異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど！〜

深海の魔女

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　アフィラーディ王国から遠く離れた場所。深い海のさらに奥に広がる空間。そこでは崩れた帆船がいくつも並んでいる。

「えぇ～……こんなもんしかないの？　思ったよりもしょぼいのね」

　今回鹵獲した船の積荷を確認しながら一人の少女が呟く。怪しく輝く青い瞳で積荷を一つ一つ確認している最中、足元には小さな海洋生物たちが力を合わせて荷物を運んでいた。蟹や海老のような姿をした甲殻類たちが、自分たちよりも大きなものを別の部屋へ移動していく。まるで意思を持ったように、多くの海洋生物たちが少女の手助けをしていた。

「積荷の中身は……食料がほとんどで後は剣とかばっかり……。もうちょっと宝石とかお洋服があればいいのにつまんないの～」

　少女は積荷の確認を他の生物に任せて、部屋を移動する。
　深海の魔女……ファラーシャは退屈そうに椅子に座ると、船を襲った魔物たちが彼女の近くに寄ってきた。クラーケンや水竜といった巨大生物さえも彼女の命令を待つかのように控えていた。足元には水竜の子供が擦り寄ってファラーシャに甘えるように鳴き声をあげる。その中の一匹が積荷の中に埋もれていた手紙を彼女の手元に持ってきた。

「なになに……勇者が召喚された？　魔女狩りの協力要請？　……めんどくさいなぁ」

　ファラーシャは手紙を捨てると、水を含んだ紙はボロボロになり、すぐに読めないような状態になってしまった。
　彼女が船を襲うのは単なる暇潰しにすぎない。クラーケンや水竜もたまには運動させないとストレスが溜まってしまうから、それの発散も兼ねている。深海の魔女と呼ばれるようになったのもその時からだった。
　魔女とは、なろうと思ってなれるものではない。もちろん、陸の上では多くの魔法使いがいるが、それと魔女とは完全に別な存在であった。
　魔女とは選ばれる者……魔神の加護を授かった者だけの称号のような者だった。魔女になれば今まで以上の魔力と力を得られる。普通は魔神との契約は御法度と教えられるが、ファラーシャは魔神から加護を喜んで受け入れた。元々水系統の魔法に精通していたファラーシャは加護をもらった日に所属していた組織を水没させて、それからは自由に生きている。それからは深海に住み着くようになり、自分の領域を汚すものを襲っている。

「あたしら魔女のことなんてほっとけばいいのに……。どうせ挑んだところで返り討ちにあうだけだし。勇者って言われてもそんな強い魔力全然感じないもんね」

　ファラーシャは立ち上がると、積荷を移している部屋とは別の部屋へと向かった。深海の魔女となったファラーシャは水の中でも呼吸できるが、そこの部屋には空気があり、船に乗っていた船員たちが拘束された状態で並んでいる。ファラーシャが様子を覗いてみると全員震えており、泣いているものもいれば神に祈りを捧げているものもいた。その中で唯一、船長と思わしき人物だけがファラーシャのことを睨みつけていた。