21 / 33
EPISIDE 2nd ◢◤ 片鱗
暗闇の中で
しおりを挟む
暗闇に落ちる。落ちる。まだ落ちていく。
手足に何か細い糸が絡みついてそれがどんどん増えていくような感覚。その中でまだまだ落ちる。
どこを見渡しても闇だ。真っ黒。
一筋の光もない。自分の身体さえも見えない。
やがてこれは落ちているのか、どこまでも浮かんでいるのかわからなくなり感覚が迷走していくのを感じで抗うのをやめた。
理解できない、理解に苦しむことばかり最近起きる。
これもそのひとつ。もう考えるのも馬鹿馬鹿しい。
だから身を任せてしまえばいい。
という結論に達して、目を閉じるミコ。
割と切り替えはすぐできる方だ。
さっきまで何かを飲んでいたような、誰かといたような……。頭の中でぼんやりとシャボン玉のようにフワフワと漂う記憶。
チョウ・チャイという名の中華マフィア……
サーファー……若い頃は……
……! って、カフェのオーナーの言葉ばっかりやないか!! と思い出して目を開けるミコ。
道端に倒れていた。
どこ? ここ?
ミコはゆっくりと立ち上がる。身体が重たい。
すぐ後ろに気配を感じて振り返る。
グリッスル。あの忌まわしきイケメン。
金髪の髪をかきあげて薄ら笑い。
――髪が伸びた? 背中の真ん中辺りまである。サラサラでツヤツヤ、羨ましい。
それにしても……。
目の前にいるのにまるでミコのことが眼中にない様子。
どこを見ているのか? 眼中にないというか気づいてない?
まさか? と思いながらも辺りを見渡すと、10人程倒れている。血まみれで。
「ひゃっ!」と思わず上擦った声をあげるミコ。
それでもグリッスルは見向きもしないでミコを通り過ぎ歩いていく。
なんだ? おかしいな?
というかこれはどうゆう状況? カフェにいたはずなのに。一緒にいたはずのカノンもいない。
「まったく……何度も何度もそうやって僕に刃向かっている気になっているのかも知れないけど……。
僕は全然ダメージ受けていないからね」
口元に笑みを浮かべながら歩いていくグリッスルが軽やかなトーンで言った。
で、言いながらそろらへんに倒れている人達を躊躇なく踏んでいく。
それも見えてないのか? と疑問に思うが一応足を上げてから踏み込んでいる動作を見るとわざとやってるんだろう。
グリッスルが歩いていく方向を見ると華奢な男の子が鼻血を出して立っている。
その後ろに、全身から血を流す男。
よく見ると……ヒコだ。髪の色は赤いけどヒコだ。
不敵な笑みも浮かべている。
「お兄様……。ここは私が……」
と、華奢な男の子が身構えながら言った。
え? ということは、これがカノン?
さっきまでドレス姿で髪の毛アップにして纏めてたよね?
なんでパーカーにスウェットのパンツなんていうラフな格好に? だいたい髪も短くなってる。
とミコは思うがなぜか声が出ない。
自分の喉を指で摘んで咳払い。
だけどグリッスルも、ヒコも、カノンもミコには気づいていない。
ひょっとしてやっぱり見えてないのか?
というか、カノン。いつの間に少年然としたんだ?
ボーイッシュスタイルに路線変更?
「コイツはとことんカスだが、しかし。自分の同胞がどれだけヤラれようがそれを踏んでいくか? 悪党ぅ~~」
「ふっ……。ヒコ。勘違いしちゃいけないよ。同胞? これはただの駒だよ。使えなくなった駒なんてなんの役にも立たないじゃないか」
ヒコとグリッスルのやり取りを見つめているミコ。
これは……、ひょっとして……、過去の出来事を目にしているのでは? とふと思う。
さっきカノンが言ってた【血の……】何曜日だっけ?
そのアレ。アレが多くなってくるのはヒコの影響?
ロザリア王族はそんなもんなのかな。アレしか出てこない。
そう、水曜日! 【血の水曜日】。それを目にしているのでは?
