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07.ツガイ様の沸点
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「……」
ヴィヴィは明らかに不機嫌だった。 不機嫌になっていいのだと本人がそう思っているのが明らかで、逆にソレがペス達を不安にさせる。
「アナタ方は、不必要にこのような大きな桶を持ち歩き、軽い失態だと水をかけて回り、まだ若いから許せと強制するほどに、常識を持ちえない方々なのですか!!」
「子供のやることにそんな大げさに怒らなくても」
「お黙りなさい!! ここは陛下がお住まいになる竜宮ですよ。 子供の遊びから抜け出せないと言うなら、重要な職務につくべきではありません。 いえ……どのような仕事にもついてはいけないでしょう。 お家でお手伝いをなさっていればいいのです」
「年若い使用人を虐めるものではありませんよ」
「あぁ、性根の悪さが垣間見えると言うものですわ」
「使用人を育てると言うのは、主としての役目と言うものを」
「えぇ、このような事で短気を起こされては、先が思いやられますわ」
「使用人? 不法侵入者……ではございませんの? 女官長がこのような未熟な者達を許すわけありません。 家名を問い一族と推薦人にその責任を追及させ、信用するに値せずと二度とその者達の一族から奥宮への出仕を出さないように処理をするように伝えなさい」
このような強い口調も、他者に命令を下すことも初めてのことで、ペス達も驚き……狼狽え、そして主の成長を喜んでいた。
昨日まで、蝶々を追いかけ転んだと言っては、涙ぐんでいたのに……お嬢様御立派です。 そう考えていたペスこそ涙ぐんでいた。
「それは余りにも行き過ぎた処遇ではありませんか!!」
「これは、愛妾様を嫉妬するが故の暴走に違いありません」
「あぁ、なんて偏狭な……、こんなツガイ様にこの国の未来を託すことなどできましょうか?」
声を大にし、ヴィヴィを悪者に仕立て上げようと必死になる夫人たち。 ふんっと夫人たちを無視しヴィヴィは空になった桶を未だ3人で手にしている侍女達へと視線を向けた。 子供の失態と繰り返すが、侍女達は茶会の客である婦人達よりも若くはあるが、王宮に出仕する最低年齢は超えており、ヴィヴィと比べても5.6歳は年上である。
「なぜ、必要のない水量を桶に持ち歩いているのですか!」
そう問えば、3人は慌てて桶を手離した。 誰かがこの責任を引き受けてくれと3人が3人とも願いながら放り出し、ソレはヴィヴィの足にぶつかり、残っていた水がさらにヴィヴィにかけられ桶は大地を転がっていく。
3人の桶侍女達の顔色は真っ白へと変わりだす。
「これも、他愛ない失態ですか?」
「も、申し訳ありません」
慌てた様子で謝罪する侍女達。
ベントソン伯爵夫人が止めに入った。
「ほら、せっかくの茶会ですよ。 そろそろおさめるべきではございませんか? 本人たちも謝っておりますし、ヴィヴィ様1人の都合で、こうも空気を悪くされてしまっては……、私の茶会が台無しですわ」
「ここでは、桶に無駄な水を持ち歩くのが普通なのか、それとも今日は私のために特別に持ち歩いているのかと聞いているのです。 その返答次第では……仕方がないとおさめましょう」
何処までも幼く、幼児のような少女だとベントソン伯爵夫人はヴィヴィのことを聞いていた。 少しイジメれば逃げ出してしまうだろうと軽く考えていた。
これはどういうことなのです?
侍女達3人は、チラチラとベントソン伯爵夫人へと視線を向ける。 それに気づいたベントソン伯爵夫人は難しい表情を浮かべていた。 余り緊張感が長引けば、使命感に欠けた侍女達は自分に命じられたからと言いかねない。 それほど軽薄な思慮に欠けた者達を、嫌がらせをさせるためにあえて側においたのだ。
「彼女達はその……、日ごろは水を運ぶことを仕事としていますのよ。 ただ、力も弱く、どうしてもこぼしてしまいますの」
「こぼす?」
「……いえ、かけて……しまいますのよ……。 庭の水やりも彼女達の……」
「専属の庭師がおりますが?
