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ちょっとした激動の四か月
長く続く雨の日:Land god
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雨降る季節。
けれど、ここ最近は屋敷も町も忙しい足音が響き、雨音が遠のいてしまう。ライン兄さんは白蛇の幻獣、ミズチにべったりだし、ユリシア姉さんやエドガー兄さんも家にいないことが多くなった。
ガビドやソフィアたちも忙しくなり、最近はあまりゆっくり話せていない。アカサも、冒険者が町に増えたこともあり、借宿の手配や死之行進のための商品の仕入れなどで忙しい。
それで暇なので、胎動すら感じられる程にお腹が大きくなったアテナ母さんの傍にいたら、鬱陶しいと怒られた。
既に性別は分かっていて、妹だったこともあり、いや弟でも同じ反応だったのだが、嬉しくて嬉しくて、そして心配で心配で、オロオロとアテナ母さんの周りをうろちょろしていたのだ。
……まぁうろちょろしてたのは悪いと思うが、それでも物を運んだり、扉を開けたり、仕事を少しだけ代わったりとやっていたのだ。
うん、俺偉い。超えらい。……うん。たぶん。
それで、その代わりといってはなんだが、胎動を感じるためにアテナ母さんのお腹に手を当てたり、耳を当てたりしていた。
たぶん、あれが嫌だったんだろうな。だって毎日だし。
俺だってこれはまずいと思っていたのだが、初めての妹だ。前世では、末っ子だったし、俺がお兄ちゃんになるのだ。
まぁ色々張り切っていたのだ。お腹の中にいる頃に唄を聞くと、覚えているとかそんな話も聞いていたので、前世や今世の唄を色々唄いまくっていたのもだめだったのだろう。
家を追い出された。
静かな雨音が草木の匂いを覆い隠し、優しい恵みに包まれているかのような気分を味わう外に追い出されたのだった。
久しぶりに外に出て遊んで来いと。
ただ、俺のもっぱらな遊び相手であるエイダンとカーターは、俺よりも一歳年上だ。そのため、死之行進の体験をさせられる年齢なのだ。
本格的な参加は七歳以上かららしいが、そもそも死之行進が起こるのが四、五年に一度。
ただ、今回はその周期に入っていない。というか、その周期は階層結界を張ったときに、演算して出した周期であり、実測とは違う。
つまり、今回の死之行進は前回から六年経っているのだ。
そのため、大抵五歳を超えてから実践的な訓練や知識を施し、いつ死之行進が起こっても対応できるようにするのだ。
五歳から? と前世の感覚だと疑問というか何というか思ってしまうが、しかしそもそも生きている場所が場所だ。
今においては階層結界があり、死之行進の頻度や被害具合は抑えられているが、それでもいつまでもそれが続くとは限らない。
そもそもアダド森林は大魔境なのだ。それに、今まで問題なかった幻獣が瘴気に侵されるようになってきたらしい。ここ十年近くアダド森林を安定的にし過ぎた反動だとか。つまり、何が起こるのか分からないのだ。
だから、小さなうちから無理にでも生き方と戦い方、逃げ方などを教える必要がある。死之行進の恐怖も。
まぁ長くなったが、そういうわけでエイダンたちは、実践訓練やら実践講義などを体験しているのだ。そして、死之行進を体験するための命令系統とその対応を必死に身に着けているわけである。
それはミズチにべったりなライン兄さんも同様だ。領主の次男だからといって、それが免除されたりするわけではない。むしろ、領主の息子だから厳しくなっていると、ライン兄さんがぐったりしながら愚痴っていた。
俺は、それをマッサージしながら聞いている。たぶん、今日も聞くことになるだろう。
「お前の主人は今頑張っているんだぞ」
「シュルルル」
まぁということで、俺の右腕にはミズチが巻きついている。いや、俺の周りにいると落ち着かないのか、それともやんちゃなのか分からないが、右腕だけでなく身体全体を這いずりまわっている。
