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一年

二人はマスト。三人はベスト。四人は知らん:this fall

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「へぇー。こんなにいたんだ」

 そこはラート町とラハム川を繋ぐ橋の前、トリートエウ丘のとも繋がる橋の前。

 そこに多くの子供たち、下は俺と同じ三歳程度から上は十三歳までの数十人がいた。町なのに数十人しかいないのだが、元々、この町は大人や夫婦の数に比べて子供たちが異常なまでに少ない。

 理由としては、ラート町ができたのもロイス父さんがマキーナルト領を賜った十三年まえくらいで、それまでは小さな村が、幾つか存在していただけだった。

 その村々が常にアダド森林やバラサリア山脈の魔物、グラフト王国やエレガント王国に潜む奴隷商などの脅威に晒されていたので、人口が、特に子供が少なかったのも無理はない。

 因みに何故、その村々がそれらの脅威と戦うために一つの村に纏まらなかったというのと、纏まったら纏まったらで、もし、巨大な脅威がその纏まった村を襲った時に、全て滅んでしまい、子孫が残せなくなってしまうからだ。

 そのため、各村は連携を取りながらも、人数を分散して何とか生き延びてきたのである。

 そして、そこに領地を賜ったロイス父さんとアテナ母さん来て、無理やりマキーナルト領の周りに巨大な城壁と守護結界を創り出し、それらの脅威からある程度遮断した後、数年かけて村を纏めて、ラート町や農耕地帯を作ったのだ。

 また、その後も安定するまでに数年かかったため、町になる前の子供たちは大抵、十五歳に以上になって成人して、今、あそこにいる十三歳くらいの子は町ができたかできてないかで生まれた子である。

 そして、その人数は少ない。

 というか、一番多いのが俺やライン兄さんの同年代で、それ以上の年の子は少ないのだ。

 引退した冒険者や現役の高ランク冒険者たちの誘致が成功し始めたのが、丁度、四、五年前くらいからなので、その時にできた子供たちが必然と多くなるのは当たり前である。

 それにして、もうちょっと少ないと思ったのだが、結構いるな。

 あ、昨日見かけた子供もいる。

 そしてその子供たちに混ざってソフィアがいた。ちょっとしたお姉さんって感じで、混ざっていても違和感がない。

 あと、意図的に集めたのか、強面の冒険者が五人いた。身体が大きくて鋭い目つきと厳つい顔の男たちである。

「あ、セオくん。クラリスくん、よく来たね」

 と、騒がしく慌ただしい子供たちを年長者のお姉さんみたいに、上手に纏めていたソフィアが、俺たちに気が付き、手をふる。

 すると、じゃれ合いやおしゃべりをしていた子供たちが一斉にこっちを向いた。
誰だ、アイツっていう目をしている。特に女の子はそれが顕著だ。

 うん、何か怖い。いや、恐怖とかそういうのではないんだが、うん、何かアレである。気まずいというか何というか。

 それを知ってか知らずか、ソフィアは子供たちの間をすいすいと通り抜けながらこっちにやってきた。

「よくきたね、セオくん。キミで最後だよ。さぁ、あっちにいって。ああ、それとクラリスくん。ちょっと子供たちの面倒見てくれる? 彼らとイベントの最終打ち合わせがしたいからさ」
「うむ、よいぞ」

 そして、忙しそうに俺に笑いかけた後、俺の手を引っ張って、子供たちの集団の中へ押し出した。また、クラリスさんに子供たちの面倒をみるように頼むと、直ぐに強面冒険者の方へ移動した。

 そして、子供たちの中に放り込まれた俺は呆然とする。子供たちの面倒を頼まれたクラリスさんは、直ぐに女の子たちに囲まれていて、俺を見つめるのは男の子だけ。

 っていうか、男の子が少なくないか。男の子と女の子の割合が一対四くらいだぞ。しかも、半分以上は上級生と言ってもいい、十歳前後で、彼らは小さな女の子たちのお守りを任されているのか、クラリスさんの方に行っている。

 つまりここに残っているのは俺含めて三人。

 しかも、女の子たちは年の大きな子はいない。なんでだろう。俺がロイス父さんの資料で見た感じだと、子どもたちの人口の中では女の子たちが過半数以上を占めていて、また、上級生の割合も女の子の方が多かった気がする。