ベントソン伯爵夫人は、途切れ途切れに視線を逸らしながらつぶやく。 反論される事自体が予想外だった。 世間では、これほど大勢の人間の前で堂々と反論できる人間などいない。 甘えん坊で泣いて慰めを求めるような子だと聞いていたのだから、このような事予想すらしていなかった。
だが、ヴィヴィはベントソン伯爵夫人が聞いていた通りに、大粒の涙をその瞳から流し始める。 予測していなかった涙。 感情の急激な変化に周囲がざわついた。
ぐすぐすと鼻をすすりながら、ヴィヴィは3人の桶侍女をにらんでいた。
「あんまりよ!! 陛下がお可哀そうだわ」
「はっ?」
「彼女達が陛下に何かしたと?」
周囲が雑然とする。
「そうやって、アナタ方は陛下を竜宮から追い出してしまわれたのね。 だからあの日、陛下は水に濡れていたのね。 酷い……酷いわ……それほどのことをしておきながら、子供の失態だから許せと……? 陛下にもそのように言いながら、嫌がらせを尽くしたのですね……帝国の民としてあり得ませんわ!!」
「ぇ、いえ……なんの……」
涙にぬれ、声は悲しみにくれ、ヴィヴィは感情のままに語り続ける。
「多くの人が、私の耳に聞こえるように言いましたわ。 愛妾様は本当に陛下にとって必要な方だと、かつて陛下と愛し合われていたにも関わらず、私が生まれた事で、その関係が引き裂かれたと」
「あら、そんな噂がありますの……うふふふ、まぁ……ヴィヴィ様にはショックでしょうが、大人には大人の付き合いがございますのよ」
むんっと大きな胸を見せつけるように姿勢を正した。
どんなに色香を強調し、自分が違うと訴えても、ヴィヴィにとってのベントソン伯爵夫人の評価と言えば、陛下が秘密だと教えてくれた『ベントソン伯爵は悪人』と言う言葉が確証されるだけ。
それは秘密だからと必死に言葉を選ぼうとするが、溢れ出る感情が何処までも邪魔をする。陛下が張っているだろう罠を台無しにしてしまう訳にはいかないのに上手く話せない。 そう思えば、自分が情けなくて、余計に涙がこぼれてくる。
「私との関係は、呪われた関係であると」
「その通りではありませんか。 まだ会ってもいない、人格も確立されていない、そんな相手に愛情を抱くなど、本人の意思とは明らかに関係ありませんわ。 ソレを呪いと言わずしてなんというのでしょうか?」
「そう、ですか……その呪いを超えた関係を、改めておつくりになられたと言うのですね? 愛しておられると言うのですね?」
ぐしゅぐしゅと涙をぬぐいながらヴィヴィは続ける。
「えぇ、そうよ。 本当なら、この国の皇妃の役目は皇帝陛下と愛し合う私の役目でしたの。 アナタと言う存在が、陛下を呪わなければね!!」
周囲で潜む者達は『ないわぁ~』と言う冷ややかな視線を陛下へと向けていた。
いたたまれない……。 と……ランヴァルドは視線を伏せる。
当時、まだランヴァルド殿下と呼ばれていた時代。 彼は恵まれた体格と腕力、そして無駄に聡しい知性をもった暴君だった。 どうしようもない人間だった。 ランヴァルドが当時のままであれば皇帝になるどころか、皇族の地位を追放されていただろう。
「なら、なぜ!! 陛下は竜宮にお戻りにならないのですか!! それほど愛し合っていらっしゃると言うなら、なぜ、なぜ……どれほど酷い事をなし……未熟な使用人のやることだから許容するようにと、陛下を追い詰めたとしか思えないじゃないですか!!」
「はっ? 何をおっしゃっていますの? 陛下とはこれ以上ないほどに仲良くしておりますわ」
「陛下、竜宮にお戻りになっておりませんよね?」
「そんなことは……」
「だって、毎夜私のお部屋にいらっしゃいますもの」
「嘘ですわ!! そんな嘘を言ってまで、自分を正当化したいと言うのですか!! 子供だからと言って何を言っても許されると思わない方がよろしくてよ。 痛い目を見るのはアナタですわ」
「痛い目? いいですわ。 陛下がソレでお守りできるなら……」
ざわざわと貴族婦人達の気配が揺れ動いた。
あくまで貴族婦人達は『陛下に愛される愛妾』と『呪いで繋がれたツガイ』と言う前提があっての嫌がらせである。 その前提が崩されると言うなら、自分達がやったことは何か? と考えればどんどん顔色が悪くなっていた。
「守る? 何も出来ない子供の癖に何を言っていますの? 陛下は神との約束があればこそ、アナタにも愛があると見せつけているだけ。 確かに夜はアナタの所にいっているかもしれません。 でも、仕事でのストレスを解消するために、癒されたいと陛下がお求めになるのは私なのですから。 愛情と身体、全てを持って陛下の心を受け止めているのは私なのですよ。 ふっふふふ、アナタのその貧相な体では、無理でしょう? そもそも欲情を覚えようのない哀れな身体ではありませんか」
「……それは、そのとおりだからいい。 でも、陛下に水をかけるのはダメ。 許さない」
「それは、誤解ではないかしら? 恐れ多い陛下に水をかけるなど」
「でも、水を持ち歩くのが仕事だと、粗相が多いと言った!!」
駄々っ子のようにヴィヴィも譲らない。
「熱い日に、水をかけあうのは庶民では、当たり前ですのよ。 陛下は若かりし頃、庶民と共に語り合い、友情を交わしたことさえある方、その程度でご立腹なさることはありませんわ」
「み、みず……をかぶるのは、私の知らない当たり前だと、言うの?」
「えぇそうですとも、奥宮から出た事の無いアナタが知らない常識が世間には沢山ございますのよ」
「そう、み、みずをかぶるのが……」
「えぇ、そうよ……」
ベントソン伯爵の言葉に、ぼそぼそと独り言のようにつぶやきだすヴィヴィ。 それはやがて歌になり、愛らしい声が響き渡る。
大地の賢者は地中を歩み、旅をする。
その醜い姿は嫌われど、慈悲深い賢者は人に施す。
うねれ、うねれ、人に嫌われど我らは優しい賢者なり。
踊れ、踊れ、跳ねて跳ねて! 我を見よ!!
