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3章

30話 感謝と哀悼の意を

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「シルフ、そこにいるのだろう? 手伝ってくれ」
「うん」

 傷口を包帯で巻きながら、近くまで来たシルフを呼んだ。
 アレシアは木のそばでずっと立ったままでいる。
 なにか聞きたそうな雰囲気を出しているが、なにか聞いてきたら答えるとしよう。

「彼らを協会に……。いや、彼らの家族に」

 協会に行って土葬してもらうのが一番なんだが、彼らの家族のことを考えると、生まれた場所へと運んだ方がいい。が、そこまでいくのに時間がかかる。その間に腐ってしまうしな。
 今出来ることは土葬くらいだろう。なら、遺品を回収して、家族へ渡す。


 それが今の私にできる彼らへの弔いだ。


 装備を取り、遺品と思われるものを回収する。冒険者の身分証として腕に付けているバングル。
 そして剣や杖、装備。

 荷物は多くなるが仕方のないこと。

「どうするの?」
「森の中で埋葬する」

 一人ずつ丁寧に運び、深く掘った穴の中にいれる。
 花なんかもあれば一緒に入れるのだが、ここらには生えてなった。

My prayers go out to you私の祈りをあなたに捧げる

 カトリックではないが、君たちに哀倬の言葉を送ろう。名も知らぬ仲間よ。せめて安らかに。

 何秒か、何分かは分からないが長いことしたと思う。
 簡単にだったが、これでいいだろう。
 帰るのは明日になりそうだな。

「日が暮れてきたな。今日はここで一休みしよう。何か食料となるものを狩ってくる。シルフはどうする?」
「前言ってたブルが食べてみたい」
「いれば狩ってこよう。焚火の準備をしていてくれないか?」
「うん」

 彼女たちの為に水も持ってきた方がいいだろう。近くに水場はないだろうか。
 ん? この鼻の奥にツンとくる匂い。すでにどこかでブルが死んでいる? 誰かが狩ったのか? 
 警戒しておくべきか。

 しばらく歩いていると、死体が置いてあった。首を何かで絞められた痕がある。一体誰が? 
 これだけ太い痕は紐か、それとも巨大な蛇か。だが、そんな気配も音もしない。

「幼木よ。それをやろう。そして養分とせよ。我らからの感謝の意を受け止めよ」
「あ、ああ。ありがたく頂戴しよう」

 強い風が急に吹いて、木が揺れたと思ったら話しかけてきた。
 いきなり話しかけられると心臓が飛び出るから止めてほしい。とは思っても伝わらないのが悲しいところだ。
 一度伝えたことはあるのだが、聞いてもらえなかった。

 一方的に話しかけて終わり、だからな。

「食料はこれでいいか」

 あとは水とアレシア用の食料か。

「ね、ねぇ! なにこれ!」

 ブルを肩に担ぎながら戻ると、シルフの悲鳴が聞こえてきた。一体何があったんだ?


「嬉しいんだけど、こんなに食べられないよ!」

 思わず引いてしまいそうなほどの果物が置かれていた。
 嬉しいことに変わりはないのだが、一日二日では処理できない。
 これほど送られるようなことはしてないぞ。したことといえば、血を分け与えただけなんだが。

「君が戻ってきた後、血をあげたからこうなってるんじゃないの?」
「私のせいか? 1、2適だけだぞ」
「それでめちゃくちゃ感謝してるよ」
「だが、約束だったしな……」
「君から言って。もういらないよって」
「あ、ああ……」

 実はあの樹の仙人がとんでもないやつだったのか? 
 よくわからん。ただ、今度からはよく考えてから分け与えるべきだな。
 この森から果物がなくなるのではないかと思われるくらい持ってきたので。それくらいでと断った。
 あと一個だけと渡そうとしてきたが、それも受け取らなかった。

「あいつらの防具にバングル。そして、果物。果実は日持ちするが、誰かに分けるか」
「焚火の準備終わったよ」
「ああ。こちらも捌き終わった」

 前みたいに雑食の鳥に臓器をやろうかと思ったのだが、今日はいなかった。
 仕方ない。どこかで処理しよう。

「それがトキシン・ブルのお肉?」
「ああ。もう少し待ってろ。ちょうどいい焼き加減で渡す」
「うん、待ってる」

 初めてならば焼き加減はレアがいいだろう。私も初めて食べた時は感動した。
 死にかけはしたが。

「ほら、出来たぞ」
「ありがと」

 シルフに渡すと興奮した目で肉を眺めている。私も食べるか。無くした分の血を肉で作らなければ。

「アレシア、君はどうする?」

 食べられるかは分からないが、二人の女性に果実を渡し、ずっと木のそばにいながら私を見ているアレシアに問いかけたが、なにも返答はなかった。

「いろいろと聞きたいこともあるのだろう? 私が何者なのか。どうして、木の中に入っていったのか」

 パチパチと燃える木を見ていると少しだけ落ち着いた。
 火は危ないものなのに、どうしてか心が安らぐ。

「聞きたかったら隣に来なさい。食事しながら話そう」

 ゆっくりと振り返り、果実を差し出す。
 今、自分がどんな目をしているかは分からない。ただ、心は穏やかだ。

 ゆっくりと、だが、少し恐ろしそうに近づき、受け取ると少し離れた場所に座った。
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