お節介な婚約者がウザい!

迷い人

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07.お節介な婚約者は、庇護欲が強い?

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 レイナが語る。

「メアリーは、子供を産むことが出来るか分からないんだって。 だから、跡取りが必要な相手との婚姻は難しいそうよ。 だから妻が平民で、貴族社会に興味がなくて、公爵生まれのメアリーの贅沢を支える事ができるララを婚約者に持つセザールは丁度いいらしいよ」

 私は、んんんんんっと唸り声を上げた。

「妾の子が跡継ぎになるなんてよくある話でしょう?」

「難しいところだな。 王族や他国に嫁ぐにしても、子が出来ない疑念がある者を妻に娶るなんて事は、本人が望まない限りはありえないからなぁ……。 例え、愛があって子を授からなくていいとなれば、跡継ぎである事を放棄しなければいけなくなる」

「メアリーはプライドが高い子だからねぇ~」

「身体が弱いからと、随分と我侭を許したらしいからな。 大丈夫か? モートン」

「いえ、余り大丈夫ではないかもしれません。 愛情の無い結婚は別にいいのですが……」

「いいのか?!」

「それは一旦横におきましょうよ先生、で?」

「流石に、他の女性に優しく、私には厳しい人は受け入れがたいですよね」

 苦笑いするしかなかった。






 メアリー・ラングレー公爵令嬢は、生まれついての虚弱体質である。

 金持ち連中は、魔力排除のために最高の環境を作り、身体を構成する要素の一つである魔力を胎児の頃から排除しようとしたのだから、虚弱となるのも当然だろう。

 王族・公爵家の女児は、誕生と同時に政治的な理由から、婚約者を定められるのだが、この魔力排除期にあたる王族・上位貴族の多くは今もまだ婚約者が定められてはいない。

 その機会を失っているのだ。

 ララとレイナの話に加わったシモン・ギュフロワも同様であるが、彼はそれをひとかけらも表情に出す事無く、話に加わっていた。





 虚弱体質で何時も寝込んでいたメアリーが、セザールと出会ったのは生まれて間もなくのことだった。

 デニエ伯爵領は、豊ではないが安定した土地柄だったから。

 戦争を起こすような隣国からも遠く、干ばつ、大雪等の自然災害も無ければ、年中心地よい気候である。 そのため田畑は大きな収穫も無ければ、食べるのに困る事も無い、どこまでも平和で、貧しく、退屈、だから野盗等も近寄る事がなく、どこまでも安全なのだ。

 何も無い土地だが、ある者は言った。

『整った土地に身を置く事で、身体も整い病が治る』

 そんな言葉を信じて、メアリーの父であるラングレー公爵は、生まれて間もないメアリーをデニエ伯爵領に療養に向かわせたのだ。



 デニエ伯爵は、有能な大工であり、貧しい土地柄であるにも関わらず、その屋敷は立派であり住宅コーディネーターが見学に来るほどの技術者であったため、幼い公爵令嬢メアリーを受け入れるのに大きな問題は無かった。

 メアリーを受け入れる事で、金品を得て、領地を豊かに出来ると考えれば、断る理由等無かったのだ。

 同い年の赤ん坊であるセザールとメアリーは良く一緒に過ごした。
 不思議にもセザールと共にいるメアリーの体調は安定する事が多かったため、メアリーは5歳になるまでメアリーはセザールと共に過ごしていたのだ。

 熱のあるメアリーにセザールは良く寄り添った。

 熱の出た額に小さな手を置いた。

「良い子だね~。 良い子、メアリーはお利巧だね。 熱が下がるといいね」
「僕が、ご本を読んであげるよ」
「森に行って、美味しい果物をとってきたよ」
「僕が食べさせてあげる」
「メアリー、僕のお姫様。 僕が守るよ」

 幼いセザールは、自分より弱く小さなメアリーに良く尽くした。

 そして……

 メアリーは幼い恋心をセザールに抱いた。

「私の騎士様」

 熱のあるメアリーの小さな手をセザールはとっていた。

「うん、僕がメアリーの騎士になるよ」

 メアリーが王都に戻ったのは、2人が5歳の時。 呼吸困難を起こすほど泣いて泣いて咳き込んで熱を出す2人に大人達は、お互いの存在を夢の中の出来事と済ませたのだ。

 そして初恋は終わったはずだった。

 それでもセザールの心の中では、騎士になると言う思いだけが残っていた。

 だから……ララと婚約したのだ。

 騎士になるためには色々足りなかったから。
 お金が足りない。
 王都の家がない。
 騎士に相応しい教養を学ぶ環境がない。
 訓練用の剣も無ければ、馬もいない。

 他にも色々無くて、

「騎士は無理かなぁ~~。 お前は俺と同じように大工になるんだ。 大工はいいぞ~~」

 そんな説得に納得できるはずがなかった。

 ララの婚約が、セザールの全ての夢をかなえると後押ししたのは、セザールの母だった。 彼女は貴族としての生活にあこがれていたのだ。

 初めてララと会った時……ララに恋をした。

「綺麗な子だと思ったんだ……繊細で儚げで、私が抱きしめていないと消えていなくなりそうな」

 メアリーを愛するようになった言い訳を、セザールは独り言のように語る。 私は悪くないと自分に言い聞かせるために。

「私はララが好きだった。 でも、ララは私を好きになる事は無かった。 私に微笑みかけない……そんな関係ツライだけじゃないか……。 もし、ララが私を好きになってくれたなら、私はメアリー様に心奪われる事はなかった」

 そうだ……悪いのは私ではない、ララなんだ。

「ララは社会的常識に欠け、貴族として礼儀作法を覚えようとはしない。 奔放な彼女でも悪くないと思っていたんだ。 健康であればいいじゃないかと……でも、貴族として生きるにはそれだけではダメだ。 当たり前が出来なければ虐められる。 ララは馬鹿だ!! 愚かだ……。 彼女に心を寄せ続けるのは危険だ。 私まで……貴族社会から排除され、いじめられかねない」

 ララと夫婦として社交界に出るのは破滅だ。

 だから……私は悪くない。




 それに比べて、メアリーは公爵令嬢と言う立場でありながら、可愛らしく、可憐で……私を認め、必要としてくれる。

 私の自己顕示欲が満たされる。
 私が必要とされる満足感。

 そう、私はソレが欲しかった。
 ララはそんなものすら与えてくれなかった。

 倒れるメアリーを見た瞬間に……私は、目を奪われた。 金色の美しい髪に懐かしさを覚え、助けなければと強く思ったのだ。

 今でも覚えている。

「大丈夫ですか?」

「えぇ、余り丈夫でないもので……。 助かりました。 うふふ……セザール様って私の理想の騎士様のようで……その素敵です。 これからお友達になってくれると嬉しいですわ」

 公爵家と言う立派な生まれにも関わらず、彼女は控えめで心の広い女性だった。 虚弱で良く身体を休めている様子が頻繁に目について、声をかけるようになった。

「私の騎士様」

 そっと秘密の恋のように囁かれれば、立派な騎士になろうと思ったのだ……。



 愛しい、愛おしい人。
 それに比べてララは……生意気で可愛げがない。



 私は悪くない。
 悪いのはララだ。
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