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後編

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 違法薬物流通組織捕獲後、騎士達は王都の騎士団に応援を求め流通組織を連行することにし、そして……私も彼等と共に王都に出向く事を決めた。

 カミラが自分の背後に王家がいると言い、それが確実だと私が判断し、ルカが同行を強く進めて来たから。

 彼女の交友関係を考えれば、違法薬物問題も有耶無耶とされ、カミラが居なくなった事に対してどのような罰が与えられるか分からない。

 珍しいなと私はルカを覗き見る。 何時もなら……危険には絶対に近寄らせようなんてしないし、何より王都は領地と違って獣人差別が根付いていて、身動きも取りにくい……行くべきだし、行かないとまずいのは分かるけど……それでも、やっぱり珍しいと言うか、ルカらしくないと思うのだった。



 馬車での移動の中……。

「ねぇ、どうして全員獣姿なの? ローズは良いとしても……ラスティ、ルカ……2人は場所を取り過ぎなのよ」

『私は……自分が獣なのだと自覚する必要がある……』

 ラスティはカミラを捕らえた時から、頑なな態度を見せ続けていた。

「私としては、ラスティ・レイダーとして仕事をしてくれた方が助かるのですけど?」

『それだって、上手く出来ていた訳じゃない。 騎士としての功績で誤魔化せていただけで……』

 耳も尻尾も頭も下がり、ぎちぎちと身体を縮めようとする黄金の獣。

「触るわよ」

 そう言って手を差し出せば、ようやく頭を上げて寄せた鬣に手を突っ込んでもふもふと撫でれば、その横で首元をぐりぐりと摺り寄せて来る黒い獣に、私が笑えばうふふと笑うアヒルのローザが身を寄せて来た。 ところ変わっても何時も通りなのが……不安と緊張感から私を解放してくれる。



 王都に訪れるのは両親が生きていた時以来の事。 王都にあるレイダー公爵家の使用人達は少しばかりの入れ替えはあるものの、実の両親がいた頃からの使用人が今も多く仕えている。

「よく、来てくださいました」

 涙ながらに私の来訪を喜ぶ使用人達に、ラスティはまた俯いていた。

 いい加減、割り切ればいいのに……と言うのは、難しいのでしょうかね?

 至れり尽くせり……。

 風呂から上がれば、トレイに十数通の手紙を乗せた執事が現れたが、その表情は芳しくない。

「どうかされたのかしら?」

「お嬢様が王都にいらしたのを聞きつけた貴族の方々からの招待状と……国王陛下がホリー様にお会いしたいとおっしゃり、明日朝1番に王宮に顔を出すようにと言うものです」

「そう……分かったわ」

 執事は歓喜と共に私を招き入れた時と違い、顔色も悪く、恐怖に震え……そして私を案じていた。

 現国王陛下が玉座に就いたのは5年前。 武勇こそ優れていたが、酒癖も女癖も悪く、政務にも熱心ではなく横暴な男……だからこそ彼は50を過ぎても王位を譲られる事はなく、80近い老王が政務に励んでいた……突然死をするその時まで。

 先王の治世から5年しか経過していないが、国は違法薬物、脱税、自由恋愛と言う名を使った女性蔑視が広まりだしており、執事が私を送り出す事に不安を覚えるのも当然と言うものだ。

「平気ですわ」

 私は笑って見せる。

 えぇ、きっと平気。
 だって……ルカが平気だって言うんだもの。





 そして王の御前。

 私達はお褒めの言葉を得る事は出来なかった。

「女人の身でありながら、この国のために尽力した者を、私怨に駆られた者に渡すとはなんという事だ!! 恥を知れ!! ホリー・レイダーを捕らえ即刻首をはねよ!!」

 イライラしているのは、到達するはずの違法薬物が届かなかった事。 そして……カミラの処遇をしたためたヴィセの手紙を提出したため。

「お待ちください!! 父上。 レイダー女公爵の功績に対して正当な処遇とは思えません!!」

 必死で止めたのは、老王から王位を受けとるはずだった王太子である。 公爵たちも次々に、レイダー領を敵に回す行為は止めるべきだと口々に告げた。 王都への出入りはラスティが嫌がるため避けていたが、他公爵家との交流は十二分に行ってきた。

