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五章 動乱

二十七話 行ってくる

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「え、直樹くんたち何でいるのッ!? もしかしてここ地球なの!?」
「っというか、烏丸先生がいるッ!?」
「む。だが、聞いていた地球とは違う場所のようなのだが……」
「っというか、ショウさんは!? ナオキとダイスケがいるということはショウさんがいるということでしょうっ?」

 灯と麗華は直樹と大輔、あと郭がいることに驚愕し、グランミュールは事前に聞いていた地球の様子とかけ離れた現状に困惑している。

 そして、超絶優秀な頭脳で状況を飲み込んだレースノワエは、翔はどこだと叫ぶ。

「って、本当にヤバい! 死んじゃうッ! ええっと、“聖療域”ッ!! それから〝恵魂〟! 〝廻刻〟ッ! 〝黄泉還り〟ッ!」
「はぁ、仕方ない」

 対して黒髪シスター姿の慎太郎は慌てて特別な領域を創り出す結界を張り、思わずぶっ殺してしまった天使と悪魔の魂魄を保護し、時の巻き戻しによってその肉体を再生し、蘇生を施していた。

 ツヴァイは少し呆れた様子で、けれどそれこそ我が愛すべき存在だと言わんばかりに慎太郎を抱きしめ、それから蘇った天使と悪魔たちに猛烈な殺気を叩きつけて天使と悪魔の動きを封じていた。

