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3章

40.孤立 01

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 この世界は命が軽い。 だけど、この村では命を脅かされることもなく、嫌がらせをされる等はなく、村の歯車として働き必要とされることで、ソコソコ快適な生活を送っていた訳ですよ。

 それが出来る平和な村だった。
 なのに、なんで?

 いえ、ケガレのせいなんですけどね。
 雨、雨のせいなの?!

 それだったなら、ラキやフィンに蓄積されたケガレの量で分かったはず。 身体にケガレが溜まれば体調や精神が崩れる。 何かがオカシイとラキやフィンから相談を受けても良かったはずです。

 どうして……。

 ラキとフィン、2人の様子は仲睦ましさとは少し違う。 獣のように求めあう二人の声が脳裏に響いた。 ケガレがどうこう言うよりも、今は、自分だけが蚊帳の外という事が不安をかきたてた。 これはただのワガママだ。 モヤモヤする気持ちで、悲しくなってくる。

 溜息をつきながら、私は煮込み中のトマトソース鍋を横に文献を読むリュウを無理やり抱きしめた。

 ぷにぷにぷにぷに。

 そして、また考える。

 元々、村長はラキやフィン以外の村人と私が接触することを嫌がってはいましたが、だからと言って挨拶をすれば普通に挨拶は返されましたし、雑談もすれば相談ごとも持ち込まれた。 村全体を家族とする彼らの仲間ではありませんでしたが、良き隣人ではあったと思う。

 何処で、何が狂ってきたのでしょう?

 私は、ボンヤリと思考に耽り、ヌイグルミを椅子におくように元の位置にリュウを戻して、肉団子のトマトソースパスタを皿に盛りつける。 飲み物は料理用に買っておいた赤ワイン。

「リュウちゃん、ご飯よ。 本は汚さないように向こうに置きなさい」

「わん!」

 決して食べるのが上手ではないリュウは口回りを汚すのだが、不思議生物だけあって、放っておけば口回りのお弁当が黒い体の内側に吸収される。 もし、私がケガレ研究者であったなら、解剖を求めるかもしれない。

「苦い……」

「わん?」

「いえ、赤ワインの話です」

 誰だ! 肉には赤だと言ったのは? 私には赤ワインは苦すぎる……。 苦すぎて、苦すぎて、つい泣いてしまう。 夕飯を食べ終わった私は、私にとっては苦すぎて美味しくないワインをリビングで引き続き飲んでいた。

「リュウ、リュウちゃん!」

 リュウは暇があれば、書庫の文献を読み漁る。

「わんしか言えない、リュウちゃんは古代文字が読めるのかなぁ?」

 自分でもよく分かる。 絡み酒と言う奴。

「わん!」

「リュウ、リュウ、りゅ~~~ちゃん、遊ぼう!!」

 ソファーの上、うつ伏せで広げれば自分より大きなサイズの文献を読むリュウ。 そんなリュウを抱き上げれば、文献も一緒についてくるが、私は気にせずリュウをヌイグルミのように抱っこし仰向けにする。 ムニムニとしたお腹の感触を、撫でまわしながら楽しんだ。

 まぁ、全く無視されたけどね……。

 形こそドラゴンだが、ウロコはなく全体的にヌイグルミのように柔らかい。 ただ爪と牙だけはドラゴンらしさを残しているため、注意が必要である。

「リュウちゃん可愛いねぇ~」

 カバのような位置についている小さな耳に触れながら、囁くように言い、息を吹きかければ苦情めいた声で、

「わん!!」

 となかれた。 ……邪魔をしなければいいんでしょう。

「リュウなんて知らない!!」

 ポンっと文献ごとソファーの上に放り出し、リビングを後にする。

「わう?」

「お風呂に入ってきます!!」

 そう言えば、リュウはギョッとした顔で追ってこようとするから、

「そこまで酔ってませんし、シャワーだけで済ませるから、心配いらないわよ」

 そう告げるものの、リュウは追ってくる。 折角追ってきたから湯をためることにした。いえ、こんなことをしている暇はあるのか? って奴ですが、現実逃避と言う奴ですよ。

最初にリュウを洗う。 ヌイグルミと違い水を吸って重くなることもなければ、黒い身体が洗って剥げ落ちることもない。

「リュウ、背中洗って?」

 そう言えば、パタパタと身体に似合わない小さな羽根をはためかせ浮かんで背を洗ってくれる。 

「ありがとう!! いい子だねぇ~」

 ワシャワシャと全身を撫で転がし、お風呂のお湯につけておく。 身体を洗い終えて、湯船につかれば

「わんわん!!」

 リュウが怒り出す。

「平気平気、もう酔いは冷めたから」

 そう言いながらも……ウトウトとした……。
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