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2章 

32.彼女の身に起こった変化 03

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 薬草とハーブの手入れをする。

 その2つは、ガラス張りの温室と精霊の力を利用し収穫するもので、村の外から金銭を得るための収入源となっている。

 小声で囁くように歌いながらハーブの手入れをしていれば、精霊達は周囲をキラキラとめぐっている。 その様子を温室の壁際で、ポケットに手を突っ込み無表情でコウが私を見ていた。

「楽しそうだな」

 歌が終わるのを待って声をかけてきた。

「うん」

「何がそんなに楽しいんだ?」

 呆れた様子で問うてくる。

「不思議よね、雨なのに何故か気分がいいの」

 それも、ケガレ交じりの雨だと言うのにだ。 微笑みながら答えれば、コウは口元だけで笑い瞳を伏せていた。

「そうか」

 近寄って来たコウは、私の頭をワシワシと撫で静かに告げる。

「少し散歩してくる」

 まぁ、見ていても退屈だろうからね。
 ソレに対して文句はない……。

 常に見張っていなければならないほど、コウの存在が危険ということもないでしょうし。 それでも、私は立ち上がり振り向き、コウに向かって両腕を伸ばす。 私の腕を避けることなくコウは抱きつかせてくれた。

 どこまでも甘い声で私は言う。

「ねぇ、浮気しちゃダメよ」

 冗談だと分かってくれるであろう。 そう思っていたが、そこに対する突っ込みはない。

「あぁ」

 コウは無表情で返してくる。 そして、軽く触れるだけの口づけをされたから、私は赤く頬を染めてしまった。 そんな私をカラカウこともせずコウは温室を後にする。

 コウが去って行く方向を見れば、魔物退治の際に見かけた指揮官らしき騎士がいた。 2人は、山の方へと向かい歩いていくようで、それを視線で追ってはいたけれど2人は直ぐ視界の届かぬところへと行ってしまう。

 ふぅ……。

 呼吸を整えればソワソワとした気持ちが、少し落ち着いたような気がした。 同時に何か寂しさを覚えたような? そういえば、ラスとフィン……が顔を出さないなんて珍しい。

 摘んだ薬草とハーブは乾燥させるため、風通しの良い場所に吊るしておく。 続く雨に湿気が心配ではあるが……なぜか絶好調な私の影響を受け、精霊達も好調ならしく、今までにない良い品になりそうな予感がした。

 村人達のためのパンを窯に入れ、明日の分のパン生地を作り、スープの準備をする。 今日はコウの希望に合わせて、とっておきの味噌を使った豚汁を作る予定だ。

 ソレ等を煮ている間に、ゴハンの準備と土鍋を取り出した。



 村人用のパンが焼きあがる頃。

 焼きたてを食べるあめに、珈琲を入れる準備をし豆を挽いていれば外からザワザワとにぎやかな声が聞こえてその手を止めた。

「王子様が……」

 そんな言葉が聞こえた。

「何?」

 窓から外を眺めれば、村に住む年若い女性達が集まっていた。 激しく雨が降っているにもかかわらずだ。

「今まで、近づいた事もない癖に」

 日頃、私に近寄るのはラキとフィン、そして村長夫婦に限られている。 決して蔑ろにされているとかではなく、一歩引いた状態。 この土地と建物は私以上に拒絶されていた。 拒絶の理由を先代の言葉を借りるなら

『妖怪が信じられた時代に、令和真っ只中の住宅がポツンと存在している』

 いわゆる触らぬ神に祟りなし?

 村人の調子の良さに呆れれば、私以上に感情を荒げる存在が立腹し、雨の中にバシャバシャと暴れるような音と声を聴いた。

「マスターが目当てだな! 雌豚どもめ!!」
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