 なのに、上級生の女の子はいないで、小さい子が多い。また、男の子も資料を見た感じだともっといたはずなんだが。

 ん? あれ、そういえば、ライン兄さんたちがいない。子どもたちが集まるイベントってソフィアがいってたからいそうなものだが。

 ああ、でも、ライン兄さんは絵を描きに行ったんだっけ。あれ、でもエドガー兄さんたちは……ああ、そういえば同年代と一緒に収穫祭を周るとかいってたな。

 そうか、あっちに上級生が引っ張られたのか。そして、可哀想にお守りを任された数人の上級生男子がいるだけなのか。

 あれ、でも、俺と同年代くらいの男の子が少ないのは――

「おい、聞いてんのか。というか、目が死んでるぞ!」

 ――という思考は目の前の男の子に顔を叩かれて、止まった。

「おい、生きてるか!? 大丈夫か!?」

 そしてさらにその叩かれた衝撃で倒れた俺の上に馬乗りになり、必死になって肩を揺らしていた。

 見た感じ、年は俺とタメか少し年上か。赤錆色の短髪と瞳でやんちゃそうな子である。

 っていうか。

「い、痛い。生きているから、生きてるから! ゴーグル引っ張るのやめて!!」

 ついには肩を揺らしだけでは飽き足らず、首に下げていた“白尋の目”を引っ張って俺を揺らし始めたのだ。

 それによって俺の首が悲鳴を上げる。叫ぶ声も上げる。ついでに、馬乗りしている赤錆色の男の子をぶっ飛ばす。

「どわぁっ!」

 飛ばされた男の子は尻もちをつく。そして、俺と同時に立ち上がった。

「へへ、よかった、生きてたぜ」

 うん、この子は馬鹿なのだろうか。ぶっ飛ばされてよかったぜとかいうものではないだろう。普通、心配してぶっ飛ばされたら怒るだろう。まぁ、その心配した方法が叩いて馬乗りという物理だったが。

「馬鹿だろ、エイダン」

 と、エイダンと呼ばれた赤錆色の男の子の頭を、後ろから現れた藍色の男の子が引っ叩いた。

「った! 痛いな、カーター! 叩くんじゃねぇよ!」

 叩かれたエイダンは負けじとその赤錆色の瞳でキッと藍色の男の子、カーターを睨み付ける。カーターは見た目は真面目そうで、肩近くまで伸ばしている藍色の髪と鋭い藍色の瞳がそれをさらに加速させる。冷徹そうといったほうがいい。

 あれだ。一人はいるインテリで冷徹な感じのやつだ。

 そのカーターはエイダンの噛みつきに応じることなく、俺の方を見た。

「初めまして、僕はカーター。こっちの馬鹿はエイダン。君は?」

 見た目に違わず自己紹介をしてきた。この年でそれができるとは凄いな。いつもライン兄さんと接しているから忘れがちだが、幼い子どもというのはエイダンみたいにやんちゃで衝動的な子が多い。

 まぁ、馬鹿という言葉を使うからあれだが。

「俺はセオドラー・マキーナルトだよ。セオって呼んでね」

 なので、俺はめっちゃいいスマイルで自己紹介をする。この時からマウント取りは始まっているのだ。まぁ、向こうがその気なので遊んでいるだけなのだが。

「ああ? マキーナルトって領主様のか。ってことはお前が今年で慣習が終わったっていう」

 と、カーターが反応するよりも早く、無視されて唸り声を上げていたエイダンが、急にこっちを向いて怪訝そうに言った。おい、興味の移り変わりが凄いな。

「あ、うん、そうだね」

 一応、頷いておく。

「……それ、嘘だろ。だってお前みたいな間抜けそうな顔がロイス様の息子なわけないだろ。エドガー様やライン様だってカッコいいのにお前だけな。というか、深緑の髪と目なんだから、ハイターのおっさんの息子って方がしっくりくるな」

 失礼な子である。確かに、俺は何故か美形ではないけど。ないけど。

「馬鹿が、失礼だろ。ほら、母さんが言ってただろ。セオドラー様はロイス様とアテナ様の子どもなのか見間違うほど普通の顔だって」

 疑わしそうに俺を見ていたエイダンにカーターがそういう。うん、君も失礼だろ。

 まぁ、俺は大人なのでそんなことで怒ったりはしないが。

「けど、何か間抜けな感じはアテナ様に似てるし、受け答えはロイス様に似てるって言ってたから」

 アテナ母さんは間抜けか? いや、抜けている所はあるが。それに受け答えがロイス父さんに似ているってどういうことだろう。訳が分からん。

 けど、まぁ、いいや。

「……そうか、そういう事なら、よろしくな、セオ」
「うん、こちらこそよろしくね。エイダン」

 俺とエイダンは握手する。これくらい単純だといい。気持ちがいい。

「あ、カーターもよろしくね」
「ああ、よろしくな」

 そして、向こうが手を差し伸べてくるまで俺は待つ。向こうも待つ。

「お前たち、何してんだよ。握手しねぇのか」

 そして一向に握手し合わない俺たちに疑問をもったエイダンが、俺とカーターの右手を無理やり引っ張り、握手させた。

 うん、何か楽しい。
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