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一年

いつから俺が一人だと錯覚していた?:this fall

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「残り五分だよ!」

 ラハム山にソフィアの声が響く。そして俺の視線の先には俺たち以外の子供たちが捕まり、食糧庫という名の牢屋の中へ入れられている。

 魔黒である冒険者が三人、そこで見張っている。残り二人は俺たちを探し回っているのだろう。

 まぁ、俺たちは、俺が“隠者”や何やらを使って牢屋の真上にある木の上で隠れているので、バレはしないだろう。
 
 にしても凄い怖い。探し回っている方は分からないが、見張っている冒険者たちは仁王像かくやと言うほど恐ろしい形相をしている。しかも、冒険者の一人は、周りを見張るのではなく子供たちの方を睨んでいる。

 なので、牢屋に入っている子供たちが泣き叫んでいる。それはもう、山の隅々まで聞こえるかの如く泣き叫んでいる。引率組の高学年の男子たちがあたふたしながら泣き止ませようと必死になっている。

 それにしても、冒険者さんたち大人げないよな。空から隠れてみていたけど、ほぼ高ランク冒険者の能力をフル活用してたじゃん。まぁ、たぶん、これは遊びというよりなまはげとかそっちの慣習に近い気がする。まぁ、それでいいんだが。

「なぁ、セオ。あと五分だぞ。まだ行かないのか」
「まだ早いよ、エイダン。俺たちの目的を果たすのは、残り二分になってからだよ。向こうは大人げなく魔黒をやっている高ランク冒険者だよ。だから、短期決戦しか勝つ方法はないんだ」

 まぁ、魔術を全開で使えばどうとでもなるが、しかし、エイダンたちの前では見せられても、高ランク冒険者である。彼らは一応、アダド森林で魔物を討伐していたりするので、バレる可能性が高い。

 なので、彼らの前では魔術は使わない方針である。

「それにしても、カーター。俺が教えた事、覚えてる?」
「当たり前だ。僕を誰だと思ってる。あれくらいの魔法、覚えていて当然だし、むしろ改良までしたんだぞ」
「うん、それなら良かった」

 そして木の上で会話をしていたら。

「残り二分!」

 ソフィアの声が聞こえた。

 瞬間。

「――水よ。恵みの水よ。彼の者に飲み水を――〝水飲球〟」

 カーターが木から飛び降りながら、詠唱して魔法を使う。また、俺たちも木から飛び降りる。もちろん、飛び降りる前に浮遊魔術を使った。ただ、もう冒険者たちに見つかってしまったから、魔術は使えない。