と、ドキドキしてくるミコ。
だから、ヒコも今よりなんとなくさらに色白だし細いし髪の色も違うし、グリッスルの髪も長いんだ。
カノンがボーイッシュなのもそのためか……。
何年前か分かんないけど何があったんたカノン……。
「君も使えない駒だから消してあげよう」
グリッスルがそう言うと手を前に伸ばした。
「お兄様!」
「……ああーだいじょぶ。アイツがきた」
このピンチにまだ不敵な笑みをやめないヒコがさらに口角をあげる。目つきは鋭い。見るからに悪い顔だ。
というか、悪者しか登場してない。
で、傍観者のミコの目の前を掠めて誰かが飛んでくる。
その勢いでグリッスルが2歩下がった。
「ああ~もうめんどっちーなーヒコちんは~。なんだよこれ~。俺これからデートなんだけど~」
飛び込んできた男はグレイのボサボサ頭をかきながら唇を尖らせた。
――え? 誰? とミコの頭に疑問符。
「……また君か!? 下等なニンゲンのくせにそうやって……」
と、グリッスルが喋ってる最中なのもお構い無しに男は思いっきり蹴りを出す。はやい! とミコは単純に驚く。
グリッスルの顎を掠めていく男のつま先。
「にゃはは。よく避けたね~。さすがだね~。次は外さないしぃ~、でもその前に……」
と、男は満面の笑み。
「もうすぐソッチのケーサツ的存在の奴らがくる頃でしょ? にゃは。残念」
「……連盟……か。しょうがない。この間、父上に怒られたところだ。引いておこうか」
スカした表情でグリッスルは溶けるように姿を消していく。
ヒコはまだ不敵。カノンに寄りかかってるけど。
「アレックス様、ありがとうございます。さすがは最強」
カノンが一礼。
男はニコニコしている。ただニコニコ。
アレックス? この男の名前か。
何者だ、アレックス。だいたいどうして知らない人が記憶の中で出てくるんだ? と思いながらミコはまた暗闇の穴に飲み込まれていく。
また落ちる。どんどん。速度も上がる。
揺れる。身体が。脳が。心が。止められない。
揺れる、揺れる。また揺れる。もう勘弁してとミコは思う。
手足に何か細い糸が絡みついてそれがどんどん増えていくような感覚。その中でまだまだ落ちる。
どこを見渡しても闇だ。真っ黒。
一筋の光もない。自分の身体さえも見えない。
やがてこれは落ちているのか、どこまでも浮かんでいるのかわからなくなり感覚が迷走していくのを感じで抗うのをやめた。
理解できない、理解に苦しむことばかり最近起きる。
これもそのひとつ。もう考えるのも馬鹿馬鹿しい。
だから身を任せてしまえばいい。
という結論に達して、目を閉じるミコ。
割と切り替えはすぐできる方だ。
さっきまで何かを飲んでいたような、誰かといたような……。頭の中でぼんやりとシャボン玉のようにフワフワと漂う記憶。
チョウ・チャイという名の中華マフィア……
サーファー……若い頃は……
……! って、カフェのオーナーの言葉ばっかりやないか!! と思い出して目を開けるミコ。
道端に倒れていた。
どこ? ここ?
ミコはゆっくりと立ち上がる。身体が重たい。
すぐ後ろに気配を感じて振り返る。
グリッスル。あの忌まわしきイケメン。
金髪の髪をかきあげて薄ら笑い。
――髪が伸びた? 背中の真ん中辺りまである。サラサラでツヤツヤ、羨ましい。
それにしても……。
目の前にいるのにまるでミコのことが眼中にない様子。
どこを見ているのか? 眼中にないというか気づいてない?
まさか? と思いながらも辺りを見渡すと、10人程倒れている。血まみれで。
「ひゃっ!」と思わず上擦った声をあげるミコ。
それでもグリッスルは見向きもしないでミコを通り過ぎ歩いていく。
なんだ? おかしいな?
