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4章
55話 よく眠りよく泣く人
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意識が浮上してもいる場所は変わらなかったが、目の前にある顔はいつ見ても綺麗だった。
「ソフィア」
「どうしたの?」
下から見ても、顔が変化することはないのは凄い事だな。
「……寝る前にしているいつもの今やっても?」
「どうぞ」
膝枕を止めるのは惜しいが、抱擁をしないと真に落ち着くなんていえない。
向き合い、胡座をかいてから彼女を膝の上に座らせ、充分に堪能する。
額や頬には親愛を。手の甲には忠誠を。首には執着を。
どれも彼女への言葉以外の愛情だ。
「そういえば、どうやってこちらの世界に来れたのですか?」
一通り満足し、不思議に思ったことを聞いてみる。
私の場合は、元々いた世界にこちらから来たモンスターの血を使って、錠剤に変えてからそれを飲んだのだが、彼女があの劇薬を飲んだとは思えない。
「こんなおかしな話はないと思うかもしれないけれど、貴方の事を想いながら寝ていたらこちらに来れたの」
「そんなことが……?」
「不思議な話よね。いまだにこれは夢だって疑っている私がいるわ」
信じ難い話だが、彼女か嘘を付くとは思えない。
夢だとしても、ここまで肌の温かさや柔らかさが分かるのだろうか。匂いすらある。
「もし夢じゃないとして、考えられる要因としては貴方の心臓かしら」
「これがソフィアをこちらに引き寄せたとでも?」
今も鼓動しているそれが原因だとしたら、私が思えば思うほど彼女がこちらに来ることが多くなるということか。
あまりこちらの世界に来て欲しくないが、疲れを癒すには彼女が必要だ。
「それか誰かがここに呼んだのか」
「そうだとしたら一体誰が」
候補としては魔王がこんなこと出来そうだが、わざわざ面倒なことをするか?
しかも、数多にいる冒険者の中の一人に。
「謎が増えましたね」
「そうね」
「そこも含めてこちらで調査してみます。司令に伝えられるのなら進展ありと伝えてください」
「わかったわ。気を付けてね、アーロ」
額に口付けされたことで一層気を付けなくてはと思えるし、頑張れる。
「ところでソフィア。首に痕をつけてもらっていいですか?」
「ええ。強くでいい?」
「はい」
頭を傾け、噛みやすいようにする。これがあると、彼女が傍にいる感覚が何度でも確かめられる。
「ありがとうございます」
「うん、無理はしないことよ。任務が終わる度にちゃんと休憩しなさい。いい?」
「分かりました」
先程から微かにソフィア以外の女の声が聞こえる。これは、アレシアか。涙声だが、何か遭ったのか?
「待ってるみたいね。早く目を覚まして安心させてあげて」
「この空間から離れるのは惜しいですが、今度はもっと堪能させてください」
「ええ。この任務が終わったらね」
暗闇の中で目を閉じるのは変な感じだが、早く目を覚まそう。
ああ、後、元に戻ったらシルフとアレシアに謝らなければな。それに、衛兵達の怪我の確認もしないと。
やることが多いが、自分がしてしまったことだ。責任をとらなくては。
「じゃあね、アーロ。愛してる」
「ええ。私も」
柔らかい風に吹かれ体が浮いたような感覚になったと思えば、目蓋の隙間から光が見えた。戻ってこれたのか?
「う……」
「アーロさん!」
結構近いところから声が聞こえたな。まだ目が慣れていないのか、閉じていても眩しい。
「……アレシア、か?」
「はい! そうです!」
目を開けると、鼻を啜る姿と涙を溜めながら眉を下げるアレシアの顔と不安な顔をしているシルフがいる。
「君はよく泣いているな」
「アーロさんは眠ってばかりです……!」
「……怪我は無さそうだな。良かった」
軽口が叩けるなら大丈夫そうだな。さて、ここからどう出ようか。まだ枝に捕まったままだ。自力で出られるか?