 そして、まさか真上から降ってくるとは思いもしなかった冒険者たちの顔には大きな水球が覆っていて、藻掻き苦しんでいる。

 と、しかし、腐っても相手は高ランク冒険者。直ぐに魔力を体内で練って放出し、水球を吹き飛ばす。

 そして、牢屋上にふんわりと着地した俺たちを一斉に取り囲む。また、冒険者の一人が上空に火球を打ち上げる。爆発する。

 仲間を呼んだらしい。なので。

「エイダン! カーター!」
「おう!」
「ああ!」

 エイダンは俺が教えた〝火弾〟を周囲へ打ちまくる。カーターは水の波、〝水波〟を牢屋を起点に全方向へ作り出す。

 その波は俺達と同じくらいの高さの波だ。冒険者たちは、エイダンの“火弾〟に気を取られていたため、思わず足を取られて流され、態勢を崩す。

 と。

「――全てよ凍れ――〝凍結〟!」

 俺たちを探していた冒険者たちがやってきた。そのうちの一人が牢屋の周囲から溢れ出る波を凍らせる。その波はカーターが自分の魔力を水へ変換して具現化したのもだ。

 カーターの魔力よりも強い魔力をぶつけて凍らせる必要がある。だが、カーターの魔力量は意外にも多い。

 それこそ、三、四歳児が扱う魔力量よりもずっと。

 だから。

「おい! 逆に氷を乗っ取られてるじゃねぇか!」

 カーターが半分凍った水も支配下において、更に冒険者たちを流していく。後から来た冒険者たちも若干驚愕を浮かべている。

 それにしてもさっき、教えたばっかりなのに凄いな。魔法の基礎技術がしっかりしてるから、応用がしやすいのもあるだろうが、一回教えただけでここまで使いこなすとは。

 まぁ、だが、相手は歴戦の冒険者。幼児だと舐めていただけである。

 すぐに、刃の潰した武器などを取り出した。本気である。

 なので。

「ふん、不意打ちを喰らっただけだ。今すぐお前たちを捕まえて食べてやる!」

 一応、これは魔黒狩りである。魔黒は子供たちを食べる役なのである。なので、強面を更に怖くして恐ろしい事を言う。

 そして、俺たちに襲い掛かってきた。

 もちろん、エイダンとカーターは魔法が使えても幼児。逃げようとしたが、直ぐに捕まってしまう。

 だけど、俺は違う。

 魔術は使えないが、無魔法は使っても大丈夫だ。俺は無魔法だけは適性があるからな。まぁ、ほとんどの人に無魔法の適性はあるんだが。

 なので、無魔法の一つ、身体強化をめいいっぱいして牢屋の上を跳ぶ。

「残り一分!」

 ソフィアの声が聞こえる。それを聞いて、冒険者のリーダーらしき人物が大声を上げる。

「おい、セオ様があっちに行ったぞ。追え、皆で追って食べてしまおう!」

 そして、軽業の様に近くにあった木々を蹴って跳んで、頑張って役をこなしている冒険者たちの網を抜け、遠くへ逃げ出す。

 エイダンとカーターは捕まり、鮮やかな手つきで牢屋に入れられていた。

 なので、残りは俺一人。魔黒の冒険者たち五人は、全員俺が逃げた方向へと走り出す。

 リーダーらしき男が指示を出して、身軽な格好の冒険者たちが迂回する。そして冒険者たちが牢屋から見えなくなった。

 まぁ、頑張って。

「って事で、みんな逃げるよ」

 今、冒険者たちを追っているのは、俺の分身体である。魔術は使えないが能力スキルは使える。冒険者たちは残り一人だと思えば、全員で追ってくる。何故なら、彼らは大人げなく全力で俺らを追っていたのだ。

 ただ、彼らは大人げないが故に、普段ならしないミスをした。牢屋の周りに誰かを残さなかった事だ。

 子供だからって油断していたのもあるだろう。

「ねぇ、さっきのは?」

 一人の幼い女の子が訊ねてくる。

「あれは俺の分身さ」

 子供たちはわけが分かっていないが驚き喜んでいる。

「さぁ、残り一分もないよ。皆で抜け出そう」

 俺はそんな子供たちに触り一人一人を牢屋の外へと逃がしていく。最初は年長者たちを逃がして、その年長者たちを信頼している子供たちを逃がす。

 そして、子供たちが全員牢屋の外に出た後。

「終了だよ!」

 ソフィアの声がラハム山に響いた。


 Φ


「という事で、勝者は子供たち。しかも、完全勝利だよ!」

 木箱の上に立っているソフィアがそう宣言した。子供たちは大歓声を上げている。勝ったという事実が嬉しいのだ。実際は何がどうなっているかあまり分かっていないだろうが。

「そして、キミたち。覚悟しといてね」

 喜んでいる子供たちの後で項垂れていた冒険者たちに、ソフィアはとても鋭い瞳を向けていた。それを受けて冒険者たちは、更に項垂れる。

 罰ゲームでもあるんだろうか。だったら、冒険者たちが子供相手に本気になっていたのも頷けるが。

「おっさんたち、ドンマイ」
「ああ、僕らを相手にしたのが悪かったんだ」

 と、そんな冒険者たちにエイダンたちがニカッと笑って慰めている。いや、慰めてはいない。普通に煽っている。勝ったことが嬉しくて自慢している。

「……お前らじゃなくて、セオ様に負けたんだ。すっかり、セオ様が分身を出せる事を忘れてた。すまない、皆」
「いや、俺らも我を見失ってた。すっかり、セオ様が一人だと思ってたよ」
「ああ、ホントだ。というか、エドガー様やユリシア様、ライン様がいなかったから油断してた。そうだった。一番、ずる賢くて頭が回るのはセオ様だったのだ」
「ああ、エドガー様やユリシア様は、単純に力で俺たちを押してたけど、ライン様は違かったんだ。そして、そのライン様よりも頭が回るのが」
「はぁ、あまり言うな。どうせ、来年にはセオ様も出禁になるんだ。子供たちが勝ってしまうと、慣習の意味がないからな」

 冒険者たちは何やら負け惜しみみたいな事を言っている。ただ、その言葉がとても昏く低いので、エイダンもカーターも少しだけ気味悪がってる。

 っていうか、出禁?

「ねぇ、ライン兄さんたちが今日いなかったのって」
「あ? ああ、そうだよ。去年やその四年前くらいにエドガー様たちがいたおかげで、子供たちが勝ってしまってな。特に、ライン様の時は、セオ様と同じく完全勝利だ。だが、これは魔物の怖さを教える行事だからな。勝たれると困るんだよ。だから、出禁になった」
「つまり、俺も出禁になると」
「ああ、申し訳ないな。俺たちが弱いばかりに」

 あれ、なんか謝られてた。恨まれるのかと思ったんだが。

「ねぇ、キミたち。帰るよ」

 と、俺が謝られた事で心配になったので、俯いている冒険者たちの顔を覗こうとしたら、ソフィアが少しキレたように言った。

 周りを見渡すと子供たちは既にいなかった。ソフィアが転移させたんだろう。

 なので、残っていたのは俺とエイダンとカーター、冒険者たち、ソフィアさんにクラリスさんだけだった。

 そして、俺たちも転移した。

 それから数日後、俺の初めての収穫祭は終わった。
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