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旅行
ぐるぐる場をかきみだす泡立てユリシア:spring break
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「こ、これはルーシー殿に、アイラ王女殿下っ!」
ヂュエルさんが驚き、慌ててソファーから降りて頭を下げる。メイドたちも目を見開き、かしずいた。
「ちょ、二人とも。何してるのっ!」
同様にかしずいたライン兄さんが俺とユリシア姉さんに小声で怒鳴ってくる。
俺は普通にアイラが現れて驚き動けなかっただけなのだが、ユリシア姉さんは違った。
「え、何よ?」
マカロンを頬張るのに夢中で、アイラに気が付いていなかったのだ。扉の方を見て、あっと声をあげる。
「あ、ルーシーじゃない! 久しぶり! 元気にしてたかしらっ?」
「え、あ、はい」
周囲の驚きやらライン兄さんとヂュエルさんの気づけ、という雰囲気を無視してルーシーに駆け寄り、微笑む。
ルーシー様もルーシー様でこんな対応をされると思っていなかったのか、少し面を食らっていた。
そしてアイラに気が付き、首を傾げる。
「……うん? 貴方、どこかで会ったことあるかしら?」
「ちょ、ちょっ! ユリ姉!」
「え、何よ」
ライン兄さんがユリシア姉さんに飛びつき、頭を床につけさせる。
「う、うちの愚姉が本当に失礼をっ!」
「姉に向かって愚って何よ! 愚って!」
「今現時点で愚かなことしてるのっ! 自覚してっ!」
……本当にユリシア姉さんはユリシア姉さんだな。王様との謁見の場で礼儀作法とかそれなりにできるんだと思った俺の気持ちを返してくれ。
いや、まぁ、それはそれで凄いとは思うのだけど。
ライン兄さんの頬をつねるユリシア姉さんに呆れていると。
「アハハハハ!」
アイラが大きな声をあげて笑った。普通の女の子らしく、無邪気に楽しそうに笑った。
それにヂュエルさんやライン兄さん、メイドたちにルーシー様が大きく驚いている。特にルーシー様の驚き具合は半端ない。
あり得ないものを見たかのような反応だ。
ユリシア姉さんはどうかしたのかしら? と首を傾げている。
そして笑い終わったアイラは、驚く面々を右手でドレスのちょこんと持ち上げ、ユリシア姉さんに微笑む。
「初めまして、ユリシア様。私はアイラ・S・エレガントです。お会いできて嬉しいです」
「……王女様?」
「はい、そうです」
「あ」
ユリシア姉さんの表情がみるみるうちに蒼くなっていく。
「あ、その、本当に申し訳……」
「大丈夫ですよ。ここには限られた者しかいませんし、わたしも他所向きで来たわけではありませんから。ね、ルーシー様」
「え、ええ」
アイラは瞼のカーテンをゆっくりと開き、その透明で美しい白銀の瞳を見せる。ゆっくりと視線を巡らせる。
彼女の言葉の意図に気が付いたヂュエルさんたちは慌てて立ち上がった。
先ほどのユリシア姉さんの言動は黙っておけ。アイラがここに来たことを誰にも伝えるな。そして、かしこまった態度を表立ってとるな、というわけである
色々とちゃらんぽらんではあるが、ユリシア姉さんはコミュニケーションが苦手なわけではない。
言外の言葉の意図も読み取れるわけで。
「そう。じゃあ、そうさせて貰うわ。よろしくね、アイラ殿下」
「ふふ。こちらこそ、よろしくお願いしますわ、ユリシア様」
ユリシア姉さんは片膝をつきながら、アイラと同じ目線に立ち、握手したのだった。
こういうのをさらっとできるのもユリシア姉さんの凄さである。
そしてアイラとルーシー様も交えて、お茶会みたいなのが開催された。
「ところで、先ほどの話ですけど――」
アイラがゆっくりと口を開く。先ほどの話、魔の救済とやらについて語りだすが、俺はちょっと緊張というか、気まずかった。
いや、まぁね。王都だし、王族のアイラがいるとは思っていたよ。会いたいなとも思ったよ。手紙ではやり取りできなかった、魔力を視る力についても少し話したいな、と思っていたし。
けどさ。俺、収穫祭の時に約束したんだよ。今度までに義肢を作るって。
その今度っていつ? よくよく考えると次会った時っていうニュアンスにならない?