 そして……その場には、発言を許されない貴族達と、王妃、王女、公爵夫人達が顔色悪く立ち尽くしていた。

 私は……王に逆らった者の末路として、見せしめとされるのだろう。

「ウルサイ!! 劣った女等に権力を握らせるから間違いが起こるのだ!!」

 私が怒りで口を開こうとした。

 その劣った女の掌でひょこひょこ踊って国をダメにしている愚王が!! と、だけど、私がその言葉を口にする事は無かった。



「相変わらず、女に節操がないようだな。 オヤジ」

 王の御前、どうしても共に来ると言い日頃嫌がる正装に身を包んだルカが、癇癪を起し地団駄を踏む子供のように暴れる王に、低く唸るような声で告げた。

 王は黙った。

「おまえは……誰だ?」

 愚王は、鼻で笑う。

「その女癖の悪さで、どれだけの人間が不幸にあっているのか分かっているのか? 王妃もあんたと結婚したばかりに気の毒にな。 尽きる事のない愛人、処分される子供、どれほどの嘆きと怨嗟を耳にしてきたか……」

 穏やかで優しい瞳でルカが王妃を見れば……王妃は、自らが幼い頃から守ってくれていた獣人の女護衛を思い出した。

「ぁっ……おかえり……なさい」

 小さな呟きだった。

 王に犯され、子を身籠り、母子共に殺そうとする王から身重の護衛獣人を逃がしたのは王妃であり、護衛獣人の死後隠れてルカを育てたのもまた王妃だった。

 一歩、また一歩と玉座に近づくルカに、私もラスティも何も出来る事無く、その背を見守っていた。

「なっ、オマエは……オマエは奴隷として売られ死んだと……騙されんぞ!!」

「とんでもない女に騙され、国をダメに仕掛けた奴が騙されないぞとは笑える話だ。 無能が、代替わりをしてはどうだ?」

「ふざけるな!!」

 そしてルカは唖然とする私やその場に同席していた王族・公爵家の者達をぐるりと視線を巡らしを振り返った。

「公爵、王の代替わりにトラブルがないよう、是非、ご助力をお願いしたい!!」

「ふざけるな!! オマエのような獣臭い奴が、我が子のはずがない!! 殺せ殺せ!!」

「ぇ、ぇっ?」

 そう護衛騎士達は戸惑うしかなかった。

 何しろ、ルカは王太子殿下とよく似ていたし、何より、ルカの継母にあたる王妃も、兄弟にあたる王子や王女達もルカの発言こそが正しいと言う様子がうかがう事ができたから……。

「何をしている!! その不届き者を捕らえた暁には、爵位と報奨金を与える!! いや、動かぬ者は謀反人として処罰する!!」

 その言葉を言い終えるか終えないか、ルカは黒虎の姿となって吠えながら王のクビに牙をあてた。

『俺は、アンタを何時だって殺せる。 そして、俺が売られたあの日。 あんたに誓ったはずだ……いつか……殺すと』

「まっ、待て!! まてまってくれ止めてくれ!! 分かった王位は、王位は譲ろう!!」



 生かしておいても厄介なだけの愚王だが、流石に殺すと言うのは抵抗がある兄弟達にルカは1つの提案をし……愚王はソレを受け入れた。

『王はその余生をカミラと過ごさせてやるのはどうだろうか?』

 まぁ、そんな感じで……私達は無罪放免となるだけでなく、王位が次代に移り違法薬物流通組織を壊滅させた褒賞を得ることとなった。





 それから半年。

 私はラスティと離縁した。

 カミラがまともな人であれば、ラスティに当主の座を譲り、私は旅に出ようと考えていたのだ……。 だが、ラスティはと言えば、精霊の試練を乗り越えたものの、当主の座に就く立場にないからと、本当の自分として人生を一からやり直したいと、ブランに獣としての戦い方を学ぶ日々を送り……気づけば2人は恋仲になっていた。



 そして……私は……相変わらず変わらぬ日々を送っている。

 麗らかな日差しの中、黒い獣に心も体も任せうたたねする日々を……。





 ※ 以降、ホリーと黒虎のルカがイチャイチャ、ラブラブなだけの物語へと突入します。 R18行為が苦手……興味がないと言う方、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました_(._.)_
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