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08.王女ミモザのラブレター

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 ミモザは武力を糧に自らを手に入れた夫が嫌いだった。
 無骨で無粋で無口で、何を考えているか分からない。

 国自体は、故郷であるアシャールよりも豊かなはずなのに、舞踏会は建国記念日と新年を祝うときのみ。 装飾品控えめなドレスを普段着とするアシャール貴族令嬢と違い、マルベールは王妃や王女であってもアシャール平民のオシャレ着程度の服を普段着としている。

 退屈、ツマラナイ。
 それなのに、仕事ばかりは増やしてくる。

 マルベールの民は、会話が下手だ。 人の顔色など感知せず、ソレが他国との間に争いの原因を生み出している。

 そもそもデザイナーが提供してくるドレスを身に着けるだけで、社交界の先導者等と言われていた私が、外交を任せられるのだから、マルベールの国のレベルが知れるというものだ。

 彼等は、頑張っても賞賛をしない。
 ご褒美をくれるわけでもない。

 叔母への不満の手紙ばかりが数を増す。

 生まれた子供は、即取り上げられた。 ソレに関して不満はない。 ミルク臭いヨダレをアチコチに付けられる方がよほど我慢できない。

 それでも成長すれば、私によく似た可愛らしい子で、愛することができた。 なのに、マルベールの人達は、あの子の愛らしさには一切興味をしめさず、マルベールの標準的な子供達に比べ成長が遅い、身体が弱い等と責めたてる。

 挙句、夫の愛人が生んだ丈夫な子に池に突き落とされて死んでしまった。 愛人の子の方が2つも年下なのに、殺される私の子が弱すぎるのだ。 弱い子は淘汰されるのは運命だ。 弱い子を産んだオマエが悪いと責められた。



 それでも逃げなかった……。



 他者を見下し、搾取し、蹴落とし、笑いものにしてきたことを自覚したから。 私は王女なのだから、王女に与えられた特権なのだから、私の行動を間違っているとは爪先ほどにも思ったことは無い。

 だけど、私を恨みに思っている者がいると言うのは、ココに来て初めて知った事実だった。 苦しむ私を嘲笑うアシャールから連れてきた侍女の姿で知ってしまった。

 主への非礼と、侍女は当然のように死罪として処理させたけれど……アシャール国内に彼女と同じような人間がうじゃうじゃいると思えば、気軽に逃げ帰るなど、私のプライドが許さなかったのだ。

 私は最も豪華で、美しく、幸福な王女でなければならないから。

 そんな思いが崩れたのは……、叔母からの1通の手紙が原因。

 幼い頃、その美しさに父にオネダリをして与えてもらった幼馴染のディディエ。 彼が妻をめとると書かれていた。 まだ若いながら今年度のフラワーズに選ばれ特別爵位を得た平民の娘に、その場で熱烈に愛を語りプロポーズを行ったのだと言う。

 私を馬鹿にしているの!!

 せめて貴族の娘であれば、どんな醜い娘であっても私のプライドは傷つけられる事は無かったでしょう。 私がいないから誰でも良いと自棄になったと思えただろうから。

 アレは……私のモノなのに!!

 プライドを傷つけられ、プライドを投げ捨てる覚悟がついた。 私を馬鹿にして!! 全てを奪ってやる!!





 そうして、私は惨めで可哀そうな王女となった。





 私に逆らってまで、平民娘を守ろうとする態度には苛立った。 だけど、勢いのままで語る彼の言葉は、何時もどこか平民娘を傷つけている。

 気にしてない、気付いていない。 そう、アナタはそれでいい。 善人ぶっても、良識ぶっても、私と共に過ごしていた時間が、アナタを狂わせている。

 あぁ、やっぱりこうでなければ!!
 やっぱりアナタは素敵よ!!

 愛しているわ ディディエ。
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