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一年

嫌われた理由:this summer

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「え?」

 何で急にライン兄さんたちに睨まれるんだ?

「ねぇ、俺なんかした!? ライン兄さんたちに嫌われるようなことした!?」

 いやなんだが。俺の自慢の兄さんたちに嫌われるとか嫌なんだが。

 しかし、その言葉がさらに油を注いだのか、既に親の仇レベルだった憎む瞳がもはや、人殺しの様な瞳で見てくる。

 とても悲しい。

「ねぇ、ロイス父さん。どういうこと? ねぇ!?」

 それが嫌で、苦笑しているロイス父さんの足をゆっさゆっさと揺らし、問いただす。ライン兄さんたちは答えてくれなさそうだし。

「あはは」

 しかし、ロイス父さんも答えてくれない。気まずい感じに苦笑している。

 その代わりに、今まで傍観していたアテナ母さんが答えた。

「セオ、ここ数ヶ月、何をしてたかしら?」
「はぁ?」

 急におかしなことを聞かれた。俺はライン兄さんたちに嫌われた理由が知りたいんだが。

 しかし、アテナ母さんがそんな無駄な事をする筈ないので、たぶんその質問は理由に関係しているのだろう。

「何って……」

 ただ、ここ数か月間は普通に過ごしていただけだし、いつも通り、小さな変化を積み重ねてきただけである。特段、何かをしたわけではない。

 ましてや、二人に嫌われることなどしていない。

「そうね、質問を変えましょうか。三か月前に町に出るようになってから、セオは何を始めたかしら?」
「ん?」

 町に出てから……

 熟考する。

「魔道具を売り出した?」

 町に一番で変わった事は自分で金銭を得ることができた事である。それは魔道具作りを本格的に始めたからで。

 そして何となく話が掴めてきた。

「それで、売れた。それはもう供給が追い付かないほどに」
「そうね。話が分かってきたかしら」

 そう、急激に新商品を売り出し、それが少なくともエレガント王国内で流行り出したのは確実。

 使っている材料自体は安物が多く、それによって利益を高く得ている。アカサが自慢していた。特に販売経路にはこだわったそうだ。

「でも、じゃあなんで家に」

 そしてそれによって、アカサ・サリアス商会はさらに利益を上げ、事業を拡大している。工場も新たに作っているという話だし、有望な錬金術師などのひよっこを青田買いしているとも聞いている。

 今は落ち着いて力をつけるべきだと。丁度いい機会だと。

 しかし、それはアカサ・サリアス商会である。

 製作者である俺の名前は出ないように契約を結んでいるし、そもそも彼ら彼女らがその契約を破るわけはないし、ミスするわけもない。

「馬鹿ね。アカサ・サリアス商会の本店はどこにあるのよ。そもそも、王都にある支店は一応、スパイ活動とかがあってある程度行動は制限されているのよ」

 企業秘密などが匿いにくいのか。技術者が開発し難い環境ってことである。そう言えば、前にアカサが言っていた。王都の支店は主に販売専用の支店で、こっちにある方が事業の元を行っていると。

「つまり、開発などのスパイとかが入ってきにくいこっちで行われていると?」
「そう思われたのよ。そして、うちが一番お得意としていて、お得意とされている」

 確かに、アカサ・サリアス商会は家の生命線といっても過言ではない。大抵のものは彼らから仕入れているのだから。

 そして彼らはうちと共に発展してきた。

「それで必ず、マキーナルト家が関わっていると? 別に技術提供とかでなくても、出資とかそう言う形で?」

 俺がそう言ったら、アテナ母さんは満足げに頷いた。

 つまり、家と縁を繋ぐことができればアカサ・サリアス商会の情報を探ったり、その利益の恩恵が受けられると。一枚どころか数十枚もかめるわけだ。

 特に、冒険者を擁護しているエレガント王国の貴族は確かにそう思うだろう。アカサ・サリアス商会は冒険者向けの商品を多く取り扱っているので、それらの商品を融通してもらえるだろうし。