 カオスだ。

 しかし、直ぐに事態は動く。

「異界の者かッ! しかし、ちんが恐れるに足らずッ!!」
「ちょっ!?」

 灯たちに吹き飛ばされた海外の化生の中でも一際ひときわ大きな覇気を放つ巨大な蛇が灯たちに向かって咆哮ほうこうを放ったのだ。

 その咆哮は空間どころか、時すらも揺らすほどの衝撃を伴っていて、触れたら時空の彼方へ消し飛ばす猛威もういを秘めていた。時空間衝撃波。

 灯たちは思わず頬を引きつらせ、慌ててそれを防ごうとする。

 が、その前に。

「<虚空破浪>」
「<静時>」

 紳士な男性の声と可愛らしい少女の声が響いたかと思うと、灯たちの目の前の空間が突如として歪み、その歪みが波となる。その波に全ての時を制止させる力が上乗せされた。

 そしてそれは時空間衝撃波の咆哮とぶつかり、相殺される。

 色々と目まぐるしく動く事態に混乱していたティーガンが驚愕の声を上げる。

「プロクルっ、クロノアッ!? お主ら何故ここにいるんじゃっ!?」

 そこには紳士服を着こなし上品な中折れハットを被ったプロクルと、白を基調とした少女趣味ガーリー系の服を纏ったクロノアが蝙蝠の翼を生やし、夜空に佇んでいた。

 二人は驚くティーガンに顔を向ける。

「何故って、日本が危機的状況だからですよ、ティーガン」
「ん。それにティーガンがピンチだった」

 プロクルとクロノアがそう答えた瞬間、

「なんだよ、なんだよ!」

 駄々をこねた少年の声が響いた。

 ルシフェルである。

「こう次から次へと知らない存在が現れるの!? どうなってるの!?」

 漆黒の翼を羽ばたかせながら、ルシフェルは器用に空中で地団太を踏む。それからプクーっと頬を膨らませて唇をとんがらせる。

「いいもんッ! そっちがその気なら僕だって少し本気を出すもんッ!」

 そう言いながらルシフェルは両手を空に掲げた。

 同時にルシフェルの頭上にどす黒い光を放つ巨大な球体が現れた。それは、世界中の憎しみを集めたかのように醜く悍ましい。

 そしてそれは余りにも強いエネルギーと存在感を放っており、大輔たちは思わず動きを止めてしまう。

 それが致命的。

「行けッ、大きな憎しみッ!!」

 そのどす黒い巨大な球体が地上に向かって放たれた。

 それはまるで、日本そのものを一瞬で破壊するほどの力を秘めていて。

 故に、その場にいた全員の脳裏に最大級の警戒音が響き、無我夢中で動き出す。

「ッ、間に合えッ!!」
「間に合いやがれッッッ!!!」
「<巨天血竜>ッッッ!!」
「<天血楔封獄てんちせっぷうごく>ッッッ!!!」
「神の守りよッッッ!!!」
「〝星魔天〟ッッ!!」
「〝過速天閃〟ッッッ!!」
「極大霊咆哮ブレスッッッ!!」
「〝剛覇武斧〟ッッッ!!」
「〝神絶〟ッッッ!!!」
「<虚嵐>ッッッ!!!」
「<刻絶>ッッッ!!!」

 大輔は豪速でそのどす黒い巨大な球体の真下に割り込み、進化する黒盾フェンダゴンを展開。同時にどす黒い巨大な球体を相殺する力を想像し、“想像付与”と“錬金術”で進化する黒盾フェンダゴンにその力を付与して、抵抗しようとする。

