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第一部 二章:夢を持っていますか?
六話 魔力量の壁
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「ライゼさん」
「はい!」
ライゼが呼ばれる。ライゼは元気よく返事をする。自信たっぷりに歩く。
そしてまた、受験者たちの、特に後半の子たちの間からどよめきが広がる。なんせ、子鬼人の少年が後から二番目である事が確定したからだ。
ライゼが呼ばれるまでは、普通に手違いだろうと疑っていたのだ。
だが、ライゼは呼ばれた。つまり、貴族たちが知らない子が筆記試験で上位者だったこと。そして、貴族たちが知らなかった子は一位のみである事。
というか、一位の名前とライゼの名前が一致している。
だからこそ、驚くのだ。
しかし、ライゼはそれを意に介さない。自信たっぷりに歩く。
そして、笑われるのだ。
「ま、魔力量はランクE」
ランクEとは下から二番目。才能あるなしで言えば全くもってない方である。だからこそ、後の子がそんな低い魔力量で、しかも魔法実技の科目で挑んできた事に進行役は驚きを隠せないのだ。
また、子供たちは単純に低い事を嘲る。ただ、試験官の老人とエルフ、そしてライゼのひとつ前と後は、真剣な目つきでライゼを見ていた。
『彼らには注意だね』
『ああ、そうだな』
ライゼはチラリと後を見ながら言った。
これは一種の篩でもある。常識的な分かりやすい物差しで弱いと分かる相手を警戒できるかどうかを調べるための篩みたいなものなのだ。
自信満々に歩いたのも、そのための準備である。自信満々なやつが恥と捉えられる行動や結果を出したとき、どういう反応をするのかを調べるためだ。
そしてそれでも警戒できる奴はとても強い。どんな相手でも油断することがないから強い。
「つ、次は一般攻撃魔法を」
進行役の人が子供たちの騒めきを抑えた後、ライゼに試験内容を言う。
「はい」
そしてライゼは頷いた瞬間に、目の前に数十個のも〝攻撃する魔法〟を浮かべ、射出する。
案山子は四肢のあちこちを貫かれ、その消耗に耐えられなくなって倒れる。
唖然とする進行役と子供たち。老人とエルフは食えない顔で見ている。
そしてライゼはとても平静を装っているが、軽い吐き気と痛みに襲われている。服の下では冷や汗がべっちょりと流れている。
今の魔力弾数十個で魔力の大部分を使い果たしたのだ。
けれど。
「すみません、次の魔法指定をお願いします」
元々の魔力量が少ないのと圧倒的なまでの魔力回復量によって、直ぐに魔力は全開する。数分近くもすれば全回するほどの魔力回復速度をライゼは持っているのだ。
祝福などによって回復を補助されている俺ですら、もう少し時間がかかる。
「は、はい。では、次に一般防御魔法を」
「はい」
そしてライゼが頷いたとともに、小さな演習場の地面が少し盛り上がり、そこから小さな砲台が幾つも出てきた。
それらは幾つもの〝攻撃する魔法〟を放つ。
放たれた魔力弾は弧を描きながら、ライゼの四方八方から襲ってくる。
しかし、微妙にタイミングがずらしながら襲い掛かってくるそれらを、ライゼは的確に〝防御する魔法〟の小さな障壁で防いでいく。
そして小さな砲台から放たれてた十発の魔力弾が防がれた。
ライゼは無傷である。荒く息を吐くでもなく冷静を装っている。
回復した魔力は枯渇寸前まで減った。
「次をお願いします」
けれど、ライゼはそれをおくびにも出さずに進行役の人に目くばせする。
進行役の人は慣れたのか、考えなくなったのか驚くことはせず、頷いた。
「次は、この虫を一般回復魔法で治癒してください」
「はい」
進行役は足元に置いてあった虫籠をライゼの前に置く。ライゼは屈み、その虫籠の中にいる羽が傷ついたカブトムシみたいな虫に両手を添える。
そして、光らせる。
「はい、これでどうでしょうか」
「……大丈夫です」
ライゼは進行役の人に虫籠を渡す。進行役の人は虫籠の中にいる元気いっぱいな虫を見て、頷く。また、試験官の老人とエルフにその虫籠を渡し、戻ってくる。
