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07.私からの、私のものでない手紙
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「へルティ様、色なしの手紙を準備してまいりました」
命令から30分もたたずして、美しい木箱に入った封筒がギルベルトのテントを見守る位置にいるへルティの元に届けられた。 沈黙のまま木箱をあけ、中に入った美しい封筒から書きたての手紙を取り出す。 インクの匂いが気になったが、へルティは文面を確認するのを優先した。
無難な挨拶文章。
程よい暮らしを示す文章。
〇〇をして楽しかった系。
優しくしてもらっている。
皆さん逞しくて頼れる。
私幸せです。
無事を祈る無難な挨拶。
何時も通りの文章構成を見て、へルティは溜息をついた。
「却下だ。 殿下は恐ろしく感情を取り乱していらっしゃる。 今必要なのは程よい毒ではなく、殿下のお心を静める文面です。 今回は周囲の男性が優しいが頼りになるはなしよ。 月の明かりだけが私の味方ですとでも書いておけばいいわ」
「それでは、今までとキャラがぶれませんか?」
「ぶれない程度に調整をするのがオマエ等の仕事でしょう」
「殿下のお心を沈めると言うと、今すぐ会いたい、愛しています的な?」
「いえ……あの方のことです2年の間そのような手紙を送ってきたことがないのに、急に送ってきたとあっては、直ぐに駆けつけなければと考えるでしょう。 そうですねぇ……」
「では、雨が続く日々が不安です。 川の増水を案じる声があるとか、風の音が恐ろしいとかは如何でしょう」
「風の音は却下で」
頭をかきむしるように呻きながら考えるへルティ。
「精神的な不安定を感じ取り、側で支えなければと思うかもしれません」
「難しいですね……」
「現地に駆けつけなければいけないと思う文面を排除しつつ、ギルベルト様を頼っている、寂しいけれど、お仕事を優先してくださいね。 私は頑張りますから。 という内容に抑えてください」
「それはあまりに健気で可愛らしい女性過ぎて、離縁をさせると言う目的には沿わないのではありませんか?」
「何時もソンナ手紙を書かれては困りますが、今日は特別です。 マニュアルを見たことがないのですか?」
「いえ……勉強はしているのですが、数日前に採用されたばかりですので……だから、なぜ悪人にしたてあげないのか不思議でなりませんの」
「本人の性格から想定できない文面をかけば、偽物だとバレます。 初期の段階では多くの失敗をしました。 失敗を重ねてのマニュアルなんです。 そこから大きく外れた手紙を書かれては困ります。 あくまでもマニュアルに沿ってください」
「ところで、殿下はなぜご機嫌を悪くなさっているのでしょうか?」
「……それが分かれば、無色の手紙に頼ろうなどとはしませんよ」
深い溜息をへルティはついた。
ギルベルト様の性格を考えれば、リシェには予想をつけるのは容易だった。
どうせ、誰も悪くはないのだと考えたいがゆえの自己矛盾と戦っていらっしゃるのでしょう。 あの方は林檎1個を売り買いする際にも、売る側と買う側で思惑が違うと言うことを想像もつかない方ですからねぇ……。
誰もがギルベルト様を見れば、感謝を込めて物を与えたのですから、仕方がないと言えば仕方がないと言うことです……。
リシェは、へルティの言葉を参考に手紙を書きなおすために、文官たちが集うテントへと戻って行った。
リシェは、護送すべき人をつれたモルトの馬車を追い越し、3日ほど早く戦場へとついており、そこに丁度女性文官の人員補充がなされたため(婚姻による女性の入れ替わりが激しい)そこに紛れ込み、女性文官としての仕事を行っていた。
夫であるギルベルト様が治める隊なだけあって、顔を合わせた者も多くいるが、結婚当初は多少幼さも残っていた少女も2年もあれば大人の女性になると言うもの。 加えて髪をフランセル国で最も多い灰色をベースにし、青味をつけたことで、偽装を完了してしまったのだ。
みんな髪しか見ておりませんのね。
なんて事を考えながら、女性文官用のテントへと戻り、へルティの指示を告げた。
