの実家は子爵。
弟と王太子が同い年で乳兄弟――モイラたちの母親は、母乳の出が良かったので、王太子の乳母に選ばれ王宮にあがった。
もともとモイラの実家の女性は母乳の出が良く、モイラたちの祖母も王族の乳母を務め――モイラの実家は二代続けて乳母を務めている。
そのため爵位こそ低いが、王家の信頼は篤い。
乳兄弟だったジェイクは、王太子の側近を務めるべく、部門の伯爵家に養子として入った。
貴族に叙されて三代目、領地も持たない子爵家の出では、王太子の側近としては、いささか頼りないということで。
養子といっても、伯爵家には跡継ぎがいるので、ジェイクにこれといった相続権はなく――養子というより、猶子のほうが近いともいえる。
久しぶりの再会を喜んだ二人はソファーに腰を下ろす。
ジェイクはやたらと浅く腰掛け――こういう座り方をするときは、言いだし辛いことがあるときだと、モイラは良く知っていた。
「伯爵家はどう?」
「ぼちぼち……」
――騎士関係のことじゃなさそうだ。となれば、学業ってことかな。課題を溜めすぎたとか、試験の山を張って欲しいとか、そういうこと?
腕は立つが単純なジェイク――学業において神童と言われたモイラと違い、あまり賢くなかった。ただそれを補えるほど武術の素養があり、有り余るほど王太子に対して忠誠心が高い。
「モイラ姉の知恵を借りたい!」
「テストの山を張れとでも? 山というのは、しっかり勉強していないと張れないものなのだよ」
「違う!」
「じゃあ、なに?」
「殿下とレディ・ナオミが結婚できるよう、知恵を貸して欲しいんだ!」
「ナオミ? 誰?」
「今年学園に入学した、ナオミ・シーモア男爵令嬢のことだ!」
男爵令嬢と王太子が結婚なんて無理――モイラはジェイクを諭そうと、口を開き掛けたとき、
――え……ナオミ・シーモア男爵令嬢……王太子ソロモンで、悪役令嬢オリアーナ・ダドリー! …………まさか、まさか! これ! 婚約破棄された悪役令嬢が、婚約破棄されても大丈夫なように、商会を作って経済を牛耳って、隣の帝国の皇子ハミトと結婚して、いろいろあって皇后になる物語!
悪役令嬢オリアーナ・ダドリーより、随分と遅れて記憶を取り戻した。
モイラは額に手を当てて目を瞑り――ジェイクは心配そうに姉のモイラを見つめる。
――この話は卒業パーティーで、王太子がテンプレ婚約破棄を宣言してから始まって、冤罪で断罪からの身分剥奪しての国外追放……うちの弟が悪役令嬢の腕をねじり上げ、乱暴に会場から連れだそうとしたとき、留学生のハミトが颯爽と現れて、うちの弟をぶちのめして、悪役令嬢を救い、隣国へと連れていく。
悪役令嬢は幼少期に記憶を取り戻していたので、婚約破棄されても生きていけるようにと商会を作った。
悪役令嬢の商会は大きくなり、王国の経済にも深く関与。
そんな商会が王国を引き上げたことで、王国の経済は大打撃をくらい、繁栄する帝国と落ちぶれてゆく王国の対比がなされ…………最終的に、王族は民衆によって処刑されてしまう物語だ! 男爵令嬢のナオミは、とくに酷い目に遭ったはず
モイラはあらすじをなぞり、
――故国を見捨てて、帝国に乗り替えるのも手だよな
充分に時間がある時点で記憶が蘇った――現段階なら、故国を見捨てて帝国に乗り替えることもできる。
――乗り替えるのは簡単だけど……わたしたち家族の給料の出所は、悪役令嬢じゃなくて国だからだ。……いままでもらった給料分くらいは働くか!
