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第一部 二章:夢を持っていますか?
九話 想像しないでください
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そうして試験会場に辿り着いたライゼは受付を済まし、指定された場所で座り本を読んでいた。集合時間まで後二十分ほどある。
なので暇つぶしに本を呼んでいたライゼを、しかし、意外にも早く来ていた多くの受験者たちが遠巻きに見ている。
『気にならないのか?』
『……どうなんだろ。あんな感じに警戒じゃなくて、懐疑や嘲笑の視線を向けてくること自体はどうでもいいんだけど、だからこそ警戒している子が気になるかな』
『なるほど。俺の方で記憶しておくか?』
『いや、いいよ。この試験は僕の試験だし、試験という枠組みで守られているからね。僕だけの力でやるよ』
『わかった』
それは分かっていた答えではあるが、一応聞いておくのだ。聞くことは重要だしな。
それにしても昨日の実技試験のとか、筆記試験の話とかがもう広まってんのか。おしゃべり好きというか何というか、噂やらは広まるのが早いな。
まぁ、地銀の金が全て引き下ろされるような状況を作ることもできるし、広まるのが早いのは確かなんだがさ。
だが、警戒を浮かべている子は少ないな。今分からる程度で二人ってとこか。けど上級貴族っぽい子はまだ来ていないし、実際はどうなるか分からないんだけどさ。
……それにしても嫌だな。ムカつく。
ライゼ自身がどうでもいいと思ってるし、俺も放っておけばいいとは思うが、それでもライゼに嘲笑を向けられていたり、明らかに悪意を向けている子がいるのはムカつくな。
いや、ムカついたとしても、ライゼがどうでもいいと思っているなら俺が反応すべきでは何だろうが。
こう、少しだけモヤモヤする。
だが、そんな事に気を取られていても仕方がない。俺はライゼが読んでいる本を一緒に読む。
それから、時間が経つと試験官三人と進行役の人が出てきた。試験官は昨日の老人とエルフ、そして若い女性だな。
そして今日の実技試験の詳細が話された。
昨日聞いた内容と大体同じだったが、幾つか付け加えられた。
Φ
『ライゼ、どんな感じだ?』
『オールグリーンだよ』
俺が教えた言葉で了解を返すライゼ。ようやく、ライゼの戦闘試合が始まる。
最初の戦闘試合はバトルロワイヤル形式である。
場所は昨日と違い、闘技場みたいな所で、二十人規模の子供たちが一位、二位を求めて戦闘するのである。各グループ内で一位、二位を決めて、それから一対一のトーナメント形式の戦闘試合に移るらしい。
筆記試験の合格者が百人近くいるため、一日で戦闘試験を終わらせるのにはこれが一番楽なのだ。
そしてライゼが所属するグループは一番最後のグループである。
ライゼが進行役の人の指示によってリング内へと入る。他の子たちも入る。
それから、進行役の合図とともに戦闘試験が開始した。
「「「「〝攻撃する魔法〟!」」」」」
そして、ライゼの周りにいた殆んどの受験者たちが、ライゼに向かって魔力弾を射出する。筆記試験を一位で通ったことが妬ましかったのかどうなのか知らないが、強い敵愾心をライゼに向けていた。
ただ、ライゼはそれを読んでいた。分かっていた。
だから。
「シッ」
腰から抜いた二本の短刀でそれらを全て切り伏せた。短刀には魔力を流していて、それによって魔力弾を切ったのだ。敵愾心が分かりやすかったから、狙っている場所もわかりやすかった。
受験者たちは驚く。
だが、驚くのはまだ早い。
「“空鞄”」
ライゼがそう唱えた瞬間、深緑色のトランクスが出てきた。
この戦闘試験は祝福の使用を禁止していない。また、ある一定の条件を満たす武器も使用が可能となっている。結構、自由な戦闘試験なのである。
たぶん、応用力やら何やらを測るためでもあるんだろ。
ただ、万が一大怪我を負わないように受験者たちには特殊な腕輪が渡されている。これは装備者が受けた外部からの身体的ダメージを肩代わりする魔道具で、これが壊れたら失格となるのだ。