だから、まだまだ義肢の『ぎ』の字も完成していないのにこうして顔を合わせるのが少し気まずい。
「どうかされましたか、セオさ……セオドラー様? ご気分がすぐれないので?」
「あ、いや、なんでもないよ……です。アイラ……殿下」
俺が上の空だったのに気が付いたのだろう。声をかけてくれた。
収穫祭の時の気分が抜けてなくて、ついため口で呼び捨てにしそうになったが、ぐっと我慢した。
ヂュエルさんたちはそれになんとも疑問を思っていなかったようだが、ユリシア姉さんが「ん?」と首を傾げ始める。
そして数秒間悩むような仕草をしたあと。
「あ。そういえば、あれだわ。収穫祭の時に! ああ、そういえばそうね。確か手紙でやり――」
「ユリシア姉さん。どうしたの? お腹減った? マカロンあるから食べようね」
「も、もがっ」
マカロンをユリシア姉さんの口に無理やりねじ込む。
この姉。ホントどうして妙な勘が鋭くてこう迂闊なのか。ユリシア姉さんの言葉に少し慌てた表情をしていたアイラが、ほっと小さく胸を撫でおろしていた。
俺は大きく咳ばらいをして、話を元に戻す。
「そ、それより。さっきの話ですけど、その魔のなんちゃらっていうのが、ダンジョンを暴走させて、それをエドガー兄さんが解決したっていう認識でいいんですよね、アイラ様」
「え、ええ。そうです」
アイラはヂュエルさんに視線をやった。
「それで何故、その先の事件の話題を?」
「それは、アイツ……エドガーの失踪に関する手がかりになれば、と」
「手がかり?」
ヂュエルさんは今までの経緯を説明した。
「なるほど。ヂュエル様はエドガー様の失踪に心当たりがあるのですね」
「ええ、はい。アイツ……エドガーはその件で大きな力不足を感じたのです。詳しい事は省きますが、事件を解決したのはエドガーではなく通りすがりの竜人でして。ただ、彼の頼みと、周りがそれを認識できなかったが故にエドガーの手柄となり」
「それで力不足を……」
「はい。アイツ……エドガーは――」
「言葉遣いは気にしませんわ」
「……失礼。アイツは家のことで強くならないと、武功をたてないと、と焦っているところがありまして。決して口には出しませんでしたが」
ユリシア姉さんがカツンっとカップをテーブルに置いた。
「ったく。エドのアホ。わたし抜きでんなこと考えてたなんて。武功は一緒にたてるって約束したのに」
不機嫌そうに小さく舌打ちしたユリシア姉さんは、行き場のない怒りを発散するかのようンいライン兄さんを膝の上に持ってきて、そのサラサラとした髪を引っ張ったりした。
ライン兄さんは非常に嫌そうで俺に助けを求める目を送ってきたが、まぁ無視する。平穏のために我慢してくれ。
「セオも来なさい」
「え」
俺の髪の毛を引っ張られたりした。
アイラの前でそんなことされたくなかったのだが、姉の横暴には逆らえないのが弟の常である。
「それでアイラ殿下はエドの居場所を知っているの?」
「いえ、まったく。けれど、ハティアお姉さまの足取りは少し分かっています」
「腹黒の?」
「はらぐろ……?」
「あっ! はてぃあを噛んじゃったのよ! ね!」
「そ、そうですか……お姉さまがはらぐろ……」
アイラは少しショックを受けたようだった。俺もぶっちゃけハティア王女殿下に対してのイメージはユリシア姉さんと変わらない。
しかし、アイラにとっては違うのかもしれない。
「こほん。ハティア殿下はどこにいるのかしら?」
「それは……」
アイラは控えていたメイドたちに視線をやった。優秀なメイドたちなのだろう。アイラの意図に気が付いて、すぐに部屋を出ていった。
「最後に確認されたのは北東の国境付近です」
「そこのエドはいたの?」
「いえ。目撃情報はハティアお姉さまと商人が二人です。まだ調査しきれていませんが、エドガー様とハティアお姉さまは同時に失踪したわけではないかと」
アイラの返答を聞いて、ユリシア姉さんはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「ふぅん。じゃあ、結局駆け落ちじゃなくて、普通にエドが私をのけ者にしただけなのね。チッ」
