上 下
54 / 138
第二部 二章:独りはあっても孤独はない

プロローグ Together――a

しおりを挟む
 それから、一ヶ月が経った。

 ライゼとレーラーが手伝ったこともあり、町の周りを覆っていた雪は除雪され、冒険者ギルドの通達で街道を覆っていた深い雪も除雪された事を知った。
 年を越してから、町は遅まきながら雪化粧をしていたが、それはこの港町が雪除けの結界を張っていて、ついにそれが耐えられなくなったからだ。
 冬に入って二ヶ月で、雪が結界を突き破ったのだ。

 そんな雪の厚化粧を丁寧に落とし、美しく仕上げるころには一ヶ月経っていたというわけだ。
 つまり、俺達はこの町を発つ。

 まぁ、発つためには準備が必要だ。
 冬なので町の中にはあまり食料はない。備蓄はあるけど、売る分はあまりない。

 なので、二週間前に冒険者ギルドに食料を注文し、配達を手配してもらった。
 そして、手配した食料が届くまでの間、ライゼとレーラーはお世話になった人たちに挨拶をしに行った。

 意外にも、いや、そうではないかもしれないが、この挨拶でレーラーは張り切っていた。昔見つけた骨董品や保存した花などを土産として配り、子供たちには遥か昔のお伽噺や伝説を語り、全て回るのに二週間ほど使ってしまった。
 二週間ほどで泣く泣く終わらせた方と言った方がいいか。

 まぁ、流石に気になったので、俺がそれについて聞いたところ、なんでもこの行動はここ百年近くで付いた習慣らしい。とある誰かさんの、世界を救った老人に影響を受けたらしい。
 老人は多くの人に影響を与えていた。

 また、今までは移動することを一応優先していたため、長居しなかったからここまでの行動はしなかったが、今回の滞在は雪という如何することもできない天候によって長居することになった。
 だから、その反動もあり、張り切っていた。

 ライゼもその話を聞いたからか、途中からレーラーと同じく、全力でお世話になった人たちに別れの挨拶をしていった。しっかりと挨拶はしていたが、レーラーみたいに別れの挨拶をしていなかった。
 あ、でも、挨拶は別れではなく、また、またね、という再会を約束する挨拶だ。お世辞ではなく、うわべではなく、本心からだと思う。

 なので、俺も町長に許可を取り――まぁ、説明が面倒だったが――“身大変化”で体を大きくして、子供たちと遊んだりした。
 そんなこんなで、俺達が港町を発つ日がやって来たのだ。

 早朝。

 右手には暗い冬の海からゆっくり顔を覗かせている太陽が見え、俺達は港町を囲っている城門の前に立っていた。
 草原は全て真っ白の染まっていて、けれど、大人一人分の幅の茶色の道だけは、力強く真っ直ぐ伸びていた。その土を俺はしっかりと踏む。

 そして、俺の視線の先には早朝であるにも関わらず、多くの町人がいた。子供はいないが、大人たちは手を振っている。
 “身大変化”で体を大きくし、多くの荷物を腹の横に付けている俺の背に乗っているライゼとレーラーが、そんな町人たちに手を振り返している。

 レーラーが俺の首元でライゼはその後ろに座っている。
 身長の差だ。

 ライゼは満面の笑みを浮かべて、半眼のレーラーは眠そうにして手を大きく振っている。
 俺は長い舌をチロチロと出す。

「じゃあ、行こうか」
「うん、そうだね」

 俺はクルリと反転し、港町を背にする。
 ライゼは後を振り返って手を振り続け、レーラーは眠そうにあくびをしていた。

 別れ際のレーラーはあっさりしている。
 そんな事を思いながら、俺は蜥蜴の尻尾をゆらりゆらりと揺らしながら、冬の道を歩いた。

 目指すは北だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境領主になった俺は、極上のスローライフを約束する~無限の現代知識チートで世界を塗り替える~

昼から山猫
ファンタジー
突然、交通事故で命を落とした俺は、気づけば剣と魔法が支配する異世界に転生していた。 前世で培った現代知識(チート)を武器に、しかも見知らぬ領地の弱小貴族として新たな人生をスタートすることに。 ところが、この世界には数々の危機や差別、さらに魔物の脅威が山積みだった。 俺は「もっと楽しく、もっと快適に暮らしたい!」という欲望丸出しのモチベーションで、片っ端から問題を解決していく。 領地改革はもちろん、出会う仲間たちの支援に恋愛にと、あっという間に忙しい毎日。 その中で、気づけば俺はこの世界にとって欠かせない存在になっていく。

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる

ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。 モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。 実は前世が剣聖の俺。 剣を持てば最強だ。 最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...