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第二部 五章:困惑と藻掻きに似ている
一話 行商人は老人
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トレーネと出会ってから、半月。
俺達はあともう少しで目的の場所へと辿り着く。
そして今、俺達はキャラバンと一緒に夕食を取っていた。
たまたま、街道で彼らが魔物に襲われていて、助太刀したところ、夕方になったので、お礼と情報交換などを目的に一緒に食事を取ることにしたのだ。
ただ、そのキャラバンから提供された情報の一つに厄介な、というか愕然とする情報があった。
「……確かなの?」
「ええ、そうです。レーラー様。東の大領地であるファーバフェルクト領地が魔人に落とされました。そのため、東側に繋がる街道の殆どが閉鎖されています」
焚火の前で行商人とレーラーが情報交換をする。
“身大変化”で大きくなっている俺はレーラーの背もたれになっている。出会って直ぐの行商人に“身大変化”の事を話すのは面倒なので、大きくなったままである。
まぁ、食事は向こうの奢りなので、出費は少なく済むので問題ない。むしろ、久しぶりに大きな身体でいっぱいの飯が食えるのは嬉しい。
なんか、こう楽しいのだ。
また、ライゼはキャラバンの護衛をしている専属の冒険者と一緒に飲んでいる。
ライゼが魔物を掃討したため、子鬼人のライゼを侮る事はしない。むしろ、冒険者の価値観として、弱いとされている種族や才能の持ち主が、強くなっていることは尊敬の対象になったりする。
そういう価値観の中だからこそ、ライゼは楽しそうに出会ったばかりの人たちと楽しく食事をとってお酒を飲んでいる。普通は、子鬼人というだけでコミュニケーションを取るのも大変なのだ。
大抵の村や町ではレーラーの弟子と紹介されているため、森人に逆らわないためにも無難に接してくれるが、それでも仲良く打ち解けるというにはとても時間と労力がかかる。
なので、冒険者という世界はライゼにとって多少なりとも居心地のいい世界なのだ。
因みに、ライゼは年はまだ13歳だが、今年から成人なので酒を飲んでもいいのである。まぁ、お酒をいっぱい飲んだのは今回が初めてで、また、そこまで強くなかった筈なので。
「……ベターラー盆地への街道は?」
「最北端のロートス街道だけは解放されています。……ところで、レーラー様。そのライゼ様が……」
直ぐに酔い潰れて、色々な魔法を百花繚乱とばかりに披露していて、普通に気が良くなり過ぎたマジシャンかなんかである。
どんちゃんどんちゃんしている。ライゼの顔は真っ赤であり、明日になったら二日酔いで吐くだろう。
「……ほっといても大丈夫。いざとなったら、この子が運ぶから」
レーラーは背もたれになっている俺の頭を少しだけ撫でる。
相変わらず撫でるのは上手い。
「そうですか。それにしても、そこまで大きなトカゲは便利ですな」
この行商人は、俺が雑食である事やどんな悪路でも問題なく移動できる事を知っている。
というか、雑食なのは食事でバレるし、また、悪路に関してはそもそも出会ったところが悪路だ。
彼らの馬は悪路に足を取られて、絶え間なく数だけ多い雑魚の魔物に手間取っていたのだ。
守る対象が動けないと、守り切るのが大変である。
「まぁね。けど、高位の召喚魔法じゃなきゃ呼び出せないから」
「確かに、森人であるレーラー様だからこそですか」
俺は結局レーラーの召喚獣という事になっている。
“身大変化”で身体の大きさを変化させたり、また、普通の動物では説明できない能力が幾つかあるためである。
それに俺みたいな大きなトカゲはあまり多くない。
砂漠で満たされているアンツェンデル大陸は除いて、いるとしたら未だに魔人が多く蔓延るヒメル大陸の北側だけである。
少なくとも、ファッケル大陸での発見例はほぼない。
なので、召喚獣と言っておいた方がいいのだ。
俺もライゼも異論はなかった。
「ところで、シュッペ街道って今でもある?」
レーラーは半眼を行商人に向ける。
「……シュッペ街道ですか。聞いた事が……あ、エンテ森とブリーゼ平原に繋がるナゲール街道でしょうか。小さいころに聞いた事が」
「……エンテ森って草月葬が取れる?」
草月葬って確か、満月に近い日だけ取れる草だっけ。
ウォーリアズ王国の東側では草月葬を燃やして、葬式をやるはずだ。
「はい」
「じゃあ、それだね。全く、街道の名前くらい残して欲しいものだよ」
「はは、流石は森人ですね。言葉に感じる年月が窺えます」
森人は平均的な寿命は三百年と言われている。
が、人間に個体差がある様に森人にも個体差がある事は周知である。
人族の歴史の中で最も長く生きた森人はカクールウエ、五百年生きたと記録されていた。
だからか、人族は、森人や岩人、竜人などの寿命はめっちゃ長いものと、大雑把に捉えているのである。上手い潤滑油である。
「そう? 私にとってはコロコロ変わる人族の言葉こそ年月を感じる。目まぐるしく生きているからこそ、コロコロと変わるからね。だから、こっちもあまりのんびりできない」
そう言いながらレーラーはライゼを見た。
確かにそうだ。ライゼは目まぐるしく、というか外から見れば完全に生き急いでいる。本人的には今ものんびりとしているが。
それでもレーラーや俺ほど悠長に未来を捉えているわけではない。
目の前だと思い、遠い未来などはありえないと考えている。
「ライゼ様はレーラー様にとっていい弟子ですね」
「さぁ、どうなんだろうね。たぶん、それが分かるのは失ってからだよ」