「え、何故そこで駆け落ちがでてくるのですか?」
「え、逆になんで最初にそれが出てこないのよ?」
アイラとユリシア姉さんが首を傾げた。
「「「「え?」」」」
俺たちも首を傾げた。
ヂュエルさんが驚き、慌ててソファーから降りて頭を下げる。メイドたちも目を見開き、かしずいた。
「ちょ、二人とも。何してるのっ!」
同様にかしずいたライン兄さんが俺とユリシア姉さんに小声で怒鳴ってくる。
俺は普通にアイラが現れて驚き動けなかっただけなのだが、ユリシア姉さんは違った。
「え、何よ?」
マカロンを頬張るのに夢中で、アイラに気が付いていなかったのだ。扉の方を見て、あっと声をあげる。
「あ、ルーシーじゃない! 久しぶり! 元気にしてたかしらっ?」
「え、あ、はい」
周囲の驚きやらライン兄さんとヂュエルさんの気づけ、という雰囲気を無視してルーシーに駆け寄り、微笑む。
ルーシー様もルーシー様でこんな対応をされると思っていなかったのか、少し面を食らっていた。
そしてアイラに気が付き、首を傾げる。
「……うん? 貴方、どこかで会ったことあるかしら?」
「ちょ、ちょっ! ユリ姉!」
「え、何よ」
ライン兄さんがユリシア姉さんに飛びつき、頭を床につけさせる。
「う、うちの愚姉が本当に失礼をっ!」
「姉に向かって愚って何よ! 愚って!」
「今現時点で愚かなことしてるのっ! 自覚してっ!」
……本当にユリシア姉さんはユリシア姉さんだな。王様との謁見の場で礼儀作法とかそれなりにできるんだと思った俺の気持ちを返してくれ。
いや、まぁ、それはそれで凄いとは思うのだけど。
ライン兄さんの頬をつねるユリシア姉さんに呆れていると。
「アハハハハ!」
アイラが大きな声をあげて笑った。普通の女の子らしく、無邪気に楽しそうに笑った。
それにヂュエルさんやライン兄さん、メイドたちにルーシー様が大きく驚いている。特にルーシー様の驚き具合は半端ない。
あり得ないものを見たかのような反応だ。
ユリシア姉さんはどうかしたのかしら? と首を傾げている。
そして笑い終わったアイラは、驚く面々を右手でドレスのちょこんと持ち上げ、ユリシア姉さんに微笑む。
「初めまして、ユリシア様。私はアイラ・S・エレガントです。お会いできて嬉しいです」
「……王女様?」
「はい、そうです」
「あ」
ユリシア姉さんの表情がみるみるうちに蒼くなっていく。
「あ、その、本当に申し訳……」
「大丈夫ですよ。ここには限られた者しかいませんし、わたしも他所向きで来たわけではありませんから。ね、ルーシー様」
「え、ええ」
アイラは瞼のカーテンをゆっくりと開き、その透明で美しい白銀の瞳を見せる。ゆっくりと視線を巡らせる。
彼女の言葉の意図に気が付いたヂュエルさんたちは慌てて立ち上がった。
先ほどのユリシア姉さんの言動は黙っておけ。アイラがここに来たことを誰にも伝えるな。そして、かしこまった態度を表立ってとるな、というわけである
色々とちゃらんぽらんではあるが、ユリシア姉さんはコミュニケーションが苦手なわけではない。
言外の言葉の意図も読み取れるわけで。
「そう。じゃあ、そうさせて貰うわ。よろしくね、アイラ殿下」
「ふふ。こちらこそ、よろしくお願いしますわ、ユリシア様」
ユリシア姉さんは片膝をつきながら、アイラと同じ目線に立ち、握手したのだった。
こういうのをさらっとできるのもユリシア姉さんの凄さである。
そしてアイラとルーシー様も交えて、お茶会みたいなのが開催された。
「ところで、先ほどの話ですけど――」
アイラがゆっくりと口を開く。先ほどの話、魔の救済とやらについて語りだすが、俺はちょっと緊張というか、気まずかった。
いや、まぁね。王都だし、王族のアイラがいるとは思っていたよ。会いたいなとも思ったよ。手紙ではやり取りできなかった、魔力を視る力についても少し話したいな、と思っていたし。
けどさ。俺、収穫祭の時に約束したんだよ。今度までに義肢を作るって。
その今度っていつ? よくよく考えると次会った時っていうニュアンスにならない?
