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ちょっとした激動の四か月

引っこ抜かれずにアナタについていく:Aruneken

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 “陽光球”を作ってから二週間が経った。

 仮称、トリートエウの子は順調に成長している……らしい。

 らしいとは、ぶっちゃけ俺の目から見れば成長どころか異常しかないからだ。

 トリートエウの子は三つの植木鉢から生えている。しかしながら、その一つ一つの成長がすでに違っている。

 成長具合の話ではなく、分かりやすく言えば、同じ見た目だった子猫が虎とライオンとヤマネコになった感じだ。全くもって別種に成長している。

 一つ目の植木鉢のトリートエウの子は、新緑の葉っぱが一枚。一枚しか生えていないが、葉っぱの大きさだけは成長している。

 二つ目の植木鉢のトリートエウの子は、紅い葉っぱが二枚。一つ目よりも葉っぱ自体の大きさは小さいが、全体でみれば同じくらい。

 三つ目の植木鉢のトリートエウの子は、黄色の葉っぱが三枚。二つ目と同様、一つ目よりお葉っぱの大きさは小さいが、全体でみれば同じくらい。

 茎の色は全て葉っぱの色と同じだ。

 どう考えてもおかしいことこの上ない。

 最初は仲良く若芽の色だったのだ。それが、一週間前くらいから徐々に色が変わりだして、一晩にして葉っぱの枚数が増えたりして。

 慌ててアテナ母さんやロイス父さんはもちろんのこと、レモンやユナ、エウなどにも泣きついたほどだ。失敗してしまったのではないか、取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。

 思い返すと、とても恥ずかしいくらいには取り乱した。それをコッソリ、ライン兄さんやユナが〝想起〟を使って、その時の俺の形相を写真として撮っていたらしく、今やアテナ母さんのアルバムの中に入っているらしい。

 普段、あんなに慌てることがないから珍しいと、アテナ母さんやロイス父さんは満足しているらしい。

 ……ったく。こっちは本当に慌ててたのに……

「はぁ」

 まぁエウにまで確認しに行って、問題ないと言われたので問題ないのだろう。

 それどころか、エウからは問題がなさすぎると褒められ……いや、あきれられたのか?
 
 どっちにしろ、笑われた。それはもう、小さな子供のやんちゃを見るような微笑みを向けられて、なんかモニュとするような気持ちを抱いたが……問題がないならよかったと割り切りことにした。

 どうせ、経過を観測した精神年齢は、いくら中年以上だと言えど、混じったこの子の魂と肉体に引っ張られていて、知識と経験だけが高い子供みたいな感じだし、そもそもエウは千年以上は生きているはずだ。

 子供扱いなのは仕方がない。

 うん、だからさ。

「……これ、本当にどんな状況だろう?」

 丁度昨日、長雨の時期が終わり、俺は久しぶりに屋根の上で日向ぼっこをしていた。

 ここ二週間は、トリートエウの子の世話に、それと新しく生まれてくる妹のための玩具や絵本などもある程度作り終えた。

 教科書とかはまだだが、それは二歳以降になるだろうから後回しでいい。それよりも、クラリスさんから定期的に送られてくるデータ、主に意見などだが、それを元にタイプライターを改良したり、点字自体に工夫を付けたりと色々していた。

 クラリスさんが未だ誰を受け持っているのか、貴族社会の情報はあまり手に入らず、アテナ母さんたちはもちろん、ソフィアたちに訊ねても要領を得ない回答ばかりだった。

 ユリシア姉さんやライン兄さんは、そもそも興味がなかったらしく、どんな貴族の子供がいるか聞いても、知らない、で済まされた。エドガー兄さんだけは何か思い当たったような様子だったが、結局言葉を濁された。

 ……いや、その子がどんな貴族の子とかそういうことはどうでもいいのだ。

 ただ、手紙のやり取りの際にちょっと困っているのだ。

 名前が分からなくて、向こうは月銀の妖精とでも呼んでくださいと言っていたが、マリーさんから貴族常識について多少学んでいる俺は知っている。

 その言葉は侮辱を意味するとか。アテナ母さんやクラリスさんの話では、妖精は悪戯こそすれど、クロノス爺たちに逆らったりとかしないし、するとしても天使と悪魔くらいだとか言っていた。