 直樹は血涙を流しながら“空転眼”を発動させ、巨大な転移門を作り上げ、どす黒い巨大な球体を転移させようとする。

 ティーガンは巨大な血の竜を創造し、どす黒い巨大な球体を受け止めようとする。

 ウィオリナは死之怨巨鬼神しのおんおおきがみを封印した封印術を行使し、そのどす黒い巨大な球体を封印しようとする。

 郭は神の守りを作りあげ、地上を保護しようとした。

 灯はブラックホールすら生ぬるい超強力な重力球体を作りあげ、どす黒い巨大な球体を吸い込もうとする。

 麗華は時を超越する速度で移動し、腰に差していた刀を抜刀。どす黒い巨大な球体を切断しようとする。

 グランミュールはスゥッと息を吸い込み、口から極光ブレスを放ち、どす黒い巨大な球体を貫こうとする。

 ツヴァイは、背中に背負っていた戦斧を数十メートルにまで巨大化し、どす黒い巨大な球体へ振り下ろす。

 慎太郎は神の攻撃すらも防ぐ結界を張り、どす黒い巨大な球体を食い止めようとする。

 プロクルは虚のエネルギーを暴走させ、どす黒い巨大な球体にぶつける。

 クロノアはどす黒い巨大な球体の時を隔絶し、そのまま時空の彼方へと消し飛ばそうとする。

 が、しかし、

「無駄だよッ! だって僕たちのおかげで世界中の存在がこの大地日本を憎んでいるんだよッ! いくら力があったって、無限に供給される憎しみに勝てないでしょ!」

 まるで宝物を自慢するように、ルシフェルは無邪気に笑う。

 そのどす黒い巨大な球体は、今や世界中の人間に及んだ精神支配の結晶。世界中の生きとし生ける全てが日本を憎み、その破壊を望んでいるのだ。

 それを霊力の特質である概念の集約と顕現によって、ルシフェルが創りあげたのだ。

 元〇玉の悪バージョンというべきか。

 だから、いくら大輔たちといえど押し負けてしまう。

 いくら抵抗しても、そのどす黒い巨大な球体のエネルギーは尽きることがなく、むしろ、更にエネルギーが増えていく。

 それはまるで超新星爆発スーパーノヴァを引き起こすほどのエネルギーを秘めていて。

 すでに、周囲の空間も重力も時空もどす黒い巨大な球体――超質量エネルギー体によってひずみ、収束していく。

 どうにか、直樹たちが放つ魔法や力がそれを相殺しているが、いつまでもつか。少なくとも、数分は持たない。

「アハハハハ! アハハハハハハハ!!! アハハハハハハ――」

 ルシフェルが腹を抱えてわらう。

 必死に状況を打開しようと表情を歪めている直樹たちを嘲笑あざわらったその瞬間、

「――しゅは我らの心の中に。故に我らは自由であるッッッ!!!」
「アハハ――え?」

 とても優しい光がほとばしったかと思うと、どす黒い巨大な球体が急速に萎んでいく。まるでエネルギーの供給もとが無くなったかのようで。

 ルシフェルは思わずほうける。大輔たちも惚ける。

 同時に、

「〝封宝弾〟ですわッッッ!!!」
「な、薙ぎ払ってッッッ!!!」
「縛ってッッッ!!!」

 三人の少女の声が響いたかと思うと、触れただけで力を奪われ封印される宝石のガトリングが、全てを薙ぎ払う嵐が、動きを封じる生命力を奪い取る巨大な臙脂えんじ色の鎖が、ルシフェルや天使、悪魔、海外の化生に向かって放たれた。

 特に、宝石のガトリングと臙脂色の鎖はルシフェルに集中砲撃されており、宝石のガトリングに打ち抜かれ、臙脂色の鎖に縛られたルシフェルの表情が歪む。

 そしてどす黒い巨大な球体が消滅し、その虚空から立派な法衣を纏った老人が現れた。その老人は朗々と何かを謳ったかと思うと、輝く結界が現れ、ルシフェルや天使、悪魔、海外の化生を封じ込めた。

 その老人にいち早く気が付いた郭が怒鳴る。

「遅いッ!!」
「面目ない……」

 郭の近くに着地した法衣を纏った老人が本当に申し訳なさそうに頭を下げる。

 それを見て、大輔たちもようやく我を取り戻す。

「ええっと、烏丸先生。この方は……」
「鈴木。この爺はクソ爺とでも呼んでおけッ!」
「そうじゃ、そうじゃッ!」
「い、いや、そんなわけには……」

 荒れ狂う郭に我を取り戻したティーガンが力強く同意し、大輔が苦笑いする。すると、隣で眉をひそめていたウィオリナがあっと声を上げ、驚愕に叫ぶ。

「教皇聖下ッッ!!!」
「え、マジでッ!?」

 ウィオリナの口から出てきた言葉に直樹は驚く。それから慌てて戦闘体勢を取る。

 何故なら、

「おいっ、教皇といえば操られているんじゃなかったのか?」

 今回の事態が悪化した理由の一つが教皇を含む多くのエクソシストが天獄界の連中に操られたことにある。
 
 それがなければ、悪魔や天使たちに対して高い練度と対策をもって対峙できたはずである。

 っというか、そもそも妖魔界が崩壊する事態どころか、海外の化生が解放され世界中が混乱に見舞われることもなかっただろう。

 異界魔術結社ハエレシスの異界解放派の魔術師を裏で支援していたのも彼らなのだから。

 そう考えて大輔も警戒態勢を取る。

 と、

「佐藤さん、鈴木さん、大丈夫ですわ!」
「そ、そうです」
「ん、もう解決した」

 空から降りてきた魔法少女姿の花園望がそう力強く断言した。遅れて降りてきた時雨と祈里も頷く。

「どういう事?」
「っつか、お前ら、ロンドンに修学旅行中だったとか聞いていたが……」
「そうじゃ。全然連絡が取れずに心配しておったのじゃぞ。っというか、プロクルもクロノアも、どういうことじゃ?」

 大輔と直樹が首を傾げる。ティーガンも同意し、更に事情を知っていそうなプロクルたちに強く尋ねる。

 プロクルは少しだけ逡巡した後、簡潔に告げる。

「色々あり、D・P・T・S・T汝が隣人を汝自身の如・Iく愛せよの洗脳を解いたんです。そして、世界中に施された精神支配も解きました。じきに援軍も来ます」

 簡潔だったが、つまるところ最悪の状況を脱したという事。

 と、

「ん、んん。直樹くん、大輔くん。これってどういう状況なの?」

 困惑した表情の灯が咳払いしながら直樹たちに尋ねる。灯の後ろで麗華たちも困惑した表情を浮かべていた。

 ただし、黒髪シスター姿の慎太郎とツヴァイは除く。慎太郎は特別な領域結界内で蘇らせた天使と悪魔たちを治療しながら、懇々こんこんと説教をしていたので。ツヴァイはそんな慎太郎の護衛をしており、反抗的な天使と悪魔を恐ろしい殺気で黙らせていた。

