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収穫祭と訪問客
何でも上手と思わせるのは小さい子の特権だろう:painting
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「で、どうするのよ」
「まぁ、読むしかないんじゃない?」
「けど、今、読みたくはないよね」
「うん」
俺とライン兄さん、ユリシア姉さんは現実逃避の表情で頷きあう。今、読みたくはない。ちょっと、嫌だ。
もうちょっと、心の準備ができてから読んだ方がいいだろう。
なので、手紙を読むのは後回しにすることにした。ブラウはそんな俺たちを見て首をかしげていた。
「そういえば、セオ。父さんが来る前のアレ、何なのよ。スマートボールとか言っていたけれども」
「そういえば、ずっとトンカントンカン、してたけど……」
「ああ」
俺は頷き、“宝物袋”から完成したスマートボールを取り出す。
「収穫祭、今回は色々な人が楽しめるようにするでしょ?」
「それもセオのアイデアだって聞いたけど」
「まぁ、ポロリと夏祭りとか言っちゃったからね。去年よりも、たぶん、俺が知っている祭り感が増すと思うんだけど……」
祭りというと、前世では多くの人は屋台が立ち並ぶのを思い浮かべるだろうが、こっちの世界で祭りといえば、祀りとかそっから来るもので、つまり感謝を称えるとかそっちに近い。
大きな出し物を皆で行うって感じだ。ねぷた祭りとかそんな感じだろう。多少、屋台とかはあったものの、去年の収穫祭はそれに近かった。
「まぁ、そんなことはいいわ。それで、何なのよ、これは」
「ええっと、ちょっと待っててね」
ブラウを抱きかかえ、スマートボールを睨むユリシア姉さんをなだめながら、俺は“宝物袋”から軽い金属で作った球体を取り出す。
それをスマートボールの発射台のところに入れ、俺お手製のコイルバネが仕込んであるレバーを引いた。
「見ててね」
「ええ」
「うん」
「あい!」
そして引いたレバーを離した瞬間、
「む」
「おお!」
「あうあぁ!」
圧縮されたコイルバネが解放され、金属球を撥ね上げる。
金属球はスマートボールの上部分にぶつかって跳ね返り、盤上に打ち込んだ釘や板などに当たって軌道を変えながら、一つの穴に落ちた。
「まぁ、こんな感じ。それで、落ちた穴によって得点が決まってて、高い方が勝ちって感じかな?」
「凄いわ、これ。面白そう!」
「これ、セオが考えたの?」
「あ~う、あ~う」
「あ、いや……ブラウ。ちょっと待って。まだ鑢を掛けてないから、危ない」
「う~!!」
ユリシア姉さんが奪うように遊び始めたスマートボールに興味津々のブラウをどうとかなだめながら、俺はライン兄さんの言葉に首を横に振った。
「前世にあった遊戯の一つだよ。俺が考えたわけじゃない」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、やっぱり、セオって凄いね!」
「うん?」
俺は首を傾げた。ライン兄さんが楽しそうに言う。
「だって、知っていても実際、作るのって大変じゃん。ぶっちゃけ、一から自分流で生み出した方が、簡単だし」
ライン兄さんの様子を見れば、本心でそれを言っていて、俺を褒めているのだろうと分かる。
しかし、実際のところ、一から物を作ることが多いライン兄さんだからこそ、そう言えるのだろうとは思う。
ライン兄さんをよく知らない人が聞けば、嫌味だと思ってしまう可能性が高いかもしれない。
なので、それを忠告するべきなんだろうけど……
「ありがと、ライン兄さん」
忠告することはない。
大学時代そうやって忠告されて、委縮してしまった人たちをよく見てきた。実際、子供のころ、そう言われて自分が嫌になったって話をよく聞いたから。
それよりは、そういうことを理解できる方がいい。
それに、ライン兄さんは聡い。自ずと気が付くだろう。
