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一年
ロマンと言ったらロマン:this fall
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「ていうか、もう既に起こってるんでしょ、それ」
「うん、そうなんだよね。全てここ数日の事なんだけど。ホント、彼らって何でこう早く詐欺の手口を考え付くんだろう」
「そう言う人たちなんじゃない? まぁ、分かったよ。偽名ね、偽名」
名前を残すことが嫌だったのだがしょうがない。俺は良さそうな名前を考える。
うーん。名前ね。こう、何か考えるとあまり思いつかない。
………………
もういいや。
「ツクル。ツクルっていう名前で登録する」
前世の名前でいい。何か色々と思いついたけど、厨二っぽくていやだし、俺が覚えづらいのもいやだ。なら、前世の名前でいいだろう。
「ツクルね。わかったわ。ソフィアに連絡しておくわ」
「よろしく、アテナ母さん」
ロイス父さんは別の用事が入っているのかアテナ母さんがソフィアに報告するようだ。
「でも、後から名前って入れられるの?」
「そこらへんは問題ないわ」
「うん、そうだね。自由ギルドと掛け合ったから問題ないよ」
「……ありがとうございます」
俺は頭を下げる。掛け合ったといったが面倒をかけてしまったのは間違いない。
と、そう思ったら下げた頭がわしゃわしゃと撫でられた。くすぐったい。
「お礼なんていいのよ」
「そうだよ。でも、どういたしまして」
顔を上げればロイス父さんとアテナ母さんが綺麗な笑顔を浮かべていた。
……何か恥ずかしくなってきた。照れくさい。そう思った。
Φ
数日後、俺は町に出ていた。ようやく、貴族たちへの返事を書き終えたのだ。エドガー兄さんやライン兄さんがラブレターの返信を嫌がっていたのが分かった。
とても面倒くさいのだ。貴族に対しての手紙は遠回しに回りくどく根回しを。まぁ、同じ意味を三回も使ってしまうくらいややこしいのだ。形式が重要でまた、送る相手ごとに言い回しを変えなければならない。とてつもなく面倒くさかった。
しかし、それももう終わった。今頃は自由ギルドの貴族連絡網の波に乗っかり、手紙が輸送されているだろう。昔から自由ギルドと密の関係を結んでいるエレガント王国は自由ギルドから貴族用の速達連絡網システムを買っているのだ。
なので、エレガント王国内においての貴族たちの情報収集速度はとても速かったりする。
こう考えると自由ギルドって凄いよなと思ったりもする。
まぁ、それはおいといて、俺は賑やかで慌ただしい町のするすると歩いていく。例の騒動があったので“隠者”を使い気配やら何やらは隠している。見つかると面倒だしな。
それから町の中央広場に出る。そこには既に多くの屋台が立ち並び美味しそうな料理の匂いが漂っている。また、吟遊詩人の歌や音楽、酔っぱらって踊っている冒険者、あちらこちらでは喧嘩や賭博の掛け声も響いている。
収穫祭が始まるまでまだ二日あるのだが、抑えきれないのだろう。特に問題があるわけでもないので、このままでもいいだろう。
俺は少し嬉しい思いでそれを見ながら、自由ギルドに入っていく。それから、受付嬢に用を話し、紹介された個室へと向かう。
そしてその個室にはフード付きのマントを身に着けた白髪の老人が、四角いテーブルに腕を突っ伏しながら座っていた。俺はその正面に座る。
「どう、調子は?」
「おかげさまで良好です」
俺の呼びかけに起き上がった彼はガビド。元冒険者の魔法使いであり、今は俺の魔道具制作の協力者である。
「それと、いつも通りのを頼んでおきました」
「ありがとう、ガビド」
長髪の白髪が少し目にかかって鬱陶しそうである。前にも切ったらといったのだが、どうにもこっちの方がカッコいいからと切らない。
「もう一度言うけど、その前髪、切ったら?」