 慎太郎にとっては、状況把握よりも己の信念が優先されるのだ。ツヴァイは慎太郎の全てが優先される。

「どういう状況って……」

 数ヵ月ぶりに見た慎太郎のその様子に少しだけ懐かしい気持ちになっていた直樹と大輔だが、心の内から湧きあがってきた感情を吐き出す。

「っつか、それはこっちのセリフだッ! お前ら、なんで天獄界の門から出てきやがったんだッ!?」
「どうなってんの!?」
「それにミラとノアはどうしたんだよッ!? ヘレナも一緒じゃないのかッ!?」
「そうッ! イザベラはどこなのッ!?」
「ええっと……」
「それは……」
「なんというべきか……」
わたくしたちもキチンと把握しているわけではないのだけれども…」

 立て続けに放たれた直樹と大輔の言葉に灯たちが言い淀む。

「どういうことだッッッ――」
「どういうことッッッ――」

 そんな灯たちの様子に直樹と大輔の脳裏に嫌な予感が駆け巡り、強く灯たちに詰問しようとして、直樹たちの頭上に転移門が開く。

「ちょ、二人とも待――」
「ととッッ!!」
「パパッッ!!」
「ッ、ミラ、ノアッ!?」

 そしてその転移門からミラとノアが落ちてきた。ついでに慌てた様子の翔も一緒に落ちてきた。

 直樹はとても驚愕するが、しかし、父親としての本能が茫然とすることを許さず、両足に力を入れて跳び、落ちてくるミラとノアを抱きしめた。

「ミラ、ノアッ! どうして――」

 そして困惑した様子の直樹は抱きしめたミラとノアを見て、

「この傷はどうしたんだ?」

 ブチリッ。

 直樹は、静かにキレる。

 体に無数の小さな傷があり、ミラとノアを愛し気に優しく抱きしめながら、直樹は淡々と二人に尋ねた。

 後ろで色々と混乱していた灯たちやティーガンたちが思わず警戒態勢を取ってしまうほどには、直樹から恐ろしいまでの殺気が放たれていた。

「ととッ! かかを助けてッ!」
「ユキお姉ちゃんもッ! 助けてッ!」

 しかし、ミラとノアはそんな事など気にせず、目に涙を浮かべて悲痛な叫びをあげる。焦る心のまま、思いつく限りの状況を大好きなパパ直樹に伝える。

「突然変な穴が空いたのッ!」
「そしたらかかも、イザベラお姉ちゃんも吸い込まれてッ!」
「悪い男がママを傷つけるために呼んだのッッ!!」
「逃げたけど、捕まってッ!」
「けど、ユキお姉ちゃんが僕たちだけここにッ!」
「ととッ! かかとユキおねぇを助けてッ! あの悪い男から助けてッ!」
「助けて! お願い!」

 ブチリッッッ!!!

「ミラ、ノア。落ち着け。大丈夫だ。パパはここにいる。ヘレナもも助けるから安心しろ。な?」

 周囲に超重力が発生してるかのごとき重圧が直樹から放たれる。直樹から放たれる殺意が物理的な現象になるほど、強大なのだ。

 しかし、直樹はミラとノアだけにはそれを向けることなく、とても安心させる笑みを浮かべ、二人の頭を撫でた。

「「うん!」」

 焦燥に駆られていたミラとノアの心が落ち着く。安心する。パパだ。頼もしいパパがいるッ!

