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蛇足(R18)

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 愚王と呼ばれた男を国外へと送り出して半年。
 北方にあるレイダー領にも春が訪れようとしている。

 日差しは温かくなり、花はユックリと膨らむ。



 私達は、穏やかな日差しの中でウトウトと休憩を満喫していた。



 レイダー領には貿易港の防衛力を高めるため、騎士団の駐屯地が置かれることとなった。 獣人を馬鹿にし権力に弱い人間には、貴族出身の騎士団員は効果的だろうと言う理由だけれど、主にラスティの同僚が頑張ったらしい。

 そして、私が王宮に顔を出し、ラスティとの婚姻を無効とした事をきっかけに、他の貴族達の面会申し込みが増えた。 手紙での面会申し込みに対しては、丁寧にお断りを入れ続けたのだけど、しびれを切らした貴族達は貿易港を見学に来たついでだと挨拶に訪れるようになったのだ。

 それに加えて新王がルカの知恵と力を借りたいと言い、王宮に留置いたりするものだから……私の仕事は増えに増えて……

 今、私はとても疲れていた。
 そう、私には休みが必要なのよ!!
 そして公然と昼寝の時間が設けられたのだ。

 メリハリ大事。

 良い休息あってこそ作業効率が上がるのよ!!



 私は白く美しい毛並みの狼の首に両腕を回しウトウトとする。

 柔らかな毛並は心地よく、そして……獣達に鍛えられた私の撫で技術はゴットハンドと呼ばれており、撫でられる白狼のブランもウットリとした表情をしていた。

 そんな私達に寄り添うように伏せている金の獣ラスティがチラチラとコチラを見ている。

『私も(撫でて欲しい!!)』

 ガウッ!!

『ヒッ!!』

 ラスティの主張は全て語るまでもなくブランによって却下され、そのついでに鼻先を噛みつかれそうになりラスティは飛びのく。

『な、何を……危ないだろう?!』

『主様に触れるでない。 そんなに撫でて欲しいなら私が撫でてやろう。 ほれ、こっちにこい』

 そう言われたラスティはまんざら悪くないと言うように耳がピクッと動いた。

 私との婚姻をなかった事にしてから3か月ほどたった頃だろうか? 戦闘訓練をつけてくれるブランを特別な視線で見始め、時に切なそうに眺め、溜息をつき、恋心を露わにしはじめたのだ。

 ブランは教師としては厳しい方だが、根っこは優しい。

 主に私に……。

 ブランは優しい。

 私以外には、私の100分の1ぐらいは時折優しさを見せたり見せなかったりする。

 だがラスティが惚れた理由は、ブランの強さや厳しさだったし、何よりも

『ホリーに優しいブランに惚れた!!』

 何時まで罪悪感を引きずっているのかと思ったし、それは惚れ方として歪んでいるとも思ったのだけど……それでも、ブランはラスティの言葉を喜び、恋人となった。

 いえ……それだからこそとブランは言っていた。 同時に私のラスティへの評価も上がったのだから……良い所しかないのかも?

 ブランは殆ど人の姿を取らないけれど、人の姿は物凄い清楚可憐な美女で、歩けば男女問わず視線を奪い、声をかけられ、誘われると言う外見をしている……。 ソレを知らずに好きだと言うのだから……ブランだって悪く思わないだろう。

 それでもブランと言えば、元私の夫だと言う事で色々と葛藤はあったらしいが……。

「ブランを理解し愛してくれると言うなら、そんな相手を逃がすのは勿体ないと思うの。 それに……私も大好きなお姉ちゃんが内面で好かれた事がとても嬉しいのよ?」

 だって……獣姿のブランは強くて綺麗で雄々しくて……獣人の中では恐れられているのだから、どうしても愛とは縁遠くなっている。

 そして1人は、私の後押しと祝福を受け付き合う事になったのだけど、私への態度は2人とも余り変わる事はなかった。



 まぁ……ルカが不在だから、護衛能力のある2人の都合上仕方がないのかもしれませんが……。

『あぁ……あの陰気臭い色をした奴がいないと世界が明るく感じますね。 主様!!』

「そんな事に同意を求めないでブラン……。 そしてラスティも頷かない!!」



 そんな平和な昼休み時。
 屋敷の前に新しい馬車が訪れた。
 豪華な馬車は5台。

 これは……かなりの金持ちだとギョッとした。

 手土産を持ってくる貴族の面会や、願いを断ると言うのは……なかなか難しくて、なんだか申し訳ない気分になるし嫌いなんですよね……。 そんな私の気持ちを配慮し、ブランは客人に立派な牙を見せ唸り威嚇し、ラスティもそれに習うと言う、とんでもないお断りの仕方が続いている。

 何とかしないといけないのだけど……。
 嫌だなぁ……。

 馬車から降りて来る人影が遠くに居るにも関わらずコチラを見ていて……コチラへと歩き出した。

 うわぁ……こっちに来てしまいます。 

『主様、ここはラスティに任せ私達は逃げましょう!!』

 まるで敵襲にでもあった言いようだけど



 ……そして、客人は走り出し、私は慌ててブランの背に乗った。



 だが、客人は凄い勢いで駆け寄ってきて、途中で、その姿を変えた……黒い獣へと……。

『ラスティ!!』

 ブランが叫ぶ。
 反射的にラスティが盾になるように前に出た。

「逃げる必要もないのでは?」

 そんな私の言葉は無視され、ブランは走り出す……が、なぜか、今までの見たこともない速さで黒い獣は走り寄って来てブランに突進し、宙に浮く私を……風で受け止めたようにフワリと優しく地面におろされた。

 黒い虎……。
 だけど別人?

 私はジッと黒虎を見た。

『主、主、主!! 元気にしていたかぁあああああ』

 押し倒され、黒虎にじゃれつかれ……匂いを吸われる。

「ちょ、ちょっと待ちなさい」

 世には猫吸いと言う言葉があると言うが……待てと言う言葉を聞き入れる事無く私の匂いを吸い続ける黒虎に、私はどこか諦めた気分で黒虎の脇あたりをポンポンと軽く叩いた。

「お帰りなさい」

『ただいま戻りました』

 ぐりぐりとマーキングをしながら答える黒虎だった。
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