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リンねりん

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1st EPISODE::星の少ない街を王女は駆けるが悩みは尽きない

キャバ嬢に手を引かれるJKはピンクのネオンを掻い潜る

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街中で対峙しながらグリッスルは表情だけは涼しげに髪をかきあげる。
表情、だけはね。


「まったく……お前はその存在からしていつもいつも腹立たしい奴だな」
平静を装いつつも感情を逆撫でされて穏やかではない。
言葉通りいつもそうだ。



グリッスルが自分の父親、つまりはロザリアの王に落胤がいることを知ったのはこの多元界たげんかいの標準時で5年程前だ。
八華はっかの街にその落胤はヒトとして生きている。それを知ってからは取り込もうとしたり、排除しようとしたり。
とにかくグリッスル自らが画く覇道の邪魔にならないようにと。


そのいずれも思い通りにいかない。
まあそれでも落胤だ。
取るに足らない存在。
無視を決め込み八華の街を自らの支配下に置こうとしても……次はヒコの方から邪魔してくる。
まったく、道端の小石程度のもので何度も躓くなんて腹立たしい。


グリッスルにとって、思い通りにいかないものは、
「嫌いだよ」
「ん?」
「僕はお前の事が大嫌いだ」

「そっかー。俺は割と好きだよ。かっこいい兄貴だと思ってる」
臆面なく放たれるヒコの言葉に胸がムカムカしてくるグリッスル。歪む、歪む、歪み切る。
感情にどす黒いモノが渦巻きすべてを歪める。


「黙ろうか、愚弟。いや、まあ僕は弟とも思ってはいないけど。
だいたい……お前はこの街で何をしている? ん? ギャングの真似事かい?
なんだか頭と素行の悪いニンゲンを集めてこの街を支配下に置こうとかしてるみたいだけど……未だにお山の大将と言ったところかな?
相変わらず締まらない事にしかなってないみたいだけど……?」
「いやいやこれからこれからー」
さらにニヤニヤするヒコ。


「そうかい? まあどっちでもいいよ。
こんな下等なニンゲンの街を支配下に置いたところでどうってことはない。なーんにもならない」
グリッスルも負けじと口元を緩める。


「そんぐらいさせてよ~。どうせソチラの崇高な世界の王様にはなれないんだからさぁ~~」
猫なで声。もはや挑発というよりもおちょくっている。


「……お前はドコの王にもなれないよ。
……さて、時間稼ぎに付き合ってこれ以上君の戯れ言を聞いてるのは気分が悪い。終わらせるよ」
人だかりが近づいて来ているのが横目に入る。
ザワザワが増す。


「そうだなー。早くミコのこと捕まえないとアイツのチカラが発動してポータルまで創っちゃったら大変だもんな。
それこそ泣くだろ? お前」


「泣くか!」
グリッスルの蹴りがとぶ。
が、紙一重で避けるヒコ。バックステップが軽やか。
ケンカだ! という雄叫びにも似た野次馬の声が聞こえる。
どこか歓喜を含んでいるが。


「案外兄やんも馬鹿だなー」
手を叩くヒコ。

すごい血だ。あれ街賊がいぞくじゃない? 決闘か?
殺し合い? 街賊同士の抗争? やばいよ。
と、外野がうるさい。


「ボロボロのお前がいい気になってるのも滑稽だよ」
不敵に一歩出るグリッスル。


また間合いを取りながら対峙する。
2人はいつだってヒリヒリするような空気の中対峙する。向かい合う。
交わることのない意識を持ちながら。
お互いの闇のような漆黒を絡ませ火花をちらす。その火花はそう簡単には消えない。
ヒリつくような空気が2人を包み、ただ睨み合う。






そんな2人の一触即発の睨み合いが続いてる頃、
カノンとミコはまだ繁華街を駆け抜け続けている。人通りも多く、タクシーやクルマが行き交う道はそうそう速くは走れない。


「私達が、いえミコ様が私達の拠点に辿り着けば勝利です。私達の目的はひとまず達成されますから」

カノンがそう言いながら通りを抜けて
角を曲がると急にピンクの電飾が光り、セクシーな看板や文言が躍る。
明らかに、あからさまに、いかがわしい。

ちょっと頬を赤らめつつ俯き加減で速度を上げるミコ。
それに気づいたのか、カノンはミコの方を振り返り少しばかり微笑んだ。
しかし傍から見たらどんな光景なんだろう。


キャバ嬢的な美女に手を引かれて恥ずかしそうに走る女子高生。
百合萌え的なジャンルの1つにどうだろう。


「カノンちゃん頑張ってー」
なんて声がどこからか飛んできた。
完全なホームタウンだ。
顔見知りばかりが行き交う。


「あそこです」
カノンが前方を指さす。
風俗街的な通りを抜けた先にある円形のスペース。真ん中に水の出ていないライオンの形をした噴水がある、
およそ半径5メートル程の広さ。
申し訳程度の憩いのスペースか。
周りをぐるりとクルマで迂回できるようになっている。
その向こう側に、ホテル。
黄色い派手な壁。ところどころショッキングピンクでHEAVENなんて文字。
目に痛いデザインの7階建て。


「ホテル……」
「はい。私達セディショナリーズの拠点中の拠点。ホテル・ヘブンです」
また得意げだ。自慢ポイントがよくわからない。
だって、だって……ラブホテルやん! と心で叫ぶ。


「これで私達の勝利です」
ホテルのすぐ側まできて高らかに宣言。


ものすごく自信満々だけど……ラブホテルやん!!
うん、そう、煌めくラブホやん。
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