「まったく、そんなに文句ばかり言えば自分が書けばいいのに。 ちょっと悪くかけば、心配して殿下が脱走するの。 良く書いたら書いたで、後々浮気の証拠になるように男を匂わせろの言っておいて、今回は逃げない程度に程々甘く頼りにしてます的な? あ~~~、もうやってらんない!! あんた代わりに書いていいわよ」
と、放棄された。
「一人一人、字って癖が違いますわよね?」
「平気平気、教本通りにすれば、多少の癖が出てもそこまであの殿下は覚えてないから、問題あるなら、そうね文章を考えてくれれば、私が清書するわ!! じゃぁ! 私、この後デートの約束があるからぁああ」
「「「らぁあああ」」」
そう言って人が去って行った。
しばらくして、
「良いですかな?」
静かな落ち着いた声が掛けられ、私はどうぞと答える。
「おや、お1人ですか?」
「知っていて声をかけてきたでしょう?」
私は笑う。
入ってきたのは、護衛としてついてきてくれた銀狼の長。私と同じように髪色を染め、兄妹設定でここに乱入している。 長は中に入り込むのは無理かなぁ? と思ったのですが、恋愛の自由が緩いせいか、人員管理がかなりグダグダになっているらしい。
200人程度しか人がいないのですから、もう少し管理をすればよろしいですのに……。
「大将が暴走したようですな」
「なんとなく、理由は想像つきますけどね。 様子を見ましょう。 ただ別れればよいと思っていましたけど……ここは、戦場ではなく彼のために作られた監獄ですのね」
情報収集をしたりしてもらったり。 この戦場では、殆ど戦争らしきものはなされてはいない。 だからと言って威嚇しあっていると言うだけとも違う。
戦闘は大体3~5日に1度、相手方兵士が50~200程投入され戦闘開始、それに対してギルベルト様は即対応できる騎士・兵士を伴い10~20名で対応するのだと言う。
敵陣を他の子に潜入調査してもらっているのですが、ウォルランド軍は、コチラを警戒するように、3m程の高さのある石塀を作り横に数百メートルにわたって作り、堀を作り、水を引き、かなり広い拠点を作り上げているという。
手前側は軍事拠点、中央は街、後方は広く農地として開墾されているらしい。 拠点は老人を中心に2万人ほどが居住。 定期的に人が補充されているそうです。
「既に侵略完了していません?」
「していませんね」
私が首を傾げれば、長が答えた。 そして説明を続ける。
「村の者を動かし私が指揮をとれば1月もかけずあの街の人間を追い返す事ができます。 ようするに、勝ち負けをつけようとか、戦争を終わらせようとか言う感じではないんですよ。 報告では今日出陣した200名近くの9割が鍬すら持てなくなった老人だそうですからね」
「そんな人を戦場に引っ張りだしてきてどうするのよ」
「そうですねぇ……。 戦う事は出来ませんが……盾にできます」
「それは戦争ですか?」
「生きるための知恵と言えばそうかもしれませんが、神の前で戦争宣言をした戦ではありませんね。 旦那様が傷を作られるのもそこに理由がるのでしょう」
「納得いきましたわ」
私は手紙に悩みながらもボソリと呟く。
「人は理由があるから、戦争を行う……。 この戦争の意味って何かしら?」
「向こうは、食料問題でしょう。 かなり広い土地を開墾しておりますし、山脈のこちら側は向こう側よりも、木材資源や、食糧となる山の恵みも豊富ですから」
苦笑交じりに言うのは、銀狼の一族も生きるために山脈を超えてきた者達だからでしょうね。
「それだけのものを奪われても、敵を撃退出来ない理由は?」
「そうですね……。 殿下の奥方様の言葉を借りれば……お優しいからではないでしょうか? あそこにいる人間の大半が老人であり、女子供ですから、進軍もままならないのでしょう」
「もし、アナタならどうします?」
「神の名の下で戦争宣言を行っているのですから、戦います。 老人だから戦えないといいますが、向こうは戦争の名のもとに働けなくなった老人を、口減らしのために処分しているんですよ。 どのみち彼等に残された運命は死なのです。 なので、思い切ります。 愛する人を守るためなら、その程度の思い切りも大事ですよ」
「あら、私が愛されていないと言う皮肉かしら?」
「そうは言っておりません。 ただ、危機意識を持ち難いため、きっかけがなければ無益な戦いを避けようとする気持ちも分からなくはありません」
「とても参考になりましたわ。 流石お兄さま」
「手紙、かけまして?」
凄い勢いで文官女性達がテントに戻ってくれば、私はニッコリと返事をする。
