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ちょっとした激動の四か月
普段は優秀なのに、こういうところだけ残念な人はいる:The genesis
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どよめいた。遅れて空気がたわみ、そよ風が全体に広がった。
俺の深緑色のぼさぼさな短髪がさらにぼさぼさになる。隣を見ればソフィアの煌めく銀の短髪がたなびいている。俺とはすごい違いだ。
「すごいね」
「まぁロイスくんは言わずもがな。ニール団長もエレガント王国で一位二位を争うほどの腕前だからね」
俺のつぶやきにソフィアが反応した。いや、ロイス父さんとニール団長との模擬戦闘の事じゃなくて、俺との髪の質の違いを……いや、まぁロイス父さんとニール団長との模擬戦もすごいものなんだが。
「けど、ロイスくんもニール団長もこういう正面切っての戦いよりも乱戦とかの方が得意なんだけどね」
「第三騎士団が派遣されてるのってそういう理由?」
「あとは、セオくんは知ってるだろうけど隠密行動に優れてるっていうのもあるね。気配感知とかが甘かったり、隠密が甘いと魔物との戦いで不利だし」
今日は約二週間後から一か月後に起こる死之行進ために集まった三つの勢力、マキーナルト領と自由ギルド、王国軍のデモンストレーションである。
基本的には士気を上げるのはもちろんのこと、マキーナルト領の自警兵団と冒険者、王国騎士たち交流と結束を強めることなどを目的として行われる。
マキーナルト領の自警兵団は一応、マキーナルト領の直轄ではないことになっているが、別々に出すのが面倒なのとそもそも名目としてそういう風になっているだけなので、この場ではロイス父さんが代表として出ている。
王国騎士の大多数は規律などを重んじるが無駄は好まない。戦いに近い、つまり軍事関係の場合は名目等々を排除する傾向がある。ただし、二日前は騎士ではなく貴族としての挨拶だったため、名目と規律を重視していたが。名目は軍事にとっては無駄ではあるが、貴族としては無駄ではないので。
まぁなので、俺がこの場にいてソフィアと親しげに話していたとしてもおかしくはないのだ。
パフォーマンスも兼ねているためか、ロイス父さんとニール団長の戦いには予定調和らしきものがあり、少しだけつまらない。
そのためか、ソフィアが面白そうなものを見つけたと言わんばかりに視線を移した。まぁ俺もさっきから気になってはいる。
「にしても、ラインくんはああいう女性が好みなんだね」
「会話を聞く限りエマさんじゃなくて、ハラカン一族が住む島の固有種に興味があるとは思うんだけどね」
俺とソフィアがいるのはいわば貴賓席。マキーナルト領と自由ギルド、王国軍の偉い人たちが占領する一角だ。
そもそも俺たちがいるのは、普段自警兵団が使用している広大なの演習場に土魔法を使って作った簡易の円周闘技場みたいな所だ。闘技場とはいったが、万が一のための一般市民の避難場所としても使う。
その闘技場の貴賓席の一つでライン兄さんとエマさんが話し込んでいた。正確にはライン兄さんが質問攻めをしている感じだが。目がキラキラと輝いていて、エマさんが若干引いている。まぁ無表情なのでとても分かりにくいが。
後ろには第三騎士団の副団長の一人、クリフさんと二人の騎士、あとはアテナ母さんとレモン、ラリアさんがいる。
二人の騎士とレモンはおいておくとして、たぶんクリフ副団長とアテナ母さん、ラリアさんは雑談をしながら今後について話し合っているのだろう。
アテナ母さんは身重で仕事から一旦は手を引いたはいえ、子爵夫人だしラリアさんは冒険者ギルドのギルド支部長だ。全員それぞれのトップではないが、そのすぐ下にいる存在であり、根回し等々はここら辺が決めるんだろうなと思う。
「チッチッチッ。セオくんはラインくんの事が分かってないね」
「……」
ソフィアがわざとらしく指を横に振る。碧眼が悪戯っ子のように輝き、ニタニタと笑っている。背丈が小学一年生くらいだからな。ガキって感じがする。
なんかすごいムカつく。
「そんな怖い顔をしない、ブラコンくん」
「ブラコンじゃない」
ブラコンではない。決してブラコンではない。ただただ家族が大事なだけだ。大切なだけだ。
「ああ、シスコンでもあるもんね」