何かちぎれる音が聞こえるが、大丈夫だろうか? 腕が取れるわけではないよな。不安になってきた。
「ふぅ」
腕は? 大丈夫。首も……繋がっている。足も平気だ。
「今、取ろうとしてたんだけど……」
「……すまん」
シルフの手が空を切って、虚しく下ろされた。
「もう大丈夫なの?」
「ああ、心配かけた。それと、すまなかったな、いろいろと」
まともに顔が見れない。2人は前と同じように接してくれているが、衛兵達は違う。上に報告するだろう。
この後どうなるか分からない。降格ならまだマシだが、冒険者資格の剥奪となるとあの街から離れなければならない。
「本当だよ! 迷惑かけた分のツケを払ってもらうからね!」
「ああ」
どんな結果になろうと受け止めるしかない。それが最悪なことであっても。
「戻るか、街に」
「うん」
「はい!」
たった一日の出来事だとは思えないほどの疲労感だ。帰ったらすぐ寝よう。報告はアレシアとシルフに任せるか。
ソフィアにも言われたしな。
「ソフィア」
「どうしたの?」
下から見ても、顔が変化することはないのは凄い事だな。
「……寝る前にしているいつもの今やっても?」
「どうぞ」
膝枕を止めるのは惜しいが、抱擁をしないと真に落ち着くなんていえない。
向き合い、胡座をかいてから彼女を膝の上に座らせ、充分に堪能する。
額や頬には親愛を。手の甲には忠誠を。首には執着を。
どれも彼女への言葉以外の愛情だ。
「そういえば、どうやってこちらの世界に来れたのですか?」
一通り満足し、不思議に思ったことを聞いてみる。
私の場合は、元々いた世界にこちらから来たモンスターの血を使って、錠剤に変えてからそれを飲んだのだが、彼女があの劇薬を飲んだとは思えない。
「こんなおかしな話はないと思うかもしれないけれど、貴方の事を想いながら寝ていたらこちらに来れたの」
「そんなことが……?」
「不思議な話よね。いまだにこれは夢だって疑っている私がいるわ」
信じ難い話だが、彼女か嘘を付くとは思えない。
夢だとしても、ここまで肌の温かさや柔らかさが分かるのだろうか。匂いすらある。
「もし夢じゃないとして、考えられる要因としては貴方の心臓かしら」
「これがソフィアをこちらに引き寄せたとでも?」
今も鼓動しているそれが原因だとしたら、私が思えば思うほど彼女がこちらに来ることが多くなるということか。
あまりこちらの世界に来て欲しくないが、疲れを癒すには彼女が必要だ。
「それか誰かがここに呼んだのか」
「そうだとしたら一体誰が」
候補としては魔王がこんなこと出来そうだが、わざわざ面倒なことをするか?
しかも、数多にいる冒険者の中の一人に。
「謎が増えましたね」
「そうね」
「そこも含めてこちらで調査してみます。司令に伝えられるのなら進展ありと伝えてください」
「わかったわ。気を付けてね、アーロ」
額に口付けされたことで一層気を付けなくてはと思えるし、頑張れる。
「ところでソフィア。首に痕をつけてもらっていいですか?」
「ええ。強くでいい?」
「はい」
頭を傾け、噛みやすいようにする。これがあると、彼女が傍にいる感覚が何度でも確かめられる。
「ありがとうございます」
「うん、無理はしないことよ。任務が終わる度にちゃんと休憩しなさい。いい?」
「分かりました」
先程から微かにソフィア以外の女の声が聞こえる。これは、アレシアか。涙声だが、何か遭ったのか?
「待ってるみたいね。早く目を覚まして安心させてあげて」
「この空間から離れるのは惜しいですが、今度はもっと堪能させてください」
「ええ。この任務が終わったらね」
暗闇の中で目を閉じるのは変な感じだが、早く目を覚まそう。
ああ、後、元に戻ったらシルフとアレシアに謝らなければな。それに、衛兵達の怪我の確認もしないと。
やることが多いが、自分がしてしまったことだ。責任をとらなくては。
「じゃあね、アーロ。愛してる」
「ええ。私も」
柔らかい風に吹かれ体が浮いたような感覚になったと思えば、目蓋の隙間から光が見えた。戻ってこれたのか?
「う……」
「アーロさん!」
結構近いところから声が聞こえたな。まだ目が慣れていないのか、閉じていても眩しい。
「……アレシア、か?」
「はい! そうです!」
目を開けると、鼻を啜る姿と涙を溜めながら眉を下げるアレシアの顔と不安な顔をしているシルフがいる。
「君はよく泣いているな」
「アーロさんは眠ってばかりです……!」
「……怪我は無さそうだな。良かった」
軽口が叩けるなら大丈夫そうだな。さて、ここからどう出ようか。まだ枝に捕まったままだ。自力で出られるか?
何かちぎれる音が聞こえるが、大丈夫だろうか? 腕が取れるわけではないよな。不安になってきた。
「ふぅ」
腕は? 大丈夫。首も……繋がっている。足も平気だ。
「今、取ろうとしてたんだけど……」
「……すまん」
シルフの手が空を切って、虚しく下ろされた。
「もう大丈夫なの?」
「ああ、心配かけた。それと、すまなかったな、いろいろと」
まともに顔が見れない。2人は前と同じように接してくれているが、衛兵達は違う。上に報告するだろう。
この後どうなるか分からない。降格ならまだマシだが、冒険者資格の剥奪となるとあの街から離れなければならない。
「本当だよ! 迷惑かけた分のツケを払ってもらうからね!」
「ああ」
どんな結果になろうと受け止めるしかない。それが最悪なことであっても。
「戻るか、街に」
「うん」
「はい!」
たった一日の出来事だとは思えないほどの疲労感だ。帰ったらすぐ寝よう。報告はアレシアとシルフに任せるか。
ソフィアにも言われたしな。
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