「どういたしまして。それより、僕も遊んでいい?」
「いいよ」
ユリシア姉さんが独占するスマートボールを、次はライン兄さんが奪うように取り、遊び始める。
「あ、ちょっと、ライン! 今、ちょうどいいところだったのに!」
「いいじゃん、僕にだって遊ばせてよ!」
「良くないわよ!」
まぁ、一台しかないので喧嘩になるのは当然。
なので、
「はい。これ」
「もう一個あったの? なら、さっさと出しなさいよ!」
「あ、アハハ」
喧嘩になりそうだったから、分身体に速攻で作ってもらったんだが……
まぁ、いいか。
ユリシア姉さんは“宝物袋”から取り出したもう一個のスマートボール奪い取り、楽しそうにボールを打つ。
……まぁ、二人とも楽しそうで良かった。なんというか、自分が作ったもので楽しんで遊んでもらっているのを見るのは、嬉しいものである。
「うぅ~」
と、モニョモニョする心に浸っていたら、ブラウが俺を睨んできた。ユリシア姉さんの懐からハイハイで抜けだしてきて、俺をポカポカと殴り始める。
あ、そういえば、制止したばかりだったな。
でも、ユリシア姉さんとライン兄さんが遊んでいるスマートボールは鑢を掛けてないし、楽しそうに遊んでいる二人を静止して、鑢を掛けられそうもない。邪魔にしたら凄い怒られそう。
そもそも、ブラウはスマートボールのレバーを引く力もあんまり……
あ、そうだ。
「ブラウ。絵を描いてみる?」
「え~おあう?」
「そうだよ」
ブラウを膝に乗せた俺はスマートボールの盤上に使った板と、他、色々を“宝物袋”から取り出す。召喚した分身体に急いで盤上の板を鑢を掛けてもらう。
掛け終わった。
その間に、バケツに水魔術で水を溜め、パレットに絵具の元となる塗料を出す。
……ブラウが塗料を舐める可能性もあるから、使う塗料は金属や毒性のある植物を原料としないやつだけを出す。
そのため、使える色はかなり限られるが、まぁいいだろう。
とはいえ、安全性はあるけど、塗料は塗料。ブラウが舐めないように気を付けて見ておかないとな。
そう思いながら、俺はブラウの前に鑢を掛けた板を差し出す。それから、水で筆先を少し濡らし、緑の塗料をつけた筆をブラウに見せる。
ブラウはじっとその筆を見る。
俺はそれを確認してから、絵具を付けた筆を板に降ろす。絵を描く。
「ブラウ、こうやるんだよ」
「う~~、あ! あっぱ!」
「はっぱだね」
ブラウがキャッキャと笑う。
なので、俺は筆をブラウに握らせる。もちろん、その上から軽く俺の手を添えてる。口元に運んだり、振り回さないようしなければならないし。
「ブラウ、ここにこうやって」
「おうやって?」
「そう、そうだよ。上手い、上手いよ。ブラウ」
「あ、キャキャ! あ~だ~ぶ!」
添えた俺の手の誘導も相まって、ブラウは板に絵を描いていく。
まぁ、線はぐちゃぐちゃだけど、ブラウは楽しそうにしているし、兄バカというか、普通に上手いように感じる。
俺はブラウの前にパレットを差し出す。
「じゃあ、色を変えてみようか?」
「いお?」
「そうそう、色。今は、緑。みどりいろ」
「いどりいお!」
ブラウがキャッキャと笑う。ああ、癒されるし、楽しい。嬉しい。
「それでこれが、黄色だよ。き・い・ろ」
「いいろ!」
「そうそう、黄色。合わせてみようね」
「あ~う!」
さりげなく誘導しながら、パレット上で緑色と黄色を混ぜ合わせていく。
すれば、黄緑色が出来上がる。本来、緑は絵の世界においては青と黄色、一対一で作るものであるが、そこに更に黄色を一加えると黄緑色になる。
「おっとあっぱ! あうのいお!」
「そうだね。もっと葉っぱだね。アルの葉っぱの色だね」
ブラウがウキャキャとはしゃぐ。
それから、板に思い思いに筆を走らせていく。
くりくりした青の瞳は真剣な様子で板を睨み、途中途中でむ~と唸りながら悩み、突如として筆を走らせる。
気ままな芸術家のようだ。
そして、ブラウが板を一面、好き勝手に緑と黄緑色で埋め尽くしたころ、
「面白そうなことしているじゃない」
「僕にもやらせてよ」
ユリシア姉さんとライン兄さんがこっちに興味を示してきた。
「まぁ、読むしかないんじゃない?」
「けど、今、読みたくはないよね」
「うん」
俺とライン兄さん、ユリシア姉さんは現実逃避の表情で頷きあう。今、読みたくはない。ちょっと、嫌だ。
もうちょっと、心の準備ができてから読んだ方がいいだろう。
なので、手紙を読むのは後回しにすることにした。ブラウはそんな俺たちを見て首をかしげていた。
「そういえば、セオ。父さんが来る前のアレ、何なのよ。スマートボールとか言っていたけれども」
「そういえば、ずっとトンカントンカン、してたけど……」
「ああ」
俺は頷き、“宝物袋”から完成したスマートボールを取り出す。
「収穫祭、今回は色々な人が楽しめるようにするでしょ?」
「それもセオのアイデアだって聞いたけど」
「まぁ、ポロリと夏祭りとか言っちゃったからね。去年よりも、たぶん、俺が知っている祭り感が増すと思うんだけど……」
祭りというと、前世では多くの人は屋台が立ち並ぶのを思い浮かべるだろうが、こっちの世界で祭りといえば、祀りとかそっから来るもので、つまり感謝を称えるとかそっちに近い。
大きな出し物を皆で行うって感じだ。ねぷた祭りとかそんな感じだろう。多少、屋台とかはあったものの、去年の収穫祭はそれに近かった。
「まぁ、そんなことはいいわ。それで、何なのよ、これは」
「ええっと、ちょっと待っててね」
ブラウを抱きかかえ、スマートボールを睨むユリシア姉さんをなだめながら、俺は“宝物袋”から軽い金属で作った球体を取り出す。
それをスマートボールの発射台のところに入れ、俺お手製のコイルバネが仕込んであるレバーを引いた。
「見ててね」
「ええ」
「うん」
「あい!」
そして引いたレバーを離した瞬間、
「む」
「おお!」
「あうあぁ!」
圧縮されたコイルバネが解放され、金属球を撥ね上げる。
金属球はスマートボールの上部分にぶつかって跳ね返り、盤上に打ち込んだ釘や板などに当たって軌道を変えながら、一つの穴に落ちた。
「まぁ、こんな感じ。それで、落ちた穴によって得点が決まってて、高い方が勝ちって感じかな?」
「凄いわ、これ。面白そう!」
「これ、セオが考えたの?」
「あ~う、あ~う」
「あ、いや……ブラウ。ちょっと待って。まだ鑢を掛けてないから、危ない」
「う~!!」
ユリシア姉さんが奪うように遊び始めたスマートボールに興味津々のブラウをどうとかなだめながら、俺はライン兄さんの言葉に首を横に振った。
「前世にあった遊戯の一つだよ。俺が考えたわけじゃない」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、やっぱり、セオって凄いね!」
「うん?」
俺は首を傾げた。ライン兄さんが楽しそうに言う。
「だって、知っていても実際、作るのって大変じゃん。ぶっちゃけ、一から自分流で生み出した方が、簡単だし」
ライン兄さんの様子を見れば、本心でそれを言っていて、俺を褒めているのだろうと分かる。
しかし、実際のところ、一から物を作ることが多いライン兄さんだからこそ、そう言えるのだろうとは思う。
ライン兄さんをよく知らない人が聞けば、嫌味だと思ってしまう可能性が高いかもしれない。
なので、それを忠告するべきなんだろうけど……
「ありがと、ライン兄さん」
忠告することはない。
大学時代そうやって忠告されて、委縮してしまった人たちをよく見てきた。実際、子供のころ、そう言われて自分が嫌になったって話をよく聞いたから。
それよりは、そういうことを理解できる方がいい。
それに、ライン兄さんは聡い。自ずと気が付くだろう。
「どういたしまして。それより、僕も遊んでいい?」
「いいよ」
ユリシア姉さんが独占するスマートボールを、次はライン兄さんが奪うように取り、遊び始める。
「あ、ちょっと、ライン! 今、ちょうどいいところだったのに!」
