上 下
131 / 316
ちょっとした激動の四か月

アル、リュネ、ケン。三人兄弟?:Aruneken

しおりを挟む
「……ええっと?」
「アル?」
「リュネ?」
「ケン?」

 ……現状を受け入れよう。仮称、トリートエウの子はこの根っこ的な不思議な生物だった……らしい。

 そうとしか考えられない。受け入れよう。

 では、この仮称、トリートエウの子の……ええっと……名前なまえ……

 一枚緑葉っぱ……まぁいいや。

「お前は『アル』」
「アル?」

 で、二枚黄色葉っぱは……

「お前は『リュネ』」
「リュネ?」
 
 そして三枚紅葉っぱは……

「お前は『ケン』」
「ケン?」

 仮称、トリートエウの子改め、仮称、アリュネケンの名前は決まった。うん、これくらいシンプルの方が分かりやすい。

 ……考えるのが面倒だったというよりも、あまりの現状に頭が働いていないし、そのうえ高度な名前を考えるとかあれだし……

「アル! アル!」
「リュネ! リュネ!」
「ケン! ケン!」

 まぁけど、三匹が各々の色違いの葉っぱを揺さぶってはしゃいでいるし、名前は気に入ってくれたらしい。うん、ならよかった。問題はなかった。

 うん。

 ……で、これからどうするか。

 現状は飲み込んで、そのついでに名前も付けた。喜んでくれているようだし、よかったのだと思う。

 ……まずは、アテナ母さんかレモンに報告かな。

 今、家にいて暇しているのはその二人だけだと思うし。アランとユナさん、マリーさんは厨房やらなんやらで忙しくしているようだし、他は久しぶりに晴れたから外での仕事や訓練をしに行ったし。

 あと、二カ月近くで死之行進デスマーチがあるらしいし、その前に死之行進デスマーチに及ばないものの、魔物が襲ってくるタンピードもあるらしい。何でも前兆みたいなものだそうだ。

 まぁスタンピードは、死之行進デスマーチがなくとも俺が知らないだけで一年に一回程度起こっているらしいが。去年はたまたまユキの母親である冬雪亀が、冬を早く齎しすぎたのと、死之行進デスマーチが迫っていたせいでなかったらしいが。

 と、そんなことはどうでもいい。

 俺は二人の気配を探りながらも、中身がいなくなった植木鉢を“宝物袋”に入れようとして――

「アルアルアル」
「リュネー!」
「ケンっ!」

 ――アルたちに止められた。

「ちょ、痛い。分かったから、仕舞わないから!」

 アルが俺の右肩に、リュネが俺の左肩にその小さな体でスルリとのぼり、根っこの腕で俺の耳を引っ張った。どうやって掴んでいるのか分からないが痛い。
 
 ついでにケンは、三つの植木鉢を守ろうと立ち塞がる。

「……アル?」
「……リュネー?」
「……ケン?」

 俺は肩に乗っている二匹が落ちないように立ち上がり、けれど斜めになっている地面、というか屋根なので少しだけつんのめる。

「本当だって。手で運ぶよ。……運ぶのはいいでしょ?」

 それを踏ん張り、植木鉢の前でしゃがんで三匹に訊ねた。

「アルっ!」
「リュネっ!」
「ケン!」

 三匹はワイワイと根っこの手を万歳しながら飛び跳ねて頷いた。

 ……やっぱり俺の言葉が分かっているんだな……と想いながらも、俺は小さな四歳児の手で何とか三つの植木鉢を抱きかかえる。もしかしたら、これってベッドか住処かなと思ったので、中の土をひっくり返さないようにする。

 そして、〝念動〟で斜めの天井窓を開け、靴を無造作に脱ぎ捨て“宝物袋”に仕舞う。開いた天井窓に飛び込み、ベッドに着地した後、ステステとベッドの足元に置いてあったうち履きを履く。

「ここにおいても大丈夫?」
「アル!」

 興味深そうに部屋を見渡している三匹に問いかけたが、返事したのはアルだけだった。他に二匹は返事もせずにワイのワイのと俺から飛び降りて部屋中を駆け回る。

 なんかそれが無性に微笑ましくて、なんというか愛おしさというかなんというか、どっちにしろ目を細めながら植木鉢三つを階段箪笥に置き、アルを指先で撫でた。

「アルー」
 
 アルがクレヨンで描いたような深緑の目を細め、気持ちよさそうな様子だった。

「リュネっ!? リュネ、リュネ!」
「ケン!」

 と、一通りはしゃぎ終わり、その手のひらサイズの体でどうやって上ったかは分からないが、ベッドの上でトランポリンをしていた二匹が慌てるように、ベッドから飛び降りて俺の腕に昇る。