「シスコンでもない」
シスコンでもない。ファザコンでもないし、マザコンでもない。もちろんブラコンでない。
いわばファミコンだ。
……あれファミコンだと俺、ゲーム機になってしまわないか? まぁいっか。
俺のそんな考えが顔に出ていたのだろう。ソフィアはやれやれと溜息を吐いた。やっぱり見た目が小一だからか、やけに癇に障るな。
……あれ、これってブーメランな気がしてきた。
「……まぁいっか。けど、セオくんもまだまだだよ。ラインくんはね、エマさんにも興味があるんだよ。伊達に長生きはしてない。僕の目は確かだよ」
「節穴だと思うんだけど。こないだも男にに――」
俺がジト目を向ける。俺、知ってるんだよね。
死之行進の需要を見込んでやってきた行商をひっ捕まえて彼氏にしようとしたけど、子供にしか見れないとか言われて振られて、腹いせに個人情報をバリバリ掴んでひっ捕まえたけど、結局逃げられたって。
その姿をエイダンたちが見ていたらしく、先週町にいったら腹を抱えながら笑って教えてくれた。アカサも笑って教えてくれた。みんな大笑いしていた。
俺は笑えなかったが。普通にやってる事が怖いし。個人情報脅して付き合うとか、メンヘラとかヤンデレとかそういうのを通りこして犯罪だよな。
だいたい、まずは幼女趣味のやつを捕まえろよ。その見た目だと付き合うまでのハードル凄い高いぞ。
ルッキズムとかそういうわけじゃないけど、大多数の男性が見た目幼女の百歳超え女性に恋するとも思わないし、向ける愛情も庇護欲に近いものになるだろうしな……
とそんなことを思いながら、ムカついた腹いせに突っ込んだら。
「セオくん?」
「はひ、何でしょうかっ、ソフィア様!」
思いっきり背中を抓られた。しかもどういうわけか、痛みはめっちゃ感じるし、今にも叫びたいのに、痛いとは言えない。それどころか苦痛に歪んだ表情ができず、ニッコリと笑う事しかできない。
「逃げられたわけじゃない。ボクが振ったの。ドゥユーアンダースタンド?」
「いぇ、イェス」
何で英語かと一瞬思ったが、そういえば別の大陸で英語っぽい発音があるんだよな、と現実逃避しながらぶんぶんと頷く。
ソフィアがその無垢な碧眼をどろどろな真っ黒に染めているが、見なかったことにする。というか、表情が支配されていたりするのでとても怖いと思った。
クラリスさんもこんな事やってたけど、その比じゃない。魔力操作とかそういうのではなく、魂魄そのものに干渉している感じだ。なのに魔力を感じない。めっちゃ怖い。
なので、俺は必死になって頷いた。
ソフィアにはどんなにムカついても手を出さない。これ、鉄則。
……前にもこんなことがあった気がするけど、うん、俺は今誓いを立てた。これからはこの誓いを破らない。
よし!
と、ソフィアが満足そうに頷き、こっそり背中を抓っていた手を引っ込める。周りは俺たちのそんな様子に気が付いていない。
「分かってくれたようで嬉しいよ」
「……俺もソフィアがおそろ――ごほん、素晴らしい人だって知れて嬉しいよ。これからは絶対遵守で生きるよ」
「……セオくんが絶対遵守とか信用できないんだけどね」
ソフィアは再びライン兄さんを見た。また巧妙に隠蔽された遮音の結界を張る。
「まぁともあれ、セオくんは知らないだろうけどね、ラインくんは外ではとても大人しいんだよ」
「……大人しい?」
「うん。セオくんは転生者でそれ故の特異という部分があるけど、ラインくんのあの利発さは生まれ持った才能でしょ」
「まぁそうだけど……」
確かにライン兄さんは類まれなる天才だと思う。弱冠六歳だ。それでいて、俺やアテナ母さんたちの会話には付いてくるし、動植物や幻獣などに関しては俺よりも造詣が深い。
芸術関連に関しては言わずもがな。こないだアカサに頼んでこっそりライン兄さんの美術の腕前を鑑査してもらったら、王宮レベルだと言われた。
自慢の兄(精神的には弟)だ。
「マキーナルト領の住民自体も結構特異でね。ラインくんみたいな子がいても褒めはするけど、別段讃えたり過剰に反応することはない。結果を結果として年齢を考慮せずに評価する。その過程もね」
「……まぁ確かに」
それに地域の大人が子供たちと一緒に遊ぶなんてことも珍しいだろうしな。雪合戦の時だって結構本気で相手にしていたし。
たぶん、昔は子供とか大人とか言ってられなかったんだろう。もちろん、大人は子供を守るが、子供は大人が抜けた穴を埋めるために働いていたんだろうし、だからこそ公平に見ていたんだと思う。
「けど、外に出れば違う。あの年でね、礼儀作法にまともに取り組んで修めてる貴族の子はそこまで多くない。高位貴族は別にしても。それにあの教養はもっとだ」
「……もしかして、たまに他領にいったりしている時のライン兄さんって結構大人しいの?」
「そりゃあね。一度だけ外に用事があってたまたま見たけど、普段の利発で活発な様子とはほど遠いかったよ」
……考えて見れば当たり前か。俺はマキーナルト領の外に出たことがないし、貴族たちと関わるようになったのもここ一ヶ月程度がほとんど。
それでも俺は疲れているんだ。利発で聡く、ロイス父さんたちに迷惑をかけたくないと思っている優しいライン兄さんはもっと疲れていた……
「あ、けど、もしかして二日前のあれって」
「まぁたぶん、そういうのも含んでるだろうね。ラインくん自体が外の人間に対しても、自分の能力をあまり隠さないようにする。自衛は結構だけど、しすぎるのはよくない。それこそ幼い子供なら」
ロイス父さんの手に踊らされたってわけか。踊らされたっていうのは言い方としてよくないかな。機会をあた――作ったんだと思う。ロイス父さんやアテナ母さんたちは色々な機会を作ってるんだ。
能力を隠さない、心を開くきっかけを作ったんだと思う。
そのあと、本当にライン兄さんがどうするかはおいておいて。
「うん、そう。結局はラインくんの勇気が必要なんだよ。けど、ラインくんは勇気で動くというよりは」
「興味……か。二日前はテンションで流されたとしても、今は自制が働いてるから、強い興味がなければ……か」
「そういうこと」
ソフィアがよくできました、という感じに頷いた。それと同時にロイス父さんとニール団長の模擬戦闘が終わった。
……考えさせられるな。けど、俺は今まで通りライン兄さんとはしゃげばいい。それがよりどころとなると思ってるし。
にしても、男を捕まえるのに犯罪まがいなことをするソフィアに気づかされるとは……
俺の深緑色のぼさぼさな短髪がさらにぼさぼさになる。隣を見ればソフィアの煌めく銀の短髪がたなびいている。俺とはすごい違いだ。
「すごいね」
「まぁロイスくんは言わずもがな。ニール団長もエレガント王国で一位二位を争うほどの腕前だからね」
俺のつぶやきにソフィアが反応した。いや、ロイス父さんとニール団長との模擬戦闘の事じゃなくて、俺との髪の質の違いを……いや、まぁロイス父さんとニール団長との模擬戦もすごいものなんだが。
「けど、ロイスくんもニール団長もこういう正面切っての戦いよりも乱戦とかの方が得意なんだけどね」
「第三騎士団が派遣されてるのってそういう理由?」
「あとは、セオくんは知ってるだろうけど隠密行動に優れてるっていうのもあるね。気配感知とかが甘かったり、隠密が甘いと魔物との戦いで不利だし」
今日は約二週間後から一か月後に起こる死之行進ために集まった三つの勢力、マキーナルト領と自由ギルド、王国軍のデモンストレーションである。
基本的には士気を上げるのはもちろんのこと、マキーナルト領の自警兵団と冒険者、王国騎士たち交流と結束を強めることなどを目的として行われる。
マキーナルト領の自警兵団は一応、マキーナルト領の直轄ではないことになっているが、別々に出すのが面倒なのとそもそも名目としてそういう風になっているだけなので、この場ではロイス父さんが代表として出ている。
王国騎士の大多数は規律などを重んじるが無駄は好まない。戦いに近い、つまり軍事関係の場合は名目等々を排除する傾向がある。ただし、二日前は騎士ではなく貴族としての挨拶だったため、名目と規律を重視していたが。名目は軍事にとっては無駄ではあるが、貴族としては無駄ではないので。
まぁなので、俺がこの場にいてソフィアと親しげに話していたとしてもおかしくはないのだ。
パフォーマンスも兼ねているためか、ロイス父さんとニール団長の戦いには予定調和らしきものがあり、少しだけつまらない。
そのためか、ソフィアが面白そうなものを見つけたと言わんばかりに視線を移した。まぁ俺もさっきから気になってはいる。
「にしても、ラインくんはああいう女性が好みなんだね」
「会話を聞く限りエマさんじゃなくて、ハラカン一族が住む島の固有種に興味があるとは思うんだけどね」
