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第一部 三章:世界はあなただけのもの
七話 環境の価値観
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「……それで今後の予定ですが、星の位置と植物や魔物の種類などから、私たちはヴァンズン山脈の第二階層目にいると考えられます」
ライゼは“空鞄”から精巧な地図を取り出し、指差していく。
その地図は冒険者ギルドが販売している地図で、とても高かったが精密で正確な地図があるかないかの違いはとても大きい。
なので、頑張って買った。
「……それで?」
「はい。ここから王都まで、どんなに急いでも一週間ほど掛かります。しかも、最短距離で行くとしますと、凶悪な魔物が跋扈するヴァンズン山脈の第四、第五階層を通り抜ける必要があります」
ヴァンズン山脈は幾つかの山脈が階層の様に連なっていて、王都の方へ向かうほど魔物が増え、また強くなる。
王都はそんなヴァンズン山脈の第五階層に接しており、絶えず魔物と戦っている。
まぁ、魔石という資源が潤沢に取れ、防衛面にも多額の防衛費を掛けているので、ワザとその地に王都を作ったのだが。
後は、ヴァンズン山脈の自然砦によって、王都が他国から襲われにくいという点もある。
「逆に、一階層を抜けて迂回しながら王都へ向かう場合、隣国のナファレン国を通る必要がございます。すると、私たちは密入国者になってしまい、特にアウルラ様は王族ですので、外交上においてとても厄介な事になってしまいます」
まぁ、つい最近、冒険者ランクがDになったライゼは、冒険者の恩恵によって密入国にはならないが、しかし、アウルラは冒険者カードを持っていない。
しかも、王族であり、特に外交の席にはよく出席しているらしいアウルラは顔が割れている。
そんな人物が正式な手続きなしに入国していた場合、とても厄介な問題になる事は間違いないだろう。
というか、多分それを狙って襲撃者たちはここにアウルラを転移させた筈だろうし、相手の思い通りには動きたくない。
「ええ、それは分かっていますわ。しかし、私の力ではどのみち一階層を超えるしかありませんわ。だからこそ、この私がアナタの話を聞いていますのよ」
このお姫様は傲慢ではない。自分の力を過信したりはしていない。
過信などはこの一年間ライゼに負けまくって消えただろうし。
だからこそ、悔しそうにライゼの話を聞いているのだ。
五階層の方を超えるために。
「はい。ここでハッキリさせておきますと、私の力量では五階層も魔物を倒すことはできません。ヘルメスがいても同様です」
俺はライゼよりも強力な魔法は使えるし、魔力量もランクでいったらAランクほどあるが、しかし、戦闘が得意ではない。
種族の特性なのか戦おうとして魔法を使うとすると、魔法が発動しないのだ。
また、戦おうとすると身体能力が落ちる。
弱くなるのだ。
そのため、戦う事はとても苦手なのだ。
しかし、逃げ隠れることは得意だ。
「ッ。……それで?」
思わぬ告白にアウルラは一瞬だけ焦燥を浮かべるが、しかし、落ち着いたライゼの表情を見て、冷静を取り戻した。
アウルラ的にはライゼはどのくらい強く見えているのだろうか。
「ですが、五階層を突破することは可能です」
「……どうやって……?」
まぁ、倒せないのに五階層を突破することは通常不可能である。
あそこは凶悪な魔物が跋扈していて、数も多い。普通は確実に遭遇する。
「隠密行動です。私とライゼは半径数キロメートルまでの魔力を感知できます。精密感知は少しだけ距離が縮まりますが、一キロは可能です。そして、私たちの放出魔力をほぼゼロまで制限し、隠蔽することで魔物と遭遇しないですみます」
アウルラはそこまで聞いて、馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「ライゼ、アナタは魔力量がとても低いから放出魔力を制限しなくても、ほぼゼロにできるのでしょうけれども、どんなに優れた魔法使いでもできませんわ」
『……アウルラ、Eランクの通常の放出魔力がどれくらいか知ってるのか?』
「ッ。ええ、もちろんですわ。目の前にいるではありませんか」
溜息が漏れそうになる。
『ライゼ、制限をいったん解除してくれ』
「……分かったよ」
ライゼは制限していた放出魔力を解放する。そして、無に等しかった放出魔力がライゼの体内から溢れ出る。
Eランクの魔力量は確かに低いが、それでも放出魔力が無と思えるほど少ないわけではない。
「……」
そしてアウルラは絶句している。
Eランク魔力量の放出魔力が普通ゼロに近くないことを知ったからだ。
周りに才能がある奴や有能な奴しかいないとこうなるんだろうな。
学園に来ていても王族であるから付き合うのは貴族たちばっかになるし、だから平民の子とかとはあまり関わってなかったんだろうな。
まぁ、そのための専門クラス分けなんだろうが。
「……どういうことかしら? アナタは魔法使いでありながら放出魔力を常に制限していたの、いえ、それ以前に制限していたとしても揺らぎがなかったのは……」