だから、まだまだ義肢の『ぎ』の字も完成していないのにこうして顔を合わせるのが少し気まずい。
「どうかされましたか、セオさ……セオドラー様? ご気分がすぐれないので?」
「あ、いや、なんでもないよ……です。アイラ……殿下」
俺が上の空だったのに気が付いたのだろう。声をかけてくれた。
収穫祭の時の気分が抜けてなくて、ついため口で呼び捨てにしそうになったが、ぐっと我慢した。
ヂュエルさんたちはそれになんとも疑問を思っていなかったようだが、ユリシア姉さんが「ん?」と首を傾げ始める。
そして数秒間悩むような仕草をしたあと。
「あ。そういえば、あれだわ。収穫祭の時に! ああ、そういえばそうね。確か手紙でやり――」
「ユリシア姉さん。どうしたの? お腹減った? マカロンあるから食べようね」
「も、もがっ」
マカロンをユリシア姉さんの口に無理やりねじ込む。
この姉。ホントどうして妙な勘が鋭くてこう迂闊なのか。ユリシア姉さんの言葉に少し慌てた表情をしていたアイラが、ほっと小さく胸を撫でおろしていた。
俺は大きく咳ばらいをして、話を元に戻す。
「そ、それより。さっきの話ですけど、その魔のなんちゃらっていうのが、ダンジョンを暴走させて、それをエドガー兄さんが解決したっていう認識でいいんですよね、アイラ様」
「え、ええ。そうです」
アイラはヂュエルさんに視線をやった。
「それで何故、その先の事件の話題を?」
「それは、アイツ……エドガーの失踪に関する手がかりになれば、と」
「手がかり?」
ヂュエルさんは今までの経緯を説明した。
「なるほど。ヂュエル様はエドガー様の失踪に心当たりがあるのですね」
「ええ、はい。アイツ……エドガーはその件で大きな力不足を感じたのです。詳しい事は省きますが、事件を解決したのはエドガーではなく通りすがりの竜人でして。ただ、彼の頼みと、周りがそれを認識できなかったが故にエドガーの手柄となり」
「それで力不足を……」
「はい。アイツ……エドガーは――」
「言葉遣いは気にしませんわ」
「……失礼。アイツは家のことで強くならないと、武功をたてないと、と焦っているところがありまして。決して口には出しませんでしたが」
ユリシア姉さんがカツンっとカップをテーブルに置いた。
「ったく。エドのアホ。わたし抜きでんなこと考えてたなんて。武功は一緒にたてるって約束したのに」
不機嫌そうに小さく舌打ちしたユリシア姉さんは、行き場のない怒りを発散するかのようンいライン兄さんを膝の上に持ってきて、そのサラサラとした髪を引っ張ったりした。
ライン兄さんは非常に嫌そうで俺に助けを求める目を送ってきたが、まぁ無視する。平穏のために我慢してくれ。
「セオも来なさい」
「え」
俺の髪の毛を引っ張られたりした。
アイラの前でそんなことされたくなかったのだが、姉の横暴には逆らえないのが弟の常である。
「それでアイラ殿下はエドの居場所を知っているの?」
「いえ、まったく。けれど、ハティアお姉さまの足取りは少し分かっています」
「腹黒の?」
「はらぐろ……?」
「あっ! はてぃあを噛んじゃったのよ! ね!」
「そ、そうですか……お姉さまがはらぐろ……」
アイラは少しショックを受けたようだった。俺もぶっちゃけハティア王女殿下に対してのイメージはユリシア姉さんと変わらない。
しかし、アイラにとっては違うのかもしれない。
「こほん。ハティア殿下はどこにいるのかしら?」
「それは……」
アイラは控えていたメイドたちに視線をやった。優秀なメイドたちなのだろう。アイラの意図に気が付いて、すぐに部屋を出ていった。
「最後に確認されたのは北東の国境付近です」
「そこのエドはいたの?」
「いえ。目撃情報はハティアお姉さまと商人が二人です。まだ調査しきれていませんが、エドガー様とハティアお姉さまは同時に失踪したわけではないかと」
アイラの返答を聞いて、ユリシア姉さんはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「ふぅん。じゃあ、結局駆け落ちじゃなくて、普通にエドが私をのけ者にしただけなのね。チッ」
「え、何故そこで駆け落ちがでてくるのですか?」
「え、逆になんで最初にそれが出てこないのよ?」
アイラとユリシア姉さんが首を傾げた。
「「「「え?」」」」
俺たちも首を傾げた。
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