そのため、両手が塞がるのだが、〝無の蓮傘〟という無属性魔法で、蓮の葉っぱの形をした透明な傘を頭に浮かべているので、問題はない。
結界魔法と原理は同じなのだが、水を弾いたりする性質を組み込んでいたりしていて、とても面白い。
「けど、だからと言って俺がサボっているわけではないんだよ。ほんとだよ。子供は遊ぶのが仕事なんだから」
「シュ~?」
みんな忙しすぎて俺がごくつぶしに感じるのだ。
……精神年齢が大人なのだから最低限働きたいと思うし、一応物を作ったりしているのでお金は入れている……はずだ。
ただ、ここ最近は新しい物を作ったり、改良したりしても売れない。そもそも、俺は物を創るだけで売ることはできないのだ。
大抵、アテナ母さんやロイス父さんを経由し、アカサ・サリアス商会や自由ギルドに売ってもらっている。
そして彼らが忙しいため、既存の物はまだしも新しいものは無理なのだ。あと、タイプライターとかあっちらへんの事業も、あまり進んでいない。
筆記ギルドとの落としどころが上手くいっていないのだ。それに、その話し合いの基本的な資料を創ったりしているのは俺だが、対応してくれているのはソフィアたちである。
そのため、それも止まっている。俺的には表に出たくないため、いつか信頼できる代理人でも雇おうかと思っているが、未だ四歳児の俺にはその権限はない。
生誕祭を超えれば、もうちょっと自由に動けると思うのだが。
ということで、ここ最近は絵本を描いたり、おもちゃを創ったりと……
あれ? スローライフ的にはこれでいいのでは?
「まぁ、手紙の配達もしてるし、仕事といえば仕事か」
ポンチョの懐に手を突っ込み、手紙を取り出す。
アテナ母さんに外で遊んでくるついでに手紙の配達も頼まれたのだ。エウへの手紙を。
Φ
「ふぅ」
「シュルル?」
「あれ、転移できたのって初めてだった?」
エウから授かっている“神樹の祝福”のおかげで、トリートエウの枝葉が生い茂るあたりから、歩かなくて済むようになっていた。魔力消費など一切なしに転移できるからだ。
けど、ライン兄さんはそれよりも凄く、根っこがあるあたりから転移できるようになっているので、エウやロン爺に会いに、俺以上にトリートエウへと行っているはずだ。
そして、ミズチも一緒に付いていっていると思ったのだが、転移した事に驚いている様子を見ると、初めてだったらしい。
まぁ、いっか。
「ロン爺、いる?」
俺は、木製の鈴で作られた呼び鈴を鳴らす。カランカランと木を叩いた音が雨音の中、響き渡る。
木の鈴なので、普通に考えれば響き渡るなどありえないのだが、これはトリートエウの枝を刳り貫いて作った鈴らしく、音にトリートエウの魔力が共鳴して響き渡る……仕組みらしい。
何度やっても、解析しても意味がわからないのだ。相変わらず、分からないことはとても多い。
「あれ、いないらしい。……どうしよ、ロン爺がいないとエウはでてこない――」
どうも町の方に行っているのか、農地の方へ行っているのか、鈴を鳴らし出てこない様子を見るに、ロン爺はいないらしい。
俺は未だにエウに嫌われているので、俺一人だとエウは会ってくれないのだ。
だから、いったん引き返すかと思って反転したら。
「――……私がなんだって?」
「うわぁっ!」
目の前に、神性な美女がいたのだった。驚いて、尻もちをついてしまう。それと同時にミズチが俺の身体から飛び上がり、神性な美女、エウに飛びついた。
「……ようこそ、ミズチ」
「……俺は?」
「……一生眠ってるなら、歓迎する」
「死んでるじゃん」
ミズチに首筋を舐められ、くすぐったそうに目を細めているエウを見ながら、俺は立ち上がる。
トリートエウの麓のため、雨水で地面は濡れていなかったが、湿気で少しで濡れていて、ポンチョに付いた水滴を払いながら、俺は溜息を吐く。
ホント、どうしてエウってこんなに俺に当たりが強いん――
「――……冗談。ようこそ、セオドラー」
「はぇ?」
と思った瞬間、エウに頭を撫でられた。
そして、エウが俺の目線に合わせるように屈み、額に口づけしたのだった。
……え?
