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2章

29話 正体の片鱗

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「終わった?」
「ああ」

 強制的に作った暗闇を見ていたせいか、日差しがまぶしい。
 だが、安心もする。

「ほら、出ておいでよ」

 木の陰に隠れている。

「……怪我はないか、アレシア」

 言葉は話さなかったが、こくりと頷いた。

「それならいい」

 そういえば、アレシアと一緒に行ったパーティーはどこに行ったんだ? 探さないとな。
 依頼内容ではなかったが、カトブレパスを受け取ってくれるだろうか?

 とりあえず、こいつのもう片方の目を潰して、口を縄で塞がなければ。
 また植物が枯れるかもしれんし、毒を吐く可能性もあるからな。

 これでもう動くことはないだろ。
 さて、本来の目的であるゴブリン退治に取り掛かるとしよう。砦を探さなければ。
 あれか? デカい木に取り込まれているな。

 それなら一つできることがある。
 あまりやりたくないのだがな。

「シルフ。彼女を見守っていてくれないか? そこの砦に行ってくる。何もなければすぐ戻ってくる」
「わかった」

 もしだ。もし誰か囚われていたら助けて戻ってこよう。
 本当はなにもないのが一番だが。

「樹よ。少し協力して欲しいことがある。この砦の中を調べたい。養分は足りないかもしれないが、血を与える」

 砦にはまだ入らない。
 その前にしなければならないこともある。
 あまり使いたくないが、安全だと確証を得るまではこれしか方法がない。

「誰かと思えば、生まれてまだ若い苗じゃの」
「ああ。その若いのが、あなたの中に入ることを許可してほしい」

 話しかけた途端、風が吹いていないのにも関わらず、周りの木が激しく揺れ始めた。
 人に性格があるように木にも性格がある。
 この木が樹齢何年かは分からない。だが、話し方からして温厚な性格を持っているのだけは確かだ。

「好きに入るといい」
「感謝する」

 この木はないが、たまに私を取り込もうとする木がいるから、毎回聞かないといけないのが少し大変だ。

「声が聞こえる。向こうか」

 木の中に入ってから5分程。
 やかましい音が少しずつ聞こえてくる。お祭りでもしているのだろうか? 
 どんなものかは想像したくないが。

「なんだ、これ……」

 元の世界でゴブリンといえば、家に棲みついていたずらをするだけの妖精だと、云われていたはずなのだが、ここでは違った。

 守銭奴であることに変わりはないが、女性を慰み者として扱っている。
 そいつらの周りには男の死体もあった。たぶん、あいつらがアレシアと一緒に行った仲間たちだろう。
 どういう殺され方をしたのかは分からないが、こんなところに骨を埋めるわけにもいかない。
 連れて帰ることは難しいだろう。ならば、せめてどこかで弔ってやらなければ。

 それにしても、あまりにも元の世界と違い過ぎて吐き気すら覚える。

 戦わずしてあいつらから離す方法はないだろうか。

「困っておるようじゃの、若いの」

 驚いた。まさか人の姿で隣に出てくるとは。
 会話できることは知っていたが、人型になるなんて思いもしない。
 こういうことがあるから、私は冒険者としてギルドに入ったのだ。元の世界との違いを探す為に。

 他にも理由はあるのだが、話すことはできない。

 樹の精霊は仙人の姿をしていた。
 話し方からしてそうだろうとは予想していたが、想像通りだった。

「この砦の全体に根が張っておる。それで人の子らを助けることもできるぞ」
「願ってもない申し出だ。だが、それへの見返りは?」
「おぬしの血を一滴貰いたい。久しぶりに若いのを見て、元気になりたくての」
「分かった。あいつらを助けた後に分け与える」

 交渉は成立。

 そういうと樹の仙人は消えていった。
 準備に取り掛かっているのだろう。
 いくら仙人とはいえ、いきなり動かすことは……。

「ほれ、若いの。助ける番だぞ」

 出来たのか。いや、呆けている場合ではないな。急がねば。
 気付かれないように一体ずつ。確実に喉を切り裂いていく。

 全部で何体いたのだろうか? 10以上はくだらない。

「最後に、こいつらを外にだしてやりたい」
「では、その後に」
「ああ」

 布は男の死体から取ろう。ちょうど二枚ある。
 俵担ぎで申し訳ないが、一度に運ぶにはこれの方が効率がいい。

「助かった。約束の血だ」

 坂を上ったり、太く地面に張っている根を乗り越え、ようやく外に出れた。
 とりあえず、女性たちをいったん下ろさなければ。

「おお……!少しだけ若返ったような気分だ」
「それはよかった」

 手首と肘の内側にある窪みの間を切って1、2適分け与えると、歓喜した声が響いた。
 樹の仙人のおかげで特に疲れもなく、倒すことが出来たが、これからもそうなるとは限らない。
 次は1人でも対処できるようにならなければ。
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