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第3章 魔法使い  

冒険記録39. 魔法使い

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「こいつら引き渡すか」

 まだ気絶している若い男たちをヨシュアは見下ろし、持ち上げるようにヘルニーに指示する。が、一人しか持てないらしく、もう一人はアルヴァーノの背に乗せようとしたが、耳を後ろに倒して拒否している。どうしようかとヨシュアは腕を組みながら目を瞑り、考えていた。その時、ガルーラが杖をまだ地面に横たわっている男に向けた。するとどうだろうか、誰も支えていないのに宙に浮きだしたのだ。

「おい、なんだそりゃ」
「魔法じゃよ」
「……なんでもありかよ、魔法ってのは」

 引きつった顔をしながらも、気絶している4人のうちの2人をヨシュアは担ぎ上げ、彼らが先程まで歩いていた歩道まで戻っていく。

「次の街まで案内頼むぞ」
「うん、こっち」

 ヘルニーを先頭に次の街へ向かう2人と1頭。国境を過ぎてからはそれほど遠くもなく、すぐに街の門のところまで着く。ここでもアルヴァーノを見た門番たちが大騒ぎしていたが、ガルーラの姿を見た彼らが「あの人ならいてもおかしくない」とのことを呟いて、すんなり街の中に入れた。ヨシュア達は従者だとガルーラが伝えたついでに、若い男4人を引き渡す。

「おい、じいさん」
「こうでも言わんと中に入れんわい」

 アルヴァーノは自分のものだと文句を言おうとしてたヨシュアの言葉を遮り、近くに来なさいと手で招いている。従う気がないとアルヴァーノを連れ、街の中央に向かおうと行こうとするヨシュアにガルーラが杖を向けた。歩く体制のまま、彼の体が前のめりになるが、途中で留まっている。

「なんだこれは」
「魔法でお主の動きを」
「宙に浮いてやがる」

 驚いた声を出すヨシュアに、説明しようとするガルーラの声を遮り、興奮した顔で地面と自分の体を何度も見ている。体は動かないようだが手は動くようで、自分の体を触ったり、地面と自分の間に何かないか空を切るような手の動きをしていた。

「おお……」

 自然と体制が戻っていくのに驚きながらも、ヨシュアの声には興奮も混じっている。

「じいさん、あんた魔法使いとやらか? そりゃそうだな、さっきから使ってるしな」

 しばらく自分の体を見ていたヨシュア。振り返って興奮した目でガルーラに問いかけたが、自分で答えを出して頷いていた。完全に自分の世界に入っているのか、ぶつぶつと呟いている。その様子をどうしたらいいかわからず、ただただ見つめるガルーラとヘルニー。声をかけても反応しない。人が行き交う街の中で、この3人の場所だけが切り取られたかのように静かな空間が続く。未だ自分の世界に入っているヨシュアの背に突撃したのは、アルヴァーノだった。

「どうした、アルヴァーノ」

 突然の衝撃に驚いたものの、ヨシュアの服を甘噛みしながら前足で地面をかいている。お腹が空いていることを訴えているのだろう。露店で出している肉屋を見ながら、彼の服をそこまで引っ張っていた。

「ああ、飯か。ちょうど腹も減ってきたし、食うか。お前さんたちもそれでいいか?」
「うん。やった。やっとご飯だ!」
「うむ」

 奢られる気満々なガルーラ。ヨシュアは眉をひそめたが、息を吐いて「今回だけだからな」とガルーラに指をさし、いまだ服を噛んでいるアルヴァーノに離すよう優しく言い、露店に向かう。
 その店では、串に肉と玉ねぎが交互に刺さっている物を網焼きしていた。串焼きを3人と1頭分をそれぞれ2つずつ買う。
 そこでふとヨシュアはアルヴァーノを見た。

「お前さんが肉が好物なのは分かっているのだが、これは大丈夫なのか」

 それぞれに2本ずつ行き渡り、2人が先に食べている中、アルヴァーノにもあげようとしたところでヨシュアの手が止まる。玉ねぎを除去して食べさせようかヨシュアが悩んでいる間に、アルヴァーノの口の中に全て入ってしまった。

「おまっ!」

 驚いて固まっているヨシュアを無視して食べている。しばらく噛み、飲みこんだ後、美味しかったのか歯を見せていた。

「私の心配をよそに嬉しそうだな」

 心配して駆け寄ったヨシュアをよそに、もう1本を食べようと首を伸ばして虎視眈々こしたんたんと狙っていた。

「食べることに夢中になっているから聞こえんかもしれんが、何かあったら私のところにこい。いいな?」

 一撫でした後、残りの1本を差し出す。が、アルヴァーノが狙っていたのはヨシュアの分だった。それに気づいた彼は愛馬から離れて自分のモノを遠ざける。それでも狙おうと近づいてくるアルヴァーノ。

「さすがにこれはやれんぞ。私も腹が減っているし、お前さんのはこれがあるだろ」
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