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一年

着手の目的:this fall

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 工房が完成した時、俺は魔道具の制作において目標があった方がいいだろうと考えた。

 そのため、前世では夢のまた夢、そしてロマンが詰まったメイドゴーレムが最適だと考えた。だってメイドゴーレムである。人がメイド服を切るのではなく、作られた命がメイドとして存在するのだ。ロマンしかない。

 まぁ、それは置いといて、他にもラート町には高ランクの冒険者や引退した冒険者が多く住んでいる。彼らと話したりすることも多々あり、そこで感じたのはやはりこの世界は甘くないということだ。

 魔法やら能力スキルがあるが、それでも魔物だっている。彼らは戦っていて命を落とすことだってたくさんある。そんな彼らの、特に引退した冒険者の話を聞くと、大抵怪我や欠損で冒険者を引退することを余儀なくされているそうだ。

 怪我を治す魔法もあるが、適性を持つ人が少ない。また、魔道具やアーティファクトも少なく、結局治すことができない。

 ここで、魔術やら俺が治すという手もあるかもしれないが、たぶんそれは意味がないと思う。たった一人や一部の力に依存するような構造を作るといつかは破綻してしまう。

 だからこその魔道具である。

 魔道具は前世でおける機械みたいなものだ。知識さえあれば誰でも作れるように設計されている。

 そして俺が今までこの世界を見たことで感じたが、この世界は魔法や能力スキル、アーティファクトなど技術によらない部分に頼りすぎていると感じる。確かにそれらも使いこなすということでは技術は必要だが、しかし、根本的に才能や運に依存してしまう。

 それ故に魔道具は魔法や能力スキルほど重要視されていない。そもそも、魔道具の歴史は浅く、300年前を起源に発展していった。300年前では蔑視すらされていたのだ。それを変えたのはルール・エドガリスという人物である。

 しかし、今でも魔道具の重要度はそこまで高くない。だが、理論として物事を組み立て、理屈上では誰もがそれを扱うことができるという可能性があるものに注視するべきだと俺は考えている。

 その考えが正しいかどうかはさておき、それ故にまずはプロモーションもかねて、怪我や欠損で引退した冒険者が俺が作った魔道具によってもう一度戦えるまでにするというのが、メイドゴーレムのサブの目的であったりする。

 冒険者は拠点を作ってもそこに留まることはない。旅をして情報を広めてくれる大きな存在である。彼らは大陸どころか世界中を旅するので情報の流動性が高いのだ。
 
 ということで、魔道具の地位向上のためにも彼らに協力してもらうことにしたのだ。

 もちろん、この計画はロイス父さんやソフィアたちにも話してある。俺一人で進められるものでもないからない。

 しかし、今、俺によって発生した面倒事、特に魔術においての処理も手いっぱいだったらしく、ラート町全体の意思として、食い違いや行き違いも多少あったが、それでも順調な滑りだしとなり、ガビドや他の人に協力して今は初期段階の実験データをとっている。

 ただ、ロイス父さんやアテナ母さん、ソフィアがとても協力的だったのは妙だった。なんか、丁度いいっていう感じが透けて見えていた。

 俺の知らないところで別の何かが動いている気がするが、ロイス父さんたちのことである。悪いことにはならないと思っているのでそこまで気にしていない。

 まぁ、そんなこんなでここ二カ月間はライン兄さんの研究の手伝いを息抜きに、義肢、特に義手の制作に取り組んでいた。


 Φ


「終わったよ」
「そうですか。ありがとうございます、セオ様」

 おかしなところはないか義手をばらして点検し、そして丁寧に掃除した。それから、現時点で修正可能な簡易な改良を施し、ガビドの右腕に付けなおした。

 計数時間。もうすでに夕暮れ時だ。

 ただ、まだまだ義手は作り始めたばかりでとても出来が悪かったりする。前世の筋電義手のような性能に近い感じに持っていきたいのだが、とても遠い。

 専門的な議論ができる研究仲間がいればいいのだが、生憎、そこまでの人はいない。ガビドは魔法については高い知見を持っているが、魔道具については普通である。アテナ母さんは最近は別件で忙しく、また、魔法の方が専門なのでどうも違う。

 そもそも、俺は魔道具を独学で学んでいるにとても近いので、その道の専門家に教わってみたいと思うが、アテナ母さんが言うには普通の人では相手にならないとかなんとか。

 難しいのである。

「はぁ」
「どうされましたか、セオ様」
「いや、義手の件で生き詰まっていてね。現時点での俺の実力だと、その義手は改良はできても改造はできないんだよ。俺の知識や経験、発想の不足で新たに作り直すことができないんだよね」

 ガビドは少し考え込みながらうなずいた。

「なるほど。……しかしそれは心配ないかもしれません」
「どういうこと?」
「あくまで噂ですが、アテナ様の元冒険者パーティ仲間であるクラリス様がこの大陸にいらっしゃるそうです。ですので、もしかしたらこの町に訪れるかもしれません。アテナ様とも仲がよろしいらしいですし、彼女は高名な錬金術師でもありますから、セオ様の力になると思いますよ」

 ああ、クラリスさんがいたか。そういえば、まだ“白尋の目”とかのお礼をきちんと言えてなかったな。アテナ母さんが手紙で伝えたと言っていたが、どちらにしろ直接伝えた方がいいだろう。

「確かに。もしかしたら、力になってくれるかもしれない。ありがとう、ガビド。アテナ母さん経由で手紙を送って聞いてみるよ。忙しい身だからもしかしたら、無理かもしれないけど」
「いえいえ。それにクラリス様は子供好きとしても有名です。確実に力になってくれると思いますよ」

 へぇー、そうなんだ。ああ、そういえばアテナ母さんから聞いたけど、孤児院をいくつか運営しているだったけな?

「まぁともかく、帰ったら聞いてみるよ。それと次回はいつ頃がよさそう?」
「いつでも結構ですよ。引退した爺ですので暇を持て余していますから」

 今日は義手の点検で時間を使い過ぎた。も少しで門限に近づいている。

「じゃあ、具体的な日時は追って連絡するけど、三週間後くらいになると思うよ」
「わかりました」
「あ、それと今度は今つけている義手を新しい義手に取り替える予定だから、屋敷の方だと思う」
「……わかりました」

 あ、緊張しているな。ガビドは魔法使いだからアテナ母さんに憧れている部分が多分にあるんだ。前々回の定例でガビドを屋敷に呼んだときは緊張とアテナ母さんと話せた喜びでおかしな感じになっていたし。

 まぁ、大丈夫だろう。

「じゃあ、また今度ね」
「ええ、また今度です」

 俺はコーヒー代をテーブルの上において急いで席を立った。最近、アテナ母さんを怒らせ過ぎたので、門限が厳しくなっているのだ。

 遅れると怖い。

 なので、俺は走った。走って走った。

 夜の帳が落ち始め、町はより一層賑やかになっていた。しかし、俺はそれを気にする余裕もなく、走った。

 ぶっちゃけ、今回は義手の改良まではするつもりはなかったのだ。情報を交換して、点検するだけで終わりのはずだった。しかし、問題点があったからには最低限の改良はしなければならないと思った。

 しょうがない。これはしょうがないことなのである。そんな言い訳を誰にするでもなく、心の中で呟きながら俺は走った。


 Φ


「久方振りかの、この光景を目にするのは」

 夜の帳が完全に落ち、夜天に星々が輝いていた頃。すでに丸坊主となった穀倉地帯の丘で、一人の美女がラート町を見下ろしていた。
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