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3章

31話 主人公の秘密 《前編》

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「あ、あの……私」
「ん?」
「……アーロさんの、言う通りでした。怖いときはありました。けど、いつも一緒にいて、負けることがなかったから、私自身強くなれたのだと思って……。それで、自信がちょっとだけついたんです。だから、もう、教えてもらうことはないって、勝手に思っちゃって、あんな態度を……」

 言葉に感化されるように、涙が彼女の目から零れ落ちてきた。

「……アレシア」
「私、今回ので痛感しました……。討伐に行くにも、情報と鍛錬が、とても必要だってこと」

 鼻をすすりながら、涙声で言うアレシアに私は何も言えなかった。
 というより、今は言うべきではない。そう自然と思ったのだ。

「ごめんなさい……」
「君の気持ちは分かった。では、私も言おう。自力で戦えなどと酷いことを言って、すまなかった」

 「謝る必要はないんですよ」と言いながら慌てていたが、勝手に安全だなんて思っていたゴブリン討伐に、未熟な冒険者を送るというのは、危険な身に遭ってこいって言っていることに変わりはない。
 それをすることがどれだけ大変なことか解っているにもかかわらずだ。

「いや、謝るべきところでは謝るべきだ。どれだけ知識や力があろうと関係ない」
「それ以上は謝ったらダメだよ」

 私こそと言いかけたアレシアをシルフが止めた。
 止めていなければ私も彼女のようにずっと言い続けていたかもしれん。
 おそらく彼女もそうだったのだろう。

「それを食べるといい」

 お互い諦め、早めの夕食を取ることにした。アレシアは果物を。シルフは肉を。
 私のもちょうどいい焼き加減になったころだ。

「聞いていい? 君のこと」
「ああ。何が聞きたい」

 おそらく全部と言うだろう。
 それを語るには一晩かかりそうだが、たまにはいいのかもしれないな。
 火を見ながら食事をし、私について話すのも。

「全部かな。その武器とモンスターについての知識。後、冒険者になった理由とその中に隠しているもの」
「私も気になってました」
「話せないことも多々あるが、それでよければ最後まで付き合え」
「うん。いいよ、付き合う」

 アレシアは答えなかったが、シルフと同じ考えのようだ。

「順を追って話そう。まず、前提としてだが、私はある目的の為に、この異世界に来た人物だ」
「え……」
「うすうすそうなのかなって思ってたけど、やっぱりかー」

 アレシアは驚き、シルフは妙に納得した顔で私を見てきた。

「その目的は、私がいる世界と、この世界の違いを知るためだ。君たちからすると、私は別の世界の未来から来た人物ということになる。その世界では、ある特定の場所にだけモンスターが出続ける現象が起きていて、常に奴らは変化し続けている。今までは倒せていた奴でも、次は倒せなくなることもしばしばあった。その原因がここにあるとなり、変化したモンスターの弱点を知るために来たというわけだ」
「ほへぇ……」
「未来かぁ……想像出来ないなぁ」

 まだ話し始めたばかりだというのに、ついてこれそうにない顔をするアレシア。大丈夫か?

「続き、話しても大丈夫そうか?」
「は、はい! 平気です!」

 背を伸ばし、聞く体勢になった。

「その調査のため、常に探し回っていたのだが、時間がかかる上に遭遇することが少なかった。実際来てから7日ほど探したが、見つけたのはワイバーンだけだったからな。私がいるところにもワイバーンは出たりはするが、そこまでの違いはなかった。探し回った結果がそんだけのものなのかと落胆していた時に、リカロ達と出会ったんだ」

 今のあいつらの印象は最悪だが、見ず知らずの奴を拾ってくれたことには、感謝しなくてはな。

「リカロ達から見た私は、見たこともない鉄の筒を抱え、途方に暮れている男にでも見えたのだろう。それで手を差し伸べてくれた。一緒に来ないか、と」

 今思えば、不思議な光景だったと思う。
 未来の男が過去の少年達についていこうとしているのだから。

「いきなり出てきて、来ないかと言われたら誰でも怪しいと思うだろう。その時の私も怪しんだし、悩んだりした。ついていくべきなのか? と。だが、どれほどかかるか、どれくらいのモンスターがいるか分からないものにいつまでも時間を掛けるなら、ついていった方がいいと考えたんだ」

 実際、ギルドに入ってからは、いくつものモンスターに遭遇することが出来た。知らない魔物や見たことがあるモンスター。デカくなりすぎでは? と、思うような黒く飛び回る奴まで。名前は言わん。何かは分かるだろう?

「それで冒険者ギルドに登録を?」
「ああ。だが、問題が発生したんだ。アレシアなら分かると思うが、ギルドに入る為には、ある程度の読み書きが出来ないといけないだろ?」
「そうですね」
「私はそれが出来なかったんだ。先程も言った通り、違う世界の人間だからな」

 そこでしまったとさえ思った。
 最初に覚えるべきはモンスターの差異ではなく、文字だと。

「じゃあ、どうやって登録できたの?」
「代わりに書いてもらったんだ。受付嬢のカリナに。理由は真実の中に嘘を少しだけいれてな」
「なるほど……って、嘘ついちゃダメですよ!」

 正直だからそのまま頷いてくれるかと思ったが、だめだったか。

「それほど大きい嘘ではない。森の中で暮らしていたから読み書きが出来ないと言っただけだ。実際森で過ごしたこともあるからな。2年ほどだが」
「ああ」

 二人から妙に納得といった顔された。何故だ。

「登録は出来ても実力を調べないといけないとなった時、ナイフだけで戦った。これだな」

 サバイバルナイフを取り出し、地面に突き刺すと、少しだけアレシアの肩が跳ね上がった。
 怖がりなところは変わらないようだ。
 そんな早く克服できるわけではないから、ゆっくりとだな。慣れさせるのは。

「あれ? でも、その筒は」
「魔法がどれくらいの威力なのかは判断つかないが、当たり所が悪ければ一発で死ぬ威力をこいつは持っている。これからだって時に、人を死なせちゃ後味が悪いだろ。だから使わなかった」
「そんな怖い筒を……」
「ちゃんとした扱いをすれば、強力な武器だ。だが、下手な扱い方をすれば自分が怪我することもある」
「ひぇ……」

 アレシアが顔を真っ青にして怖がっている。だが、倒れはしなかった。
 前はブルの匂いを嗅いだだけでも倒れていたのに少しだけ強くなったな。
 おっと、肉が無くなったか。次を焼いておこう。

「それから?」
「実力テストは合格。クラスは1つ飛ばしてブロンズからとなった」
「1つ飛ばしてってことは、そんなに強かったんですか?」
「同クラスの奴らよりかは上だと思っているが、実際は分からん。まだ新人なわけだし、闘ったこともないからな。もし、飛び級なんてものがあれば、上のクラスから始めていたかもな」

 食べ過ぎもよくないからこれで最後にしよう。シルフは気に入ったのか、時々肉を食べるのに夢中になっている。

「一度見てみたいです」
「近いうちに洞窟に行くつもりだから、そこでな」
「はい」

 嬉しそうに頷いた。もう、驕ることはないだろう。今回ので十分に理解しただろうからな。
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