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07.選ばれたくはなかった

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 ラナの秘書アンディと護衛のカールは、ラナを追いかけ別館にやってきたが、立ち入れる者は限定されているのだと中に入る事は許されなかった。

 かなり強引に2人がすすもうとしたが、ラナのアンディのカールの3人の地位の低さが太刀打ちを許さなかった。 帰ったふりをしながら……元騎士見習いだったアンディは呟く。

「なんで、王宮騎士がでばってんだよ」





 扉を閉めると……未だ名前も告げていない男の胸元にラナは倒れ込んだ。

 ラナが意識を失ったのは、ほんの少しの時間。

 鈍い痛みにユックリと瞳を開き、周囲を見回した。

「ここは……」

 声が出るか不安だったから、あえて声にだした。

 部屋は薄暗く、外から漏れは入る明かりは夜会の会場で……賑やかな景色を遠くに眺めるほどに、貴族社会は自分がいるべきではない場所、別世界なのだと自覚できた。

 頭痛に眉間を寄せた。

 額を抑える手には身に覚えのない豪華なブレスレットが両手、両足すべてに付けられていた。

 身体に力が入らず気だるい……。

 もし、これがプレゼントだと言われれば、自分は誰かにとっての特別なのだと思う事が出来たのかな? そう考えると、とても滑稽に思えた。

 そして、暗闇に瞳が慣れれば、壁に飾られた装飾棚の中に、拘束具、首輪、口輪、鞭、針、剣、物騒な道具が並べられるのが見えた。

「ぁああああ、きゃ、ひぃっ!! くっ」

 恐怖に声が裏返ってしまう。
 悲鳴を上げようとすれば、首が絞められた。

 クスクスと笑う声は穏やかで優しく、シーシーと囁くように訴える。

「やぁ、目を覚ましたね。 いい子だ……静かに出来ますよね?」

「うっ、ぁああっ……」

 首を絞められ、ヨダレ唇の横から溢れ出ていた。

 ラナがコクコクと頷けば、首を絞める手を弱めながら零れるヨダレを舐めながら、もう一度司祭は言うのだ。

「静かにできますね?」

 コクリとラナはもう一度頷いた。

「ここは……拷問部屋? 私は……そんな特別な情報を持つような人間ではないわ」

 言えばクスクスと司祭は笑う。 それは変わらず子供を相手にするような声だった。

「違いますよ、ここは特別な方々が楽しむための場です。 あぁ、アナタには金色がとても良く似合う」

 鏡が見せつけられた。

 装飾品としてつけていたチョーカーは外され、豪華なネックレスがつけられていた。 鈍感な人間であれば、美しいネックレス、そして手足を飾る装飾品に愛されていると勘違いを受けるに十分な、繊細で豪華で華麗な装飾品だった。

 だけど、マジマジとソレを見つめれば……悪意が込められたかのように不快なものに思えた。 いえ……不快な付与魔術? 魔道具?

 力が入らない。

 それは筋肉の関係ではなく、身体を流れる魔力が影響しているのが分かった。 魔法使いであれば致命傷だろう。 そう言う意味では錬金術の素質を隠し持つラナにとっても致命傷と言える。

「何が望みなの」

「アナタの夢をかなえてあげるのですよ。 アナタが夜会に来たのは、庶民の癖に尊い方々と知り合いたかったのでしょう?」

 品の良い慈悲深な微笑み失せ、下卑た笑みに塗り替えられていた。
 大げさに出して見せる赤い舌はラナの不快感を煽る。

 ラナが逃げようとすれば、脱力したようにカクンと床に膝をつき倒れこんだ。 司祭はラナの腕に腕をかけ荷物を扱うように起こそうとする。 司祭の身体を押し退けようとすれば、力強い手が引き上げ。 乱暴に唇が重なり合わせられ、舌が唇を強引に引き開けようとするが、ラナは必死に歯を噛みしめ、同じ力で目を閉ざしていた。

 苦しい……。

 押さえつけられる苦しさに息が止めている所に、頬が殴られ、ベッドに放り投げられた。 

「こういう事を望んできたのでしょう?」

 ドレスの胸元が強引に開こうとする勢いに、布地がビリビリと裂かれる音がした。 庶民がこういうものなのだと思うと、自分の存在が何処までも空しく思えた。

 白い肌が剥き出しになり、豊かな胸が大きな手で鷲掴みにされ、舌を這わせられる。 そこには嫌悪感しかなくて……なんだ、こういうものなのかと……何もかもが同でも良くなってきていた。

 犬に噛まれた……そう思えばいい……。

 涙を浮かべれば、絶望に暮れれば、男は歪んだ表情で喜んだ。 ひゃひゃひゃひゃと下卑た笑いがあげられた。

 豊かな胸元に、舌が這う。
 嫌がらせのように……先端を避け怯えさせながら、繰り返し繰り返し、柔らかな肉が犯されていた。

 司祭はラナのドレスを破るたびに白い肌が露わとなり、赤いドレスの布地が肌を痛めつけ、肌の上に布地が花びらのように散り、男は興奮していた。 

 白い肌を恍惚としながら男は指先で撫でた。

 唇を噛みしめ顔を背けるラナが許せずに、頬を張る。

「うっく」

 思い通りにならない様子に腹を立てた男が、部屋に置かれた細く長い針を手にとった。 ラナを脅すように手の平の上で回転させ、弄んで見せる。 歪な笑いは……ラナを怯えさせるのに十分だった。

「な、にをするの?」

 ラナには金があった。

 ソレによって傲慢になるほどの自信は無かった。 ソレを見せつけるのは……彼女の執事であるブラッドリーにだけ。 ラナは……気の弱い少女だ……その美貌を売りにし、男を手玉に取りソレを商売に利用しない程度に……。

 臆病な子だった。

 ラナは必死に我慢していたが、震えていた。

「私は何もしませんよ。 全てはアナタの言動が決めるのですから」

 そう言われれば、大人しく黙り込む。

「あぁ、いい子ですよ」

 ラナ本人の性質とはかけ離れた真っ赤なドレスが、ベッドの上で脱力し……薔薇の花のようだった。 金色の魔法拘束具もよく似合っていた。

「これはいい……とても美しい……」

 司祭は、怯えるラナの感情を食らうように……震え歓喜しているように見えた。

 どう……逃げよう。

 希望はあった。 この夜会自体ラナは1人で来ている訳ではない。 護衛に従者、ラナが居なくなった事に気づき駆け付けて……。

 ここまで考えてラナの思考は停止し、脱力した。

 ノックは無かった。

 ただ……廊下の灯りが差し込み、2人の人間が入ってきた。

 僅かな期待は直ぐに閉ざされた。



 1人は大柄な身体を鍛える事無く、不必要な肉を身体に蓄えながらも、豪華な衣装に身を包むことが許された若い男。 未だ出会った事はないぐらいに高位の人間であることが分かれば……抵抗していい相手ではないと言う事でしょうか……。

 絶望。

 そしてもう1人は王宮騎士の制服を着た年配の男性。

「おぉおおお、コレはコレは……なんとも美しい。 でかしたぞフレッド。 なんと美しい娘だ……。 これほど美しい娘が令嬢達の中にいたとは」

「お褒めにあずかり光栄にございます」

 司祭は恭しく頭を下げる。 巨体な男はラナを見て瞳をギラギラと欲情に光らせ、鼻息を荒くしていた。

「私が存分に相手をしてやるから、栄誉だと思うがいい……。 だが、私に抱かれたからと言って愛されているのだと誤解してはならんぞ」

 はぁ……あり得ないんですけどぉ?! そんな風に考えていたが……怯えの感情が全面に出ており、巨体な男を喜ばせるだけだった。
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