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さて準備かな
買い物。初夏の帰り道:Departure
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俺とライン兄さんがバラサリア山脈でキャンプしてから、数ヵ月が経ち、既に夏が到来していた。
この数カ月で色々なものが変化した。
一番の変化はブラウがつたい歩きできるようになったことか。ハイハイができるようになってから、意外とあっさりしていた。
こう苦難の末に、と思っていたのだが……
まぁ、赤ちゃんの成長なんてそういうものだろう。
ここ最近は、俺やライン兄さんを筆頭に、ブラウに絵本を読み聞かせることが増えた。それはそれは楽しい時間なのだが、俺とユリシア姉さんの読み聞かせは不評らしく、あまり選ばれない。あと、ロイス父さんもか。
ライン兄さん、エドガー兄さん、アテナ母さんの読み聞かせは好きらしく、いつもキャッキャと笑いながら喜び、かと思えばじっと聞き入っている。集中力が凄い。
あと、モフモフに目覚めたらしい。レモンの尻尾やユキのモフモフ毛などを楽しんでいる。まぁ、二人とも夏になり毛が薄くなったので少し不服そうだったが。
二番目に変わったのは……何だろうか?
エドガー兄さんが領地経営の仕事の手伝いを徐々に減らし、秋に入学する中等学園の準備を始めたことか。
それか、俺とライン兄さんの魔力感知能力の向上と、隠蔽能力の向上か。あれを身に着けたお陰で、アダド森林の表層までなら一人で入ってもいいという許可がアテナ母さんたちからでたのは僥倖だろう。
まぁ俺の場合は、分身体を使って普通に侵入していたので大したうま味はなかったが……
それとユリシア姉さんが自警団にもっと関わるようになり、つい最近は他領地との合同演習に向かった。騎士になる事が夢なので、ゆくゆくは王国騎士団で修行したいらしい。
……そう、修行なのだ。
どうにもユリシア姉さんは、騎士というものを勘違い……でもないか。民を守る存在だと認識している。主に仕える存在ではなく。
なので誰かに仕える予定はなく、放浪しながら色々な人を守りたいとか。
とはいっても、これから先は長い。ユリシア姉さんも色々な考えに触れて、いずれは変わっていくだろうとは思っている。
まぁ、日々楽しそうで何よりである。朝稽古などでボコされまくっているので、何とも言えないが。
他に変わった事といえば、代筆屋ができたくらいか。
タイプライターの件だ。魔法筆記を行う筆記ギルドにとって、タイプライターは一種の敵だ。
魔法筆記はそれなりにお金がかかる。口頭の速度で筆記できるのもさることながら、同時筆記や、その字の綺麗さや正確さ、速さなども術師による部分が大きい。
だからこそ、タイプライターは強い。
同時に幾つもの筆記はできないものの、字の綺麗さなどは均一だ。書くよりもタイプライターはは原理的に押す、印刷に近いので口頭よりも速い速度で記述できる利点がある。
何よりも、就ける人の範囲が広いのもある。
魔法が使える人は限られている。魔力量や魔力操作技術、属性変換や演算能力。一般の平民が使う魔法はせいぜい生活魔法くらいなもので、魔法筆記ができるレベルはそうそう多くない。
字の綺麗さは教養が必要だし、そもそも字を覚えて書くのだって識字率が高くないこの世界では難しい。ラート町の人たちの識字率の高さは結構異常なのだ。
先ほども言った通り、タイプライターは文字を書くではなく、押すだ。だから、読めれば最低限タイプライターを使うことができる。
他にも色々あるが、揉めていたのだ。筆記ギルドと。
そこで、色々と話し合った結果、こっちが譲歩する形になった。
まず、今まで通り筆記の仕事は筆記ギルドに受け持ってもらう。しかし、筆記ギルドも魔法筆記だけでは、働き手が限られて市場を拡大できない。
なので、俺とライン兄さんが運営しているドルック商会に代筆屋という店を開いた。
そこでは、魔法筆記に対して高いお金を払うことのできない平民を相手に商売し、働く従業員は全て筆記ギルドの職員を雇う形だ。いわば、派遣社員みたいなものか。
そして彼らにはドルック商会が作ったタイプライターを使ってもらう。
今は、試験的に筆記ギルドが読み書きができて、尚且つ魔法筆記が使えない人件費がある程度安い人材を数人派遣してもらい、こちらが教育等々をしている。
ぶっちゃけいうと、相当譲歩した。
そもそも、筆記ギルドなど無視して、ドルック商会が筆記ギルドの真似事をする。筆記ギルドよりも安い値段で提供できるので、最初は妨害があろうとも数年、長くて十年近くで市場を奪い取ることだってできたのだ。
後は、平民の市場を作り出すこともできたので、そっちで利益を持っていくことも。向こうは人件費が高いから、赤字しかでないだろうし。
