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収穫祭と訪問客

ライン兄さんは察しがいいな:セオ

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 世界が割れた。こめかみグリグリが俺を襲う。

「痛い痛い痛い痛い痛いぃいいいいい~~~!!」
「うるさいわね、セオッッ!!」

 街中に逃げた俺は、あっさりとユリシア姉さんに捕まった。

 いつもなら、俺は捕まらない。街中に逃げ込めば、入り組んだ住宅街や行き交う人々に隠れられるからだ。

 しかし、今日は違かった。

「ガッグたち、助かったわ!!」
「礼には及ばないぜ! セオ様には命を懸けて返さなきゃなんらねぇ借りがあったからな! それを返したまでさ!」
「そうだな! セオ様の役に立てて俺たち嬉しいぜ! なぁ、皆!」
「「「そうだな!」」」
「「「おう!!」」」

 おっさんたちがとても悪い笑顔でユリシア姉さんにサムズアップしていた。

 そう。あのおっさんたちは先日俺が将棋で負かして街を逆立ち一周させてたやつらである。

 その恨みで、アイツらは街中に逃げた俺がユリシア姉さんに追いかけられていると知るや否や、悪い笑顔を浮かべて俺を捕まえることに全力を出したのだ。

 しかも、街にいた観光客たちが俺とユリシア姉さん+おっさんたちの鬼ごっこを収穫祭最終日の余興と思ったのか、色々と逃げる先逃げる先まで追いかけて観戦してくるのだ。

 逃げようがなく、俺はユリシア姉さんに捕まってしまった。

「じゃあ、セオ様。元気でな!」
「達者でな!!」
「頑張れよ!!」

 おっさんたちは悪い笑顔を浮かべ、手を大きく振ってその場から去っていった。

 くそっ! アイツら、今度会ったらぶっ飛ばすッ!! 

 復讐を誓いながら、俺は俺のこめかみをグリグリするユリシア姉さんに叫ぶ!

「ユリシア姉さん! もうやめて! 痛いから! 反省したから! やめて! やめてください!!」
「…………仕方ないわね」
「あ、てっ」

 ユリシア姉さんは俺のこめかみから手を離した。俺は尻もちをついた。

 そしてユリシア姉さんは俺にクジクジと文句を言う。

「私が寛大だから許したのよ! 感謝しなさい!」
「は、はい。感謝します……」
「大体ね。人が嫌がる事をしつこく言うのはどうかと思うわ! アンタは性格が悪いわよ! だから、ガッグたちに裏切られるのよ!」
「うぐっ」

 ……まぁ、元気になったな。いつものユリシア姉さんに戻ったな。俯いていているユリシア姉さんは似合わなかったからな。

 俺は文句を言い続けるユリシア姉さんに頬を緩ませた。

「ッ! アンタのそういうところもムカつくのよ!」
てっ」

 また、ユリシア姉さんが俺の頭をはたく。

「ちょっと叩き過ぎじゃない」
「これくらいしないと気が済まないわよ!」
「あ、そう」

 確かに俺も言い過ぎた部分もあるけど、調子に乗っているな。

 まぁ、いいや。

 どうせ……

「セオ、さっきの見てたよ!」
「おい、セオ! どうやったらあんなに空をぴょんぴょん飛べるんだ! 俺は空中だと体勢が上手くできないんだが!! 教えてくれよ!」
「僕もちょっと知りたい!」

