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04.公爵令嬢の恋人

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 エヴァは、自室から父であるレンホルム公爵を蹴りだすかのように追い出し、ソファに大きな身体を預けている巨大な黒狼の首元を撫でる。

「どう、思います?」

 その声はどことなく甘い。

「どうとは? 突っ込みどころが多すぎて、反応に困りますな」

 この黒狼は、エヴァの恋人にして王立騎士団第23部隊副隊長フェイ・ヴェスタムのもう一つの姿。

 第23部隊と言えば非貴族で構成されているどころか、全員が獣人によって構成されている騎士団内部でも鼻つまみ者とされる部隊である。

 ハルス国では、獣人の扱いは余り良くない。

 いや……

 むしろ、意思疎通を可能とする魔物程度に考えられており、獣人としてハルス国で生きると言うことは、それはもはや死んでいるのと変わらないとすら言われている。 そんな彼等が差別を避けて生きる方法の一つとなっているのが第23部隊の入隊である。

 フェイに初めて出会ったのは、フェイが初めて騎士団に連れてこられた頃、迷子になったエヴァの大捜索が行われたのを探し出したのがきっかけだった。

 騎士団を尊ぶ、王族、貴族ではあるが、第23部隊だけは忌むべき存在。 それでも第23部隊が存在するのは、常に彼等の理解者が権力ある者の中に存在すること、そして何より彼等の持つ獣化と言う力が使い勝手が良いためである。

 そして今、第23部隊はエヴァによって存続が確保されていた。

 騎士団大好き、戦う騎士カッコいい!!と崇拝に似た視線すら見せていた現国王陛下エルクにとって、獣人と言う存在は邪道でしかない。 自分が王位についた際には絶対解体してやる!! なんていきっていたが、エヴァの介入によって断念せざる得なかったのだ。

 エヴァが直談判したと言うのではない。
 彼女は10年前から王都に足を踏み入れてはおらず、エルクの前に顔を出してもいない。

 ただ、少々、心を込めた手紙を出したのだ。

『23部隊に手出しをしたら、色々バラス。 あと、23部隊は私の個人部隊として使わせてもらいますから。 何しろ、偽!!聖女を妻に迎えたいがゆえに、私の罪をでっちあげ、悪評を広め、私を危険に陥れたのですからね。 当然、護衛に部隊の1つや2つ付けてくれますわよね? あと、お願い聞いてくれないなら全力で偽聖女をバラス。 証拠付でバラス。 絶対的な情報と共にバラス。 だから、お願いしますね』

 まぁ、こんな感じ。

 証拠等なかったが、自分が何かした記憶もないのだから、向こうが何かしているに違いない。 そんな憶測にすぎない手紙だったが効果てきめんだった。

 23部隊の隊長と部下の一部は、獣人救済のために今も王都で業務を果たしているが、かなりの人数が公爵領で『自領の治安を守る頼もしい人達が集まる組織』として活躍しているのだった。



「そうね、戦争は起きると思う?」

 エヴァは手先でソファを開けなさいと命じていた。

「放っておけば、いずれそういう方向に進むかもしれません」

「あら、曖昧ですわね」

 そう笑いながらエヴァは、分厚い首回りの毛並みに抱きつき頬を寄せ笑う。

「政治的なことはわからが、戦争を好む人間なんてのは、大概争いでしか顕示欲が満たされない奴だろう。 貴族連中は保身に走る者が多いのだらか、そうそう争いに発展するってことはないさ」

馬鹿国王陛下の勅命でも?」

「まずは必死に止めるだろうねぇ」

「そう、なら私はこのまま静観させてもらうわ」

「おや、王都に出向くことも考えていらしたと?」

「えぇ、フェイが奪われるぐらいなら、事前回避のための労力ぐらいは厭いませんことよ」

「そりゃぁ、嬉しいねぇ~」

 そして私と狼姿のフェイは寄り添いあいながら、それでも自国の王がどれ程馬鹿なのかを知っておく必要があるのだと思えば、憂鬱な気分にならざるをえなかった。

「フェイ、制服を着なさい」

「へいへい」

「各領地の未来を担う青少年たちとの勉強会がまっておりますわ」
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