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初めての来訪者

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(おぉ、この森は幻惑の森というのか……やっぱり森から出ないのは正解だったみたいね。私じゃ間違いなく即死してるもの)

 初めて聞いた場所の名前を聞いて、今まで家に引きこもっていたのが間違いではないと再確認した奏。

「幻惑の森って?」

 奏にとって、この世界の知識は全て叡智の書に頼り切っているため、ファルマー達にとっては常識でも奏にとっては知らないことの方がはるかに多いのだ。聞き返した奏を、ファルマーは驚愕したような表情を浮かべてた。

「し、知らないのですか……? 【幻惑の森】は、この世の魔境の一つです。幻惑の森の恐ろしいところは、気づかない内に迷い込んでいるところです……。この森自体、地図には載ってない場所なんですよ? どこにあるかもわからない森に、いつの間にか迷い込んでしまうのです……」

「地図に載ってないって……そんな場所があるの?」

「そうなのです。おそらく魔力の渦の影響なのだと思われているのですが、実際のところわからないのですよ。この森に迷い込んでしまい、多くの人が命を落としています。それに、この森から誤って出てしまったと思われる強力な魔物が、いたるところで目撃されています。それだけ、この森は危険な場所なのです」

 奏が生活していた幻惑の森は思っていた以上に恐ろしいところであった。地図には載ってない上に、いつ、どこに現れるかも不明ときた。
 なんで召喚されたはずの奏達のスタート地点が、こんな魔境の一つになってるのか不思議でならない。先に召喚された九人も、訳もわからずにこの領域から出たら即死だったはずだ。
 そもそも、この家は周りを囲んでいる柵のおかげで無事なのだろうか……。
 ファルマーの説明によると、子供の時に両親からは「無闇に森には入らないように」と言い聞かされているらしい。
 昔、とある一つの国家が国に隣接する森を全て伐採して、幻惑の森への対策を試みたことがあったらしいのだが、結果は失敗。少しずつ、少しずつ人が幻惑の森に迷い込まされ、森のほとんどを伐採することができず、むしろ多くの人の命を奪ってしまった愚策として、語り継がれているらしい。
 一定数以上の森林を伐採したのが原因だったのか、丁度幻惑の森がその国のそばにあったのがよくなかったのかは、未だにわからないままだという。

「……そんなところに私住んでたの?」

「そうなのです。普通、ありえないのですよ」

「幻惑の森って、迷い込んだら死ぬまで出られないの?」

「そんなことはないのです。確かに迷い込んでしまったらこの森に住む魔物に襲われて命を落とす人の方が多いのですが、必ず死んでしまうこともないです。仮に迷い込んだとしても無事だったケースは確かに存在するです。運よく魔物に出会わないこともありますし……。幻惑の森自体が移動しているのでわからないのですが、魔物に襲われない限りは普通の森と変わりませんから。ただし、森から出るときに全く知らない場所に出る時は、幻惑の森に迷い込んでいたということになるです」

 移動する魔境のため、詳しく調べようにも難しく、対処法すらないらしい。
 唇に赤い髭を生やした状態のまま、真剣な顔で語るファルマーの話を聞いて、奏はよくこれまで無事だったなと思った。単に家から、というよりも家を取り囲む柵から出ていない事が良かったのだろうか。
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