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てんやわんやの新たな日常

まぁ五歳児だし、このくらいわんぱくでも……:Resistance

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「ぅあん。今何時だ……?」
「あ、起きた」

 一時間半ぐらいだろうか。カーターに色々と教えていたら、エイダンが目を覚ました。

「じゃあいったん休憩にしようか」
「そうだな。僕も疲れた」

 カーターが伸びをする。疲れたのか、大きなあくびをしたあと、ぐでーとコタツに突っ伏す。

「跡がつくよ」
「問題ない……」
 
 だいぶ慣れたアルがカーターの頭の上で踊っているのを見ながら、俺はジュースを飲む。
 
 それから眠たげに目をこすりながら起きたエイダンに、ジュースが入ったコップを渡す。
 
 カーターが眠そうにしながら、それを受け取る。

「おお、ありがと。セ――」

 氷魔術を全力発動っ!

「うおっ、冷たっ!?」

 コップを受け取った瞬間、エイダンはそれを放り投げる。同時に、素早く手をコタツの中に突っ込む。

「おっと。全く、急にコップの投げて。どうしたのエイダン?」
「お、お前っ!」
「何? 俺は普通に手で持って渡しただけだけど」

 放り投げられたコップを〝念動〟で中身がこぼれない様に受け止めながら、こっそり火魔術でコップを適温まで温める。

 それから普通にコップを手に取り、どうしたの? と純粋無垢な表情で尋ねる。

 ……ぶっちゃけ、うるさかったのだ。いびきとか、寝言とか。あと、足を伸ばして寝てたから、何度も俺の足を蹴ったのだ。

 うん、悪くない。

「なっ! どうせ魔法かなんかだろっ!」
「いや。魔法は使ってないよ。俺、嘘つかない」
「嘘つけっ!」
「嘘はつかないよ」

 エイダンがムキーッと顔を真っ赤にする。

 ……まぁ揶揄えたのでいいだろう。

「はい、ジュース。落ち着きなよ」
「受け取らねぇぞ」
「ひどいな。俺が何かするとでも? まぁここにおいておくから」
「……チッ」
「舌打ちを覚えちゃいけないよ」
「お前のせいで覚えたんだよっ!」

 なんなんだ、くそっと言いながら、エイダンはひったくるようにコップを持ち、ゴクゴクゴクと飲み干す。

 眠気が飛んだようで何よりだ。

 と、じゃれてくるリュネやケンと片手で遊びながら、ジュースを飲んでいたエイダンが、ずっとチーンチーンと音の立てながらタイプライターを打っている俺の分身体を見た。

「あれ、セオの分身? だろ。何してんだ。っつか、あの箱はなんだ?」
「箱については企業秘密。家族とかにも話しちゃだめだよ」
「……分かったよ。で、何してんだ?」
「カーターのために教本書いてる」
「教本? なんだそれ、フェーデの神父爺さんが持ってるやつか?」
「あれは教典。いや、間違いじゃないか? まぁ、カーターが魔道具学ぶから、家で一人で自習できるように作ってるんだよ」

 そう言いながら、俺はコタツに突っ伏しているカーターを見る。いっぺんに色々と頭を使ったせいか、カーターがピクリとも動かない。

 まぁ俺ですら圧倒するほどの集中力だったしな。それは疲れる。ライン兄さんだって集中した後は、たいていこんな感じだし。

 俺の家なんて、慣れてない場所だったんだし、疲れもあっただろう。

 そう考えながら、エイダンを見やる。なんか視線を感じたからだ。

「……どうしたの?」
「ずるい」
「うん?」
「カーターばっかずるいぞ」
「ばっかって。いや、ただ俺が教えられそうなところを――」
「じゃあ、俺も魔道具とやらを学ぶっ! だから教本くれっ!」
「いや、ちょ」

 エイダンが俺の肩をつかんで揺らす。

「俺だけ仲間外れとかずるいぞっ、嫌だっ!」
「わ、分かったからっ!」

 直球だ。よくもまぁそんな言葉を伝えられるな。俺なら小っ恥ずかし過ぎていえないぞ。

 そこがエイダンの魅力なんだろうが……

 俺はちょっとそっぽを向きながら、頷く。

「きょ、今日はさすがに無理だから、今度渡すよ」
「分かった。今度なっ!」
「う、うん」

 エイダンが満面の笑みで頷く。

 ……どうしよ。事実として今書いてる教本ってカーター用だからな。レベルの問題もあるだろうし、エイダンに読めるか……

 いや、ここで読めないって決めつけるのもどうだろ? 大人ならいざ知らず、エイダンは子供だし……

 ああ、面倒だ。カーターと同じ本を渡そうっ! 分からなかったら分からなかったで聞きに来るだろうし、もしかしたらカーターを頼るかもしれない。

 なら、それはカーターの成長に繋がるはず。

 あ、けど、やっぱり子供たちが魔道具とかを理解しやすいような絵本を書こう。『ゴブリンでもわかる魔道具基礎』も、初心者にとってはとてもいい本だけど、絵本の方は実例中心に行こうかな。