「……そうですか」
そして、情報交換も程々に俺達は寝る事にした。
ライゼはもちろん、二日酔いになった。
俺達はあともう少しで目的の場所へと辿り着く。
そして今、俺達はキャラバンと一緒に夕食を取っていた。
たまたま、街道で彼らが魔物に襲われていて、助太刀したところ、夕方になったので、お礼と情報交換などを目的に一緒に食事を取ることにしたのだ。
ただ、そのキャラバンから提供された情報の一つに厄介な、というか愕然とする情報があった。
「……確かなの?」
「ええ、そうです。レーラー様。東の大領地であるファーバフェルクト領地が魔人に落とされました。そのため、東側に繋がる街道の殆どが閉鎖されています」
焚火の前で行商人とレーラーが情報交換をする。
“身大変化”で大きくなっている俺はレーラーの背もたれになっている。出会って直ぐの行商人に“身大変化”の事を話すのは面倒なので、大きくなったままである。
まぁ、食事は向こうの奢りなので、出費は少なく済むので問題ない。むしろ、久しぶりに大きな身体でいっぱいの飯が食えるのは嬉しい。
なんか、こう楽しいのだ。
また、ライゼはキャラバンの護衛をしている専属の冒険者と一緒に飲んでいる。
ライゼが魔物を掃討したため、子鬼人のライゼを侮る事はしない。むしろ、冒険者の価値観として、弱いとされている種族や才能の持ち主が、強くなっていることは尊敬の対象になったりする。
そういう価値観の中だからこそ、ライゼは楽しそうに出会ったばかりの人たちと楽しく食事をとってお酒を飲んでいる。普通は、子鬼人というだけでコミュニケーションを取るのも大変なのだ。
大抵の村や町ではレーラーの弟子と紹介されているため、森人に逆らわないためにも無難に接してくれるが、それでも仲良く打ち解けるというにはとても時間と労力がかかる。
なので、冒険者という世界はライゼにとって多少なりとも居心地のいい世界なのだ。
因みに、ライゼは年はまだ13歳だが、今年から成人なので酒を飲んでもいいのである。まぁ、お酒をいっぱい飲んだのは今回が初めてで、また、そこまで強くなかった筈なので。
「……ベターラー盆地への街道は?」
「最北端のロートス街道だけは解放されています。……ところで、レーラー様。そのライゼ様が……」
直ぐに酔い潰れて、色々な魔法を百花繚乱とばかりに披露していて、普通に気が良くなり過ぎたマジシャンかなんかである。
どんちゃんどんちゃんしている。ライゼの顔は真っ赤であり、明日になったら二日酔いで吐くだろう。
「……ほっといても大丈夫。いざとなったら、この子が運ぶから」
レーラーは背もたれになっている俺の頭を少しだけ撫でる。
相変わらず撫でるのは上手い。
「そうですか。それにしても、そこまで大きなトカゲは便利ですな」
この行商人は、俺が雑食である事やどんな悪路でも問題なく移動できる事を知っている。
というか、雑食なのは食事でバレるし、また、悪路に関してはそもそも出会ったところが悪路だ。
彼らの馬は悪路に足を取られて、絶え間なく数だけ多い雑魚の魔物に手間取っていたのだ。
守る対象が動けないと、守り切るのが大変である。
「まぁね。けど、高位の召喚魔法じゃなきゃ呼び出せないから」
「確かに、森人であるレーラー様だからこそですか」
俺は結局レーラーの召喚獣という事になっている。
“身大変化”で身体の大きさを変化させたり、また、普通の動物では説明できない能力が幾つかあるためである。
それに俺みたいな大きなトカゲはあまり多くない。
砂漠で満たされているアンツェンデル大陸は除いて、いるとしたら未だに魔人が多く蔓延るヒメル大陸の北側だけである。
少なくとも、ファッケル大陸での発見例はほぼない。
なので、召喚獣と言っておいた方がいいのだ。
俺もライゼも異論はなかった。
「ところで、シュッペ街道って今でもある?」
レーラーは半眼を行商人に向ける。
「……シュッペ街道ですか。聞いた事が……あ、エンテ森とブリーゼ平原に繋がるナゲール街道でしょうか。小さいころに聞いた事が」
「……エンテ森って草月葬が取れる?」
草月葬って確か、満月に近い日だけ取れる草だっけ。
ウォーリアズ王国の東側では草月葬を燃やして、葬式をやるはずだ。
「はい」
「じゃあ、それだね。全く、街道の名前くらい残して欲しいものだよ」
「はは、流石は森人ですね。言葉に感じる年月が窺えます」
森人は平均的な寿命は三百年と言われている。
が、人間に個体差がある様に森人にも個体差がある事は周知である。
人族の歴史の中で最も長く生きた森人はカクールウエ、五百年生きたと記録されていた。
だからか、人族は、森人や岩人、竜人などの寿命はめっちゃ長いものと、大雑把に捉えているのである。上手い潤滑油である。
「そう? 私にとってはコロコロ変わる人族の言葉こそ年月を感じる。目まぐるしく生きているからこそ、コロコロと変わるからね。だから、こっちもあまりのんびりできない」
そう言いながらレーラーはライゼを見た。
確かにそうだ。ライゼは目まぐるしく、というか外から見れば完全に生き急いでいる。本人的には今ものんびりとしているが。
それでもレーラーや俺ほど悠長に未来を捉えているわけではない。
目の前だと思い、遠い未来などはありえないと考えている。
「ライゼ様はレーラー様にとっていい弟子ですね」
「さぁ、どうなんだろうね。たぶん、それが分かるのは失ってからだよ」
「……そうですか」
そして、情報交換も程々に俺達は寝る事にした。
ライゼはもちろん、二日酔いになった。
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