31 / 80
3章
30話 感謝と哀悼の意を
しおりを挟む
「シルフ、そこにいるのだろう? 手伝ってくれ」
「うん」
傷口を包帯で巻きながら、近くまで来たシルフを呼んだ。
アレシアは木のそばでずっと立ったままでいる。
なにか聞きたそうな雰囲気を出しているが、なにか聞いてきたら答えるとしよう。
「彼らを協会に……。いや、彼らの家族に」
協会に行って土葬してもらうのが一番なんだが、彼らの家族のことを考えると、生まれた場所へと運んだ方がいい。が、そこまでいくのに時間がかかる。その間に腐ってしまうしな。
今出来ることは土葬くらいだろう。なら、遺品を回収して、家族へ渡す。
それが今の私にできる彼らへの弔いだ。
装備を取り、遺品と思われるものを回収する。冒険者の身分証として腕に付けているバングル。
そして剣や杖、装備。
荷物は多くなるが仕方のないこと。
「どうするの?」
「森の中で埋葬する」
一人ずつ丁寧に運び、深く掘った穴の中にいれる。
花なんかもあれば一緒に入れるのだが、ここらには生えてなった。
「My prayers go out to you」
カトリックではないが、君たちに哀倬の言葉を送ろう。名も知らぬ仲間よ。せめて安らかに。
何秒か、何分かは分からないが長いことしたと思う。
簡単にだったが、これでいいだろう。
帰るのは明日になりそうだな。
「日が暮れてきたな。今日はここで一休みしよう。何か食料となるものを狩ってくる。シルフはどうする?」
「前言ってたブルが食べてみたい」
「いれば狩ってこよう。焚火の準備をしていてくれないか?」
「うん」
彼女たちの為に水も持ってきた方がいいだろう。近くに水場はないだろうか。
ん? この鼻の奥にツンとくる匂い。すでにどこかでブルが死んでいる? 誰かが狩ったのか?
警戒しておくべきか。
しばらく歩いていると、死体が置いてあった。首を何かで絞められた痕がある。一体誰が?
これだけ太い痕は紐か、それとも巨大な蛇か。だが、そんな気配も音もしない。
「幼木よ。それをやろう。そして養分とせよ。我らからの感謝の意を受け止めよ」
「あ、ああ。ありがたく頂戴しよう」
強い風が急に吹いて、木が揺れたと思ったら話しかけてきた。
いきなり話しかけられると心臓が飛び出るから止めてほしい。とは思っても伝わらないのが悲しいところだ。
一度伝えたことはあるのだが、聞いてもらえなかった。
一方的に話しかけて終わり、だからな。
「食料はこれでいいか」
あとは水とアレシア用の食料か。
「ね、ねぇ! なにこれ!」
ブルを肩に担ぎながら戻ると、シルフの悲鳴が聞こえてきた。一体何があったんだ?
「嬉しいんだけど、こんなに食べられないよ!」
思わず引いてしまいそうなほどの果物が置かれていた。
嬉しいことに変わりはないのだが、一日二日では処理できない。
これほど送られるようなことはしてないぞ。したことといえば、血を分け与えただけなんだが。
「君が戻ってきた後、血をあげたからこうなってるんじゃないの?」
「私のせいか? 1、2適だけだぞ」
「それでめちゃくちゃ感謝してるよ」
「だが、約束だったしな……」
「君から言って。もういらないよって」
「あ、ああ……」
実はあの樹の仙人がとんでもないやつだったのか?
よくわからん。ただ、今度からはよく考えてから分け与えるべきだな。
この森から果物がなくなるのではないかと思われるくらい持ってきたので。それくらいでと断った。
あと一個だけと渡そうとしてきたが、それも受け取らなかった。
「あいつらの防具にバングル。そして、果物。果実は日持ちするが、誰かに分けるか」
「焚火の準備終わったよ」
「ああ。こちらも捌き終わった」
前みたいに雑食の鳥に臓器をやろうかと思ったのだが、今日はいなかった。
仕方ない。どこかで処理しよう。
「それがトキシン・ブルのお肉?」
「ああ。もう少し待ってろ。ちょうどいい焼き加減で渡す」
「うん、待ってる」
初めてならば焼き加減はレアがいいだろう。私も初めて食べた時は感動した。
死にかけはしたが。
「ほら、出来たぞ」
「ありがと」
シルフに渡すと興奮した目で肉を眺めている。私も食べるか。無くした分の血を肉で作らなければ。
「アレシア、君はどうする?」
食べられるかは分からないが、二人の女性に果実を渡し、ずっと木のそばにいながら私を見ているアレシアに問いかけたが、なにも返答はなかった。
「いろいろと聞きたいこともあるのだろう? 私が何者なのか。どうして、木の中に入っていったのか」
パチパチと燃える木を見ていると少しだけ落ち着いた。
火は危ないものなのに、どうしてか心が安らぐ。
「聞きたかったら隣に来なさい。食事しながら話そう」
ゆっくりと振り返り、果実を差し出す。
今、自分がどんな目をしているかは分からない。ただ、心は穏やかだ。
ゆっくりと、だが、少し恐ろしそうに近づき、受け取ると少し離れた場所に座った。
「うん」
傷口を包帯で巻きながら、近くまで来たシルフを呼んだ。
アレシアは木のそばでずっと立ったままでいる。
なにか聞きたそうな雰囲気を出しているが、なにか聞いてきたら答えるとしよう。