 もちろん、それ以外の商品も多く取り扱っている。

 しかも、俺が開発した魔道具は貴族でなくても、多少なりとも裕福な庶民なら買えるくらいの値段で、しかも生活品が多い。

 需要が馬鹿みたいに上がったのだろう。

「ん? でもさ、俺が魔道具をアカサたちに提供しなくても、あそこって結構儲かってたよね。冒険者関連のは昔からだしてたし。なんで、急に増えたの?」

 というか、ロイス父さんとアテナ母さんはエレガント王国にとって英雄である。そんな英雄と縁を作りたいと思っていた貴族の人たちは昔からいたはずだ。

「まぁ、それはちょっと説明しにくいんだけど、色々と重なったのよね。セオが作った魔道具と、政治上の動きが。それで、余計にって感じね」

 ふーん。

 ……はぐらかされた気がする。政治上の動きってなんだろう? 

 ただ、それをアテナ母さんに目で問うても、にこやかに笑っているだけで答えてはくれなさそうである。
 
 ロイス父さんの方も見るが、そちらも答えてはくれなさそう。

 まぁ、いっか。もし気になれば、アカサやソフィアたちに聞けばいいし。

「で、結局、ラブレターっていうか縁結びの手紙が増えたのは俺が原因ってことで、エドガー兄さんたちが怒っていると?」
「まぁ、そうね。っと言っても、別にセオが悪いわけではないわよ。ただただ、タイミングが悪かっただけで」
「はぁ。……でもさ、別に下心があってもそんなに大量にラブレターを貰っているんだから喜べばいいじゃん」

 前世の俺なんて、ラブレターを貰った事なんか一度もないし、そもそも……

 うん。やめよう。この話は俺を蝕む。

 だが、そう思ったのは俺だけで、エドガー兄さんたちはその言葉を聞いた瞬間、悪鬼羅刹の如く俺を睨んだ。

「セオ、お前は分かっていないんだ! あの、恐ろしさが。目の前で俺と同じくらいの女性が互いに陰湿に罵り合いをしている恐ろしさが!」
「そうだよ、セオ! 急に腕を組まれたり、何やってもキャー!しか言わない女性たちの怖さが! 自分だけ変な世界に放り込まれた感じだよ!」

 うん。二人とも女子慣れしていなかったんだな。いや、まぁ、当たり前か。ここって町ではあるけど、いるのって大抵冒険者が多くて、同年代も少ないと聞くし。

 そもそも、長命種が多いのも理由だ。彼らって子供をあんまり作らないし。

 そして、身近にいる女子はユリシア姉さんやレモン達くらいである。そもそも、レモン達に関しては完全に年上だし。

「でも、ライン兄さんはともかく、エドガー兄さんはよく、貴族のパーティーに行ってるじゃん。何で急に?」

 マキーナルト家を継ぐ長男としてエドガー兄さんは貴族のパーティーとかによく出席している。顔つなぎやパイプを作るためである。

 そこで英雄の家系なのだから、それなりに縁を結びたい貴族たちの相手をしていたはずなんだが……

「いつもは、ユリシアが一緒にいたからな」

 それだけ言ってエドガー兄さんは自虐的に笑った。

「ああ」

 納得いった。

 ユリシア姉さんってそういう場では強カードだから。陰湿なというか、ネチネチしているのを本気で嫌うからな。

「でもさ、エドガー兄さんはロイス父さんの後を継ごうと思っているだよね? だったら、そういうのを卒なく熟せるようにならないと意味なくない? むしろ、感謝して欲しいんだけど」
「チッ」

 そう言った瞬間、エドガー兄さんは苦々し気に舌打ちする。感謝したくはないが、図星なのだろう。

「あまり、言ってはいけないわ。エドガーはね、普通の女の子相手は問題ないのよ。ただ、まぁね」

 うふふ、と楽しそうにころころと笑う。とても嬉しそうである。

「はぁ? どいう事?」

 何がどうしたんだ? 意味が分からない。

「その疑問は二年後に分かると思うよ」

 楽しそうに笑うアテナ母さんは答える気はなさそうで、だから、ロイス父さんが答える。それは答えではなかったが。
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