モイラは目を開けて、向かい側に座っているジェイクに視線を向けた。
「分かった、協力する。その前に確認したいことがある」
「ジェイク坊ちゃんが、どうしてもお会いしたいと」
「いきなり来たの? 先触れもなしに?」
「はい」
先触れとは言ったものの、言ってみただけ――モイラたちの実家は、そんな格式張った家柄ではない。
部屋に通すように命じ、読みかけの本に栞をはさむ。
小ぶりな邸なので、弟はすぐにモイラの元にやってきた。
「久しぶり。元気にしてたようだな、ジェイク」
「久しぶり、モイラ姉も元気そうでなにより」
モイラが五年ぶりに見た弟のジェイクは随分と背が伸び、騎士としての鍛錬を重ねているのが一目で分かる体格になっていた。
「騎士らしくなってきたな」
「まだ従騎士だけどね」
モイラは立ち上がり、すっかりと逞しくなったジェイクを抱きしめ、二人は久しぶりの再会を喜ぶ。
モイラたちの実家は子爵。
弟と王太子が同い年で乳兄弟――モイラたちの母親は、母乳の出が良かったので、王太子の乳母に選ばれ王宮にあがった。
もともとモイラの実家の女性は母乳の出が良く、モイラたちの祖母も王族の乳母を務め――モイラの実家は二代続けて乳母を務めている。
そのため爵位こそ低いが、王家の信頼は篤い。
乳兄弟だったジェイクは、王太子の側近を務めるべく、部門の伯爵家に養子として入った。
貴族に叙されて三代目、領地も持たない子爵家の出では、王太子の側近としては、いささか頼りないということで。
養子といっても、伯爵家には跡継ぎがいるので、ジェイクにこれといった相続権はなく――養子というより、猶子のほうが近いともいえる。
久しぶりの再会を喜んだ二人はソファーに腰を下ろす。
ジェイクはやたらと浅く腰掛け――こういう座り方をするときは、言いだし辛いことがあるときだと、モイラは良く知っていた。
「伯爵家はどう?」
「ぼちぼち……」
――騎士関係のことじゃなさそうだ。となれば、学業ってことかな。課題を溜めすぎたとか、試験の山を張って欲しいとか、そういうこと?
腕は立つが単純なジェイク――学業において神童と言われたモイラと違い、あまり賢くなかった。ただそれを補えるほど武術の素養があり、有り余るほど王太子に対して忠誠心が高い。
「モイラ姉の知恵を借りたい!」
「テストの山を張れとでも? 山というのは、しっかり勉強していないと張れないものなのだよ」
「違う!」
「じゃあ、なに?」
「殿下とレディ・ナオミが結婚できるよう、知恵を貸して欲しいんだ!」
「ナオミ? 誰?」
「今年学園に入学した、ナオミ・シーモア男爵令嬢のことだ!」
男爵令嬢と王太子が結婚なんて無理――モイラはジェイクを諭そうと、口を開き掛けたとき、
――え……ナオミ・シーモア男爵令嬢……王太子ソロモンで、悪役令嬢オリアーナ・ダドリー! …………まさか、まさか! これ! 婚約破棄された悪役令嬢が、婚約破棄されても大丈夫なように、商会を作って経済を牛耳って、隣の帝国の皇子ハミトと結婚して、いろいろあって皇后になる物語!
悪役令嬢オリアーナ・ダドリーより、随分と遅れて記憶を取り戻した。
モイラは額に手を当てて目を瞑り――ジェイクは心配そうに姉のモイラを見つめる。
――この話は卒業パーティーで、王太子がテンプレ婚約破棄を宣言してから始まって、冤罪で断罪からの身分剥奪しての国外追放……うちの弟が悪役令嬢の腕をねじり上げ、乱暴に会場から連れだそうとしたとき、留学生のハミトが颯爽と現れて、うちの弟をぶちのめして、悪役令嬢を救い、隣国へと連れていく。
悪役令嬢は幼少期に記憶を取り戻していたので、婚約破棄されても生きていけるようにと商会を作った。
悪役令嬢の商会は大きくなり、王国の経済にも深く関与。
そんな商会が王国を引き上げたことで、王国の経済は大打撃をくらい、繁栄する帝国と落ちぶれてゆく王国の対比がなされ…………最終的に、王族は民衆によって処刑されてしまう物語だ! 男爵令嬢のナオミは、とくに酷い目に遭ったはず
モイラはあらすじをなぞり、
――故国を見捨てて、帝国に乗り替えるのも手だよな
充分に時間がある時点で記憶が蘇った――現段階なら、故国を見捨てて帝国に乗り替えることもできる。
――乗り替えるのは簡単だけど……わたしたち家族の給料の出所は、悪役令嬢じゃなくて国だからだ。……いままでもらった給料分くらいは働くか!
モイラは目を開けて、向かい側に座っているジェイクに視線を向けた。
「分かった、協力する。その前に確認したいことがある」
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