 まずは興味を引くのが第一だし。まぁ『ゴブリンでも分かる魔道具基礎』もそういう意図があるんだろうが……

 と、エイダンがキョトンと首を傾げて尋ねてくる。

「ってか、魔道具ってなんだ?」
「……え。ほら、おうちとかの灯りってどうしてるの?」
「うち? リビングはなんか、母ちゃんが手をかざしたら、バーっと変なのが流れて光る感じ? ほかの部屋はろうそくとかだぞ」

 あれ? リビングだけ? てっきり、全ての灯が魔道具かと思ったんだが。

 俺が二歳になった頃らへんに、魔道具の普及と発展増進を目的とした領政の一環で、ロイス父さんが魔道具を買うための補助金、というよりは専用クーポンを配ったらしいんだが……

「ねぇ、エイダンの家って他には魔力――ええっとバーっと変なのが流れる道具ってある?」
「うん、あるぞ。たいていキッチンとか、母ちゃんと父ちゃんの自室とか、あとお風呂場とか。なんか、そのバーっと流れるやつが買えたおかげで、風呂に入れるとか言ってたぞ」
「……コスト問題かな? 灯の魔道具って結構な値段がするけど、ろうそくの方が安上がりだし。……それに比べてお風呂とかキッチン……たぶん冷蔵庫関連とかの方がないと困る……」

 ニーズが見えてきたな。

 商売をしているわけではないからあれだが、それでもニーズは見えていた方がいい。魔道具作りに携わる者として。

 魔道具は人の生活のためにあると思ってるし……

「おい、セオ。さっきから何言ってるんだ? だいたい、そのバーっと流れる道具が魔道具なのか?」
「うん、そうだよ。そのバーっとっていうのが魔力。っというか生活魔法は使えるよね?」
「あん? 生活魔法?」
「……あれ?」

 あれれ。五歳くらいになれば、生活魔法は親から教わるって聞いたんだけど。親から教わらなくても、冒険者とか町の人が教えてくれるのでは……

「ほ、ほら、こんな感じなの。ささやかな光と温かさを――〝灯火〟」

 属性変換が本当にできないからな。魔力操作技術はあるのに、生活魔法程度でも詠唱しないといけない。だからこそ、魔術というのは便利なんだが。

 人差し指を立てて、その上に小さな火を浮かせる。

 エイダンはそれを見て、手をポンッとたたく。

「おお、それなら俺でできるぞっ! 見てろよ!」
「うん」

 エイダンは興奮した面持ちで、鼻の穴を膨らませて息を吸う。

 そして。

「バッと、ぐわっ!」
「……え、何それ……」

 エイダンは変な擬音とともに、柏手を打ちたわむように両手を広げた。すると、明らかに〝灯火〟の火力では出せない炎が現れる。

 っというか、燃え盛る。

 アルたちが驚き慌てふためいて、俺の服の中に潜ったが、それを気にする余裕もなく呆ける。

 なんというか、詠唱がおかしかったのもあるが、魔力の流れが明らかに変だ。

 出力の仕方というか、なんというか。体の裡にある魔力を引き出したというより、空気中の魔力を使っていたような……というか、ほかの存在が魔法を使ってたような……

 って!

「エイダン、ちょ、火を止めっ! 燃え移るっ!」
「あ、そうだった、そうだった」
「そうだったじゃない……」

 快活に笑うエイダンにあきれながら、ほっと一息つく。なんせ、俺の部屋ジャングルだし。

 生きた植物が天井に沿って生長してるし。どう考えても、燃え移る未来しか見えない。コタツでお湯を使っている理由の一つでもある。なるべく火元は少なくしておきたいのだ。

 失念してた。

「ごめんね、アル、リュネ、ケン」
「アルル」
「リュー」
「ケン」

 怖がって服の中に潜ったアルたちに謝る。ミズチはカーターの首元でゆっくりと休んでいる。主に水を扱うからな。火がそこまで怖くないのだろう。

「あ、そうか、こいつら植物だったのか。すまない」
「……アル」
「リュネ」
「ケン」

 エイダンがたはは、と襟元から顔をのぞかせているアルたちに謝る。

 と。

「失礼します。精霊の反応があったので、念のためやってきたのですが……」

 少し息を切らしたレモンがゆっくりと扉を開けて様子を伺いに来た。

 精霊? もしかしてさっきのエイダンの? けど、精霊らしき魔力の集合体を感じなかったんだが……

 まぁいいや。

「問題ないよ」
「そうでしたか。それは何よりです。ところで、もう少しでブラウ様が目を覚ますかと思われますが、どういたしますか?」
「……どうする? 赤ちゃん――ブラウを見たいんでしょ?」
「ああ、見たいっ! なんか、ほかの家の赤ちゃん見に行こうとすると母ちゃんに止められるからなっ!」

 ……分かる気がする。

 それから俺は、ツンツンとカーターの頬を突いた。

「カーターはどうする。ここで寝てる?」
「……いく」
「分かった。すぐに下に降りるよ」
「分かりました」

 そして俺たちは部屋を出た。
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