「いえいえ、私のトレードマークを切るなどとんでもございません。むしろ、セオ様こそ、その”白尋の目”を首からかけるのは御止めになった方がよろしいかと。いつか、首をしめますよ」
おっと。それはノーコメントだ。ぶっちゃけここ数か月間、“白尋の目”を首から下げていないと落ち着かないのだ。それに何か首から鈍い光を放つゴーグルを下げるってかっこいいし。
まぁつまりお互い様である。
そうして、お約束の様にいつものやり取りをしていたら、個室に給仕姿の男性が入って来た。
「ご注文の品です」
「ありがとう」
「ありがとう」
俺とガビドは俺達の前にコップを置いた給仕人にお礼を言う。
俺のは甘々のコーヒー。残念ながら練乳はない。ガビドのはここで給仕される中でも高級な部類に入る紅茶。その紅茶の優しい香りとコーヒーの炒った香りが混ざりあい、なんとも言えない匂いが俺の鼻孔をくすぐる。何か嫌だ。
なので、瞬時に風魔術でコーヒーと紅茶の匂いが混ざらないような対流を作る。因みに、ガビドは俺の研究協力者なので契約の元、魔術についてはあらまし話している。ソフィアたちの推薦なので問題はないだろう。
そうして互いに満足がいく空間の中で互いが好きな茶を楽しむ。コーヒーは茶かどうかは知らないが。
うん。やっぱり甘いコーヒーは旨い。苦いのも好きだけどやはり慣れ親しんだ甘いコーヒーは最高である。ここに練乳が入っていれば前世での鉱物と同じになるのだが、生憎色々あって入手ができていない。
「さて、では今回の報告書です」
と、一息ついたガビドが上品にティーカップを机に置き、隣に置いてあったカバンから紙の束を出してきた。
「うん。確かに受け取ったよ」
俺はそれを受け取りパラパラとめくって目を通す。
「……やっぱり凡庸性には欠けるのか」
「ええ、はい。日常生活全般においての加減が難しいです。私も魔力操作には自信がありましたがそれでもほんの一滴程度の魔力量でも力が変わってしまいます」
そうか、極小の魔力でも差が出てしまうとは。
「とすると、魔力伝達効率を下げた方が良さそうかな」
「確かに。魔力効率は落ちると思いますが……いや、しかしそれだと操作性が落ちるやもしれません」
「そうなんだよね。結局、緻密な操作性を必要とするから魔力が滞るとそれもできなくなるしなぁ」
やはりそこら辺の調整で詰まってくるか。
「まぁ、そこはおいおいだね。それより間接の方はどう? 関節の場合はある程度大雑把でも調整は利くから、球体から歯車の方に変えたんだけど」
球体だと精密性が上がるが、魔力操作の精度がかなり必要となってくるのだ。
「ええ、こっちの方が使いやすいです。歯車を多重構造にしたおかげで、かなりの精密性を出せますし、魔力での直接操作をする必要はないので、意識もそこまで使いません。ある程度自由に曲げ伸ばしができます」
やはりか。間接の場合は筋を引っ張るか引っ張らないかで曲がったり伸びたりするようにしたからな。一応、人体もそんな感じだし。
「ただ、感覚的ですが少しだけカクンカクンしていると言いますか、スムーズではないですね」
「うん、それは歯車の調整をするよ。それで、現状では実用化は難しそうかな?」
「……私レベルの魔力操作ができるのであれば、それなりには使えると思います。しかし――」
「――そうなんだよね。結局、そこまでの腕がある魔法使いなら別の手段で解決できるからね」
そもそも、ガビドは冒険者ランクが金の魔法使いである。数が少ない。
「と、軽い情報交換はここまでにして点検と改良をしていくよ」
「ええ、お願いいたします」
今日の目的は経過情報を手に入れることだけじゃない。点検もあるのだ。
なので、俺はガビドの右隣に行く。ガビドは右腕の服をたくし上げる。
「じゃあ、外していくよ」
「よろしくお願いします」
ガビドの右腕は義手であった。鈍く光る深緑色の金属がマテリアルチックに輝いている。
俺は首から下げていたゴーグルを顔にかけ、“宝物袋”から取り出した工具を使って、ガビドの右腕にある義手を取り外していくのだった。
俺は今、義肢の制作に乗り出している。全ては男のロマン、メイドゴーレムを作るために。
「うん、そうなんだよね。全てここ数日の事なんだけど。ホント、彼らって何でこう早く詐欺の手口を考え付くんだろう」
「そう言う人たちなんじゃない? まぁ、分かったよ。偽名ね、偽名」
名前を残すことが嫌だったのだがしょうがない。俺は良さそうな名前を考える。
うーん。名前ね。こう、何か考えるとあまり思いつかない。
………………
もういいや。
「ツクル。ツクルっていう名前で登録する」
前世の名前でいい。何か色々と思いついたけど、厨二っぽくていやだし、俺が覚えづらいのもいやだ。なら、前世の名前でいいだろう。
「ツクルね。わかったわ。ソフィアに連絡しておくわ」
「よろしく、アテナ母さん」
ロイス父さんは別の用事が入っているのかアテナ母さんがソフィアに報告するようだ。
「でも、後から名前って入れられるの?」
「そこらへんは問題ないわ」
「うん、そうだね。自由ギルドと掛け合ったから問題ないよ」
「……ありがとうございます」
俺は頭を下げる。掛け合ったといったが面倒をかけてしまったのは間違いない。
と、そう思ったら下げた頭がわしゃわしゃと撫でられた。くすぐったい。
「お礼なんていいのよ」
「そうだよ。でも、どういたしまして」
顔を上げればロイス父さんとアテナ母さんが綺麗な笑顔を浮かべていた。
……何か恥ずかしくなってきた。照れくさい。そう思った。
Φ
数日後、俺は町に出ていた。ようやく、貴族たちへの返事を書き終えたのだ。エドガー兄さんやライン兄さんがラブレターの返信を嫌がっていたのが分かった。
とても面倒くさいのだ。貴族に対しての手紙は遠回しに回りくどく根回しを。まぁ、同じ意味を三回も使ってしまうくらいややこしいのだ。形式が重要でまた、送る相手ごとに言い回しを変えなければならない。とてつもなく面倒くさかった。
しかし、それももう終わった。今頃は自由ギルドの貴族連絡網の波に乗っかり、手紙が輸送されているだろう。昔から自由ギルドと密の関係を結んでいるエレガント王国は自由ギルドから貴族用の速達連絡網システムを買っているのだ。
なので、エレガント王国内においての貴族たちの情報収集速度はとても速かったりする。
こう考えると自由ギルドって凄いよなと思ったりもする。
まぁ、それはおいといて、俺は賑やかで慌ただしい町のするすると歩いていく。例の騒動があったので“隠者”を使い気配やら何やらは隠している。見つかると面倒だしな。
それから町の中央広場に出る。そこには既に多くの屋台が立ち並び美味しそうな料理の匂いが漂っている。また、吟遊詩人の歌や音楽、酔っぱらって踊っている冒険者、あちらこちらでは喧嘩や賭博の掛け声も響いている。
収穫祭が始まるまでまだ二日あるのだが、抑えきれないのだろう。特に問題があるわけでもないので、このままでもいいだろう。
俺は少し嬉しい思いでそれを見ながら、自由ギルドに入っていく。それから、受付嬢に用を話し、紹介された個室へと向かう。
そしてその個室にはフード付きのマントを身に着けた白髪の老人が、四角いテーブルに腕を突っ伏しながら座っていた。俺はその正面に座る。
「どう、調子は?」
「おかげさまで良好です」
俺の呼びかけに起き上がった彼はガビド。元冒険者の魔法使いであり、今は俺の魔道具制作の協力者である。
「それと、いつも通りのを頼んでおきました」
「ありがとう、ガビド」
長髪の白髪が少し目にかかって鬱陶しそうである。前にも切ったらといったのだが、どうにもこっちの方がカッコいいからと切らない。
「もう一度言うけど、その前髪、切ったら?」
「いえいえ、私のトレードマークを切るなどとんでもございません。むしろ、セオ様こそ、その”白尋の目”を首からかけるのは御止めになった方がよろしいかと。いつか、首をしめますよ」
