上 下
263 / 316
収穫祭と訪問客

一級フラグ建築士の資格を与える:Harvest festival 2

しおりを挟む
「セオ! 次はあれだ! あれ!」
「はいはい、分かったからっ!」

 りんご飴ならぬククリ飴にかぶりつきながら、俺の手を引っ張るオル。ちょっと前までギャン泣きしていたとは思えないほどだ。

「おばさん! これはなんだ!」
「輪投げよ」
「輪投げ!?」

 中年の女性が頷き、輪投げのわっかを持って実践をする。

「そこの線に立って、そのわっかを投げるのよ。それでこうやってここのひっかけるのよ。それで遠いほど得点が高いのよ。どう、分かったかしら?」
「分かったぞ!」
「高い得点だと、いいものが貰えるから頑張ってね。わっかは五つね」
「おう!」

 オルは中年の女性から輪投げのわっかを受け取る。

「セオ様もどうぞ」
「ありがとう、リンダ」

 中年の女性、リンダに礼をいいながら、俺もわっかを受け取った。

 すると、オルが俺にビシッと指を指す。

「おい、セオ! 勝負するぞ!」
「勝負?」
「そうだ! 俺が勝ったら……何するんだ?」
「は?」

 いや、お前が言ったのに……

「まぁ、いいや! 勝負だ、勝負!」
「はいはい、分かったよ」

 単に競い合いたいだけか。まぁ、付き合うのもやぶさかではない。先ほどから、こいつに振り回されてばっかりだしな。ぎゃふんと言わせよう。

 俺はニィッと笑って、オルの提案を受け取る。

「じゃあ、まず俺からだな!」

 そう叫んだオルはグッと線の前で構えると、わっかを投げた。

「ああ!!」
「ふっ」

 外した。遠くの得点が高い方を狙ったようだけど、狙い過ぎだな。オーバーしたのだ。

 オルが物凄く悔しがる。

「じゃあ、次は俺の番だね」

 悔しがるオルを鼻で笑った俺は、ダランと肩の力を抜きながら、わっかを構える。肩、肘、手首の順番に関節や動きの連動を意識しながら、わっかを投げる。

 一番得点が高い六点の所に入った。

「よし!」
「なんでだっ!!」

 オルが悔しがる。

 ふっ。残念だね。

 これでも俺はロイス父さんの稽古をそれなりに頑張っているのだ。というか、頑張らないと色々と怒られるし。

 だから、体の使い方とかもそれなりに理解しているし、そもそも今は近距離戦の稽古よりも遠距離戦、短剣の投擲とか弓とか、そういうのが稽古の中心だ。

 まだ、体ができていないから剣の稽古を多めにすると、変な癖がついてしまうとかなんとか。

 まぁ、どちらにしろ、俺が最高得点を狙えないわけがないのだ!

 そう思ったとき、

「ああ、ごめんなさい、セオ様。間違えました」
「え?」
「セオ様は大人と同じく、この枠でやってもらいます」

 リンダが俺が持っていたわっかを入れ替える。

「あ」

 そうだった。

 俺が輪投げを提案した際、外から来た観光客や街の子供たち以外、つまりこの街の大人たちが遊ぶ時を想定して、それ専用のわっかを作るのを提案したんだった。

「あばばばばばばば」
「ギャハハハハハっ! なんだよ、それ! ぶるぶるしてるぞ!! プハハハハ」

 そのわっかを持っている人の魔力を吸収して、自動で振動するわっかである。あと、投げると組み込まれた風魔法の魔道具が周囲に規則的な風を発生させて、わっかの軌道を変えるのだ。

 つまるところ、妨害に特化した魔道具のわっかである。

 その代わり、生活魔法程度なら使っていいことになっている。

 魔術は兎も角として、俺は生活魔法も属性ありだと全く使えないからな。身体強化でわっかの振動に耐えるのが精一杯である。

 オルが振動に耐える俺を見て、大爆笑する。

 ムカつく。

「い、いい、から、オル、さっさと、次、投げ、ろよ!」
「ぷっ、なんて言ってんだよ、セオ!」
「投げろっ、て言ってるんだ!」

 ぶるぶる震えるせいでまともにしゃべれない。

 チッ、クソ。先にこの振動をどうにかするしかないな。

 〝念動〟を応用して、わっかにわっかの振動とは逆の振動を与えるのはどうだろうか? 

 ……よし、それなりに振動がおさまったな。まだわっかを握っている手がプルプルと震えるけど、我慢、我慢。

「よし!」

 そうしている内にオルがわっかを投げ、二番目に得点が高い四点の場所にわっかを入れた。

「次はセオの番だぞ!」
「分かってるって」

 振動を抑えながら、俺は構える。先ほどと同じように肩から順番に連動して投げる。

 よし、まっすぐ飛ん――

「あっ、クソ!」
「よっしゃ! 外したぜ!」

 一番高い六点に入る直前で、わっかの周囲に風が発生し、わっかの軌道を変えたのだ。

 チッ。

 この魔道具。俺が提案したが、構造自体は難しく無かったので、設計とか詳しい部分は関わってないのだ。

 なので、風の発生規則もその大きさもまだ分かっていないのだ。

「じゃあ、次は俺だな!」

 オルがわっかを投げる。二番目に高い四点の所にまた入る。どうやら、一番は諦め、二番のを狙うことにしたらしい。意外と堅実だな。こいつ。

 俺もわっかを投げるが、またしても一番のわっかに入る直前で風魔法が発生し、わっかの軌道が逸れてしまった。

「チッ」

 俺は舌打ちする。

 けど……

「解析もできた。次は修正できるな」

 もともと、基本的な構造や仕組みは想定していたので、“魔力感知”などで具体的な魔力の流れを把握し、詳しい仕組みも理解できた。

 このわっかの魔道具は皮膚から放出される魔力を吸収することで振動しているのだが、それとは別に内部に風魔法一回分の魔力が込められた魔晶石が埋め込まれているらしい。

 それで、振動し始めてから振動が終わる――つまり、人から離れて一定時間過ぎると、自動的に内部に組み込まれて魔晶石に回路が繋がり、風魔法が発生するらしい。

 その一定時間は投げられたわっかが固定の回転数を超えたときらしく、わっかが回るのと同時に内部の回路も回って指定した回転数に達したとき風魔法を発生させる回路が成立するのだ。

 仕組みは分かった。

 また、発生する風魔法の規模やそのベクトルもだ。

 なら、後は投げ方を変えるだけ。

「よし、このまま勝ってやるぜ!」

 オルがわっかを投げる。すると、一番高い六点の所にわっかがはいった。
 
「お、おおっ!?」

 オルが大きく目を見開く。どうやら、本人も想定外だったらしい。

 チッ。なんか、運に恵まれたやつめ。

 そう思いながら、俺は震える魔道具のわっかを構える。

「ふぅ~~~~」

 大きく深呼吸をする。

 先ほど以上に集中し、タイミングと体の動きを調整。発生する風の規模とベクトルを前提に、わっかの回転の仕方と投げる位置を調整。

「シッ」

 そして投げた。

 ……

「よっしゃあ!!」
「はぁ、なんでだよ! 完璧に外れてたじゃねぇか!!」

 あらぬ方向へと飛んだわっかは、しかし突如発生した風魔法により軌道を修正。一番高い六点の所に入る。

 “研究室ラボ君”の演算能力をちょっと使ったけど、うん、まぁ、いいでしょ。

 オルが悔しがりながら、リンダさんに抗議する。

「おばさん、今の反則だろ!」
「いや、反則じゃないわよ」
「嘘だ!」
「嘘ではないわ」

 おばさんの言葉にオルが頬を膨らませる。俺は煽る。

「ほら、オル! 最後の投げなよ。あ、でも次も俺、六点に入れるから、オルも六点に入れないと勝てないかもね?」
「ぐぐぐぐっ」

 俺の得点は十二点。オルは十四点。

 ぶっちゃけいえば、オルが四点に入れれば俺の勝ち目はなくなる。引き分けだ。

 けど、オルが引き分けを許すわけもないし、そもそもキチンと計算できてるかも怪しいところ。

 こう危機感を煽れば、絶対に六点を狙ってくる。リンダさんが呆れた目を俺に向けてくるが、知らん。勝負は勝負。一切手加減しないのだ!

「入れてやるよ! 入れれば勝てるんだろ!!」

 オルが入れた先ほどの六点はあくまでまぐれ。緊張感やプレッシャーをかけている今、オルが六点に入れられる確率は少ない。
 
 勝った!!

 俺がドヤッている中、オルは顔を歪めながら、集中する。ぐぬぬと歯を食いしばっている。

 力を入れすぎているな。あれでは、投げられるものも投げられない。

 俺の勝利の可能性が更に増した!

 と、思ったとき、

「ふぅ~~~~」

 オルが深呼吸を吐いた。先ほどの俺みたいに。

 そして何かを思い出すように目を瞑った瞬間、

「シッ」

 綺麗な体の動かし方。まっすぐと飛ぶわっか。

「あ」
「よっしゃああああ!!!!」

 オルのわっかが六点の所に入った。

 俺の勝ち目がなくなった。

 膝から崩れ落ちる俺と俺を煽るように高笑いするオル。

 リンダさんが呆れた表情になっていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

処理中です...