この魔道具が装備者のダメージを肩代わりするだったら、魔力量が少なく、枯渇させては回復するを手段として使うライゼにとっては嫌なものだったが、外部攻撃からのダメージしか肩代わりしないという点には助かっている。
そして、急に現れて深緑色のトランクスに呆然としている受験者たちを尻目に、ライゼはトランクスの中からある物体を幾つも取り出した。
それはゴブリンの血をキチンと抜いたお肉である。今朝狩ってきたゴブリンの死体である。持ち込みは禁止されてはいなかったので、持ってきたのだ。
ライゼはそれらを自分の周りに並べていく。ライゼたちを放って戦闘していた受験者たちも、ライゼに敵愾心を向けていた受験者たちも、また司会役や外部で観戦していた受験者たちも唖然として見ていた。
シーンと静まり返る。
まぁ、急に生肉を自分の周りにおいてるって凄い不気味だからな。
だが、不気味なのはこれからだ。
ライゼがトランクスから取り出した新鮮なゴブリンのお肉を並べ終わった。そして、満足そうに頷いた後。
「〝虫が湧き出る魔法〟」
瞬間、ゴブリンの肉から悍ましい見た目の黒いゴマの虫が湧き出てきたのだ。そして、それはライゼの周りに置いてあった全てのゴブリンの肉から湧き出てきて、そして地面を這いずり回り、空中を飛び回ったのだ。
闘技場内は阿鼻叫喚である。
害はないけど、見た目だけはこの世のものとは思えない台所のあん畜生が受験者たちに近づいてくるのだ。そして、一匹だけならまだましだが、それが大群となって襲い掛かってくる。
恐怖でしかないし、腰を抜かしている子も多くいる。
観戦している受験者たちもあまりの光景に悲鳴を上げている。
そして、二分後。
受験者たちが全員棄権した。
闘技場外に自分から飛び出したのだ。闘技場から飛び出した者は失格となる。
こうして、ライゼはゴブリンの肉を媒介とすることによって魔力消費を極端に減らし、一歩も動くことなく勝利を収めた。
ここらは余談だが、来年以降の戦闘試験では大量の虫を発生させる魔法の使用が禁止された。教師たちは問題提起しなかったのだが、ライゼの戦闘を見ていた受験者たちが、また観戦しにきていた上級生たちがデモを起こし、禁止になった。
虫の中心で笑っていたライゼは魔王に見えたそうだ。
なので暇つぶしに本を呼んでいたライゼを、しかし、意外にも早く来ていた多くの受験者たちが遠巻きに見ている。
『気にならないのか?』
『……どうなんだろ。あんな感じに警戒じゃなくて、懐疑や嘲笑の視線を向けてくること自体はどうでもいいんだけど、だからこそ警戒している子が気になるかな』
『なるほど。俺の方で記憶しておくか?』
『いや、いいよ。この試験は僕の試験だし、試験という枠組みで守られているからね。僕だけの力でやるよ』
『わかった』
それは分かっていた答えではあるが、一応聞いておくのだ。聞くことは重要だしな。
それにしても昨日の実技試験のとか、筆記試験の話とかがもう広まってんのか。おしゃべり好きというか何というか、噂やらは広まるのが早いな。
まぁ、地銀の金が全て引き下ろされるような状況を作ることもできるし、広まるのが早いのは確かなんだがさ。
だが、警戒を浮かべている子は少ないな。今分からる程度で二人ってとこか。けど上級貴族っぽい子はまだ来ていないし、実際はどうなるか分からないんだけどさ。
……それにしても嫌だな。ムカつく。
ライゼ自身がどうでもいいと思ってるし、俺も放っておけばいいとは思うが、それでもライゼに嘲笑を向けられていたり、明らかに悪意を向けている子がいるのはムカつくな。
いや、ムカついたとしても、ライゼがどうでもいいと思っているなら俺が反応すべきでは何だろうが。
こう、少しだけモヤモヤする。
だが、そんな事に気を取られていても仕方がない。俺はライゼが読んでいる本を一緒に読む。
それから、時間が経つと試験官三人と進行役の人が出てきた。試験官は昨日の老人とエルフ、そして若い女性だな。
そして今日の実技試験の詳細が話された。
昨日聞いた内容と大体同じだったが、幾つか付け加えられた。
Φ
『ライゼ、どんな感じだ?』
『オールグリーンだよ』
