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2章

17話 違約金払い

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 近づいてはくれたが、何歩か離れた場所で怯えた顔をしている。
 彼女に向けてやったわけではないのだが、結果的に彼女も怖がらせてしまっていたようだ。
 謝らなければ。

 あれほど怖がっているのならこれ以上近づいても意味がない。
 ここからしよう。

「アレシア。先程はすまなかった。君を怖がらせてしまった」
「……えっと、その」

 頭を下げていて顔は分からないが、声からして慌てているのだけは確かだ。

「もし、君がよければだが、もう少しだけ仲間でい続けたい」

 嘘偽りなく伝える。それ以外の方法を私は知らない。
 彼女が何か言おうとしているのか、他所をみたり、戸惑ったりしている。

 もし、だ。

 彼女が離れたいというのなら、それに従うつもりだ。
 一人になってしまうが、それもすぐになれる。
 今まで通りになるだけだ。

「……先程のアーロさんは、ものすごく怖かったです。それは今でも変わりません。ですが、まだまだこれからも教えてほしいことはたくさんあります。これの使い方だってまだよく分かっていませんし」

 自分の服の裾を掴み、震えている。

 あれが、相当怖かったんだと思う。
 今まで意識したことはなかった。自分の殺気が、怒気がどれだけ人に影響を与えているか。
 初めてすぎてどうしたらいいのかわからない。
 加減が分からない。

 どれくらいなら、怖がらせずに済む?
 習慣として身についてしまったものを無くすことは出来ない。
 あれくらいなければモンスターたちとの戦いに負ける。

「……いいのか? また一緒に行動しても」
「いてください」
「……そうか」

 怖くて仕方ないだろうに、それでも共にいてくれるのは有り難い。
 しばらくは試行錯誤しながらやっていくしかない。
 アレシアとの関係も、自分のことについても。

「それで、アーロさん。今日は何故ここに?」
「それのことだが、この前依頼を失敗してしまっただろ。それを払おうと思ってな」
「あ、じゃあ私も」
「いや、いい。ここは私がする」
「だ、だけど! あの時は私も一緒にしていたじゃないですか」
「確かにそうだが……」

 女性に払わせるというのは、男としてのプライドが立たないし、見栄を張らせてくれ。

「アーロさん。今お金少ないんでしたよね?」
「うっ……」

 痛いところを突かれた。
 確かに、今手持ちの金は数枚しかない。

「私も少ししかないので、それを合わせて一緒に払いましょ。けど、怖い思いをさせた分と今回の分。あとから要求しますね」
「……分かった。金が入ったらなにか奢ろう」
「やった!」

 若干、不安そうな顔をしていたが、それでも嬉しそうに受付の所へ向かっていく彼女の後ろ姿を見て、これでいいんだと。仲間というのはこういうものなのだと思えてくる。

 それに、数日だけだが、アレシアが少しだけ逞しくなってきたように見える。

「アーロさん」
「ああ、今そっちに行く」

 早く来てくださいと言わんばかりに私に向けて手を振っている。
 あれほど呼ばれているのだ。行かないわけにもいくまい。

「アレシアさんから聞きました。今回の薬草採取の違約金のことですね」
「ああ。二人分で足りるか分からん。確認してもらいたい」

 アレシアが25枚。自分の分が6枚。合わせて31エルだ。
 もし、アレシアと合わせた分で足りなければ、私だけ仕事を取って、その分を。

「アーロさん、アレシアさん。お金がほんの少し足りないみたいです」
「どれくらいだ? その分の依頼を受注して……」
「それだと時間がかかってしまいます。1つの提案としてですが、もしお二人が嫌でなければ、ワイバーン討伐の分から少々取るというのも」
「難しいな……」

 ワイバーンとデュラハンの時に、弾を使い過ぎてしまったがために、少しでも手元に金を持っておきたい。
 だが、違約金を払うのが先なのも分かっている。
 ここは我慢するべきか?

「数多ある選択肢の中の1つに過ぎないので、大丈夫ですよ!」
「それだったら、アーロさんを困らせた分をあの人たちに払ってもらいましょうよ」
「ああ、それに賛成です」

 受付嬢と一緒に頭を悩ませていると、アレシアがぼそりと呟いた。その言葉に、「いい案ですね」と言って、同意している。
 そのやり取りに少しだけ怖いと思ってしまった。
 いくつもの戦いを経験したことある私でもだ。

 昔、ある人に、女性は態度が冷たくなると恐ろしいというのを聞いたことがあったが、まさかここで体験するとは。今後は怒らせないようにしよう。

「これで一件落着ですね」

 借金という名の違約金を払ってくださいという書状があいつらに送られてしまった。

 一件落着と言ったが、これで本当に良かったのだろうか。
 後で、ライクル草をとって渡した方がいい気がしてきた。
 依頼人は世話になっている治療院の院長だ。

 同情はもうないと思っていたが、ほんの少しだけあったようだ。
 哀れ、元仲間よ。
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