けれど、ここ最近は屋敷も町も忙しい足音が響き、雨音が遠のいてしまう。ライン兄さんは白蛇の幻獣、ミズチにべったりだし、ユリシア姉さんやエドガー兄さんも家にいないことが多くなった。
ガビドやソフィアたちも忙しくなり、最近はあまりゆっくり話せていない。アカサも、冒険者が町に増えたこともあり、借宿の手配や死之行進のための商品の仕入れなどで忙しい。
それで暇なので、胎動すら感じられる程にお腹が大きくなったアテナ母さんの傍にいたら、鬱陶しいと怒られた。
既に性別は分かっていて、妹だったこともあり、いや弟でも同じ反応だったのだが、嬉しくて嬉しくて、そして心配で心配で、オロオロとアテナ母さんの周りをうろちょろしていたのだ。
……まぁうろちょろしてたのは悪いと思うが、それでも物を運んだり、扉を開けたり、仕事を少しだけ代わったりとやっていたのだ。
うん、俺偉い。超えらい。……うん。たぶん。
それで、その代わりといってはなんだが、胎動を感じるためにアテナ母さんのお腹に手を当てたり、耳を当てたりしていた。
たぶん、あれが嫌だったんだろうな。だって毎日だし。
俺だってこれはまずいと思っていたのだが、初めての妹だ。前世では、末っ子だったし、俺がお兄ちゃんになるのだ。
まぁ色々張り切っていたのだ。お腹の中にいる頃に唄を聞くと、覚えているとかそんな話も聞いていたので、前世や今世の唄を色々唄いまくっていたのもだめだったのだろう。
家を追い出された。
静かな雨音が草木の匂いを覆い隠し、優しい恵みに包まれているかのような気分を味わう外に追い出されたのだった。
久しぶりに外に出て遊んで来いと。
ただ、俺のもっぱらな遊び相手であるエイダンとカーターは、俺よりも一歳年上だ。そのため、死之行進の体験をさせられる年齢なのだ。
本格的な参加は七歳以上かららしいが、そもそも死之行進が起こるのが四、五年に一度。
ただ、今回はその周期に入っていない。というか、その周期は階層結界を張ったときに、演算して出した周期であり、実測とは違う。
つまり、今回の死之行進は前回から六年経っているのだ。
そのため、大抵五歳を超えてから実践的な訓練や知識を施し、いつ死之行進が起こっても対応できるようにするのだ。
五歳から? と前世の感覚だと疑問というか何というか思ってしまうが、しかしそもそも生きている場所が場所だ。
今においては階層結界があり、死之行進の頻度や被害具合は抑えられているが、それでもいつまでもそれが続くとは限らない。
そもそもアダド森林は大魔境なのだ。それに、今まで問題なかった幻獣が瘴気に侵されるようになってきたらしい。ここ十年近くアダド森林を安定的にし過ぎた反動だとか。つまり、何が起こるのか分からないのだ。
だから、小さなうちから無理にでも生き方と戦い方、逃げ方などを教える必要がある。死之行進の恐怖も。
まぁ長くなったが、そういうわけでエイダンたちは、実践訓練やら実践講義などを体験しているのだ。そして、死之行進を体験するための命令系統とその対応を必死に身に着けているわけである。
それはミズチにべったりなライン兄さんも同様だ。領主の次男だからといって、それが免除されたりするわけではない。むしろ、領主の息子だから厳しくなっていると、ライン兄さんがぐったりしながら愚痴っていた。
俺は、それをマッサージしながら聞いている。たぶん、今日も聞くことになるだろう。
「お前の主人は今頑張っているんだぞ」
「シュルルル」
まぁということで、俺の右腕にはミズチが巻きついている。いや、俺の周りにいると落ち着かないのか、それともやんちゃなのか分からないが、右腕だけでなく身体全体を這いずりまわっている。
そのため、両手が塞がるのだが、〝無の蓮傘〟という無属性魔法で、蓮の葉っぱの形をした透明な傘を頭に浮かべているので、問題はない。
結界魔法と原理は同じなのだが、水を弾いたりする性質を組み込んでいたりしていて、とても面白い。
