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誤って招ばれた少女
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江西 奏はいつも放課後になると、決まって図書室に向かうのが日課だ。
家にあるお気に入りの本や、図書室で借りた本をそこで広げて読み耽る。昼休みと違い放課後は図書室も人が少なくなるので、読書をする上で居心地の良い空間だった。
図書室で読む本は、できるだけいつも違うものを選んでいた。知らない本を読んでいる間は、時間が過ぎるのを早く感じる。
下校時間まで本を読んで過ごし、鐘が鳴ったら帰宅の準備をする。その頃には学校に運動部ぐらいしか残っていない。
人の少なくなった校舎の中を抜けて、校門から出る。
人付き合いが少し苦手な奏は、基本的には毎日一人で行動していた。友人もいないわけではないのだが、親友と呼べるような仲の良い友人はいない。それに奏にとって一人の時間というのはそんなに悲観的なものではなく、むしろ望んでいるといっても過言ではなかった。
陽も傾き始めた時間帯。帰り道には人通りも少なく、通行量も少ないその道は、本を読んで歩くのには最適だった。
(丁度良い所で下校時間になるなんて……。でも帰りに楽しみができたからいいかな……)
歩きながら本を読むのは危ないと頭の中ではわかっているのだが、内容の続きが気になってしまいついつい本を開いてしまう。
優しく吹く風がページを捲ってしまうのを、指で抑えながらできるだけ歩道の端を通る。
読み進めるうちに、内容はどんどんクライマックスへと向かってゆく。頭の中ではそのシーンが再現されていて、文字を追う目を抑えることができない。姿勢は気付かぬうちにゆっくりと前のめりになっていった。
(彼女はどうなってしまうの……っ! いったぁ!!)
ゴンッ!! という音とともに衝撃がおでこを襲った。奏の頭が電柱に激突した音だった。
奏はその場に蹲り、痛みが走ったおでこを抑えた。
(うぅぅ、またぶつけてしまった……。たんこぶできてないといいけど……)
奏が本を読みながらぶつかるのは、これが初めてではない。通行人にこそぶつからないのだが、いつも決まって読書に集中して歩いている時は前方への注意力がなく、壁や電柱にぶつかってしまうのだった。次こそは大丈夫と思っていても、物語が進むにつれて頭の中は内容一色になってしまい、結局またぶつけてしまう。
過去に通行人とぶつからなかったのも、単に相手の方が避けてくれているだけだろう。
激突の衝撃もあって、読んでいた本も、肩にかけていたカバンも地面に落ちてしまった。
痛みで涙が出てきた目元を拭い、本を探すために手を伸ばすが、手に感触はない。同じようにカバンも拾おうとするがこれもなかった。さらには地面に落としたはずの本とカバンがない……。
(え? なんで……?)
さらにおかしいことに、コンクリートでできた舗装路を歩いていたはずなのに、いつの間にか芝生になっている。
おでこにぶつかったはずの電柱さえも、目の前から消えてしまい、その代わりにあるのは小さな家が一つだった。
周囲は背の高い木で囲まれており、木々の奥は光が通らないのか、薄暗く、とても不気味に映っていた。
「え、は、こ、ここ……どこ……?」
その場にへたり込んでしまった奏は、ただ呆然と目の前にある家を眺めながら、痛みが残るおでこをさすり続けていた。
家にあるお気に入りの本や、図書室で借りた本をそこで広げて読み耽る。昼休みと違い放課後は図書室も人が少なくなるので、読書をする上で居心地の良い空間だった。
図書室で読む本は、できるだけいつも違うものを選んでいた。知らない本を読んでいる間は、時間が過ぎるのを早く感じる。
下校時間まで本を読んで過ごし、鐘が鳴ったら帰宅の準備をする。その頃には学校に運動部ぐらいしか残っていない。
人の少なくなった校舎の中を抜けて、校門から出る。
人付き合いが少し苦手な奏は、基本的には毎日一人で行動していた。友人もいないわけではないのだが、親友と呼べるような仲の良い友人はいない。それに奏にとって一人の時間というのはそんなに悲観的なものではなく、むしろ望んでいるといっても過言ではなかった。
陽も傾き始めた時間帯。帰り道には人通りも少なく、通行量も少ないその道は、本を読んで歩くのには最適だった。
(丁度良い所で下校時間になるなんて……。でも帰りに楽しみができたからいいかな……)
歩きながら本を読むのは危ないと頭の中ではわかっているのだが、内容の続きが気になってしまいついつい本を開いてしまう。
優しく吹く風がページを捲ってしまうのを、指で抑えながらできるだけ歩道の端を通る。
読み進めるうちに、内容はどんどんクライマックスへと向かってゆく。頭の中ではそのシーンが再現されていて、文字を追う目を抑えることができない。姿勢は気付かぬうちにゆっくりと前のめりになっていった。
(彼女はどうなってしまうの……っ! いったぁ!!)
ゴンッ!! という音とともに衝撃がおでこを襲った。奏の頭が電柱に激突した音だった。
奏はその場に蹲り、痛みが走ったおでこを抑えた。
(うぅぅ、またぶつけてしまった……。たんこぶできてないといいけど……)
奏が本を読みながらぶつかるのは、これが初めてではない。通行人にこそぶつからないのだが、いつも決まって読書に集中して歩いている時は前方への注意力がなく、壁や電柱にぶつかってしまうのだった。次こそは大丈夫と思っていても、物語が進むにつれて頭の中は内容一色になってしまい、結局またぶつけてしまう。
過去に通行人とぶつからなかったのも、単に相手の方が避けてくれているだけだろう。
激突の衝撃もあって、読んでいた本も、肩にかけていたカバンも地面に落ちてしまった。
痛みで涙が出てきた目元を拭い、本を探すために手を伸ばすが、手に感触はない。同じようにカバンも拾おうとするがこれもなかった。さらには地面に落としたはずの本とカバンがない……。
(え? なんで……?)
さらにおかしいことに、コンクリートでできた舗装路を歩いていたはずなのに、いつの間にか芝生になっている。
おでこにぶつかったはずの電柱さえも、目の前から消えてしまい、その代わりにあるのは小さな家が一つだった。
周囲は背の高い木で囲まれており、木々の奥は光が通らないのか、薄暗く、とても不気味に映っていた。
「え、は、こ、ここ……どこ……?」
その場にへたり込んでしまった奏は、ただ呆然と目の前にある家を眺めながら、痛みが残るおでこをさすり続けていた。
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