ぴょんと地中から2センチ×80センチほどのミミズが大量に舞い上がり、婦人達の悲鳴が響き渡る。 そして、ミミズたちは再び地中へと戻っていった。
「風邪ひくから帰る!!」
ヴィヴィはペスに言えば、涙と鼻水を拭いながら、えぇえぇそうしましょうと頷いた。
「そうですね。 皆さん人に、み、水をかけるのは好きですが、何もしないミ、ミズが出るだけでも発狂する狭量な人達のようですしからね。 これではお茶会はもう無理でしょう。 さぁ、風邪をひかないうちに着替えましょうね」
タオルで髪の水を拭いながら、ペスを始めそのほかの者達もまたヴィヴィの後に続き、茶会の場を後にする。
そして、数十分後、胸元を強調するドレスに着替えたベントソン伯爵夫人はランヴァルド皇帝陛下の執務室へと凄い勢いで訪れた。
「あの、クソガキのせいで恥をかかされてしまいました。 今すぐ子作りをいたしましょう!!」
そう叫びながら……。
ヴィヴィは明らかに不機嫌だった。 不機嫌になっていいのだと本人がそう思っているのが明らかで、逆にソレがペス達を不安にさせる。
「アナタ方は、不必要にこのような大きな桶を持ち歩き、軽い失態だと水をかけて回り、まだ若いから許せと強制するほどに、常識を持ちえない方々なのですか!!」
「子供のやることにそんな大げさに怒らなくても」
「お黙りなさい!! ここは陛下がお住まいになる竜宮ですよ。 子供の遊びから抜け出せないと言うなら、重要な職務につくべきではありません。 いえ……どのような仕事にもついてはいけないでしょう。 お家でお手伝いをなさっていればいいのです」
「年若い使用人を虐めるものではありませんよ」
「あぁ、性根の悪さが垣間見えると言うものですわ」
「使用人を育てると言うのは、主としての役目と言うものを」
「えぇ、このような事で短気を起こされては、先が思いやられますわ」
「使用人? 不法侵入者……ではございませんの? 女官長がこのような未熟な者達を許すわけありません。 家名を問い一族と推薦人にその責任を追及させ、信用するに値せずと二度とその者達の一族から奥宮への出仕を出さないように処理をするように伝えなさい」
このような強い口調も、他者に命令を下すことも初めてのことで、ペス達も驚き……狼狽え、そして主の成長を喜んでいた。
昨日まで、蝶々を追いかけ転んだと言っては、涙ぐんでいたのに……お嬢様御立派です。 そう考えていたペスこそ涙ぐんでいた。
「それは余りにも行き過ぎた処遇ではありませんか!!」
「これは、愛妾様を嫉妬するが故の暴走に違いありません」
「あぁ、なんて偏狭な……、こんなツガイ様にこの国の未来を託すことなどできましょうか?」
声を大にし、ヴィヴィを悪者に仕立て上げようと必死になる夫人たち。 ふんっと夫人たちを無視しヴィヴィは空になった桶を未だ3人で手にしている侍女達へと視線を向けた。 子供の失態と繰り返すが、侍女達は茶会の客である婦人達よりも若くはあるが、王宮に出仕する最低年齢は超えており、ヴィヴィと比べても5.6歳は年上である。
「なぜ、必要のない水量を桶に持ち歩いているのですか!」
そう問えば、3人は慌てて桶を手離した。 誰かがこの責任を引き受けてくれと3人が3人とも願いながら放り出し、ソレはヴィヴィの足にぶつかり、残っていた水がさらにヴィヴィにかけられ桶は大地を転がっていく。
3人の桶侍女達の顔色は真っ白へと変わりだす。
「これも、他愛ない失態ですか?」
「も、申し訳ありません」
慌てた様子で謝罪する侍女達。
ベントソン伯爵夫人が止めに入った。
「ほら、せっかくの茶会ですよ。 そろそろおさめるべきではございませんか? 本人たちも謝っておりますし、ヴィヴィ様1人の都合で、こうも空気を悪くされてしまっては……、私の茶会が台無しですわ」
「ここでは、桶に無駄な水を持ち歩くのが普通なのか、それとも今日は私のために特別に持ち歩いているのかと聞いているのです。 その返答次第では……仕方がないとおさめましょう」
何処までも幼く、幼児のような少女だとベントソン伯爵夫人はヴィヴィのことを聞いていた。 少しイジメれば逃げ出してしまうだろうと軽く考えていた。
これはどういうことなのです?
侍女達3人は、チラチラとベントソン伯爵夫人へと視線を向ける。 それに気づいたベントソン伯爵夫人は難しい表情を浮かべていた。 余り緊張感が長引けば、使命感に欠けた侍女達は自分に命じられたからと言いかねない。 それほど軽薄な思慮に欠けた者達を、嫌がらせをさせるためにあえて側においたのだ。
「彼女達はその……、日ごろは水を運ぶことを仕事としていますのよ。 ただ、力も弱く、どうしてもこぼしてしまいますの」
「こぼす?」
「……いえ、かけて……しまいますのよ……。 庭の水やりも彼女達の……」
「専属の庭師がおりますが?
ベントソン伯爵夫人は、途切れ途切れに視線を逸らしながらつぶやく。 反論される事自体が予想外だった。 世間では、これほど大勢の人間の前で堂々と反論できる人間などいない。 甘えん坊で泣いて慰めを求めるような子だと聞いていたのだから、このような事予想すらしていなかった。
だが、ヴィヴィはベントソン伯爵夫人が聞いていた通りに、大粒の涙をその瞳から流し始める。 予測していなかった涙。 感情の急激な変化に周囲がざわついた。
ぐすぐすと鼻をすすりながら、ヴィヴィは3人の桶侍女をにらんでいた。
「あんまりよ!! 陛下がお可哀そうだわ」
「はっ?」
「彼女達が陛下に何かしたと?」
周囲が雑然とする。
「そうやって、アナタ方は陛下を竜宮から追い出してしまわれたのね。 だからあの日、陛下は水に濡れていたのね。 酷い……酷いわ……それほどのことをしておきながら、子供の失態だから許せと……? 陛下にもそのように言いながら、嫌がらせを尽くしたのですね……帝国の民としてあり得ませんわ!!」
「ぇ、いえ……なんの……」
涙にぬれ、声は悲しみにくれ、ヴィヴィは感情のままに語り続ける。
「多くの人が、私の耳に聞こえるように言いましたわ。 愛妾様は本当に陛下にとって必要な方だと、かつて陛下と愛し合われていたにも関わらず、私が生まれた事で、その関係が引き裂かれたと」
「あら、そんな噂がありますの……うふふふ、まぁ……ヴィヴィ様にはショックでしょうが、大人には大人の付き合いがございますのよ」
むんっと大きな胸を見せつけるように姿勢を正した。
どんなに色香を強調し、自分が違うと訴えても、ヴィヴィにとってのベントソン伯爵夫人の評価と言えば、陛下が秘密だと教えてくれた『ベントソン伯爵は悪人』と言う言葉が確証されるだけ。
それは秘密だからと必死に言葉を選ぼうとするが、溢れ出る感情が何処までも邪魔をする。陛下が張っているだろう罠を台無しにしてしまう訳にはいかないのに上手く話せない。 そう思えば、自分が情けなくて、余計に涙がこぼれてくる。
「私との関係は、呪われた関係であると」
「その通りではありませんか。 まだ会ってもいない、人格も確立されていない、そんな相手に愛情を抱くなど、本人の意思とは明らかに関係ありませんわ。 ソレを呪いと言わずしてなんというのでしょうか?」
「そう、ですか……その呪いを超えた関係を、改めておつくりになられたと言うのですね? 愛しておられると言うのですね?」
ぐしゅぐしゅと涙をぬぐいながらヴィヴィは続ける。
「えぇ、そうよ。 本当なら、この国の皇妃の役目は皇帝陛下と愛し合う私の役目でしたの。 アナタと言う存在が、陛下を呪わなければね!!」
周囲で潜む者達は『ないわぁ~』と言う冷ややかな視線を陛下へと向けていた。
いたたまれない……。 と……ランヴァルドは視線を伏せる。
当時、まだランヴァルド殿下と呼ばれていた時代。 彼は恵まれた体格と腕力、そして無駄に聡しい知性をもった暴君だった。 どうしようもない人間だった。 ランヴァルドが当時のままであれば皇帝になるどころか、皇族の地位を追放されていただろう。
「なら、なぜ!! 陛下は竜宮にお戻りにならないのですか!! それほど愛し合っていらっしゃると言うなら、なぜ、なぜ……どれほど酷い事をなし……未熟な使用人のやることだから許容するようにと、陛下を追い詰めたとしか思えないじゃないですか!!」
「はっ? 何をおっしゃっていますの? 陛下とはこれ以上ないほどに仲良くしておりますわ」
「陛下、竜宮にお戻りになっておりませんよね?」
「そんなことは……」
「だって、毎夜私のお部屋にいらっしゃいますもの」
「嘘ですわ!! そんな嘘を言ってまで、自分を正当化したいと言うのですか!! 子供だからと言って何を言っても許されると思わない方がよろしくてよ。 痛い目を見るのはアナタですわ」
「痛い目? いいですわ。 陛下がソレでお守りできるなら……」
ざわざわと貴族婦人達の気配が揺れ動いた。
あくまで貴族婦人達は『陛下に愛される愛妾』と『呪いで繋がれたツガイ』と言う前提があっての嫌がらせである。 その前提が崩されると言うなら、自分達がやったことは何か? と考えればどんどん顔色が悪くなっていた。
「守る? 何も出来ない子供の癖に何を言っていますの? 陛下は神との約束があればこそ、アナタにも愛があると見せつけているだけ。 確かに夜はアナタの所にいっているかもしれません。 でも、仕事でのストレスを解消するために、癒されたいと陛下がお求めになるのは私なのですから。 愛情と身体、全てを持って陛下の心を受け止めているのは私なのですよ。 ふっふふふ、アナタのその貧相な体では、無理でしょう? そもそも欲情を覚えようのない哀れな身体ではありませんか」
「……それは、そのとおりだからいい。 でも、陛下に水をかけるのはダメ。 許さない」
「それは、誤解ではないかしら? 恐れ多い陛下に水をかけるなど」
「でも、水を持ち歩くのが仕事だと、粗相が多いと言った!!」
駄々っ子のようにヴィヴィも譲らない。
「熱い日に、水をかけあうのは庶民では、当たり前ですのよ。 陛下は若かりし頃、庶民と共に語り合い、友情を交わしたことさえある方、その程度でご立腹なさることはありませんわ」
「み、みず……をかぶるのは、私の知らない当たり前だと、言うの?」
「えぇそうですとも、奥宮から出た事の無いアナタが知らない常識が世間には沢山ございますのよ」
「そう、み、みずをかぶるのが……」
「えぇ、そうよ……」
ベントソン伯爵の言葉に、ぼそぼそと独り言のようにつぶやきだすヴィヴィ。 それはやがて歌になり、愛らしい声が響き渡る。
大地の賢者は地中を歩み、旅をする。
その醜い姿は嫌われど、慈悲深い賢者は人に施す。
うねれ、うねれ、人に嫌われど我らは優しい賢者なり。
踊れ、踊れ、跳ねて跳ねて! 我を見よ!!
ぴょんと地中から2センチ×80センチほどのミミズが大量に舞い上がり、婦人達の悲鳴が響き渡る。 そして、ミミズたちは再び地中へと戻っていった。
「風邪ひくから帰る!!」
ヴィヴィはペスに言えば、涙と鼻水を拭いながら、えぇえぇそうしましょうと頷いた。
「そうですね。 皆さん人に、み、水をかけるのは好きですが、何もしないミ、ミズが出るだけでも発狂する狭量な人達のようですしからね。 これではお茶会はもう無理でしょう。 さぁ、風邪をひかないうちに着替えましょうね」
タオルで髪の水を拭いながら、ペスを始めそのほかの者達もまたヴィヴィの後に続き、茶会の場を後にする。
そして、数十分後、胸元を強調するドレスに着替えたベントソン伯爵夫人はランヴァルド皇帝陛下の執務室へと凄い勢いで訪れた。
「あの、クソガキのせいで恥をかかされてしまいました。 今すぐ子作りをいたしましょう!!」
そう叫びながら……。
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