「けど、だからと言って俺がサボっているわけではないんだよ。ほんとだよ。子供は遊ぶのが仕事なんだから」
「シュ~?」
みんな忙しすぎて俺がごくつぶしに感じるのだ。
……精神年齢が大人なのだから最低限働きたいと思うし、一応物を作ったりしているのでお金は入れている……はずだ。
ただ、ここ最近は新しい物を作ったり、改良したりしても売れない。そもそも、俺は物を創るだけで売ることはできないのだ。
大抵、アテナ母さんやロイス父さんを経由し、アカサ・サリアス商会や自由ギルドに売ってもらっている。
そして彼らが忙しいため、既存の物はまだしも新しいものは無理なのだ。あと、タイプライターとかあっちらへんの事業も、あまり進んでいない。
筆記ギルドとの落としどころが上手くいっていないのだ。それに、その話し合いの基本的な資料を創ったりしているのは俺だが、対応してくれているのはソフィアたちである。
そのため、それも止まっている。俺的には表に出たくないため、いつか信頼できる代理人でも雇おうかと思っているが、未だ四歳児の俺にはその権限はない。
生誕祭を超えれば、もうちょっと自由に動けると思うのだが。
ということで、ここ最近は絵本を描いたり、おもちゃを創ったりと……
あれ? スローライフ的にはこれでいいのでは?
「まぁ、手紙の配達もしてるし、仕事といえば仕事か」
ポンチョの懐に手を突っ込み、手紙を取り出す。
アテナ母さんに外で遊んでくるついでに手紙の配達も頼まれたのだ。エウへの手紙を。
Φ
「ふぅ」
「シュルル?」
「あれ、転移できたのって初めてだった?」
エウから授かっている“神樹の祝福”のおかげで、トリートエウの枝葉が生い茂るあたりから、歩かなくて済むようになっていた。魔力消費など一切なしに転移できるからだ。
けど、ライン兄さんはそれよりも凄く、根っこがあるあたりから転移できるようになっているので、エウやロン爺に会いに、俺以上にトリートエウへと行っているはずだ。
そして、ミズチも一緒に付いていっていると思ったのだが、転移した事に驚いている様子を見ると、初めてだったらしい。
まぁ、いっか。
「ロン爺、いる?」
俺は、木製の鈴で作られた呼び鈴を鳴らす。カランカランと木を叩いた音が雨音の中、響き渡る。
木の鈴なので、普通に考えれば響き渡るなどありえないのだが、これはトリートエウの枝を刳り貫いて作った鈴らしく、音にトリートエウの魔力が共鳴して響き渡る……仕組みらしい。
何度やっても、解析しても意味がわからないのだ。相変わらず、分からないことはとても多い。
「あれ、いないらしい。……どうしよ、ロン爺がいないとエウはでてこない――」
どうも町の方に行っているのか、農地の方へ行っているのか、鈴を鳴らし出てこない様子を見るに、ロン爺はいないらしい。
俺は未だにエウに嫌われているので、俺一人だとエウは会ってくれないのだ。
だから、いったん引き返すかと思って反転したら。
「――……私がなんだって?」
「うわぁっ!」
目の前に、神性な美女がいたのだった。驚いて、尻もちをついてしまう。それと同時にミズチが俺の身体から飛び上がり、神性な美女、エウに飛びついた。
「……ようこそ、ミズチ」
「……俺は?」
「……一生眠ってるなら、歓迎する」
「死んでるじゃん」
ミズチに首筋を舐められ、くすぐったそうに目を細めているエウを見ながら、俺は立ち上がる。
トリートエウの麓のため、雨水で地面は濡れていなかったが、湿気で少しで濡れていて、ポンチョに付いた水滴を払いながら、俺は溜息を吐く。
ホント、どうしてエウってこんなに俺に当たりが強いん――
「――……冗談。ようこそ、セオドラー」
「はぇ?」
と思った瞬間、エウに頭を撫でられた。
そして、エウが俺の目線に合わせるように屈み、額に口づけしたのだった。
……え?
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