「いいじゃん、僕にだって遊ばせてよ!」
「良くないわよ!」
まぁ、一台しかないので喧嘩になるのは当然。
なので、
「はい。これ」
「もう一個あったの? なら、さっさと出しなさいよ!」
「あ、アハハ」
喧嘩になりそうだったから、分身体に速攻で作ってもらったんだが……
まぁ、いいか。
ユリシア姉さんは“宝物袋”から取り出したもう一個のスマートボール奪い取り、楽しそうにボールを打つ。
……まぁ、二人とも楽しそうで良かった。なんというか、自分が作ったもので楽しんで遊んでもらっているのを見るのは、嬉しいものである。
「うぅ~」
と、モニョモニョする心に浸っていたら、ブラウが俺を睨んできた。ユリシア姉さんの懐からハイハイで抜けだしてきて、俺をポカポカと殴り始める。
あ、そういえば、制止したばかりだったな。
でも、ユリシア姉さんとライン兄さんが遊んでいるスマートボールは鑢を掛けてないし、楽しそうに遊んでいる二人を静止して、鑢を掛けられそうもない。邪魔にしたら凄い怒られそう。
そもそも、ブラウはスマートボールのレバーを引く力もあんまり……
あ、そうだ。
「ブラウ。絵を描いてみる?」
「え~おあう?」
「そうだよ」
ブラウを膝に乗せた俺はスマートボールの盤上に使った板と、他、色々を“宝物袋”から取り出す。召喚した分身体に急いで盤上の板を鑢を掛けてもらう。
掛け終わった。
その間に、バケツに水魔術で水を溜め、パレットに絵具の元となる塗料を出す。
……ブラウが塗料を舐める可能性もあるから、使う塗料は金属や毒性のある植物を原料としないやつだけを出す。
そのため、使える色はかなり限られるが、まぁいいだろう。
とはいえ、安全性はあるけど、塗料は塗料。ブラウが舐めないように気を付けて見ておかないとな。
そう思いながら、俺はブラウの前に鑢を掛けた板を差し出す。それから、水で筆先を少し濡らし、緑の塗料をつけた筆をブラウに見せる。
ブラウはじっとその筆を見る。
俺はそれを確認してから、絵具を付けた筆を板に降ろす。絵を描く。
「ブラウ、こうやるんだよ」
「う~~、あ! あっぱ!」
「はっぱだね」
ブラウがキャッキャと笑う。
なので、俺は筆をブラウに握らせる。もちろん、その上から軽く俺の手を添えてる。口元に運んだり、振り回さないようしなければならないし。
「ブラウ、ここにこうやって」
「おうやって?」
「そう、そうだよ。上手い、上手いよ。ブラウ」
「あ、キャキャ! あ~だ~ぶ!」
添えた俺の手の誘導も相まって、ブラウは板に絵を描いていく。
まぁ、線はぐちゃぐちゃだけど、ブラウは楽しそうにしているし、兄バカというか、普通に上手いように感じる。
俺はブラウの前にパレットを差し出す。
「じゃあ、色を変えてみようか?」
「いお?」
「そうそう、色。今は、緑。みどりいろ」
「いどりいお!」
ブラウがキャッキャと笑う。ああ、癒されるし、楽しい。嬉しい。
「それでこれが、黄色だよ。き・い・ろ」
「いいろ!」
「そうそう、黄色。合わせてみようね」
「あ~う!」
さりげなく誘導しながら、パレット上で緑色と黄色を混ぜ合わせていく。
すれば、黄緑色が出来上がる。本来、緑は絵の世界においては青と黄色、一対一で作るものであるが、そこに更に黄色を一加えると黄緑色になる。
「おっとあっぱ! あうのいお!」
「そうだね。もっと葉っぱだね。アルの葉っぱの色だね」
ブラウがウキャキャとはしゃぐ。
それから、板に思い思いに筆を走らせていく。
くりくりした青の瞳は真剣な様子で板を睨み、途中途中でむ~と唸りながら悩み、突如として筆を走らせる。
気ままな芸術家のようだ。
そして、ブラウが板を一面、好き勝手に緑と黄緑色で埋め尽くしたころ、
「面白そうなことしているじゃない」
「僕にもやらせてよ」
ユリシア姉さんとライン兄さんがこっちに興味を示してきた。
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