 ライン兄さん、オル、ニューリグリア君が俺たちに手を振ってこっちにきた。

 そして、

「……外に出れるようになったんだな」
「ッ!」

 ヂュエルさんも一緒にいた。お面を頭につけククリ飴などを持ちながら、気まずそうにユリシア姉さんに苦笑いを向けていた。

 ユリシア姉さんはそんなヂュエルさんを見た瞬間、バッと逃げようとしたので、〝魔力糸〟で縛り上げる。

「セオっ!!」
「どうしたの? ヂュエルさんに何とも思わないんでしょ?」
「ッ!」

 ユリシア姉さんがキッと俺を睨んできた。そしてその様子を見たライン兄さんがニヤリと笑い、オルとニューリグリア君の手を握る。

「二人ともあっちのお店に行こうよ」
「え、ライン、おい!」
「ちょっと、ライン君!?」

 シュタタタと人込みを紛れて、ライン兄さんたちは消えた。

「じゃ、ユリシア姉さん。楽しんでね」
「あ、こら、セオ!」
「ヂュエルさん。ユリシア姉さんを頼むね」
「あ、おい!」

 俺はユリシア姉さんとヂュエルさんにサムズアップし、ポフンと音を立てて消えた。

 そう、ユリシア姉さんに追いかけれていた俺は分身体だったのだ。本体はクラリスさんの所にいる。

 つまるところ、クラリスさんの話を聞くために分身体を召喚した分身体した時、俺は分身体と入れ替わったのだった。

 ちなみに、午後にライン兄さんと一緒に遊ぶという約束は、分身体に代わって貰っている。

 本当は俺も行きたかったのだが、

「最終日のカップルダンスが見たいから、街に来るの?」

 クラリスさんの話がそれなりに重要だったため、仕方なくパスさせて貰った。

「カップルダンス? あれは収穫祭の終わりを祝うダンスだろうて」
「実際は、収穫祭でくっついたカップルたちがイチャコラと踊るだけじゃん。最近じゃ、あそこで一緒に踊れたら将来結ばれるとかいう噂が出回ってるくらいだからさ」

 ケッと俺は溜息を吐く。クラリスさんが首を傾げた。

「お主。そういうのを恨むタイプだったか?」
「……ロイス父さんたちがその噂とかをきっかけに、出生率や高ランク冒険者の街への移住率を挙げようと、色々とイベントとか考えてて。それに俺も巻き込まれたんだ」
「……それで?」
「既婚者たちのノロケ意見とか、色々と聞かされて、うんざりした。あと、なんで子供の俺が結婚率向上とか付き合わなきゃいけないの? おかしくない?」
「……苦労したのだな」

 苦労したわ。

 前世を含めても、恋愛経験がそこまであるとはいえない。っつうか、今世にいたっては一切ない。五歳児だし。

 前世も大学生が最後だしな。それ以降は仕事三昧だ。

 兎も角、なんで子供の俺があんな会議に付き合わされたのか。多少、ナイーブになってもしかたないだろう。

「ともかく、お主にはツクルの弟子のセオとして、アイラの相手になって欲しいのだ」
「相手って、何するの? 街は歩けないんでしょ? 顔は見られちゃいけないんだし」
「外からでも街を案内できるやつは必要だろう? 儂はこの街に住んでいるわけではないからの」

 ……まぁ。

「…………ねぇ、アイラ様が街にいけない理由は、顔が見られたら面倒なのと、人が多すぎる街の中だと車いすで問題があるからだよね」
「うむ。そうだが……」

 クラリスさんは目を細める。

「何かあるのかえ?」
「……まぁ。間に合うかどうかは分からないけど」
「そうか」

 俺はライン兄さんと一緒に街を回っている分身体に、今夜の街のイベントの予定や観光客の流動の予測などを頼んでおく。

 そして俺はクラリスさんに一言、二言話したあと、地下工房に向かったのだった。


 Φ


 夕日が沈んでいく。

 トリートエウの根本で俺はエウと話していた。

「……で、もう一度聞くけど、アナタはどうするの?」
「どうするんだろうなぁ」
「……セオ、真面目に」
「真面目に答えてるよ。だからこそ、簡単には答えられないってだけだよ。今日はただ、研究の協力者に街を紹介するだけだ」
「……そう。けど、もし泣かせたら半年は私の将棋に付き合ってもらうから」
「それだけは勘弁。一ヵ月はかなりの時間だし」

 エウは長命種……というか、寿命とかない種族だからな。

 エウにとっては半年などたかが一時間くらいの感覚なのだろうが、俺にとってはかなりの時間だからな。

 と、エウの周りに木の葉が舞い始めた。

「……呼び出しだね」
「わかった。あ、そうだ。エウの神気だと、たぶん、アイラ様たちを困らせるだろうから、気を付けるんだよ」
「……いい案はある?」
「う~んと、登場したと同時にこんなポーズを取るとか?」

 俺は分身体を召喚して、左手を腰にあて、右手を右目のところで横ピースさせたポーズをとる。

 ……五歳児とはいえ、自分のこんなポーズを見るのは、ちょっとキツイものがあるな。

 冗談とはいえ、やらなければよかったな。気分が少しナイーブになる。

「あと、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん。案内人の登場よ☆ とか言ってれば、アイラ様たちには大受けだと思うよ。たぶん、大爆笑する」
「……分かった。試してみる」

 そしてエウは木の葉に包まれて消え、

「ようこそ、マキーナルト領へ。アイラ様のラート町の案内を勤めさせていただく、セオドラー・マキーナルトと申します」

 数分後、エウと共に来たアイラ様たちに、俺は片手を胸に当てて軽く頭を下げながら少しカッコウをつけて挨拶をしたのだった。
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