上 下
24 / 80
2章

23話 再び起きた酔い

しおりを挟む
 それから気絶していた他の者たちも起き上がり、安全を確保した後、船を動かした。

 私はというと、また船酔いの状態になってしまった。
 嗅ぎなれたはずの血の匂いと、波による揺れで先程よりもひどくなっている。
 一時的に止まるのならば、ずっとない状態になってほしいのだが。そうはいかないか。


 商人が食事に誘ってきたが、丁重に断った。
 まず、無理。
 
 どんな料理が出るのかは分からんが、今そんな状態じゃない。
 こんな状態で食べて、もし目の前で吐いたら失礼だ。
 幸いなことに私の顔色を見てなのか、一回で諦めてくれた。それほど悪かったのか。

「大丈夫ですか?」
「……とりあえず、それを食べ終わってから近づいてくれ。それでもきつい」

 ウサギの肉を持ったまま近づいてきたが、離れていてほしい。
 その匂いで今にも吐きそうだ。

「横になった方がいいですよ」
「そうさせてもらおう。これを見張っておいてくれ」

 激しく動くと、更に気持ち悪くなるからゆっくりだ。
 それにしても、まさか船酔いになるとは。
 もしかしたら船酔いだけでなく飛行機酔いも発生するのではないか? 

 いや、待て。今心配しても意味がない。その時になったら考えよう。
 今しなくていい心配をしていても船は勝手に進む。

 何事もなく目的地についたが、とんでもなく長く感じた。酔いとは酷いものだな。

「どうします? 港町につきましたけど……」
「ここで休んでおく。このまま街に入ると大騒ぎになるからな」

 人間だと、暑い日で1~2日。
 寒い日だと数日で腐敗していくのだが、セイレーンはどうなのか。
 これは、人として見るべきか? それとも鳥として見るべきか。

 モンスターだからそのどちらでもないのか。
 少し調べてみる必要がありそうだ。ギルドに戻ったら解体屋にでも聞いてみよう。


 夕方となり、私とアレシア以外は宿に泊まった。
 商人にお金を出すからと誘われたのだが、この死体を置いていくわけにもいかないと丁重に断った。
 それに、何故かセイレーンを倒してから周りの態度が一変した。
 討伐するまでは私たちを下に見るような目をしていたが、終わってから急にへりくだった話し方になった。

 護衛も船員たちも。

「いったいなんなんだろうな」
「何がです?」

 宿代は貰わなかったが、食事するためのお金は貰っていた。
 かなり強引にだったが。

 拒否し続けるのも失礼だと思い、それだけ受け取った。
 中には1,450エル入っている。
 貰い過ぎだとその時は思ったが、臨時だと言われると何も言い返せない。

「君が気付いたかどうかはわからんが、護衛や商人たちの態度が変わったのが不思議でな」
「え? 変わってました?」
「気付いてなかったか」

 豆入りのスープを食べながら、呆けた顔をしている。
 鈍感なのは戦いにおいて危険なことだが、時にそれが役に立つことがある。それが今か。
 逆に勘が鋭いのも危険だと思うが。

 いい塩梅が出来ないのは、人として仕方ないところではあるな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai
ファンタジー
不慮の事故によって亡くなった酒樹 錬。享年二十二歳。 酒を呑めるようになった二十歳の頃からバーでアルバイトを始め、そのまま就職が決定していた。 しかし不慮の事故によって亡くなった錬は……不思議なことに、目が覚めると異世界と呼ばれる世界に転生していた。 誰が錬にもう一度人生を与えたのかは分からない。 だが、その誰かは錬の人生を知っていたのか、錬……改め、アストに特別な力を二つ与えた。 「いらっしゃいませ。こちらが当店のメニューになります」 その後成長したアストは朝から夕方までは冒険者として活動し、夜は屋台バーテンダーとして……巡り合うお客様たちに最高の一杯を届けるため、今日もカクテルを作る。 ---------------------- この作品を読んで、カクテルに興味を持っていただけると、作者としては幸いです。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

魔法のトランクと異世界暮らし

猫野美羽
ファンタジー
 曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。  おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。  それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。  異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。  異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる── ◆◆◆  ほのぼのスローライフなお話です。  のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。 ※カクヨムでも掲載予定です。

メデューサの旅

きーぼー
ファンタジー
ギリシャ神話をモチーフにしたハイファンタジー。遥か昔、ギリシャ神話の時代。蛇の髪と相手を石に変える魔眼を持つ伝説の怪物、メデューサ族の生き残りの女の子ラーナ・メデューサは都から来た不思議な魔法使いの少年シュナンと共に人々を救うという「黄金の種子」を求めて長い旅に出ます。果たして彼らの旅は人類再生の端緒となるのでしょうか。こちらは2部作の前半部分になります。もし気に入って頂けたのなら後半部分(激闘編)も是非御一読下さい

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。 でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。 誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。 両親はひたすらに妹をスルー。 「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」 「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」 無理よ。 だって私、大公様の妻になるんだもの。 大忙しよ。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 お気に入り登録、しおり、いいね、コメント励みになります。 (スマホ投稿じゃないのでエールがよくわからない。ただ、メガホン?マークがカウントされている。 増えたら嬉しい。これがエールを頂いたってことでいいのか…?) お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

処理中です...