俺とソフィアがいるのはいわば貴賓席。マキーナルト領と自由ギルド、王国軍の偉い人たちが占領する一角だ。
そもそも俺たちがいるのは、普段自警兵団が使用している広大なの演習場に土魔法を使って作った簡易の円周闘技場みたいな所だ。闘技場とはいったが、万が一のための一般市民の避難場所としても使う。
その闘技場の貴賓席の一つでライン兄さんとエマさんが話し込んでいた。正確にはライン兄さんが質問攻めをしている感じだが。目がキラキラと輝いていて、エマさんが若干引いている。まぁ無表情なのでとても分かりにくいが。
後ろには第三騎士団の副団長の一人、クリフさんと二人の騎士、あとはアテナ母さんとレモン、ラリアさんがいる。
二人の騎士とレモンはおいておくとして、たぶんクリフ副団長とアテナ母さん、ラリアさんは雑談をしながら今後について話し合っているのだろう。
アテナ母さんは身重で仕事から一旦は手を引いたはいえ、子爵夫人だしラリアさんは冒険者ギルドのギルド支部長だ。全員それぞれのトップではないが、そのすぐ下にいる存在であり、根回し等々はここら辺が決めるんだろうなと思う。
「チッチッチッ。セオくんはラインくんの事が分かってないね」
「……」
ソフィアがわざとらしく指を横に振る。碧眼が悪戯っ子のように輝き、ニタニタと笑っている。背丈が小学一年生くらいだからな。ガキって感じがする。
なんかすごいムカつく。
「そんな怖い顔をしない、ブラコンくん」
「ブラコンじゃない」
ブラコンではない。決してブラコンではない。ただただ家族が大事なだけだ。大切なだけだ。
「ああ、シスコンでもあるもんね」
「シスコンでもない」
シスコンでもない。ファザコンでもないし、マザコンでもない。もちろんブラコンでない。
いわばファミコンだ。
……あれファミコンだと俺、ゲーム機になってしまわないか? まぁいっか。
俺のそんな考えが顔に出ていたのだろう。ソフィアはやれやれと溜息を吐いた。やっぱり見た目が小一だからか、やけに癇に障るな。
……あれ、これってブーメランな気がしてきた。
「……まぁいっか。けど、セオくんもまだまだだよ。ラインくんはね、エマさんにも興味があるんだよ。伊達に長生きはしてない。僕の目は確かだよ」
「節穴だと思うんだけど。こないだも男にに――」
俺がジト目を向ける。俺、知ってるんだよね。
死之行進の需要を見込んでやってきた行商をひっ捕まえて彼氏にしようとしたけど、子供にしか見れないとか言われて振られて、腹いせに個人情報をバリバリ掴んでひっ捕まえたけど、結局逃げられたって。
その姿をエイダンたちが見ていたらしく、先週町にいったら腹を抱えながら笑って教えてくれた。アカサも笑って教えてくれた。みんな大笑いしていた。
俺は笑えなかったが。普通にやってる事が怖いし。個人情報脅して付き合うとか、メンヘラとかヤンデレとかそういうのを通りこして犯罪だよな。
だいたい、まずは幼女趣味のやつを捕まえろよ。その見た目だと付き合うまでのハードル凄い高いぞ。
ルッキズムとかそういうわけじゃないけど、大多数の男性が見た目幼女の百歳超え女性に恋するとも思わないし、向ける愛情も庇護欲に近いものになるだろうしな……
とそんなことを思いながら、ムカついた腹いせに突っ込んだら。
「セオくん?」
「はひ、何でしょうかっ、ソフィア様!」
思いっきり背中を抓られた。しかもどういうわけか、痛みはめっちゃ感じるし、今にも叫びたいのに、痛いとは言えない。それどころか苦痛に歪んだ表情ができず、ニッコリと笑う事しかできない。
「逃げられたわけじゃない。ボクが振ったの。ドゥユーアンダースタンド?」
「いぇ、イェス」
何で英語かと一瞬思ったが、そういえば別の大陸で英語っぽい発音があるんだよな、と現実逃避しながらぶんぶんと頷く。
ソフィアがその無垢な碧眼をどろどろな真っ黒に染めているが、見なかったことにする。というか、表情が支配されていたりするのでとても怖いと思った。
クラリスさんもこんな事やってたけど、その比じゃない。魔力操作とかそういうのではなく、魂魄そのものに干渉している感じだ。なのに魔力を感じない。めっちゃ怖い。
なので、俺は必死になって頷いた。
ソフィアにはどんなにムカついても手を出さない。これ、鉄則。
……前にもこんなことがあった気がするけど、うん、俺は今誓いを立てた。これからはこの誓いを破らない。
よし!