ただ、それだと軋轢が残るし、平穏ではない。だから、譲歩した。
それに魔法による契約をしたとはいえ、未知の技術が集まったタイプライターを各職員一人一人に持たせているのだ。奪われる可能性はあるし、絶対に将来筆記ギルドがタイプライターを自分たちで開発するだろう。
一応、自由ギルドの特許の方で登録しているが、試験的に運営している代筆屋の業績を見る限り、タイプライターが加速的に普及していくはずなので、俺も市場の拡大を減速させないために特許の拘束力を弱めるだろうし。
「まぁ、商業ギルドとか輸送ギルドも巻き込んで、新規の手紙の輸送権利を持ってこれたのはでかかったかな……」
「そんなにでかいんですか?」
汗ばむ夏の暑さにげんなりしながら、俺はそう呟いた。隣を歩いていたレモンが首を傾げる。っというか、メイド服って暑くないのかな?
「まぁね。譲歩する条件として一番最初に提示して飲ませたのがそれ。今頃商業ギルドや輸送ギルドは大慌てだと思うよ」
「はぁ。で、なんで新規の手紙の輸送権利でそんなに大慌てするのですか?」
「規模が違うからだよ」
レモンが持っていた籠からミカンのような柑橘の果物一つと、ブドウのように幾つもの実が連なった果物を一つ取り出す。
「筆記ギルドが主に相手にしてたのは貴族。忙しい貴族間の手紙の代行や、あとは資料や契約書を書いていた。貴族の数はそう多くないから、いわば単価がでかくて数は少ない」
俺は柑橘をレモンに返した。
「で、タイプライターでの代筆の相手は平民。で、少し前までは平民がそもそも代筆を依頼する事すらなかった。書けず読めずなのもあるし、知り合いが近い場所に住んでいるのが殆どだから」
「ああ、なるほど。平民同士の手紙のやり取りは、それこそ冒険者くらい。既存ではなく、新規の手紙の。どうやったから知りませんが、平民同士でも手紙のやり取りをするという流行りを作り上げた」
「恋文だよ。お金でとか後は、無料刊行している雑誌とかで、王都に噂をばらまいたんだけど、やっぱり恋は偉大だね。手紙で盛り上がる恋もある……いや、そもそも想いが文字で残るというのは嬉しいんだよ。急速的に広がってる」
「……それは、確かにそうですね。それで、そのキュラムエルのように、一粒一粒は小さくとも、連なっているから大きな利益を産むと」
「そう」
俺はブドウのような幾つもの実が連なった果物――キュラムエルをレモンに返した。
レモンが尻尾を傾げる。
「でも、結局輸送自体はギルドの経路を使ってますよね。結局輸送ギルドに依頼するなら、意味は……」
「違う違う。貰ったのは、ブランド。貴族同士の手紙は輸送ギルドというブランドがあるけど、平民による手紙はドルック商会というブランドになる」
いわば、輸送ギルドは貴族の郵便局を、ドルック商会は平民の郵便局を担うことになる。今はだめでも、アカサ・サリアス商会と協定を結んで、今はその手紙の経路も増やしているので、これからは全て自分たちでできるようになるだろう。
「そうすれば、向こうから何らかの譲歩というか、提案が来るはずだ。そしたら、筆記ギルドに譲歩した色々を取り返して、ゆっくり独立していく。まぁ、俺はそこまで経営が得意じゃないから、アカサとかに頼ってるんだけど……」
ぶっちゃけ、ドルック商会ってアカサ・サリアス商会の傘下みたいな物だし、まぁいいんだが。
「なら、余計セオ様はしっかりとご自身の部下を見つけなければなりませんね」
「……そうなんだよね……。ラート町の人を雇用しようにも、数が多くないから、結局王都で人材を見つけないと」
一応、王都を拠点に動いているサリアスに人材の候補を見繕ってもらっているので、そこまで苦労することはないが……
「面倒だな……」
「面倒面倒と口に出していると、何もしなくなりますよ」
「……分かってる」
お使いを終えた俺とレモンは、屋敷に帰るのだった。
この数カ月で色々なものが変化した。
一番の変化はブラウがつたい歩きできるようになったことか。ハイハイができるようになってから、意外とあっさりしていた。
こう苦難の末に、と思っていたのだが……
まぁ、赤ちゃんの成長なんてそういうものだろう。
ここ最近は、俺やライン兄さんを筆頭に、ブラウに絵本を読み聞かせることが増えた。それはそれは楽しい時間なのだが、俺とユリシア姉さんの読み聞かせは不評らしく、あまり選ばれない。あと、ロイス父さんもか。
ライン兄さん、エドガー兄さん、アテナ母さんの読み聞かせは好きらしく、いつもキャッキャと笑いながら喜び、かと思えばじっと聞き入っている。集中力が凄い。
あと、モフモフに目覚めたらしい。レモンの尻尾やユキのモフモフ毛などを楽しんでいる。まぁ、二人とも夏になり毛が薄くなったので少し不服そうだったが。
二番目に変わったのは……何だろうか?
