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第二部 一章:どこにだって光はある

六話 テラス

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 二日後の夕方。
 自由都市ウーバーを出立する前日。
 
 丁度、旅のための買い出しを済ませ、宿屋の一室に帰ってきた俺達は、荷物を下し、また、明日の早朝に出るために整理をしていた。

 が、それも半ば。
 突然、レーラーがライゼの手を掴む。

「ライゼ、ちょっと出かけるからついてきて」
「……? うん、わかった」

 ライゼは少し疑問に思いながらも頷いた。
 たぶん、あの表情だと、レーラーが買い忘れた物があるから手伝えと言われたのだと思っているんだろう。
 自分の誕生日と関連付けない当たり、ライゼは少しアレだ。

 まぁ、レーラーの言葉足らずな部分もあるのだろうが。

 そして、俺達は繁華街に来ていた。
 夕方で、多くの人が行き交う中を俺はライゼの肩に乗って移動する。

「レーラー師匠、何を買い忘れたの?」
「いや、ちょっとね」

 レーラーは金のポニーテールを靡かせながら素っ気なく答える。
 黙々と歩く。
 ライゼはそんなレーラーの様子を少しだけ不審がりながらもついて行く。
 
 そして、レーラーたちは繁華街の少し裏路地を入り、階段を昇り、曲がりくねった狭い道を進んでいく。
 昨日、下見をしたので道を間違えたりはしない。昨日は迷いに迷って大変だった。

「……本当に何処に行くんだろ?」
『まぁ、何処でもいいんじゃないか』

 ボソっとした呟きに俺は答える。
 ライゼは確かに、と思ったのか疑問を横に置き、入り組んだ裏路地を楽しんでいる。切り替えがいいよな。

 そうして十数分、裏路地を行ったり来たりして、ある扉の前でレーラーは止まった。ライゼも必然的に止まる。

「食事処?」
「そうだよ」

 ライゼは扉から漂ってくる匂いをスンスンと嗅ぎ、「夕日蝶」という看板を見てそう結論付けた。ライゼの嗅覚は結構優れている。
 レーラーはそんなライゼの推測に頷き、扉を開ける。

「いらっしゃいませ。レーラー様ですね。お待ちしておりました」
「うん、よろしくね」

 カランカランと鈴の音が鳴り響き、同時に佇まいが素晴らしいウエイトレスさんが、レーラーに頭を下げる。
 そして、ライゼは店内の内装に感嘆の声を漏らしている。

 店内はとても綺麗な花が、目障りにならないように上品に飾られており、また、店内を照らすシャンデリアは派手さはないが、気品がある。
 一つ一つのテーブルはアンティーク物だと分かり、これまた上質なテーブルクロスが掛けてある。
 何より、店内で食事している人たちの身なりが美しい。

 きっちりとした正装で、やはりこちらも派手というよりは上品だ。ドレスだったり、スーツだったり。

「れ、レーラー師匠。僕たちがここにいて大丈夫なの? 騙されてない?」

 片や、レーラーもライゼもローブ姿である。
 一応、毎日丁寧に洗っているし、今日は偶々、二人とも新品のローブを着ているので綺麗だが、それでも店内にいる客とは全く違う。

「……大丈夫だよ。ここはドレスコードもないし」
「い、いや。そういうわけじゃなくて」
 
 まぁ、ライゼはこういう所に来たことがないからな。
 食事は冒険者ギルドの食堂か、それか自炊である。レストランというレストランに行ったことさえない。
 なので、怖いのだろう。

 そんなライゼを少しだけ微笑ましく見ながら、レーラーはウエイトレスに案内されるがままに歩いていく。
 俺達は店内で食事をするわけではない。でなければ、レーラーが今まで密かに貯めてきたへそくりを全て使い果たすわけがない。

「どうぞ」

 階段を昇り、ウエイトレスがドアを開ける。
 そこはテラスであり、夕日に照らされた街を見渡せた。

「わぁーー」

 ライゼはその美しさに思わず感嘆の声を漏らす。赤の屋根に茜の夕日。
 とても綺麗で、美しい。
 しかし、絶景ではない。

 だけど。

「うん、綺麗だ」

 たぶん、この景色は一生忘れないものだと思う。
 美しさとは、絶景とは違うものがあるのだ。

「では、ごゆっくりお待ちください」

 レーラーとライゼは互いに向き合うように白のテーブルクロスの丸テーブルに座る。レーラーはいつも通り無表情で、ライゼは混乱した表情である。
 ここまできて心当たりがないとは、今までの俺の誕生日の祝い方が下手くそだったのではないかと思ってしまう。

 ってか、マジでそんな事ないよな。
 ライゼが鈍いだけだよな。

 俺はそんな事を思いながら、ライゼの肩から丸テーブルに下りた。
 もちろん、レーラーが事前に店に許可を取っているし、俺はこのために、綺麗に水浴びやらを済ませてきた。清潔である。

「レーラー師匠、どうしてこんな……」

 ライゼは伏し目でレーラーに訊ねる。
 なんか、申し訳ないような気がしているのだろう。

「……誕生日でしょ。だから」
「ッ」

 なので、レーラーはなんでもないように答える。実際、無表情だし。
 だが、ライゼは違かった。驚愕の一色に染まる。

「れ、レーラー師匠、覚えてくれてたの!?」
「うん、まぁ」

 まぁ、一昨日まで忘れていたんだが。それでも、去年の誕生日よりはマシである。
 去年は確か、ライゼの誕生日が終わる夜に思い出し、慌ててそこらへんで買った串焼きを贈ったのだ。
 
 あまりにもひどすぎて忘れていたのだが、ついさっき思い出した。
 そういえば、去年の誕生日の時には、ライゼはレーラーの研究助手をしていたのだ。

 なので、ライゼは驚いているのだろう。
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