「わかった。わかったから、それちょっとやめて。伸びちゃうから!」
「リュネ!」
「ケン!」

 服の腕にぶら下がったり、袖にぶら下がったりしていたリュネとケンは、嬉々と声を上げ、撫でられるために頭を差し出した。目を瞑っていて、口の線は緩んでいるような感じで、思わず頬が緩む。
 
 それを自覚しながら、俺は三匹の頭を交互に撫で続けた。

 撫で続けながら移動する。〝念動〟で扉を開け、屋根裏部屋であるから扉の一歩先はほぼ梯子の階段があり、そこを滑り降りる。
 
 三匹はキャッキャッとはしゃぐ。

 未だにこの三匹がいるのが、夢か現か分かってはいないが、それでもなぜかものの数分でその三匹が自分の体のあちこちではしゃいでいるのに馴染んでいる自分に驚いていない。

 自然なこととして受け入れていた。

 そういう感覚というか、なんというか。

「う~ん」

 ……母性?

「いやいやいや」

 違う違う。けど、それに近いような、出会って直ぐなのに、いや育てていたから出会って直ぐではないが、一年以上芽がでることなくて、それでもめげずに水やりも魔力やり等々を続けて。

 愛着が湧いて。芽が出て。そして三匹が誕生した。

 赤ちゃんがお腹の中にいて、生まれてきたような……前世も今世も男で、子供など持ったことは一切ないが、たぶんそれに近いような気がする。

 あくまで気がするッという感じだが。

「百面相して突っ立ていらして、どうしたの……って、その生物? いや植物? どっちにしろどうしたんですか、それ」
「うわぁっ!」
「アルー!」
「リュネー!」
「ケンー!」

 と、いつの間にか思考に没頭していたらしい。

 神聖魔力の解析等々が進んできた今、“解析者”と“魔力感知”を併用した簡易の悪意感知ができるようになり、そしてそれを“研究室ラボ君”に任せてしまっているため、俺自身の警戒が若干緩んでいる。

 どっちにしろ、思考に没頭する癖が加速しているのは気のせいではないだろう。

 まぁそれはそうとして。

「大丈夫ですか、セオ様」
「あ、うん。大丈夫だよ、レモン」

 思考に没頭していたせいで、レモンの登場に尻もちをついてしまった俺は、一緒に飛び上がり尻もちをついてしまったアル、リュネ、ケンに手を差し伸べながら、もう一方の手で差し出されたレモンの手を掴む。

「それで、それ……いつ捕まえてきたんですか? アダド森林には入っていませんよね?」
「うん、当たり前じゃん。魔物がうじゃうじゃいるし……」
「そうですか、では?」

 脅威や悪意がないことが分かったのか、リュネが興味深そうにレモンを見つめ、そして飛び乗った。レモンは少しだけ驚いた様子だったが、リュネの可愛らしさみたいなものに頬を緩め、二枚の黄色の葉っぱを撫でた。

 レモンの頭の上に乗っていたユキが、真っ白な体とは正反対の漆黒な瞳でリュネを睨み、ヌーヌーと抗議していた。レモンは、もうしょうがないな、というような甘い物を頬張ったような表情をして、頭の上のユキを撫でた。

「俺もハッキリとは……だから、アテナ母さんに確認したいんだ」
「そうですか」

 レモンは隣に並びながら先導するように俺の歩幅に合わせて歩く。やっぱりここら辺を見ると、レモンって凄いんだよな。幼児の俺に歩調を合わせながら、決して俺の前に歩くでもなく、自然と俺がそっちへ足を運ぶように誘導しながら歩く。

 これがメイドか、と何度も感心してしまう。

 まぁけど、ユキとリュネを交互に撫でながら、小麦色の狐耳をピコピコと動かし、艶やかな狐尻尾をブンブンと揺らしている様子からは全く想像できないが。

 にしても、やっぱりレモンってこういった表情が自然で魅力だなと想ったりする。こう、自由に楽しんでいるような。

 ……絶対に言わないが。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

処理中です...