エドガー兄さんが領地経営の仕事の手伝いを徐々に減らし、秋に入学する中等学園の準備を始めたことか。
それか、俺とライン兄さんの魔力感知能力の向上と、隠蔽能力の向上か。あれを身に着けたお陰で、アダド森林の表層までなら一人で入ってもいいという許可がアテナ母さんたちからでたのは僥倖だろう。
まぁ俺の場合は、分身体を使って普通に侵入していたので大したうま味はなかったが……
それとユリシア姉さんが自警団にもっと関わるようになり、つい最近は他領地との合同演習に向かった。騎士になる事が夢なので、ゆくゆくは王国騎士団で修行したいらしい。
……そう、修行なのだ。
どうにもユリシア姉さんは、騎士というものを勘違い……でもないか。民を守る存在だと認識している。主に仕える存在ではなく。
なので誰かに仕える予定はなく、放浪しながら色々な人を守りたいとか。
とはいっても、これから先は長い。ユリシア姉さんも色々な考えに触れて、いずれは変わっていくだろうとは思っている。
まぁ、日々楽しそうで何よりである。朝稽古などでボコされまくっているので、何とも言えないが。
他に変わった事といえば、代筆屋ができたくらいか。
タイプライターの件だ。魔法筆記を行う筆記ギルドにとって、タイプライターは一種の敵だ。
魔法筆記はそれなりにお金がかかる。口頭の速度で筆記できるのもさることながら、同時筆記や、その字の綺麗さや正確さ、速さなども術師による部分が大きい。
だからこそ、タイプライターは強い。
同時に幾つもの筆記はできないものの、字の綺麗さなどは均一だ。書くよりもタイプライターはは原理的に押す、印刷に近いので口頭よりも速い速度で記述できる利点がある。
何よりも、就ける人の範囲が広いのもある。
魔法が使える人は限られている。魔力量や魔力操作技術、属性変換や演算能力。一般の平民が使う魔法はせいぜい生活魔法くらいなもので、魔法筆記ができるレベルはそうそう多くない。
字の綺麗さは教養が必要だし、そもそも字を覚えて書くのだって識字率が高くないこの世界では難しい。ラート町の人たちの識字率の高さは結構異常なのだ。
先ほども言った通り、タイプライターは文字を書くではなく、押すだ。だから、読めれば最低限タイプライターを使うことができる。
他にも色々あるが、揉めていたのだ。筆記ギルドと。
そこで、色々と話し合った結果、こっちが譲歩する形になった。
まず、今まで通り筆記の仕事は筆記ギルドに受け持ってもらう。しかし、筆記ギルドも魔法筆記だけでは、働き手が限られて市場を拡大できない。
なので、俺とライン兄さんが運営しているドルック商会に代筆屋という店を開いた。
そこでは、魔法筆記に対して高いお金を払うことのできない平民を相手に商売し、働く従業員は全て筆記ギルドの職員を雇う形だ。いわば、派遣社員みたいなものか。
そして彼らにはドルック商会が作ったタイプライターを使ってもらう。
今は、試験的に筆記ギルドが読み書きができて、尚且つ魔法筆記が使えない人件費がある程度安い人材を数人派遣してもらい、こちらが教育等々をしている。
ぶっちゃけいうと、相当譲歩した。
そもそも、筆記ギルドなど無視して、ドルック商会が筆記ギルドの真似事をする。筆記ギルドよりも安い値段で提供できるので、最初は妨害があろうとも数年、長くて十年近くで市場を奪い取ることだってできたのだ。
後は、平民の市場を作り出すこともできたので、そっちで利益を持っていくことも。向こうは人件費が高いから、赤字しかでないだろうし。
ただ、それだと軋轢が残るし、平穏ではない。だから、譲歩した。
それに魔法による契約をしたとはいえ、未知の技術が集まったタイプライターを各職員一人一人に持たせているのだ。奪われる可能性はあるし、絶対に将来筆記ギルドがタイプライターを自分たちで開発するだろう。
一応、自由ギルドの特許の方で登録しているが、試験的に運営している代筆屋の業績を見る限り、タイプライターが加速的に普及していくはずなので、俺も市場の拡大を減速させないために特許の拘束力を弱めるだろうし。
「まぁ、商業ギルドとか輸送ギルドも巻き込んで、新規の手紙の輸送権利を持ってこれたのはでかかったかな……」
「そんなにでかいんですか?」
汗ばむ夏の暑さにげんなりしながら、俺はそう呟いた。隣を歩いていたレモンが首を傾げる。っというか、メイド服って暑くないのかな?
「まぁね。譲歩する条件として一番最初に提示して飲ませたのがそれ。今頃商業ギルドや輸送ギルドは大慌てだと思うよ」
「はぁ。で、なんで新規の手紙の輸送権利でそんなに大慌てするのですか?」
「規模が違うからだよ」
レモンが持っていた籠からミカンのような柑橘の果物一つと、ブドウのように幾つもの実が連なった果物を一つ取り出す。
「筆記ギルドが主に相手にしてたのは貴族。忙しい貴族間の手紙の代行や、あとは資料や契約書を書いていた。貴族の数はそう多くないから、いわば単価がでかくて数は少ない」
俺は柑橘をレモンに返した。
「で、タイプライターでの代筆の相手は平民。で、少し前までは平民がそもそも代筆を依頼する事すらなかった。書けず読めずなのもあるし、知り合いが近い場所に住んでいるのが殆どだから」
「ああ、なるほど。平民同士の手紙のやり取りは、それこそ冒険者くらい。既存ではなく、新規の手紙の。どうやったから知りませんが、平民同士でも手紙のやり取りをするという流行りを作り上げた」
「恋文だよ。お金でとか後は、無料刊行している雑誌とかで、王都に噂をばらまいたんだけど、やっぱり恋は偉大だね。手紙で盛り上がる恋もある……いや、そもそも想いが文字で残るというのは嬉しいんだよ。急速的に広がってる」
「……それは、確かにそうですね。それで、そのキュラムエルのように、一粒一粒は小さくとも、連なっているから大きな利益を産むと」
「そう」
俺はブドウのような幾つもの実が連なった果物――キュラムエルをレモンに返した。
レモンが尻尾を傾げる。
「でも、結局輸送自体はギルドの経路を使ってますよね。結局輸送ギルドに依頼するなら、意味は……」
「違う違う。貰ったのは、ブランド。貴族同士の手紙は輸送ギルドというブランドがあるけど、平民による手紙はドルック商会というブランドになる」
いわば、輸送ギルドは貴族の郵便局を、ドルック商会は平民の郵便局を担うことになる。今はだめでも、アカサ・サリアス商会と協定を結んで、今はその手紙の経路も増やしているので、これからは全て自分たちでできるようになるだろう。
「そうすれば、向こうから何らかの譲歩というか、提案が来るはずだ。そしたら、筆記ギルドに譲歩した色々を取り返して、ゆっくり独立していく。まぁ、俺はそこまで経営が得意じゃないから、アカサとかに頼ってるんだけど……」
ぶっちゃけ、ドルック商会ってアカサ・サリアス商会の傘下みたいな物だし、まぁいいんだが。
「なら、余計セオ様はしっかりとご自身の部下を見つけなければなりませんね」
「……そうなんだよね……。ラート町の人を雇用しようにも、数が多くないから、結局王都で人材を見つけないと」
一応、王都を拠点に動いているサリアスに人材の候補を見繕ってもらっているので、そこまで苦労することはないが……
「面倒だな……」
「面倒面倒と口に出していると、何もしなくなりますよ」
「……分かってる」
お使いを終えた俺とレモンは、屋敷に帰るのだった。
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