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第3章 魔法使い  

冒険記録37. 怒り

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 にやにやと笑いながらもひとしきり質問した後、見ているからなと注意されながら彼はそれを無視し、歩を進める。ヨシュアの後ろを付いてくるアルヴァーノを他の門番がこっそり捕まえようとしていた。それに気づいたヨシュアは愛馬の前に立ちはだかり、さえぎった。

「危険な存在だから捕まえようってか? あ? 私の愛馬を」

 さすがにその行動には看過できないと、ヨシュアは眉間に皺を寄せて門番たちを睨む。剣は抜かないものの、それほどの剣幕が彼にはあった。威圧され、しりもちをついて怯える門番たち。ヨシュア達が最後尾だったから被害を受けた者は門番の者達だけだった。

「人のもん取ろうとしてんじゃねぇよ。ここについてから1回でもこいつが暴れたか?」

 苛立っているのかどんどん口調が悪くなるが、ヨシュアが言っていることは間違っていない。海賊だろうと市民だろうと人のモノを取ろうとすれば、怒るのは当たり前だった。ヨシュアは自分の所有物であるものを常に手元に持っていなければ気が済まないという独占欲が他の人以上に大きいからこそ、あの怒り方だった。門番たちは命拾いした。もし、女神によって制約を受けていなければ、彼は剣を取ってこの場で門番たちを殺していただろう。

「お前らや先程まで並んでいたやつらに俺の愛馬は攻撃していたかって聞いてんだよ」

 少しずつ低く唸るような声になっていくヨシュアに、目を見開いてブリキのおもちゃのようにゆっくりと首を横に振ることしか出来ない。先程までヨシュアを見下していた門番は泡を吹いて倒れている。

「確かおじょーちゃんが言うには、こいつの皮で作った鎧は鉄槍を防ぐほどの硬さ、だったか? それが目当てだとしたら尚更最低だなァ」

 我を忘れそうなほど怒っているヨシュアの体は震えていた。自制しながらカットラスの柄の部分を強く握りしめている。柄の部分が細ければ彼自身の爪で手の平を傷つけてしまうほどに。

「ヘルニー、別の場所に行くぞ」
「うん」

 一度街の中に入ったが、門をくぐり、ヨシュアの元に駆け寄る。

「他の者達にも忠告しておけ。俺たちが進む道の邪魔をしたら恐ろしい目に遭ってもらうとな」

 凄みながら言うヨシュアに、激しく首を縦に何度も振ることしか出来ない門番たち。
 一刻も早く離れようと早歩きで、隣を歩くアルヴァーノの背をヨシュアは撫でながらから離れていく。愛馬を落ち着かせるためではなく、荒れ狂った彼自身の心を落ち着かせるためにやっていることなのだが、手の動きがとても激しかった。その証拠にアルヴァーノの背中の毛が絡まっている。

「最悪なところだったね」
「ああ。今後は関わることもない所だ。あんなのは忘れるに限る」
「そうだね」

 この時の行動が、後々おそれられうやまられるほど有名になるとはヨシュア自身も知らない。


「ここから近い場所はどこだ?」

 手持ちの鞄の中に入れていた地図を取り出し、広げて今の居場所を探している。先程の事があまりにも苛立ちすぎて、あの街がどんな名前だったのか聞かずに道を引き返したため、今いる場所がどこか不明だった。

「ここはまだアーケイダ国の領土だね。後100歩ぐらい進んだらムルシュ国家ってところに着くよ」
「あーけいだ……。ああ、おじょーちゃんがいた国か。随分と広いんだな」

 ジュリーの母と父が治めている国ではあるが、ヨシュアはそこまで2人に認識はない。母親であり王妃でもある人物と挨拶をした程度だ。その後は関わってもいないし、これから関わる気もないヨシュアだった。

「よく知ってんな」
「まぁね」

 頭の中に地図が入っているかのように、次の場所までの距離を正確な数字で教えてくるヘルニーに感心するヨシュア。その時2人のお腹から音が鳴る。

「食料とかないんだったけ?」
「ないな」
「じゃあ次の場所で探さないとね」
「そうだな」

 地図を鞄に戻すと、次の目的地ームルシュ国家へ向かうために2人と1頭は歩を進めた。
 今2人が歩いている所は周りには何もなく、ただただ草が広がっているだけだ。ヨシュア達がもう少しで国境を超えそうな時、どこからか声がした。声質的に年老いた男性と若い声の男4人。

「助けなきゃ!」
「おい……! はぁ。自ら助けにいくような柄ではないのだがな、私は」

 声がする方へ走っていくヘルニーを止めようとヨシュアは手を伸ばすが、すでに手が届かない距離までいってしまった。困ったように眉をひそめ、ため息をついた後、追いつくために彼はその後を追った。
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