へぇー。意外にも放出魔力を制限すると揺らぎが出ることを知ってたんだ。
そもそも、魔力制限をする魔法使いが少ないので、そういう話は知らないと思ったんだが。
ライゼは“空鞄”から精巧な地図を取り出し、指差していく。
その地図は冒険者ギルドが販売している地図で、とても高かったが精密で正確な地図があるかないかの違いはとても大きい。
なので、頑張って買った。
「……それで?」
「はい。ここから王都まで、どんなに急いでも一週間ほど掛かります。しかも、最短距離で行くとしますと、凶悪な魔物が跋扈するヴァンズン山脈の第四、第五階層を通り抜ける必要があります」
ヴァンズン山脈は幾つかの山脈が階層の様に連なっていて、王都の方へ向かうほど魔物が増え、また強くなる。
王都はそんなヴァンズン山脈の第五階層に接しており、絶えず魔物と戦っている。
まぁ、魔石という資源が潤沢に取れ、防衛面にも多額の防衛費を掛けているので、ワザとその地に王都を作ったのだが。
後は、ヴァンズン山脈の自然砦によって、王都が他国から襲われにくいという点もある。
「逆に、一階層を抜けて迂回しながら王都へ向かう場合、隣国のナファレン国を通る必要がございます。すると、私たちは密入国者になってしまい、特にアウルラ様は王族ですので、外交上においてとても厄介な事になってしまいます」
まぁ、つい最近、冒険者ランクがDになったライゼは、冒険者の恩恵によって密入国にはならないが、しかし、アウルラは冒険者カードを持っていない。
しかも、王族であり、特に外交の席にはよく出席しているらしいアウルラは顔が割れている。
そんな人物が正式な手続きなしに入国していた場合、とても厄介な問題になる事は間違いないだろう。
というか、多分それを狙って襲撃者たちはここにアウルラを転移させた筈だろうし、相手の思い通りには動きたくない。
「ええ、それは分かっていますわ。しかし、私の力ではどのみち一階層を超えるしかありませんわ。だからこそ、この私がアナタの話を聞いていますのよ」
このお姫様は傲慢ではない。自分の力を過信したりはしていない。
過信などはこの一年間ライゼに負けまくって消えただろうし。
だからこそ、悔しそうにライゼの話を聞いているのだ。
五階層の方を超えるために。
「はい。ここでハッキリさせておきますと、私の力量では五階層も魔物を倒すことはできません。ヘルメスがいても同様です」
俺はライゼよりも強力な魔法は使えるし、魔力量もランクでいったらAランクほどあるが、しかし、戦闘が得意ではない。
種族の特性なのか戦おうとして魔法を使うとすると、魔法が発動しないのだ。
また、戦おうとすると身体能力が落ちる。
弱くなるのだ。
そのため、戦う事はとても苦手なのだ。
しかし、逃げ隠れることは得意だ。
「ッ。……それで?」
思わぬ告白にアウルラは一瞬だけ焦燥を浮かべるが、しかし、落ち着いたライゼの表情を見て、冷静を取り戻した。
アウルラ的にはライゼはどのくらい強く見えているのだろうか。
「ですが、五階層を突破することは可能です」
「……どうやって……?」
まぁ、倒せないのに五階層を突破することは通常不可能である。
あそこは凶悪な魔物が跋扈していて、数も多い。普通は確実に遭遇する。
「隠密行動です。私とライゼは半径数キロメートルまでの魔力を感知できます。精密感知は少しだけ距離が縮まりますが、一キロは可能です。そして、私たちの放出魔力をほぼゼロまで制限し、隠蔽することで魔物と遭遇しないですみます」
アウルラはそこまで聞いて、馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「ライゼ、アナタは魔力量がとても低いから放出魔力を制限しなくても、ほぼゼロにできるのでしょうけれども、どんなに優れた魔法使いでもできませんわ」
『……アウルラ、Eランクの通常の放出魔力がどれくらいか知ってるのか?』
「ッ。ええ、もちろんですわ。目の前にいるではありませんか」
溜息が漏れそうになる。
『ライゼ、制限をいったん解除してくれ』
「……分かったよ」
ライゼは制限していた放出魔力を解放する。そして、無に等しかった放出魔力がライゼの体内から溢れ出る。
Eランクの魔力量は確かに低いが、それでも放出魔力が無と思えるほど少ないわけではない。
「……」
そしてアウルラは絶句している。
Eランク魔力量の放出魔力が普通ゼロに近くないことを知ったからだ。
周りに才能がある奴や有能な奴しかいないとこうなるんだろうな。
学園に来ていても王族であるから付き合うのは貴族たちばっかになるし、だから平民の子とかとはあまり関わってなかったんだろうな。
まぁ、そのための専門クラス分けなんだろうが。
「……どういうことかしら? アナタは魔法使いでありながら放出魔力を常に制限していたの、いえ、それ以前に制限していたとしても揺らぎがなかったのは……」
へぇー。意外にも放出魔力を制限すると揺らぎが出ることを知ってたんだ。
そもそも、魔力制限をする魔法使いが少ないので、そういう話は知らないと思ったんだが。
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