「はい」
「すぐに清書をするわ。 貸してもらえるかしら!」
そう告げた直ぐ後、女性文官用テントにへルティ様がやってきた。
命令から30分もたたずして、美しい木箱に入った封筒がギルベルトのテントを見守る位置にいるへルティの元に届けられた。 沈黙のまま木箱をあけ、中に入った美しい封筒から書きたての手紙を取り出す。 インクの匂いが気になったが、へルティは文面を確認するのを優先した。
無難な挨拶文章。
程よい暮らしを示す文章。
〇〇をして楽しかった系。
優しくしてもらっている。
皆さん逞しくて頼れる。
私幸せです。
無事を祈る無難な挨拶。
何時も通りの文章構成を見て、へルティは溜息をついた。
「却下だ。 殿下は恐ろしく感情を取り乱していらっしゃる。 今必要なのは程よい毒ではなく、殿下のお心を静める文面です。 今回は周囲の男性が優しいが頼りになるはなしよ。 月の明かりだけが私の味方ですとでも書いておけばいいわ」
「それでは、今までとキャラがぶれませんか?」
「ぶれない程度に調整をするのがオマエ等の仕事でしょう」
「殿下のお心を沈めると言うと、今すぐ会いたい、愛しています的な?」
「いえ……あの方のことです2年の間そのような手紙を送ってきたことがないのに、急に送ってきたとあっては、直ぐに駆けつけなければと考えるでしょう。 そうですねぇ……」
「では、雨が続く日々が不安です。 川の増水を案じる声があるとか、風の音が恐ろしいとかは如何でしょう」
「風の音は却下で」
頭をかきむしるように呻きながら考えるへルティ。
「精神的な不安定を感じ取り、側で支えなければと思うかもしれません」
「難しいですね……」
「現地に駆けつけなければいけないと思う文面を排除しつつ、ギルベルト様を頼っている、寂しいけれど、お仕事を優先してくださいね。 私は頑張りますから。 という内容に抑えてください」
「それはあまりに健気で可愛らしい女性過ぎて、離縁をさせると言う目的には沿わないのではありませんか?」
「何時もソンナ手紙を書かれては困りますが、今日は特別です。 マニュアルを見たことがないのですか?」
「いえ……勉強はしているのですが、数日前に採用されたばかりですので……だから、なぜ悪人にしたてあげないのか不思議でなりませんの」
「本人の性格から想定できない文面をかけば、偽物だとバレます。 初期の段階では多くの失敗をしました。 失敗を重ねてのマニュアルなんです。 そこから大きく外れた手紙を書かれては困ります。 あくまでもマニュアルに沿ってください」
「ところで、殿下はなぜご機嫌を悪くなさっているのでしょうか?」
「……それが分かれば、無色の手紙に頼ろうなどとはしませんよ」
深い溜息をへルティはついた。
ギルベルト様の性格を考えれば、リシェには予想をつけるのは容易だった。
どうせ、誰も悪くはないのだと考えたいがゆえの自己矛盾と戦っていらっしゃるのでしょう。 あの方は林檎1個を売り買いする際にも、売る側と買う側で思惑が違うと言うことを想像もつかない方ですからねぇ……。
誰もがギルベルト様を見れば、感謝を込めて物を与えたのですから、仕方がないと言えば仕方がないと言うことです……。
リシェは、へルティの言葉を参考に手紙を書きなおすために、文官たちが集うテントへと戻って行った。
リシェは、護送すべき人をつれたモルトの馬車を追い越し、3日ほど早く戦場へとついており、そこに丁度女性文官の人員補充がなされたため(婚姻による女性の入れ替わりが激しい)そこに紛れ込み、女性文官としての仕事を行っていた。
夫であるギルベルト様が治める隊なだけあって、顔を合わせた者も多くいるが、結婚当初は多少幼さも残っていた少女も2年もあれば大人の女性になると言うもの。 加えて髪をフランセル国で最も多い灰色をベースにし、青味をつけたことで、偽装を完了してしまったのだ。
みんな髪しか見ておりませんのね。
なんて事を考えながら、女性文官用のテントへと戻り、へルティの指示を告げた。
「まったく、そんなに文句ばかり言えば自分が書けばいいのに。 ちょっと悪くかけば、心配して殿下が脱走するの。 良く書いたら書いたで、後々浮気の証拠になるように男を匂わせろの言っておいて、今回は逃げない程度に程々甘く頼りにしてます的な? あ~~~、もうやってらんない!! あんた代わりに書いていいわよ」
と、放棄された。