 ……いや向こうがいいと言っているのだし、と迷ったりしていて、結構面倒なのだ。数少ない可能性だけど、向こうは侮辱で使われていることを知らないかもしれないし。

 なので、データの手紙とは別の、個人的なちょっとしたやり取りをする手紙を書く際に困っていたのだ。

 クラリスさんが提案したことなのだが、分かりやすいデータ意見だけでなく、ちょっとした世間話からの方が、日常的でいいアイデアが浮かぶのでは? と言われたため、確かに、と思って直接手紙のやり取りをしている。

 俺はここ最近新たに作り出した、点字と文字を同時に打ち込む魔道具式のタイプライターを使い、向こうは通常のタイプライターを使う。

 最初は、俺が薄い金属板に点字を掘り込んでいたのだが、それも面倒だなと思い、そういえば前世で点字専用のタイプライターがあったよなと、ヤンキーな君と白杖のガールの漫画を思い出した。

 ただ、仕組みやらなんやらが全くもって覚えていなかったので、通常のタイプライターに、紙に無理やり点字の凸を作り出すような形にした。

 そのために、結構面倒な魔道言語やらを用いたので、ぶっちゃけ連結方式や立体構造を使っても、ちょっとした大きさの、分かりやすく言えば持ち運びできなくなったのだ。

 めっちゃ重いし、あれだ、めっちゃ昔のデスクトップコンピューターみたいな。いや、初代の日本語ワープロみたいな大きさだ。あれで、クラリスさんが昔に作った印刷機の構造を利用して、文字と点字を同時に打ち込む形にしている。

 ……めちゃくちゃ消費魔力がでかすぎて、たぶん常識的に考えてもめっちゃ魔力量の多い俺でも、千文字近く打ち込めば魔力が尽きてしまうほどだ。

 最近まで魔力量が上がりすぎてめっきり枯渇による成長がなかったのだが、今はぐんぐんと上昇している。

 それに魔道具だけではなく、使っている紙もアカサ・サリアス商会に頼んで発注してもらった特注のため、まぁ実用には向いていない。

 俺専用の魔道具となっている。

「……いや、いやさ、現実逃避はやめようかな」

 まぁそんなことはどうでもいい。どうでもよくはないが、目の前のことに比べたら些細な問題だ。改良していけばいい話なのだから。

 ……やっぱり疲れているのかな。

 ここ二週間はずっと雨だったけど、色々と動いていたし。疲れていたのは確かなのだ。

 それで久しぶりの気持ちのよう晴天だったので、丁度いいと思い、植木鉢三つと一緒に屋根で日向ぼっこしていたのだ。

 そして少しだけ寝入ったのだ。

「アルー、アルー」
「リュネー、リュネ―」
「ケンー、ケンー」

 起きた今、やっぱり疲れているのかなと、何度も目をこすった。うん、夢なんだろう、と思って何度も目を瞑って横になった。

 けど、けど、結局変わらなかった。

 胡坐をかきながら呆然としている俺の膝や肩、手の上ではしゃいでいる謎の生物は全くもって消えなかった。い続けたままだった。

 横に置いてあった三つの植木鉢から、トリートエウの子が消えているのも変わらなかった。

「……えっとさ、ピク〇ン?」
「アル?」
「リュネ?」
「ケン?」

 いや、引っこ抜かれないし、戦わないと思うんだが……

 丁度手のひらサイズ。

 体は人参とか大根とか……つまり、根っこの体があって、根っこの腕と足もある。色は少し茶色がかった白。

 そんな体に子供が絵具かクレヨンで塗りつぶしたような、グルグルとした感じの深緑の目と、深緑の一本の線――口。

 特に口は、アニメのようにスルスルと線が動いたりしていて、また開くと、中は塗りつぶした深緑のグルグルが見える。マジで塗りつぶした感じなのだ。 

 アル? といった子は、普通体型で、葉っぱは緑。一枚。

 リュネ? といった子は、先細った少しだけ痩せ気味で、葉っぱは黄色。二枚。

 ケン? といった子は、カブのような丸い感じで、葉っぱは紅い。三枚。

 どう考えても仮称、トリートエウの子だったであろう、不思議生物が俺の体を使ってはしゃいでいたのだった。

 ……アテナ母さんたちが驚くって言ってたけど……

 これのことだったのか。
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