おっと。それはノーコメントだ。ぶっちゃけここ数か月間、“白尋の目”を首から下げていないと落ち着かないのだ。それに何か首から鈍い光を放つゴーグルを下げるってかっこいいし。
まぁつまりお互い様である。
そうして、お約束の様にいつものやり取りをしていたら、個室に給仕姿の男性が入って来た。
「ご注文の品です」
「ありがとう」
「ありがとう」
俺とガビドは俺達の前にコップを置いた給仕人にお礼を言う。
俺のは甘々のコーヒー。残念ながら練乳はない。ガビドのはここで給仕される中でも高級な部類に入る紅茶。その紅茶の優しい香りとコーヒーの炒った香りが混ざりあい、なんとも言えない匂いが俺の鼻孔をくすぐる。何か嫌だ。
なので、瞬時に風魔術でコーヒーと紅茶の匂いが混ざらないような対流を作る。因みに、ガビドは俺の研究協力者なので契約の元、魔術についてはあらまし話している。ソフィアたちの推薦なので問題はないだろう。
そうして互いに満足がいく空間の中で互いが好きな茶を楽しむ。コーヒーは茶かどうかは知らないが。
うん。やっぱり甘いコーヒーは旨い。苦いのも好きだけどやはり慣れ親しんだ甘いコーヒーは最高である。ここに練乳が入っていれば前世での鉱物と同じになるのだが、生憎色々あって入手ができていない。
「さて、では今回の報告書です」
と、一息ついたガビドが上品にティーカップを机に置き、隣に置いてあったカバンから紙の束を出してきた。
「うん。確かに受け取ったよ」
俺はそれを受け取りパラパラとめくって目を通す。
「……やっぱり凡庸性には欠けるのか」
「ええ、はい。日常生活全般においての加減が難しいです。私も魔力操作には自信がありましたがそれでもほんの一滴程度の魔力量でも力が変わってしまいます」
そうか、極小の魔力でも差が出てしまうとは。
「とすると、魔力伝達効率を下げた方が良さそうかな」
「確かに。魔力効率は落ちると思いますが……いや、しかしそれだと操作性が落ちるやもしれません」
「そうなんだよね。結局、緻密な操作性を必要とするから魔力が滞るとそれもできなくなるしなぁ」
やはりそこら辺の調整で詰まってくるか。
「まぁ、そこはおいおいだね。それより間接の方はどう? 関節の場合はある程度大雑把でも調整は利くから、球体から歯車の方に変えたんだけど」
球体だと精密性が上がるが、魔力操作の精度がかなり必要となってくるのだ。
「ええ、こっちの方が使いやすいです。歯車を多重構造にしたおかげで、かなりの精密性を出せますし、魔力での直接操作をする必要はないので、意識もそこまで使いません。ある程度自由に曲げ伸ばしができます」
やはりか。間接の場合は筋を引っ張るか引っ張らないかで曲がったり伸びたりするようにしたからな。一応、人体もそんな感じだし。
「ただ、感覚的ですが少しだけカクンカクンしていると言いますか、スムーズではないですね」
「うん、それは歯車の調整をするよ。それで、現状では実用化は難しそうかな?」
「……私レベルの魔力操作ができるのであれば、それなりには使えると思います。しかし――」
「――そうなんだよね。結局、そこまでの腕がある魔法使いなら別の手段で解決できるからね」
そもそも、ガビドは冒険者ランクが金の魔法使いである。数が少ない。
「と、軽い情報交換はここまでにして点検と改良をしていくよ」
「ええ、お願いいたします」
今日の目的は経過情報を手に入れることだけじゃない。点検もあるのだ。
なので、俺はガビドの右隣に行く。ガビドは右腕の服をたくし上げる。
「じゃあ、外していくよ」
「よろしくお願いします」
ガビドの右腕は義手であった。鈍く光る深緑色の金属がマテリアルチックに輝いている。
俺は首から下げていたゴーグルを顔にかけ、“宝物袋”から取り出した工具を使って、ガビドの右腕にある義手を取り外していくのだった。
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