「では、次に火、水、風、土、どれでもいいので中級攻撃魔法は放ってください」
そして、いつの間にか再生していた案山子を指差す。
けれど、ライゼは真剣に進行役と試験官二人を見る。それから頭を下げる。
「すみません、僕の魔力量では中級攻撃魔法は扱えません」
進行役の人は思わぬ言葉に驚く。けれど、それは思わぬ言葉ではない。
中級魔法を使うには最低でも魔力量のランクはD以上必要になる。しかも、Dランクというのは、あらゆる技術によって消費魔力を少なくしてようやくDほどの魔力量が必要なのだ。
ライゼの魔力量はE。どう技術を高めたところで圧倒的に不可能な領域なのだ。
そもそも、ライゼは下級魔法を一発放つくらいの魔力量しかない。下級魔法の場合は、あらゆる技術によって魔力消費を減らして、行使するのにEランクの魔力量が必要になる。
ただ、先程の〝攻撃する魔法〟や〝防御する魔法〟、〝回復する魔法〟はどれも下級魔法に属するが、これらは基礎魔法故に、普通の下級魔法より消費魔力が少なくて済むのだ。
進行役の人はそのことを失念していたらしい。試験官の老人とエルフは分かっていたようにライゼを見ている。
そして受験者の子供たちは、余りに淡々と進む試験についていけなくなっていたが、ライゼが魔法を使えないと謝った事よって、理解よりも感情が優先になった。ライゼを嘲笑したのだ。
単純だ。
けれど、やはりというべきか、ライゼの一つ前の子と後の子はますます真剣な瞳、というか険しい表情をしていた。
「クルト君」
受験者たちが騒めいている。しかし、進行役の人が何故か固まってしまい、事態が進まない。
なので、試験官の老人が進行役の人に声をかける。
俺とライゼはただ、傍観している。次の魔法のためにライゼは精神を集中させているのだ。そして、この時間はライゼにとってはプラスに働くのだ。
「あ、すみません。……静粛に、静粛に!」
そして進行役の人は己の意識を取り戻し、受験者たちに静かにするように呼びかける。子供たちは、直ぐには静かにならなかったが、数十秒もすれば静まり返った。
訓練はされているようである。
「はい!」
ライゼが呼ばれる。ライゼは元気よく返事をする。自信たっぷりに歩く。
そしてまた、受験者たちの、特に後半の子たちの間からどよめきが広がる。なんせ、子鬼人の少年が後から二番目である事が確定したからだ。
ライゼが呼ばれるまでは、普通に手違いだろうと疑っていたのだ。
だが、ライゼは呼ばれた。つまり、貴族たちが知らない子が筆記試験で上位者だったこと。そして、貴族たちが知らなかった子は一位のみである事。
というか、一位の名前とライゼの名前が一致している。
だからこそ、驚くのだ。
しかし、ライゼはそれを意に介さない。自信たっぷりに歩く。
そして、笑われるのだ。
「ま、魔力量はランクE」
ランクEとは下から二番目。才能あるなしで言えば全くもってない方である。だからこそ、後の子がそんな低い魔力量で、しかも魔法実技の科目で挑んできた事に進行役は驚きを隠せないのだ。
また、子供たちは単純に低い事を嘲る。ただ、試験官の老人とエルフ、そしてライゼのひとつ前と後は、真剣な目つきでライゼを見ていた。
『彼らには注意だね』
『ああ、そうだな』
ライゼはチラリと後を見ながら言った。
これは一種の篩でもある。常識的な分かりやすい物差しで弱いと分かる相手を警戒できるかどうかを調べるための篩みたいなものなのだ。
自信満々に歩いたのも、そのための準備である。自信満々なやつが恥と捉えられる行動や結果を出したとき、どういう反応をするのかを調べるためだ。
そしてそれでも警戒できる奴はとても強い。どんな相手でも油断することがないから強い。
「つ、次は一般攻撃魔法を」
進行役の人が子供たちの騒めきを抑えた後、ライゼに試験内容を言う。
「はい」
そしてライゼは頷いた瞬間に、目の前に数十個のも〝攻撃する魔法〟を浮かべ、射出する。
案山子は四肢のあちこちを貫かれ、その消耗に耐えられなくなって倒れる。
唖然とする進行役と子供たち。老人とエルフは食えない顔で見ている。
