上 下
55 / 56
最終章 変化

冒険記録51 追跡

しおりを挟む
 2人が走り去ろうとしていたところを止めたのはガルーラだった。走る速さを緩め、近づく。ヨシュアの走る速さに驚いていたが、姿にも驚いていた。目の色が紫に変化し、両腕には鎖ではなく幾何学模様が刻まれていた。

「お主、ヨシュアかの?」
「何言ってんだ、じいさん。さてはボケたか?」
「ボケておらんわい!」

 自分以外いないだろうという目でガルーラを見るヨシュアだが、服装以外全て変わってるよとヘルニーに言われ、慌てて自分の姿を見回していた。腕と目はもちろん、しわが出来ていた手が張りのあるものに変わり、髪も焼けた黒色から金に変わっている。

「ちょっと待て、こんなに変わるとは聞いてないぞ」

 抗議させろと怒りまくるヨシュア。その間にガルーラの要件をヘルニーが聞いていた。

「どさくさに紛れて殺人をしている者がおっての」
「魔法とやらで見つけりゃいいじゃねぇか」

 空に向かって文句を言っていたヨシュアが振り返り、提案する。先程知ったばかりの魔法についてよくまだ分かっていないヨシュア。何でもできると思い込んでいた。

「先程から探しておるのだが、見つからんのじゃ」
「それほど便利ってわけではないんだな、魔法って」

 ヨシュアが感心しているとヘイリーが彼の腕を引っ張り、犯人がいる方へ走っていく。足跡を辿ったようだ。半神になり立てとはいえ、いまだ急に引っ張られることに慣れていないヨシュアは、いつも目を見開いて連れ去られている。どちらに行ったかをガルーラが言おうとしていたが、もうすでに2人の姿は豆粒のように小さかった。

「おい、いつも何も言わずに引っ張るんじゃねぇ。毎回心臓に悪いっての」
「でも急がないと逃げちゃうよ」
「その前に一言言えや。いくら人ではないやつになったとはいえ、こちとらもともと人だったんだからな」

 あまりにも早い走りにヨシュアの体が浮くほどだったが、地に足を付けて文句を言いながら自分で走り出す。街を駆け回り、ついでに救助をしつつ探している。手がかりを見つけても早すぎて通り過ぎてしまうこともしばしばあった。

「ここで分かれてる」
「紛らわせるために散り散りになったか」

 今まで足跡は1つだった。それが4つになり、それぞれ別の方向へと走った後を、ヘルニーとヨシュアは特殊な目で見ていた。

「匂いとかで分かんない?」
「私は犬じゃないんだぞ。分かるわけないだろ」
「そっか」

 もはやここまでかと肩を落とすヘルニー。ガルーラの元に戻ろうかとヨシュア達が背を向けたとき、微かに血の匂いがヨシュアの鼻をかする。匂いを嗅いだ瞬間、ヨシュアの足が自然と犯人の方へ向き、ヨシュアは走り出した。別の方向を向いていたヘルニーはヨシュアの足音を聞き、慌てて追いかけ、並走する。ちらりとヘルニーがヨシュアの顔を見ると、口角を上げて笑っていた。それはもう狂気をはらんだかのように。

「おお、こわ……」
「おい、失礼だろ」
「だって君のさっきの顔怖いんだもん。他の人が見たら死んじゃうくらいに」
「それは言い過ぎだ」

 言い合いは続く。殺人犯は大通りの人ごみを抜けて門に向かっている。普通ならば人にぶつからないよう走る速度は軽減するはずなのだが、2人は誰に触れることもなく避けて進んでいく。木と布で出来た担架の上に人を乗せて移動しているその下を、ヘルニーはタイルで出来た地面に身体を擦り付けて滑り込み、ヨシュアは足に力を入れて、人の上を飛び越えた。

 避けた後すぐ立ち上がり、ヨシュアに場所を聞く。

「ここから離れようとしてんだろうな」
「国外逃亡?」
「ああ」
「だったら尚更捕まえなきゃ」

 善行をすることに必死になっているヘルニー。つられてやっているが、ヨシュアは少し不満が溜まっていた。彼の性格上、タダでいいことをするときは、自身の気分が高揚している時か、何かしらの報酬がある時。今回彼がこの事故を引き起こしたとはいえ、何もなしというのはいささか不服だったのだろう。不満げにヘルニーを見る。

「おい、ヘルニー」
「ん?」
「女神アテリアに言われたから人助けをやってはいるけどよ、報酬とかねぇのか?」
「報酬かー」

 走りながら目を瞑り、腕を組んでいる。目の前に瓦礫で道が細くなっているが、障害物など関係ないと言わんばかりに難なく上を飛び越えていく。

「僕が言えないことが報酬かな」
「一体何なんだよ」

 秘密にされていることに不満そうに眉間に皺を寄せながら走るヨシュア。その顔を見ながらヘルニーは楽しそうに笑う。
 血の匂いが濃くなったのか、ヨシュアは手で鼻を押さえて不快感たっぷりな顔をする。先程まで笑っていたが、ヨシュアの表情が変わったのを見たヘルニーも真剣なまなざしへと変えた。門の前で犯人が立往生している。門番は犯人がこの揺れや火事で混乱しているから落ち着かせようと声をかけているが、聞こえていないのか、犯人は喚き声を発して暴れていた。抑え込もうとしている時、ヘルニーが犯人に飛び蹴りを食らわせた。当たる前に減速したとはいえ、ヘルニーの一撃をくらった犯人は門に顔をぶつけ、鼻血を出しながら意識を失った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...