「一人一人、字って癖が違いますわよね?」
「平気平気、教本通りにすれば、多少の癖が出てもそこまであの殿下は覚えてないから、問題あるなら、そうね文章を考えてくれれば、私が清書するわ!! じゃぁ! 私、この後デートの約束があるからぁああ」
「「「らぁあああ」」」
そう言って人が去って行った。
しばらくして、
「良いですかな?」
静かな落ち着いた声が掛けられ、私はどうぞと答える。
「おや、お1人ですか?」
「知っていて声をかけてきたでしょう?」
私は笑う。
入ってきたのは、護衛としてついてきてくれた銀狼の長。私と同じように髪色を染め、兄妹設定でここに乱入している。 長は中に入り込むのは無理かなぁ? と思ったのですが、恋愛の自由が緩いせいか、人員管理がかなりグダグダになっているらしい。
200人程度しか人がいないのですから、もう少し管理をすればよろしいですのに……。
「大将が暴走したようですな」
「なんとなく、理由は想像つきますけどね。 様子を見ましょう。 ただ別れればよいと思っていましたけど……ここは、戦場ではなく彼のために作られた監獄ですのね」
情報収集をしたりしてもらったり。 この戦場では、殆ど戦争らしきものはなされてはいない。 だからと言って威嚇しあっていると言うだけとも違う。
戦闘は大体3~5日に1度、相手方兵士が50~200程投入され戦闘開始、それに対してギルベルト様は即対応できる騎士・兵士を伴い10~20名で対応するのだと言う。
敵陣を他の子に潜入調査してもらっているのですが、ウォルランド軍は、コチラを警戒するように、3m程の高さのある石塀を作り横に数百メートルにわたって作り、堀を作り、水を引き、かなり広い拠点を作り上げているという。
手前側は軍事拠点、中央は街、後方は広く農地として開墾されているらしい。 拠点は老人を中心に2万人ほどが居住。 定期的に人が補充されているそうです。
「既に侵略完了していません?」
「していませんね」
私が首を傾げれば、長が答えた。 そして説明を続ける。
「村の者を動かし私が指揮をとれば1月もかけずあの街の人間を追い返す事ができます。 ようするに、勝ち負けをつけようとか、戦争を終わらせようとか言う感じではないんですよ。 報告では今日出陣した200名近くの9割が鍬すら持てなくなった老人だそうですからね」
「そんな人を戦場に引っ張りだしてきてどうするのよ」
「そうですねぇ……。 戦う事は出来ませんが……盾にできます」
「それは戦争ですか?」
「生きるための知恵と言えばそうかもしれませんが、神の前で戦争宣言をした戦ではありませんね。 旦那様が傷を作られるのもそこに理由がるのでしょう」
「納得いきましたわ」
私は手紙に悩みながらもボソリと呟く。
「人は理由があるから、戦争を行う……。 この戦争の意味って何かしら?」
「向こうは、食料問題でしょう。 かなり広い土地を開墾しておりますし、山脈のこちら側は向こう側よりも、木材資源や、食糧となる山の恵みも豊富ですから」
苦笑交じりに言うのは、銀狼の一族も生きるために山脈を超えてきた者達だからでしょうね。
「それだけのものを奪われても、敵を撃退出来ない理由は?」
「そうですね……。 殿下の奥方様の言葉を借りれば……お優しいからではないでしょうか? あそこにいる人間の大半が老人であり、女子供ですから、進軍もままならないのでしょう」
「もし、アナタならどうします?」
「神の名の下で戦争宣言を行っているのですから、戦います。 老人だから戦えないといいますが、向こうは戦争の名のもとに働けなくなった老人を、口減らしのために処分しているんですよ。 どのみち彼等に残された運命は死なのです。 なので、思い切ります。 愛する人を守るためなら、その程度の思い切りも大事ですよ」
「あら、私が愛されていないと言う皮肉かしら?」
「そうは言っておりません。 ただ、危機意識を持ち難いため、きっかけがなければ無益な戦いを避けようとする気持ちも分からなくはありません」
「とても参考になりましたわ。 流石お兄さま」
「手紙、かけまして?」
凄い勢いで文官女性達がテントに戻ってくれば、私はニッコリと返事をする。
「はい」
「すぐに清書をするわ。 貸してもらえるかしら!」
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