 直樹が歓喜するミラとノアを地面に降ろし、同時に[影魔]モード・グリフォンを創り出して、二人の守護を任せる。

「慎太郎。そいつらの治療も頼む」
「任せろ!」

 それから、慎太郎の治療に特化した特別な領域、“聖療域”に自身の影の異空間にいる神和ぎ社人たちや魔術師たちを転移させた。

 慎太郎は事情を聞くこともなく、直ぐに彼らの治療を始める。

 それと同時に、恐ろしいまでに静かだった大輔がゆっくりと口を開いた。

「ねぇ、灯さん。イザベラが何だって?」
「あ、いや、ちょうどあんな感じの世界のあなが空いて……」
「なるほど」

 大輔は理解した。ミラとノアの言葉も含めて、理解した。つまるところ、イザベラは天獄界のクソ野郎どもに呼び寄せられたのだと。さらわれたのだと。

 ブチリッッッ!!!

 大輔がにこやかな笑みを浮かべ、しかしながら直樹と同等かそれ以上に恐ろしい重圧を伴った殺気を放つ。

 そして。

「大輔」
「直樹」

 ゴウッッッ!!!

 直樹からは漆黒の魔力が、大輔からは金茶色の魔力が噴き上がる。それは天を貫き、教皇がルシフェルたちを封じていた結界すらも打ち抜いて壊してしまう。

 だがしかし、直樹たちはそんな事に頓着しない。

 上空にはオムニス・プラエセンスが浮かんでおり、大輔と直樹を包み込む。

「ミツケタ」

 いつの間にか大輔の目の前には闇路やみじ導灯どうとうが浮かんでいて、膨大な魔力がそこの注がれていた。

 しかも“天心眼[界越真眼]”も同時に発動させており、それは闇路の導灯と同期してあった。

 故に、大輔は見つけた。イザベラとヘレナ、雪がいる場所を。三人とも同じ場所にいた。というか、杏も一緒にいた。

「なんで杏も……いや、今はどうでもいい」

 だがしかし、一瞬疑問に思ったものの、大輔はすぐに思考を切り替える。

 得た情報を直樹に渡す。

 次の瞬間、

「開きやがれ」

 いつの間にか直樹の目の前に浮かんでいた拓道たくどう扉柄ひえが漆黒に輝く。同時に直樹の“空転眼”によって創り出された小さな黒の渦に拓道の扉柄が突き刺さる。

 ヘレナたちがいる場所に直通する門が欲しいのだ。天獄界につながる門が欲しいわけじゃない。

 だから、その黒の渦は空中にあったルシフェルたちが現れた三つの門のエネルギーを吸収していく。

 そして開く。ヘレナと雪、イザベラと杏のいる場所へ繋がる門が。異世界転移の門が。

「後は頼んだ」
「お願いね」

 直樹と大輔は後ろを振り返ってそう言い、異世界転移門へ足を一歩踏み入れようとして、

「妾も行くのじゃ」
「私もです!」

 ティーガンとウィオリナが直樹と大輔の隣に並ぶ。二人とも状況を全て把握してはいなかったが、それでも一緒に行かなければならないと判断したのだ。

 だって、雪とヘレナがいるのだから。杏とイザベラがいるのだから。

「分かった」
「分かったよ」

 直樹と大輔は頷く。そもそもここで反対している時間すら惜しい。

 と、

「餞別だ。頑張れよ。あと、この女の子の治療もしておくぜ」
「助かる」
「ありがと」
「感謝するのじゃ」
「ありがとうです!」

 気を失っていたカガミヒメの治療をしていた慎太郎は、最大級の治癒を直樹たちに施す。今までの戦闘でかなり消耗していた体力や力などが全回復する。

 特に今さっき、直樹と大輔が行使した“天元突破”の反動が全て消え去ったほどには驚異的な治癒だった。

「あ、僕からもやるよ」

 翔が拳大の結晶をそれぞれ四人に投げる。

「直樹と大輔は魔力。ティーガンさんとウィオリナさんのは血力だ。銚子に攻めてきたやつの中に血力保持者がいたから、魔力に変換しないでいたんだ」
「血力保持者じゃと?」
「ああ。けど、吸血鬼ヴァンパイアではなかったぞ」
「そうなのじゃな」

 ティーガンはそう頷き、直樹たちは翔に感謝を述べながら貰ったエネルギー結晶を懐に仕舞う。

 その時、直樹と大輔の服が引っ張られる。

「とと、頑張って! ダイスケにぃも!」
「パパ、頑張って! ダイスケお兄ちゃんも!」

 ミラとノアが満面の笑みを直樹と大輔に向ける。

「ありがと、ミラ、ノア。パパ、頑張るぞ!」
「ありがとうね、ミラちゃん、ノアくん。お兄ちゃん、凄く頑張っちゃうよ!」

 直樹も大輔もデレデレと頬を緩ます。

 それから、ミラとノアはティーガンとウィオリナの方も向く。

「おねぇたちも頑張って!」
「お姉ちゃんたちも頑張って!」
「うむ、ありがとうなのじゃ」
「頑張ってくるです!」

 ティーガンとウィオリナも直樹たちと同様、デレデレと頬を緩ませた。

 しかし、次の瞬間、

「「行ってくる」」

 恐ろしいほど殺意と静けさが籠った直樹と大輔の声が響き、ティーガンとウィオリナの表情が引き締まる。

 そして、四人は異世界転移門へ足を踏み入れた。


 



======================================
公開可能情報

“聖療域”:慎太郎聖女専用の能力スキル。癒しに特化した特別な空間であり、この空間内において能力スキル保持者が治療行為を目的とするあらゆる全てにおいて法則を書き換えることすらも可能となる。ただし、そのためにはそれなりの準備が必要のため、通常は異常に回復に特化した領域と考えればよい。

〝恵魂〟:肉体を失い、死にかけている魂魄を保護する魔法。

〝廻刻〟:時を巻き戻す魔法であり、主に治療において使われる。

〝黄泉還り〟:保護した魂魄を元の肉体に押し込み、命を蘇らせる魔法。

<虚空破浪>:プロクルの権能による血法。空間のごくわずかな一点に虚の孔を創り、それよって生じた空間のひずみに指向性を持たせて放つ。

<静時>:クロノアの権能による血法。任意の対象以外全てが触れた瞬間に、時を止める効力を付与する。

<巨天血竜>:ティーガンの権能による血法。血の竜。

〝星魔天〟星すらも飲み込むほどの重力球体を創り出す魔法。行使者の魔力が続く限り、吸い込めるエネルギーや物量に限界はなく、魂魄などといった非実体的存在も強制的に吸い込む。

〝過速天閃〟:目的地までの移動時間を無にして一瞬で移動し、そこで生じた時間の歪みを武器に込め、放つ魔法。また、同時に目に見えない存在も切り裂く力を武器に付与する。

極大霊咆哮:霊獣としての権能を一点に集中させ、放つ技。極限の意志と膨大な魔力さえあれば星すら打ち砕くほどの威力をもつ。

〝剛覇武斧〟;斧を巨大化させ、逆らうことのできない『覇』を纏わせ、全てを打ち砕く魔法。行使者の存在感や自信、纏う覇気が強ければ強いほど、全てを打ち負かす事ができる。

〝神絶〟:その名の通り、神性による攻撃すらも絶対に防ぐ結界を創り出す魔法。しかし、その絶対は一瞬のことであり、連続的に絶対を維持するためには強烈な意志と膨大な魔力を必要とする。

<虚嵐>:プロクルの権能による血法。虚のエネルギーを暴走させる技で、一歩間違えればそのまま世界すらも崩壊させるほどの力を持つ。

<刻絶>:クロノアの権能による血法。任意の対象を時という法則そのものから放逐する。時の狭間と言うべき時空の彼方へ吹き飛ばす。

〝封宝弾〟:望が使う特殊魔法、≪宝弾≫と≪宝封≫を混合させた技であり、その宝石の弾丸に打ち抜かれると、内包する力やエネルギーが封印されてしまう。また、封印されたそれらはその宝石の弾丸と対になる宝石の封じられており、状況によって望が指向性を持たせてそれらを解放することができる。
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