そしてライゼはとても平静を装っているが、軽い吐き気と痛みに襲われている。服の下では冷や汗がべっちょりと流れている。
今の魔力弾数十個で魔力の大部分を使い果たしたのだ。
けれど。
「すみません、次の魔法指定をお願いします」
元々の魔力量が少ないのと圧倒的なまでの魔力回復量によって、直ぐに魔力は全開する。数分近くもすれば全回するほどの魔力回復速度をライゼは持っているのだ。
祝福などによって回復を補助されている俺ですら、もう少し時間がかかる。
「は、はい。では、次に一般防御魔法を」
「はい」
そしてライゼが頷いたとともに、小さな演習場の地面が少し盛り上がり、そこから小さな砲台が幾つも出てきた。
それらは幾つもの〝攻撃する魔法〟を放つ。
放たれた魔力弾は弧を描きながら、ライゼの四方八方から襲ってくる。
しかし、微妙にタイミングがずらしながら襲い掛かってくるそれらを、ライゼは的確に〝防御する魔法〟の小さな障壁で防いでいく。
そして小さな砲台から放たれてた十発の魔力弾が防がれた。
ライゼは無傷である。荒く息を吐くでもなく冷静を装っている。
回復した魔力は枯渇寸前まで減った。
「次をお願いします」
けれど、ライゼはそれをおくびにも出さずに進行役の人に目くばせする。
進行役の人は慣れたのか、考えなくなったのか驚くことはせず、頷いた。
「次は、この虫を一般回復魔法で治癒してください」
「はい」
進行役は足元に置いてあった虫籠をライゼの前に置く。ライゼは屈み、その虫籠の中にいる羽が傷ついたカブトムシみたいな虫に両手を添える。
そして、光らせる。
「はい、これでどうでしょうか」
「……大丈夫です」
ライゼは進行役の人に虫籠を渡す。進行役の人は虫籠の中にいる元気いっぱいな虫を見て、頷く。また、試験官の老人とエルフにその虫籠を渡し、戻ってくる。
「では、次に火、水、風、土、どれでもいいので中級攻撃魔法は放ってください」
そして、いつの間にか再生していた案山子を指差す。
けれど、ライゼは真剣に進行役と試験官二人を見る。それから頭を下げる。
「すみません、僕の魔力量では中級攻撃魔法は扱えません」
進行役の人は思わぬ言葉に驚く。けれど、それは思わぬ言葉ではない。
中級魔法を使うには最低でも魔力量のランクはD以上必要になる。しかも、Dランクというのは、あらゆる技術によって消費魔力を少なくしてようやくDほどの魔力量が必要なのだ。
ライゼの魔力量はE。どう技術を高めたところで圧倒的に不可能な領域なのだ。
そもそも、ライゼは下級魔法を一発放つくらいの魔力量しかない。下級魔法の場合は、あらゆる技術によって魔力消費を減らして、行使するのにEランクの魔力量が必要になる。
ただ、先程の〝攻撃する魔法〟や〝防御する魔法〟、〝回復する魔法〟はどれも下級魔法に属するが、これらは基礎魔法故に、普通の下級魔法より消費魔力が少なくて済むのだ。
進行役の人はそのことを失念していたらしい。試験官の老人とエルフは分かっていたようにライゼを見ている。
そして受験者の子供たちは、余りに淡々と進む試験についていけなくなっていたが、ライゼが魔法を使えないと謝った事よって、理解よりも感情が優先になった。ライゼを嘲笑したのだ。
単純だ。
けれど、やはりというべきか、ライゼの一つ前の子と後の子はますます真剣な瞳、というか険しい表情をしていた。
「クルト君」
受験者たちが騒めいている。しかし、進行役の人が何故か固まってしまい、事態が進まない。
なので、試験官の老人が進行役の人に声をかける。
俺とライゼはただ、傍観している。次の魔法のためにライゼは精神を集中させているのだ。そして、この時間はライゼにとってはプラスに働くのだ。
「あ、すみません。……静粛に、静粛に!」
そして進行役の人は己の意識を取り戻し、受験者たちに静かにするように呼びかける。子供たちは、直ぐには静かにならなかったが、数十秒もすれば静まり返った。
訓練はされているようである。
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