俺が教えた言葉で了解を返すライゼ。ようやく、ライゼの戦闘試合が始まる。
最初の戦闘試合はバトルロワイヤル形式である。
場所は昨日と違い、闘技場みたいな所で、二十人規模の子供たちが一位、二位を求めて戦闘するのである。各グループ内で一位、二位を決めて、それから一対一のトーナメント形式の戦闘試合に移るらしい。
筆記試験の合格者が百人近くいるため、一日で戦闘試験を終わらせるのにはこれが一番楽なのだ。
そしてライゼが所属するグループは一番最後のグループである。
ライゼが進行役の人の指示によってリング内へと入る。他の子たちも入る。
それから、進行役の合図とともに戦闘試験が開始した。
「「「「〝攻撃する魔法〟!」」」」」
そして、ライゼの周りにいた殆んどの受験者たちが、ライゼに向かって魔力弾を射出する。筆記試験を一位で通ったことが妬ましかったのかどうなのか知らないが、強い敵愾心をライゼに向けていた。
ただ、ライゼはそれを読んでいた。分かっていた。
だから。
「シッ」
腰から抜いた二本の短刀でそれらを全て切り伏せた。短刀には魔力を流していて、それによって魔力弾を切ったのだ。敵愾心が分かりやすかったから、狙っている場所もわかりやすかった。
受験者たちは驚く。
だが、驚くのはまだ早い。
「“空鞄”」
ライゼがそう唱えた瞬間、深緑色のトランクスが出てきた。
この戦闘試験は祝福の使用を禁止していない。また、ある一定の条件を満たす武器も使用が可能となっている。結構、自由な戦闘試験なのである。
たぶん、応用力やら何やらを測るためでもあるんだろ。
ただ、万が一大怪我を負わないように受験者たちには特殊な腕輪が渡されている。これは装備者が受けた外部からの身体的ダメージを肩代わりする魔道具で、これが壊れたら失格となるのだ。
この魔道具が装備者のダメージを肩代わりするだったら、魔力量が少なく、枯渇させては回復するを手段として使うライゼにとっては嫌なものだったが、外部攻撃からのダメージしか肩代わりしないという点には助かっている。
そして、急に現れて深緑色のトランクスに呆然としている受験者たちを尻目に、ライゼはトランクスの中からある物体を幾つも取り出した。
それはゴブリンの血をキチンと抜いたお肉である。今朝狩ってきたゴブリンの死体である。持ち込みは禁止されてはいなかったので、持ってきたのだ。
ライゼはそれらを自分の周りに並べていく。ライゼたちを放って戦闘していた受験者たちも、ライゼに敵愾心を向けていた受験者たちも、また司会役や外部で観戦していた受験者たちも唖然として見ていた。
シーンと静まり返る。
まぁ、急に生肉を自分の周りにおいてるって凄い不気味だからな。
だが、不気味なのはこれからだ。
ライゼがトランクスから取り出した新鮮なゴブリンのお肉を並べ終わった。そして、満足そうに頷いた後。
「〝虫が湧き出る魔法〟」
瞬間、ゴブリンの肉から悍ましい見た目の黒いゴマの虫が湧き出てきたのだ。そして、それはライゼの周りに置いてあった全てのゴブリンの肉から湧き出てきて、そして地面を這いずり回り、空中を飛び回ったのだ。
闘技場内は阿鼻叫喚である。
害はないけど、見た目だけはこの世のものとは思えない台所のあん畜生が受験者たちに近づいてくるのだ。そして、一匹だけならまだましだが、それが大群となって襲い掛かってくる。
恐怖でしかないし、腰を抜かしている子も多くいる。
観戦している受験者たちもあまりの光景に悲鳴を上げている。
そして、二分後。
受験者たちが全員棄権した。
闘技場外に自分から飛び出したのだ。闘技場から飛び出した者は失格となる。
こうして、ライゼはゴブリンの肉を媒介とすることによって魔力消費を極端に減らし、一歩も動くことなく勝利を収めた。
ここらは余談だが、来年以降の戦闘試験では大量の虫を発生させる魔法の使用が禁止された。教師たちは問題提起しなかったのだが、ライゼの戦闘を見ていた受験者たちが、また観戦しにきていた上級生たちがデモを起こし、禁止になった。
虫の中心で笑っていたライゼは魔王に見えたそうだ。
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