と、ソフィアが満足そうに頷き、こっそり背中を抓っていた手を引っ込める。周りは俺たちのそんな様子に気が付いていない。
「分かってくれたようで嬉しいよ」
「……俺もソフィアがおそろ――ごほん、素晴らしい人だって知れて嬉しいよ。これからは絶対遵守で生きるよ」
「……セオくんが絶対遵守とか信用できないんだけどね」
ソフィアは再びライン兄さんを見た。また巧妙に隠蔽された遮音の結界を張る。
「まぁともあれ、セオくんは知らないだろうけどね、ラインくんは外ではとても大人しいんだよ」
「……大人しい?」
「うん。セオくんは転生者でそれ故の特異という部分があるけど、ラインくんのあの利発さは生まれ持った才能でしょ」
「まぁそうだけど……」
確かにライン兄さんは類まれなる天才だと思う。弱冠六歳だ。それでいて、俺やアテナ母さんたちの会話には付いてくるし、動植物や幻獣などに関しては俺よりも造詣が深い。
芸術関連に関しては言わずもがな。こないだアカサに頼んでこっそりライン兄さんの美術の腕前を鑑査してもらったら、王宮レベルだと言われた。
自慢の兄(精神的には弟)だ。
「マキーナルト領の住民自体も結構特異でね。ラインくんみたいな子がいても褒めはするけど、別段讃えたり過剰に反応することはない。結果を結果として年齢を考慮せずに評価する。その過程もね」
「……まぁ確かに」
それに地域の大人が子供たちと一緒に遊ぶなんてことも珍しいだろうしな。雪合戦の時だって結構本気で相手にしていたし。
たぶん、昔は子供とか大人とか言ってられなかったんだろう。もちろん、大人は子供を守るが、子供は大人が抜けた穴を埋めるために働いていたんだろうし、だからこそ公平に見ていたんだと思う。
「けど、外に出れば違う。あの年でね、礼儀作法にまともに取り組んで修めてる貴族の子はそこまで多くない。高位貴族は別にしても。それにあの教養はもっとだ」
「……もしかして、たまに他領にいったりしている時のライン兄さんって結構大人しいの?」
「そりゃあね。一度だけ外に用事があってたまたま見たけど、普段の利発で活発な様子とはほど遠いかったよ」
……考えて見れば当たり前か。俺はマキーナルト領の外に出たことがないし、貴族たちと関わるようになったのもここ一ヶ月程度がほとんど。
それでも俺は疲れているんだ。利発で聡く、ロイス父さんたちに迷惑をかけたくないと思っている優しいライン兄さんはもっと疲れていた……
「あ、けど、もしかして二日前のあれって」
「まぁたぶん、そういうのも含んでるだろうね。ラインくん自体が外の人間に対しても、自分の能力をあまり隠さないようにする。自衛は結構だけど、しすぎるのはよくない。それこそ幼い子供なら」
ロイス父さんの手に踊らされたってわけか。踊らされたっていうのは言い方としてよくないかな。機会をあた――作ったんだと思う。ロイス父さんやアテナ母さんたちは色々な機会を作ってるんだ。
能力を隠さない、心を開くきっかけを作ったんだと思う。
そのあと、本当にライン兄さんがどうするかはおいておいて。
「うん、そう。結局はラインくんの勇気が必要なんだよ。けど、ラインくんは勇気で動くというよりは」
「興味……か。二日前はテンションで流されたとしても、今は自制が働いてるから、強い興味がなければ……か」
「そういうこと」
ソフィアがよくできました、という感じに頷いた。それと同時にロイス父さんとニール団長の模擬戦闘が終わった。
……考えさせられるな。けど、俺は今まで通りライン兄さんとはしゃげばいい。それがよりどころとなると思ってるし。
にしても、男を捕まえるのに犯罪まがいなことをするソフィアに気づかされるとは……
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