「彼らを協会に……。いや、彼らの家族に」
協会に行って土葬してもらうのが一番なんだが、彼らの家族のことを考えると、生まれた場所へと運んだ方がいい。が、そこまでいくのに時間がかかる。その間に腐ってしまうしな。
今出来ることは土葬くらいだろう。なら、遺品を回収して、家族へ渡す。
それが今の私にできる彼らへの弔いだ。
装備を取り、遺品と思われるものを回収する。冒険者の身分証として腕に付けているバングル。
そして剣や杖、装備。
荷物は多くなるが仕方のないこと。
「どうするの?」
「森の中で埋葬する」
一人ずつ丁寧に運び、深く掘った穴の中にいれる。
花なんかもあれば一緒に入れるのだが、ここらには生えてなった。
「My prayers go out to you」
カトリックではないが、君たちに哀倬の言葉を送ろう。名も知らぬ仲間よ。せめて安らかに。
何秒か、何分かは分からないが長いことしたと思う。
簡単にだったが、これでいいだろう。
帰るのは明日になりそうだな。
「日が暮れてきたな。今日はここで一休みしよう。何か食料となるものを狩ってくる。シルフはどうする?」
「前言ってたブルが食べてみたい」
「いれば狩ってこよう。焚火の準備をしていてくれないか?」
「うん」
彼女たちの為に水も持ってきた方がいいだろう。近くに水場はないだろうか。
ん? この鼻の奥にツンとくる匂い。すでにどこかでブルが死んでいる? 誰かが狩ったのか?
警戒しておくべきか。
しばらく歩いていると、死体が置いてあった。首を何かで絞められた痕がある。一体誰が?
これだけ太い痕は紐か、それとも巨大な蛇か。だが、そんな気配も音もしない。
「幼木よ。それをやろう。そして養分とせよ。我らからの感謝の意を受け止めよ」
「あ、ああ。ありがたく頂戴しよう」
強い風が急に吹いて、木が揺れたと思ったら話しかけてきた。
いきなり話しかけられると心臓が飛び出るから止めてほしい。とは思っても伝わらないのが悲しいところだ。
一度伝えたことはあるのだが、聞いてもらえなかった。
一方的に話しかけて終わり、だからな。
「食料はこれでいいか」
あとは水とアレシア用の食料か。
「ね、ねぇ! なにこれ!」
ブルを肩に担ぎながら戻ると、シルフの悲鳴が聞こえてきた。一体何があったんだ?
「嬉しいんだけど、こんなに食べられないよ!」
思わず引いてしまいそうなほどの果物が置かれていた。
嬉しいことに変わりはないのだが、一日二日では処理できない。
これほど送られるようなことはしてないぞ。したことといえば、血を分け与えただけなんだが。
「君が戻ってきた後、血をあげたからこうなってるんじゃないの?」
「私のせいか? 1、2適だけだぞ」
「それでめちゃくちゃ感謝してるよ」
「だが、約束だったしな……」
「君から言って。もういらないよって」
「あ、ああ……」
実はあの樹の仙人がとんでもないやつだったのか?
よくわからん。ただ、今度からはよく考えてから分け与えるべきだな。
この森から果物がなくなるのではないかと思われるくらい持ってきたので。それくらいでと断った。
あと一個だけと渡そうとしてきたが、それも受け取らなかった。
「あいつらの防具にバングル。そして、果物。果実は日持ちするが、誰かに分けるか」
「焚火の準備終わったよ」
「ああ。こちらも捌き終わった」
前みたいに雑食の鳥に臓器をやろうかと思ったのだが、今日はいなかった。
仕方ない。どこかで処理しよう。
「それがトキシン・ブルのお肉?」
「ああ。もう少し待ってろ。ちょうどいい焼き加減で渡す」
「うん、待ってる」
初めてならば焼き加減はレアがいいだろう。私も初めて食べた時は感動した。
死にかけはしたが。
「ほら、出来たぞ」
「ありがと」
シルフに渡すと興奮した目で肉を眺めている。私も食べるか。無くした分の血を肉で作らなければ。
「アレシア、君はどうする?」
食べられるかは分からないが、二人の女性に果実を渡し、ずっと木のそばにいながら私を見ているアレシアに問いかけたが、なにも返答はなかった。
「いろいろと聞きたいこともあるのだろう? 私が何者なのか。どうして、木の中に入っていったのか」
パチパチと燃える木を見ていると少しだけ落ち着いた。
火は危ないものなのに、どうしてか心が安らぐ。
「聞きたかったら隣に来なさい。食事しながら話そう」
ゆっくりと振り返り、果実を差し出す。
今、自分がどんな目をしているかは分からない。ただ、心は穏やかだ。
ゆっくりと、だが、少し恐ろしそうに近づき、受け取ると少し離れた場所に座った。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
冥界の愛
剣
恋愛
ペルセフォネ
私を呼んで ハーデス。
あなたが私の名を呼んでくれるから 私は何度でもあなたの元に戻ってこれる。
いつも側に感じてる。どんな辛い時も あなたとまた会えると信じてるから 私が私でいる事ができる。全てを超えていける。
始まりの水仙の話から
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる