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佐倉弥生
第09話・Febreroこと、通称F 弐
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「問題なのは、Fさんが”FebreroのF”と名乗ったのは、その一回きりで、それを聞いていたのはごく僅か。その中の二人がFさんを裏切った。うち一人が浪川麻衣子の恋人だった男性です」
「その男性はどうしてFさんを裏切ったのですか?」
「浪川麻衣子の恋人が入り込みたかったところに、Fさんが招待されると知って、近づいたのですが、最終的に秘密がばれて殺害されたそうです」
「…………」
「男性が入り込もうとしたのは、南米のマフィアのもとです。捕らえられていた男性は、非人道的な研究をしていたそうで、人体実験も随分と行っていました。捕まった経緯やどうなったかまでは、教えてもらえませんでしたが浪川麻衣子の恋人は、その悪人にさらに研究を続けてもらうことと引き替えに、救出を了承したそうです」
熊谷さんの話を聞いていても、あまり頭に入ってこなかった。
あまりにも現実離れしていて、現実の話とはおもえなかった。
「佐倉さんの叔母一家に関してですが……こちらの記事を読んでいただけますか」
熊谷さんが大きな黒いバッグから、タブレットを取り出した。そこには数年前にメキシコで起こった事件の記事が――十代の動画配信者が、酔った勢いで麻薬組織のボスの悪口を配信したことで、殺し屋に殺害されたという記事。
「あの、これが……」
読んで顔を上げると、熊谷さんは困ったように笑い、
「佐倉さんの叔母一家も、似たようなことをしてしまったのです」
そして目を閉じて力なく首を横に振った。
「え…………」
なにを言っていいのか分からなかったけれど、熊谷さんはゆっくりと説明してくれた――叔母が娘と一緒にFという人物をからかった。
その報復として、一家が行方不明になった。
「からかった、だけ……で……」
「Fさんの背後にいるものが、侮辱と感じたようです。佐倉さんがFさんにコンタクトを取ろうものなら、あれたちはすぐに怒りを再燃させます」
「……あの……なぜ、叔母はそんな怖ろしい人をからかうようなことを、したのでしょう?」
「分かりません。昨今の動画配信者たちが、軽い気持ちで非常識な動画をアップするくらいの気持ちだったのではないかと、わたしは考えています。佐倉さんの叔母さんも、わたしと同じくFさんとは、直接会ったことはありません。ネットで交流しているだけでした。だからFさんが、本当はどんなものなのか? 知らなかったのです。アメリカの大学に進学して、かなりハードな人生を送ったFさんと、日本で一般的な人生を送っていた佐倉さんの叔母さんとは、まったく違うものだった」
熊谷さんの言葉を聞いて――わたしの母も叔母も、どうしようもないというか、考えが足りないというか、短絡的というか。
わたしは肩を落とした。
「なにか食べましょう。たとえ食欲がなくとも、食べましょう」
熊谷さんは笑い、わたしたちは時間をかけて食事を取った。食事中、何度か”F”という人間について尋ねようと思ったが、聞きそびれてしまった。
食事が終わり、浪川麻衣子さんのメールを、読み返す。
会う日時も場所も指定されている――場所はカフェチェーン店。
「では、わたしもご一緒させてください」
「ついて来ていただけるのは、心強いのですが」
「一人きりで来るようには書かれていませんから、大丈夫でしょう。念のために、男性職員も同行させたいのですが、よろしいですか?」
「あの……」
「大人に頼っていいんですよ。佐倉さんは、たしかに成人し就職もしていますが、まだ大人に頼っていいんですよ」
熊谷さんの言葉に泣きそうになり、俯いてぎゅっと握り拳を作り力を込めた。
「その男性はどうしてFさんを裏切ったのですか?」
「浪川麻衣子の恋人が入り込みたかったところに、Fさんが招待されると知って、近づいたのですが、最終的に秘密がばれて殺害されたそうです」
「…………」
「男性が入り込もうとしたのは、南米のマフィアのもとです。捕らえられていた男性は、非人道的な研究をしていたそうで、人体実験も随分と行っていました。捕まった経緯やどうなったかまでは、教えてもらえませんでしたが浪川麻衣子の恋人は、その悪人にさらに研究を続けてもらうことと引き替えに、救出を了承したそうです」
熊谷さんの話を聞いていても、あまり頭に入ってこなかった。
あまりにも現実離れしていて、現実の話とはおもえなかった。
「佐倉さんの叔母一家に関してですが……こちらの記事を読んでいただけますか」
熊谷さんが大きな黒いバッグから、タブレットを取り出した。そこには数年前にメキシコで起こった事件の記事が――十代の動画配信者が、酔った勢いで麻薬組織のボスの悪口を配信したことで、殺し屋に殺害されたという記事。
「あの、これが……」
読んで顔を上げると、熊谷さんは困ったように笑い、
「佐倉さんの叔母一家も、似たようなことをしてしまったのです」
そして目を閉じて力なく首を横に振った。
「え…………」
なにを言っていいのか分からなかったけれど、熊谷さんはゆっくりと説明してくれた――叔母が娘と一緒にFという人物をからかった。
その報復として、一家が行方不明になった。
「からかった、だけ……で……」
「Fさんの背後にいるものが、侮辱と感じたようです。佐倉さんがFさんにコンタクトを取ろうものなら、あれたちはすぐに怒りを再燃させます」
「……あの……なぜ、叔母はそんな怖ろしい人をからかうようなことを、したのでしょう?」
「分かりません。昨今の動画配信者たちが、軽い気持ちで非常識な動画をアップするくらいの気持ちだったのではないかと、わたしは考えています。佐倉さんの叔母さんも、わたしと同じくFさんとは、直接会ったことはありません。ネットで交流しているだけでした。だからFさんが、本当はどんなものなのか? 知らなかったのです。アメリカの大学に進学して、かなりハードな人生を送ったFさんと、日本で一般的な人生を送っていた佐倉さんの叔母さんとは、まったく違うものだった」
熊谷さんの言葉を聞いて――わたしの母も叔母も、どうしようもないというか、考えが足りないというか、短絡的というか。
わたしは肩を落とした。
「なにか食べましょう。たとえ食欲がなくとも、食べましょう」
熊谷さんは笑い、わたしたちは時間をかけて食事を取った。食事中、何度か”F”という人間について尋ねようと思ったが、聞きそびれてしまった。
食事が終わり、浪川麻衣子さんのメールを、読み返す。
会う日時も場所も指定されている――場所はカフェチェーン店。
「では、わたしもご一緒させてください」
「ついて来ていただけるのは、心強いのですが」
「一人きりで来るようには書かれていませんから、大丈夫でしょう。念のために、男性職員も同行させたいのですが、よろしいですか?」
「あの……」
「大人に頼っていいんですよ。佐倉さんは、たしかに成人し就職もしていますが、まだ大人に頼っていいんですよ」
熊谷さんの言葉に泣きそうになり、俯いてぎゅっと握り拳を作り力を込めた。
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