というかこれはどうゆう状況? カフェにいたはずなのに。一緒にいたはずのカノンもいない。
「まったく……何度も何度もそうやって僕に刃向かっている気になっているのかも知れないけど……。
僕は全然ダメージ受けていないからね」
口元に笑みを浮かべながら歩いていくグリッスルが軽やかなトーンで言った。
で、言いながらそろらへんに倒れている人達を躊躇なく踏んでいく。
それも見えてないのか? と疑問に思うが一応足を上げてから踏み込んでいる動作を見るとわざとやってるんだろう。
グリッスルが歩いていく方向を見ると華奢な男の子が鼻血を出して立っている。
その後ろに、全身から血を流す男。
よく見ると……ヒコだ。髪の色は赤いけどヒコだ。
不敵な笑みも浮かべている。
「お兄様……。ここは私が……」
と、華奢な男の子が身構えながら言った。
え? ということは、これがカノン?
さっきまでドレス姿で髪の毛アップにして纏めてたよね?
なんでパーカーにスウェットのパンツなんていうラフな格好に? だいたい髪も短くなってる。
とミコは思うがなぜか声が出ない。
自分の喉を指で摘んで咳払い。
だけどグリッスルも、ヒコも、カノンもミコには気づいていない。
ひょっとしてやっぱり見えてないのか?
というか、カノン。いつの間に少年然としたんだ?
ボーイッシュスタイルに路線変更?
「コイツはとことんカスだが、しかし。自分の同胞がどれだけヤラれようがそれを踏んでいくか? 悪党ぅ~~」
「ふっ……。ヒコ。勘違いしちゃいけないよ。同胞? これはただの駒だよ。使えなくなった駒なんてなんの役にも立たないじゃないか」
ヒコとグリッスルのやり取りを見つめているミコ。
これは……、ひょっとして……、過去の出来事を目にしているのでは? とふと思う。
さっきカノンが言ってた【血の……】何曜日だっけ?
そのアレ。アレが多くなってくるのはヒコの影響?
ロザリア王族はそんなもんなのかな。アレしか出てこない。
そう、水曜日! 【血の水曜日】。それを目にしているのでは?
と、ドキドキしてくるミコ。
だから、ヒコも今よりなんとなくさらに色白だし細いし髪の色も違うし、グリッスルの髪も長いんだ。
カノンがボーイッシュなのもそのためか……。
何年前か分かんないけど何があったんたカノン……。
「君も使えない駒だから消してあげよう」
グリッスルがそう言うと手を前に伸ばした。
「お兄様!」
「……ああーだいじょぶ。アイツがきた」
このピンチにまだ不敵な笑みをやめないヒコがさらに口角をあげる。目つきは鋭い。見るからに悪い顔だ。
というか、悪者しか登場してない。
で、傍観者のミコの目の前を掠めて誰かが飛んでくる。
その勢いでグリッスルが2歩下がった。
「ああ~もうめんどっちーなーヒコちんは~。なんだよこれ~。俺これからデートなんだけど~」
飛び込んできた男はグレイのボサボサ頭をかきながら唇を尖らせた。
――え? 誰? とミコの頭に疑問符。
「……また君か!? 下等なニンゲンのくせにそうやって……」
と、グリッスルが喋ってる最中なのもお構い無しに男は思いっきり蹴りを出す。はやい! とミコは単純に驚く。
グリッスルの顎を掠めていく男のつま先。
「にゃはは。よく避けたね~。さすがだね~。次は外さないしぃ~、でもその前に……」
と、男は満面の笑み。
「もうすぐソッチのケーサツ的存在の奴らがくる頃でしょ? にゃは。残念」
「……連盟……か。しょうがない。この間、父上に怒られたところだ。引いておこうか」
スカした表情でグリッスルは溶けるように姿を消していく。
ヒコはまだ不敵。カノンに寄りかかってるけど。
「アレックス様、ありがとうございます。さすがは最強」
カノンが一礼。
男はニコニコしている。ただニコニコ。
アレックス? この男の名前か。
何者だ、アレックス。だいたいどうして知らない人が記憶の中で出てくるんだ? と思いながらミコはまた暗闇の穴に飲み込まれていく。
また落ちる。どんどん。速度も上がる。
揺れる。身体が。脳が。心が。止められない。
揺れる、揺れる。また揺れる。もう勘弁してとミコは思う。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる